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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第3章 悪魔との遭遇
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第48.5話 幕間:マナスカイの動向②

もう一つの世界、マナスカイでの話です。


前話(第32.5話)のあらすじ:

ジャンヌは、クゼール王国第一皇女サローナと共に、友好国であるアズール王国の王都アルスブルクへと向かった。

 クゼール王国とアズール王国は、数百年続く友好国である。同盟国と言っても良い。

 両国の繋がりは深く、互いの王家への王女の輿入れも頻繁に行われている。それもそのはず、アズール王国はクゼール王国から分離した国なのだ。


 分離といっても、離反や喧嘩別れをしたわけではない。

 クゼール王国は伝統を重んじる保守的な国であるが、それ故に版図の拡大や体制の革新に消極的であった。だが数百年前に、これではいずれ衰退してしまうと危機感を抱いたとある王族が、新しい事を積極的に行う国を作ることを提案し、血気盛んな若者や新天地で能力を振るう事を求めた国政の経験者と共に、クゼール王国の隣に新しい王国を創ったのだ。


 これがアズール王国である。


 アズール王国の建国後100年程度は、ほとんどクゼール王国の属国状態であり、多くの支援を受けていたが、やがて国政が軌道に乗り出すと、領土の拡大や農作物の収穫、軍備の増強と国力を増し、今ではクゼール王国を遥かに超える経済規模を持つ国となった。

 子が親を超えた形である。


 一方のクゼール王国は、アズール王国の発展を横目に、相変わらず伝統と仕来りの国であり続けている。


 現在では、支援の形は逆転しており、特に技術面においてクゼール王国はアズール王国から様々な支援を受けている。その国の在り様は、ともすれば他の国々から嘲笑の的にもなりうる。

 だが、大国の仲間入りをしたアズール王国の後ろ盾があり、また伝統があることは事実であり、かつ唯一魔剣を有する人間の国であることから、表立って侮られることはないのである。



 さて、クゼール王国とアズール王国はこのような関係であるから、クゼールの王女であるサローナは、国賓として歓待された。もちろん、状況が状況であるため、諸手を挙げて喜ばれる、という事はなかったが。


 話は通っていたため、サローナは王都アルスブルクに到着するや、すぐに王城に案内され、国王に謁見した。

 謁見の間にて公式な挨拶を済ませた後、サローナはジャンヌや侍女達が待っている応接室に通される。


「どうでした?」


 ジャンヌの質問に、サローナは小さく頷く。


「予定通り、しばらくここでお世話になるわ。これからの予定については、ここで話すことになったわ。私一人では決めきれないことも多いと思うから」


 クゼール王国では、女王が認められてはいる。だが、その王位継承順位は男性の王族より下位となり、実質的に女王が生まれることはほとんどない。

 そのためサローナは、ある程度の帝王学や政治経済学を教えられてはいるものの、どちらかというと芸術や教養中心に教えられてきた。別の国に嫁に行くことがほぼ決まっていたからだ。ただし、現在は事情により婚約者はおらず、サローナの未来については白紙となっている。


 そんな訳で、サローナの視線は、彼女に同行していた男性の文官に向く。

 三十代半ばの彼は、職位が高い訳ではなかったが、クゼールの内政や外政にそれなりに通じており、緊急事態のあの場でサローナに付いていけるくらいに身軽だったため、宰相に命じられて同行しているのだ。


「私には権限があるわけではありませんが、出来る限りの事は」


 国政の場ではまだまだ若輩者であると自覚している彼は、若干自信なさ気にそう応えた。


 そこで、応接室の扉が開かれ、先程よりも幾分簡素な服になっている国王が入室してきた。


「お待たせして済まない。色々と調整が必要でね」


 そう言うアズール国王ローデリヒは、まだ三十になったばかりの若い王である。

 アズール王国は「進歩と革新」を国是とするだけあり、常に新しい技術、市場、価値観を取り入れて来た。そのため、人材も新しい、若い人を要職に置くことが多い。


 そしてそれは国王も例外ではない。


 国政を任せるに足る能力と見識を身に付けたと判断されれば、国王の座はすぐに譲られることになる。もちろん、前国王も完全に引退する訳ではなく、王城に留まり現国王の補佐をするが、基本的には新しい国王の主導のもとに国政は進められていくことになる。


 ローデリヒも、数年前に王座を譲られることになった。

 当初は、経験も不足しており若い王として侮られ、色々と大変な思いもしたが、もうそろそろそれにも慣れ、余裕も生まれた所だった。が、それにしてもクゼールの王都陥落は、アズール王国としても一大事であり、ローデリヒは、これまでにない大仕事になると考えている。


 そのローデリヒは、部屋を進みながら話を続ける。


「ホルディアが攻め落とされた事は非常に重要な問題だが、その話をする前に、君達には彼女の話を聞いてもらいたい」


 そう言って、ローデリヒが背後を振り返る。ジャンヌ達の視線がそちらに向かい、そこに1人の少女の姿を認める。


 年の頃は、ジャンヌ達と同じほど。身長は、同年代の平均的なジャンヌよりもやや低く、オレンジの髪を短く纏め、黄金の瞳からは強い意志を感じる。そしてジャンヌ達よりもやや黄味がかった肌の色をしており、頭上には1対の丸い耳が覗いていた。


