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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第3章 悪魔との遭遇
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第46話 悪魔シグルーン

前話のあらすじ:

悪魔と戦闘になった!


ディストラ「前話でユングのゾーイの呼び方が『ゾーイ姉ちゃん』になってたのは?」

ユージン「内心ではゾーイのことを年上としてある程度敬ってはいるけど、フレイヤ同様に若干の侮りと、反抗期の相互作用によって、普段は意識的に呼び捨てにしてにしていると見た」

フラール「なるほど。それで、咄嗟の時には内心の呼び方が出ちゃったと」

ユング「勝手に人の心を分析するんじゃねー!!」

 ユージンは一つ覚悟を決め、一歩踏み出して――『セブン・フォース』を鞘に収めた。


「兄ちゃん!?」


 ユングが目を見開いて叫んだ。


 ユージンは、これまでのシグルーンの攻撃魔法程度であれば、防御魔法でも防ぐことができる。だが、それでもやはり『セブン・フォース』による迎撃の方が速い。

 ユージンにとって『セブン・フォース』は攻防一体の切り札なのだ。


 それを鞘に納めるということは、抜刀術を修めていないユージンにとっては武装解除に近い。戦闘中に何を、とユングが焦るのも当然である。


 一方、ユージンと相対している悪魔シグルーンも、ユージンの行動は意外だったらしい。

 一瞬目を見開き、すぐにゾーイ達に意識を向けて不意打ちを警戒したが、そちらにも動きがない、というかユージンの行動に同じく動揺している様子を見て、訝しげな顔になってユージンを見据えた。


「何のつもりかしら?」


 その質問に、ユージンは不敵に笑う。


「あんたこそ、何のつもりだ?敵が隙を見せているのになぜ攻撃しない?」


 ユージンの言葉に、シグルーンは腕を組み、少年の真意を探るように、黒い瞳を紅い瞳で覗き込む。

 そして首を捻り、一つ頷いた。


「特に必要性を感じないから、かしら」


 再び妖艶な笑みを浮かべて、シグルーンはユージンに答えた。

 ユージンは、握っていた拳をゆっくりと開き、一つ深呼吸をした。


 そして、もう一つ質問をする。


「あんたは、俺達の敵か?」


 その質問に、シグルーンは先程以上に大きく目を開いて、動揺を顕にした。


 同時に、ユングやゾーイ達も驚いてユージンの意図がわからなくなる。


 シグルーンは組んでいた腕を解き、右手を顎に当てて考える仕草を数秒した後に返答した。


「それを決めるのは、アタシじゃあないわね」


 じゃあ誰だよ。とユングは思ったが、彼の前に立つ少年はそうではなかったらしい。


「なるほどね」


 ユージンは明らかに声に喜色を混ぜて頷いた。

 それを聞いて、シグルーンは動揺を抑えきれぬままに呟いていた。


「ボウヤ、アナタ――」

「ユージン。それが俺の名だ」

「……」


 シグルーンはまるで信じられないものを見たかのような表情でユージンを見つめる。


 その顔を見て、ユージンは笑みを浮かべ、確信した。

 この悪魔とは、対話ができる、と。


     ◆ ◆ ◆


 そもそもユージンは、ルキオールが説明した悪魔という存在について、いくつかの疑念を抱いていた。


 まず、地上――こちらでいうところの『人界』を襲う理由が不明瞭である。『天界』を含めて支配するのが目的というが、何をもって支配したとするのか。支配というからには支配者が必要だが、魔王が出現する前の悪魔に統率者はいなかったらしい。

