第45話 悪魔再び
前話のあらすじ:
村を出発した途端、また悪魔に遭遇した!
ゾーイ「ねえユージン、ギルバートとクリスがどうなったのか気になるんだけど」
ユージン「まだ言ってんのかお前は。放っておけよ」
ゾーイ「え~。だってあそこまでお膳立てしたんだからさ~。結末まで見ときたいじゃん?」
フレイヤ「分かります」
ユージン「フレイヤまで……。まあ、うまくいったんじゃねえの、たぶん」
ゾーイ「だから~。どんな感じでうまくいったのかを知りたいんじゃん!わかってないなぁ、もう!」
フレイヤ「ギルバートさんがどんな言葉でクリスさんに想いを伝えたのか……ドキドキですね」
ディストラ「女の子だなぁ、2人とも」
ユージン「おい、その言い方だとフラールが女の子じゃないみたいだぞ」
フラール「失礼な。私も興味がないとは言ってないわ」
ユング「そんなことより早くいこーぜ」
ユージン「ユング……お前それじゃ、モテないぞ」
ユング「し、知らねーよ、そんなこと!興味ねーし!」
「それで、そのシグルーンとやらが俺達に何の用だ?」
ユージンは、シグルーンと名乗った悪魔に、警戒感も顕に訊ねる。が、まだ剣は抜いていない。抜いてしまえば、問答無用で戦闘に突入する可能性がある。
それよりもまず、仕入れられる情報は仕入れたかった。
「用があるのはそちらじゃなくて?アタシはわざわざ隠れていたのに、アナタ達に探知されたから出てきてあげたのよ?」
さも意外そうに言ってくるシグルーンに、ユージンは眉根を寄せた。
相手が本気でそう言っているのか、何か目的があるのか。表情からは全く読み取れない。
「……じゃあ、用がないと言えば、このまま立ち去るのか?」
魔王を倒すことを最終目標とするユージン達にとって、悪魔の殲滅は必須事項ではない。
しかし、悪魔を恐れていてはそのトップである魔王など倒せるはずがないし、強くなるためにも悪魔を倒していくことがこの旅路に求められている。
だが、昨日の今日でもう一度悪魔と戦いたいかというと、ユージンはできれば避けたかった。
一応、体力魔力は回復してはいるが、昨日の大ダメージによる身体の違和感が完全になくなった訳ではなかった。加えて、昨日の戦闘は本当に紙一重であり、現在の自分達の戦力では一歩間違えれば全滅していた可能性もある。
まあ、ライリーやゾーイが周りを気にせずに全力で戦えばその限りではないのかもしれないが……。
ともかく、もう少し戦力と戦術の練り直しが必要であるとユージンは考えていた。
なので、出来ればこの悪魔シグルーンにはこのまま立ち去ってほしかったのだが。
「あら、そちらが呼んでおいて、それはないんじゃない?」
シグルーンは、ニヤーっと顔に笑みを張り付けた。
ユージンは心中で舌打ちする。完全に選択を誤った。下手に索敵魔法など使うべきではなかった。
何者かが隠れて自分達を狙っているのならば、いつ襲われるか分からない。故に、本当にそんな存在がいるかどうかを確かめるため――、むしろ、そんな存在はいないと確認し、安心するために索敵魔法は使ったつもりだった。
それがどうだ。藪をつついて蛇を出してしまった。
「それは悪かった。呼んだつもりはなかったんだ。わざわざ来てもらって悪いが、俺達に用はないので――」
帰ってもらえるか。とユージンが続けようとしたところで。
「用ならあるぜ!悪魔を放っておいたら、また犠牲者が出るだろ!おれ達が退治するんだ!」
ユングが血気盛んにそう叫び、悪魔シグルーンに向かって火炎を打ち放った。
「ユング!?」
何を勝手に!とユージンは叫びそうになったが、ユングの言い分にも一理あった。
先程のユージンの考えは、自分本位の考えである。自分達が強くなり、最終的に魔王を倒すためのロードマップだ。
だが、民の立場になれば、悪魔は何であれ早急に倒すべきである。そうすれば、1人でも多くの民が犠牲にならずに済む。一昨日、悪魔が街で暴れて何人もの市民が犠牲になったことを聞いて、自身も悪魔を討伐しようと考えたではないか。
弱気になるな。勇者として、目の前の悪魔は討伐するべきだ。