「ディーナ様!?」


 サローナが驚いて目を丸くする。

 ジャンヌも、顔見知りの少女の出現に、声にこそ出さないものの驚きを隠せなかった。


「久しぶり、サローナ様。こんな形では会いたくなかったけれど……」


 トラ耳をやや伏せて苦し気にそう言った少女の名は、ディーナ=スカリオ。クゼールの王都ホルディアを襲撃した実行犯であるカイナ=マレーラの属する国、スカリオの第一王女であった。


     ◆ ◆ ◆


 その瞬間、ジャンヌは様々なことを考えた。

 スカリオ国の第一王女である彼女がこの国にいる意味。そして、アズール国王が彼女に協力的な雰囲気がある状況。


 ディーナとジャンヌは、もちろん親しい間柄ではない。一国の王女と、ただの国仕えの魔導士だ。身分が違いすぎる。


 だが、スカリオ国に外遊に出るサローナに護衛として仕える事もあったジャンヌは、サローナからディーナに紹介され、挨拶を交わしたことはある。そしてその後、彼女らの会話を側で聞いていた。

 それを聞く限りでは、ディーナは王女というよりそこらの町娘の様に活発で闊達であり、クゼールへの感情も良いようであった。タイプがまるで違うものの、サローナとの仲も、同じ年頃の同じ第一王女として良好であった。


 しかし、それでも彼女はスカリオ国の第一王女だ。まさかカイナのホルディア襲撃を知らない訳はないだろう。であれば、彼女がここにいるという事は――。



 アズール王国を疑いたくはないが、最悪、アズール王国はクゼールを裏切り、スカリオ国と手を組んでクゼールを手中に収めるつもりか、とジャンヌは考えた。

 であれば、我々は飛んで火にいる夏の虫だ。状況は最悪だが、何としてでもサローナだけでも逃がさなくては。


 ジャンヌが厳しい視線で退路を考えているのを察したのだろう、ローデリヒが苦笑しながら口を開く。


「そう警戒するな。我らアズールが、母国たるクゼールを見捨てる訳が無いだろう。彼女は、君達と同じだよ。……いや、むしろ君達よりもより過酷な状況と言える」


 ローデリヒは、サローナの前のソファに座り、その隣のソファにディーナを座らせて、視線で続きを促した。それを受け、ディーナが硬い表情で頷いて口を開く。


「スカリオは、カイナ=マレーラ一派のクーデターにより、政変した。父上や父上の側近達は殺され、カイナが実権を握った」

「えっ!?」

「なっ!?」


 ディーナの発言に、サローナだけでなく、ジャンヌや侍女、文官も思わず叫んでいた。


「カイナを止めようと、兵士の多くが犠牲になった。あたしも戦おうとしたけど、兵団長に止められて、今のサローナ様と同じように亡命するように言われた。けれど……獣人の国の多くは、他国の内紛に非協力的だし、力で従える事を非と思わない国もある。だからあたし達は、同盟国であるクゼールに向かおうとしたんだ。でも、ホルディア襲撃の情報が入って……結局、アルスブルクに来たんだ」


 クゼールも、カイナに実権を握られはしたが、国王は無事であるし、人的被害は小さい。

 だが、ディーナの話では、スカリオはそれよりも相当酷い状況の様である。国王を始めとした国の重鎮が殺害され兵も多くが殺されたとなると、国内は相当荒れていることだろう。そんな中逃げ延びて来たディーナに、サローナは何と声を掛けて良いのか分からなかった。


 その迷いに気付いたディーナが、小さく苦笑する。


「気を遣わなくて良い。さっきも言ったけど、あたし達獣人にとって、力による王位の簒奪は珍しいことじゃない。スカリオではそれを禁じてはいたけど、むしろそれを是とする国すらある。だから、国の上に立つものは、いつでもその覚悟を……」


 覚悟をしている。そう言おうとしたディーナの頬を、涙が伝った。


 いくら覚悟をしていると言っても、父親を殺されて平気でいられる訳ではない。このアルスブルクまで無我夢中で逃げて来たけれど、一度落ち着いて、いざ自分と似た境遇の、それなりに仲の良かった少女を前にした時に。

 抑えていたはずの涙が、溢れてきてしまった。


「ディーナ様……」

「あれ?おかしいな。こんな、つもりじゃ」


 ぽろぽろととめどなく涙をこぼす少女に、サローナは立ち上がって寄り添うのだった。


     ◆ ◆ ◆


「ごめん。みっともないとこ見せちゃったな」


 王女らしくない口調で、ディーナがサローナに恥ずかしそうに笑いかける。


「いえ。ディーナ様に比べれば、私達はまだ良い方ですし……」


 そうフォローしたサローナの言葉に、ディーナが首を振る。


「いや、あたし達のは内紛、自国から発した問題の結果に過ぎない。だから仕方ない、とは言わないけど、責任は自国にある。でも、ホルディア襲撃は明確な侵略行為だ。クゼールには何の非も無いのに、こんなことになって、本当に申し訳ないと思っている」