 であれば、彼等は個人個人の目的を持っていたと考えるべきではないか。


 まあ、本能的に生息域を拡大させたいという思いがあるのかもしれないが……。


 それはさておき、統率された意思というものがないのであれば、悪魔個人個人を『悪魔』と一括りにするのは危険である。

 その思惑も、目的も違うのであれば、対応方針はまるで変わってくるからだ。



 ルキオールは、捕らえた悪魔から情報を引き出したと言っていた。意思の疎通はできるのだから、間違ってはいない。

 だが、それが拷問によるものなのか、比較的協力的な発言によるものだったのかは言わなかった。少なくとも、悪魔に交渉の余地があると思わせる言い方ではなかった。


 しかし、現実問題として、ネアン帝国内には悪魔に通じている人物がいるはずだ。

 それが自らの意思によるものかは定かではないが、何らかの取引――脅迫かもしれないが――があったと考えるのは不自然ではないだろう。

 つまり、悪魔と交渉していることになる。


 要するに、だ。ユージンの心に引っ掛かっていたのは、「悪魔は本当に全てが人間に敵対しているのか」ということだ。


 人間にも裏切り者がいるように、悪魔にも人間に協力的――そこまではいかなくても敵対していない個体がいるかもしれない、と、そう心の隅で思っていたのだ。

 そして、それは今ユージンの目の前にいる存在によって、証明されようとしている。


     ◆ ◆ ◆


 悪魔であるシグルーンが、自分達に敵対する意思がなさそうであると分かり、ユージンは普段の調子に戻って会話を始めた。


「さて、もう一度聞こうか。シグルーン、あんたはなぜ俺達の前に姿を見せた?探知魔法に引っ掛かったとはいえ、そのまま去ることだってできたはずだ」


 ユージンの、まるで人間の知人にでも話しかけているかのような態度に、シグルーンは一瞬目を細め、そして微笑んだ。


「そうね。一つは、見定めるため。もう一つは、警告よ」


 警告とは穏やかではない。が、やはり戦闘をしに来たようではないらしい。


「説明してもらえるか?」

「警告については簡単ね。昨日の件で調子に乗らないように、ってそれだけよ。昨日ボウヤ――ユージン達が倒した悪魔は、魔力や膂力は悪魔の中でもそれなりに上位に位置するけれど、力の使い方がまるでなってない、調子に乗ってるだけお子ちゃまよ。だから、本当の悪魔の強さを見誤らないように、警告しにしてあげたのよ」

「それは……つまり、心配してくれてるのか?」


 ユージンが意外そうに言うと、相手も意外そうな顔になり、少し首を捻った。


「そうね……まあ、そういうことになるかしら」


 警告というよりも忠告だな、と思いつつ、ユージンは更なる疑問を口にする。


「それはありがたいが、なぜ俺達の心配を?俺達は、あんたの仲間を殺したはずだが」

「仲間、って呼べるほどの繋がりはないわねぇ。アタシ達悪魔には、同族意識があまりないのよ。彼が死んだところで、特段何も感じないわ」

「なるほど。だがそれは俺達を心配することには繋がらない気がするが。いくら同族意識がないとはいえ、あんたは『悪魔』で、俺達は『人間』だ」

「そこなのよね」


 シグルーンは、艶っぽい表情で溜め息を吐いた。

 そしてユージンに流し目を送り、


「ねぇ、ユージン。アナタ、アタシとセックスできる?」


 爆弾発言をした。



「……は?」


 余りにもあんまりなシグルーンの発言に、ユージンは目が点になる。

 しかしシグルーンはそれに構わず。


「他の言い方だと、性交?交尾?まあ何でも良いわ。つまり人間でいうところの生殖行動――」

「わ、わかった。説明は要らん!」

「そう?それで、できる?」


 ふざけてんのか!と叫びたくなったユージンだが、相手は顔から艶を消してはいないものの、至って真面目であった。故に、渋々ながら真面目に返答する。


「会ったばかりのヤツとできるわけねーだろ。常識的に」

「そうなの?できるヒトもいると思うけれど……、そういう話ではないのよね。質問が悪かったわ。言い換えるわね。アナタ、アタシを恋愛対象として見られる?」


 この質問に何の意味があるんだ?まともに答える必要があるのか?と思うユージンだったが、今は悪魔と対話するというまたとない貴重な機会だ。相手の機嫌を損ねるのは得策ではない。

 ということで、真面目に考える。


 目の前に佇む悪魔は、人間の女性としては背が高い方ではあるものの、あり得ないほどではない。顔の造形は、ユージンの好みに合致してはいないが、誰がどう見ても顔立ちのはっきりとした美女と言えるだろう。

 そして、女性らしい起伏に富んだプロポーション。妖艶な雰囲気と相俟って、まさに悪魔的な色気を醸し出している。ユージンと同年代の少年で、年上好きには堪らないだろう。


 悪魔の特徴たる真紅の瞳も、黒か茶の目しかなかった日本から来て、こっちの瞳のカラフルさに驚いた身としては、特別感じるものはない。同じく特徴である角も、小さくて殆ど見えないことから、ユージンにとって彼女から悪魔らしさはあまり感じられなかった。


 その結果。


「まあ、好みの問題をおいておけば、見られるかな、恋愛対象として」


 そう言った。


 が、そのユージンの言葉はシグルーンの想定とは違ったらしい。

 彼女は、ポカンとした顔になり。


「……え?」

「……え?」


 ユージンまでポカンとしてしまった。


 数秒の沈黙の後、焦ったようにシグルーンが口を開く。


「い、いや、そういう答えが欲しかったんじゃないのだけど」

「は?あんたが聞いてきたから答えただけだろ」

「え、本気?」

「何が?勘違いしてるなら言っておくが、あんたと恋愛する気はないぞ」

「そんな勘違いはしてないわ。ただ……」


 シグルーンは、若干不機嫌なユージンの顔を見つめ、その後しばらく思案する。

 そして、相変わらず妖艶な笑みを浮かべつつ、どこか吹っ切れたような雰囲気でこう言った。


「アナタなら、アタシの理想を実現できるかもしれないわね」



「理想?」


 シグルーンの言葉に、ユージンは怪訝な顔をする。それを実現するために自分が巻き込まれそうとあっては、無視することも出来ない。


 だがシグルーンはどこか楽しそうに答える。


「ええ。でもそれはひとまずいいわ。それより、アタシはアナタが気に入ったわ、ユージン。表立って、という訳にはいかないけれど、色々と協力してあげるわ」


 含みのある笑顔でそう述べるシグルーンを、当然だがユージンはそう簡単に信用するわけにはいかない。

 少なくとも、対話をしても良いと思われてはいるようだが……こちらの目的が魔王の討伐である以上、悪魔と仲良くするのはリスクが大きい。


 人間側への感情ももちろんだが、この悪魔からもたらされる情報によって、窮地に陥る可能性もある。簡単に言えば、罠だ。


 だが、その可能性を十分理解した上であれば、彼女の申し出は、またとない情報源になるだろう。イサークやルキオールが隠しているか、あるいは得られていない、「協力的な悪魔」という存在は、非常に価値がある。