と、それは分かる、のだが。
ユージンは、何かが心に引っかかるのを感じた。
しかし、何にせよもう事態は動き始めている。ユングが攻撃してしまった以上、戦いは避けられない。やるか、やられるか。それだけだ。
ユージンは、ユングの攻撃が着弾するのを確認する前に、ディストラとゾーイに視線で合図し、自らも抜刀する。
そして、爆発。
さらに、土埃が晴れるのを待たずしてゾーイが氷の槍と岩の槍で追撃する。間を置かず、ユングが風の刃を何十本と放った。続けて、おまけとばかりにゾーイが数十の雷撃を撃つ。
ゾーイでも、これだけの攻撃魔法を連続で受ければ防ぎ切るのは難しい。それだけの怒涛の連続攻撃だったのだが。
土埃が晴れた先に見えたシグルーンの身体には、傷ひとつ付いていなかった。
「おいたが過ぎるわね。お仕置きが必要かしら?」
そしてお返しとばかりに詠唱を始める。
「風よ 水よ 土よ 喜びなさい 遊び相手が 目の前にいるわよ」
それは、詠唱というより、誰かに語りかけているようだった。
だがその言葉に反応し、彼女の周辺にいくつもの魔法陣が展開する。
「ゾーイ!フレイヤ!」
叫びながら、ユージンは『セブン・フォース』を構え、自ら魔法を迎撃しに前進した。
それに合わせるように、ディストラも魔法を避けつつシグルーンの側面に回り込もうとする。
ゾーイ達3人は固まり、ゾーイとフレイヤで魔法障壁を展開する。
そして、シグルーンの魔法が発動する直前、ユージンは彼女の正面に立ち、魔法陣もろとも彼女を袈裟斬りにする。
が、シグルーンは1歩後ろに下がられるだけで簡単にかわした。それはユージンも承知しており、彼女の気を逸らせて魔法の発動を阻止できれば良い、と考えていたのだが。
「ぐぅっ!」
ディストラの抑えた悲鳴がユージンの耳に入った。
ユージンが斬った魔法陣以外は、何の問題もなく発動し、その内の1つがユージンの逆から狙っていたディストラをまともに捉えたのだ。
それは、足元を駆け回る旋風の刃だった。
単発の風刃であれば、ディストラは難なく避けられるが、それなりの範囲に広がる風の刃を、魔法障壁あるいは空を飛ぶ手段を持たないディストラに回避することは不可能であった。
脚の傷は深くはない、が、機動力は大幅に落ちただろう。追撃を受ければ、今度こそ致命傷を受ける可能性がある。
それをさせるわけにはいかない!
「フレイヤ!ディストラの回復を!ゾーイはそのフォロー、ユングは俺の援護できるか?」
ユージンは、1か所に固まると狙われると判断し、ユングをその場に留め、自身はシグルーンにさらに追い縋り、魔法を撃たせまいと接近戦を挑む。
「分かりました!」
シグルーンの第一波を無事に防いでいたフレイヤがユージンに応え、ディストラに近付く。
その様子を、シグルーンが目を細めて眺める。
「余所見する暇は与えねーぞ!」
ユージンが気合いと共に魔剣を横に薙ぐ。しかしそれもバックステップで避けられる。
身体能力が人間とは違いすぎるのだ。そんな相手を、まだまだ未熟なユージンの剣技で捉えられるはずもなかった。
「どうしたの?余所見し放題よ?」
バカにしたようにニヤニヤ笑う悪魔にユージンは歯噛みするが、実際のところ、逃げに徹しているこの相手に剣を当てられるビジョンが浮かばなかった。
「(せめて相手から攻撃してくれば、反撃の目はあるんだが)」
昨日の悪魔との戦いのように。
だが、シグルーンはユージンの剣撃を飄々とした態度で避け、なおかつ。
「水よ 踊れ」
軽く歌うように魔法を使う。
ユージンは向かってくる水の鞭を、『セブン・フォース』で撃ち落とすも、それはユージンだけを狙ったものではなく。
「くそっ、相殺しきれねー!」
ユングが風の刃で水の鞭を迎撃するが、効果は今一つの上に数が多い。
「ユング!」
ユージンは、先程の自らの判断の誤りを悟った。魔法防御が不得意なユングを1人にするべきではなかった。
しかし今更後悔しても遅い。
ユングに水の鞭が襲い掛かり、
「おや?」