 ペコリと頭を下げるディーナ。そこに王族としての意思を感じたサローナは、少し顔を引き締めた。


「顔を上げてください、ディーナ様。私の立場で、スカリオを許す、と簡単に発言する訳には行きませんが、ディーナ様を責めても仕方ないですし、責める気持ちもありません。……一体どうしてこんなことになったのですか?」


 サローナの言葉に顔を上げたディーナは、苦い顔となる。


「分からない。カイナの事は昔から知ってるけど、こんなことをするような奴じゃなかったんだ。ジャンヌも知ってるだろ?」


 突然話を向けられたジャンヌは、小さく驚きつつ――話を向けられたことにではなく、気軽にジャンヌと呼ばれたことに対して――、答えた。


「そう、ですね。1月ほど彼と行動を共にしましたが、やや言動が奔放な所はあるものの、国に刃を向けるような素振りは一切ありませんでした。……でも」


 ジャンヌはそこで言葉を切り、あの時の事を思い出す。


 魔剣を弾かれ、呆然とするユージン。それを冷たく見下ろすカイナ。何もできない自分。そして振り下ろされる刃――。


「でも、彼が、ユージンを殺そうとしたのは確かです」


 静かな怒りを秘めた瞳に、ディーナは悲しげな顔になる。

 だが、ディーナとて父王を殺したカイナを許す気はない。


「そう、か……。ん?殺そうとした?殺した、ではなく?」


 ディーナの質問に、ローデリヒも興味深そうな顔でジャンヌに視線を遣った。

 情報では、勇者はカイナに殺されたとされていたからだ。そして事実、カイナの襲撃以後、勇者の姿を見たものは誰もいなかった。


 ジャンヌは、振り返ったサローナの頷きを受けて、ユージンと魔剣が消えた経緯を簡単に説明した。


「ふむ。勇者殿は生きている可能性がある、か」


 ローデリヒの呟きに、ジャンヌが頷く。


「はい。ただ、どこにいるかの確証もないので、ひとまず彼の事は置いておくのが良いかと思います」


 今彼を呼び戻しても、再びカイナの凶刃に晒されるだけだ、と考えているジャンヌは、なるべく皆の興味を勇者から離そうとする。

 そもそも勇者を召喚した理由は、魔剣に立ち向かうためであるが、それはそれ、である。魔剣と対峙するのは、成長したユージンであって、今のユージンではないというのがジャンヌの主張だ。


「それより、現在のホルディアやスカリオ国の状況はどうなっているのでしょうか?私達は、逃げるので精一杯で、情報を得られておりませんので」


 一国の王や王女のいる場で、出しゃばりすぎか、と思うジャンヌだったが、幸いにもそれを気にする人間は居なかった。

 ローデリヒが、自分の後ろに控える側近に視線を遣ると、彼が頷いて説明を始める。


「クゼールについては、サローナ殿下が国を出られてから、状況はそう変わっていません。ヘロディオス王は自らを人質として、カイナの部下数人を国政の監査役に受け入れました。食料や金、武器などが多少スカリオに流れている以外は、経済活動は平時と変わりません。ただし、都民のスカリオへの反感は大きいようです。現状、王が人質となっているため大きな反乱は起きていませんが、今後どうなるかは分かりません」


 王都で暴動などが起きていないと知り、サローナがホッと息を吐いた。


「一方、スカリオの状況ですが、カイナのクーデターにより、王を始め国政の主たる重役は殺害されたようです。クーデターを防ごうとした兵士もかなりの被害が出たとのこと。その後は、カイナの部下が国政の上に立ち、国を回しているようです。実務者や市民の多くはそれに従っているようですが、小規模な反乱は多発しているようです」


「何故、王を殺したカイナに従うのですか?」


 サローナの質問に、ディーナが答える。


「半分は、安全のためだな。反発して殺されるより、大人しく従った方が良い、と考えても不思議じゃない。あと、これは人間には分からないかもしれないけど、さっき言った通り獣人は力に従う事を是とする風潮がある。ただ、それを認めると血で血を洗う争いが起きかねないから、スカリオでは暴力による諍いの解決は認めていない。でもね、本能的に強いものに従う、という空気が認められてしまうのが、獣人の国なんだ」


 それは、確かにサローナには理解できないものだった。

 そこに、ローデリヒが口を挟む。


「それでも、スカリオの市民の中には力に従うのを嫌う者も多いらしい。かの国から我が国に移住を希望する民が、かなりの数に上っている」


 それを聞いて、ディーナが目を見開く。


「そうなのか!?」

「ああ。同盟国であり、地理的にも近いクゼールに向かわなかったのは、賢明な判断だ。ここでクゼールに行って、市民間で争いになれば、クゼールとスカリオの関係に完全に溝が生まれてしまうからな。我が国としては、西方の都市で一時的に彼らを預かろうと考えている」

「……ありがとう」


 明らかな面倒事を受け入れてくれると言うアズール国王に、スカリオの王女は頭を下げるのだった。


引き続き第4章も投稿していきます。


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