 個人的には協力を取り付けたいところではあるが……。


「(さすがに、ライリーやフラール抜きに決めるわけには行かないか)」


 そう考え、シグルーンの反応を窺いつつ、口を開く。


「協力の申し出はありがたいが、俺の一存では決められない。少し仲間と話したいが良いか?」

「ええ、構わないわ。向こうに隠れている2人も呼んで話すと良いわ」


 あっさりとライリーとフラールの存在を看破され、ユージンは苦笑する。

 そんなユージンに、シグルーンは笑みを浮かべたまま続けた。


「ついでに、別にアタシの協力を拒んだからといって襲ったりはしないから安心なさい」

「……そりゃどーも」


 心の隅にあった不安を否定され、ユージンは安心するより、若干不安が増した。相手の掌の上で転がされている気がしたからだ。


 しかし、この悪魔から情報を得るという判断は間違っていないはず。

 そうやって自分を肯定しつつ、ユージンは後ろを振り返る。警戒を完全に解いたわけではないが、ここに至って後ろから攻撃をしては来ないだろうと判断した。


「ユング、2人を呼んで来てくれ」


 事態の成り行きについていけず、呆然としていたユングに、ユージンが声を掛ける。


「え、あ、うん。分かった」


 そしてユングは言われるままに踵を返し、2人を呼びに行く。

 一方のユージンは、ちらりとシグルーンを一瞥した後に、ディストラ達のもとに向かう。


「ディストラ、大丈夫か?」

「うん。昨日のユージン程の怪我じゃなかったよ」


 既に治療を終えて立ち上がったディストラは、軽口を叩く位には余裕があった。

 しかし、ユージンの会話を聞いていたフレイヤは不安そうにしており、ゾーイは珍しく眉根を寄せて、


「ユージン、本気?悪魔と協力するだなんて」


 若干ユージンを咎めるような口調でそう言った。

 ユージンはそれを意外に思う。彼女は何事にも興味が優先し、新しい試みにも寛容なイメージがあったからだ。


「反対なのか?」

「だって……、悪魔だよ?悪魔は、人間の敵でしょ」


 ゾーイの言葉に、ユージンは顎に手を当てて考える。

 ゾーイの認識は、スフィテレンドの人間全体の意見としては妥当なのだろう。

 だが、それを、ネアン帝国でも指折りの実力者であるゾーイが発言したことの意味を考える。


「(いや、実力は関係ないか。王宮に仕える実働部隊の多くがこのように認識していること、そしてそんな人物を俺に同行させていること。それに意味があるかどうか、だな)」


 少し考え、ユージンは、思考の前者については、自然な事であると結論付けた。

 実際に悪魔は人間を襲い虐げており、さらには王宮まで襲われているのだ。悪魔との戦いの最前線に立つ実働部隊の悪魔への感情が最悪であったとしても何も不思議はない。


 そして後者についても、そういった認識が普通であれば、ユージンの同行者の認識がそうであっても問題はない。


「(邪推しすぎか)」


 イサークやルキオールから想像させられた悪魔像と、目の前にいる悪魔との間に乖離があったため、彼等の行動の裏に別の意図があったのではないか、と変に神経質になっていたが、変に疑っても心を無駄に擦り減らすだけだ。とユージンは疑惑を頭から振り払う。


 だが、それはそれとして。

 少なくとも、彼等から教えられた、そしてゾーイ達が普通に持っている認識と、今目の前にいる悪魔とは合致しない点が多々あることは事実である。「悪魔は人間の敵」と断じて関わりを絶つには惜しいと、やはりユージンは感じるのであった。

 だから、ユージンはゾーイに自分の考えを説明する。


「悪魔が全体として人間の敵であることは確かだろう。だが、人間にも色々いるように、悪魔にも色々いるんじゃないかと、俺は思う。昨日の悪魔が問答無用で俺達を殺しに来た一方で、あそこにいる悪魔は、とりあえず真面に会話ができる」

「ボク達を騙すつもりなんじゃないの?」

「その可能性は大いにある。だが、そうじゃない可能性もある。それに、たとえ俺達を騙すつもりだったとしても、最初からそう思っておけば、そこまで不利益にはならない。むしろ悪魔の思考回路を知れるというのはメリットにもなりうる」

「それはそうかもしれないケド……」


 納得していないという心中がありありと表現されているゾーイの顔に、ユージンは苦笑する。


「ま、ライリー達が来てからまた話そう」


 ユージンはそう言って、こちらに向かってくる3人に視線を遣るのだった。

次の投稿は明後日の予定です。

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