突然ユングの周囲に現れた『殻』系の魔法障壁に阻まれた。
それをシグルーンは意外そうに観察する。誰かが魔法を発動した様子はなかったが、と考えたが、すぐに答えを看破した。
「なるほど、遠隔型の仕込み魔法陣ね」
チラリと視線をゾーイに遣り、納得したように頷くシグルーン。
それを横目に、ユージンは接近戦を諦めてユングの傍まで退いた。
ユージン1人では、相手の魔法の発動の邪魔すらできていない。むしろ逆に、ユングやゾーイの攻撃魔法の邪魔になっている。
ならば、ユージンは防御に徹した方がまだマシだ。
ディストラと2人なら何とかなるかもしれないが――、と考え、ユージンはフレイヤがまだ苦手な回復魔法で治療している様子に目を遣る。
だが、魔法防御の手段のないディストラは、この悪魔との相性は最悪と考えて良い。
悪魔シグルーンは、完全に魔法士タイプだろう。最初の連続魔法を難なく防御できる防御魔法と、威力はさほどないながらも効果的に使ってくる攻撃魔法。
そして、最も問題となるのが、ユージン相手に余裕をもって動き回れる近接戦闘での回避能力と、回避しながら放てる魔法の制御能力だ。
相手が人間の魔法士であれば、剣士が接近できればほとんどそれで勝てるのだが、この悪魔に接近したところで、躱された上で魔法のカウンターを食らうというふざけたことが起こりうる。
ユージンであればそれに対処のしようもあるが、ディストラには盾で防げる小規模魔法以外はどうしようもない。2人がかりで接近戦を挑もうとしても、先程の二の舞になるのがオチだろう。
「(ゾーイとユングの魔法で相手を防御に徹させて、その隙に接近戦を挑むか……しかし)」
うまく嵌れば相手にダメージを与えられるとは思うが、最初の攻撃を余裕で防御していたところを見ると、隙が生まれるかどうかも怪しい。さらに、接近戦で少しでも距離を空けられればやはりディストラが危険だ。
昨日の悪魔であれば、接近戦に持ち込めば魔法を使う余裕はなさそうだったのだが……それは戦士タイプだったからだろう。
「(とすると、残すは大魔法による魔法合戦か)」
ユングが牽制、フレイヤとユージンで防御、その間にゾーイに上級魔法を放ってもらう。
「(だが、それも効かない可能性があるな……。むしろその可能性の方が高いか)」
同じレベルの攻撃魔法と防御魔法であれば、基本的には防御魔法が攻撃魔法を防ぎきれる。
シグルーンがどれほどの防御魔法を使えるのかは定かではないが、最初の攻撃を難なく防御したところを見ると、ゾーイの上級魔法が通じる可能性は望み薄な気がする。
「(さて、どうするか)」
ユージンは思考しながらシグルーンを警戒しつつ、体勢を整えるユングに問う。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だぜ。ゾーイ姉ちゃんのお陰だな」
強がってはいるが動揺しているのか、ゾーイの呼び方が「ゾーイ姉ちゃん」になっていた。
「でも、あいつ、フレイヤと同じ感じだな。防御魔法は凄いけど、攻撃魔法は大した魔法を使ってこないぜ」
「……」
ユングに言われ、ユージンも改めてそこに意識を向ける。
確かに、先程も考えた通り、シグルーンの攻撃魔法は、素早いし多彩であるが、威力はさほどでもない。ディストラも大怪我というほどではないし、ユングを狙った水の鞭も、当たったところで致命傷には程遠いだろう。
だが、それはおかしくないか?
いくら何でも、それが本気の攻撃とは、とてもではないが思えない。例えば、最初のディストラへの攻撃にしても、機動力を削いだ後に少し攻撃力を上げて頭を狙えば、十分致命傷を狙えたはずだ。
ユングへの攻撃も、まともにダメージを与えに来ているとは言い難い。
つまり、本気ではない。
本気を出すまでもない?それはそうかもしれない。実際、1対5であるにもかかわらず、自分達はいいようにやられている。
だがそれならば、この戦いの目的は何だ?甚振って遊ぶというほどのダメージすら与えられていない。ただの足止めのような――。
「(待てよ。あいつは、最初になんて言った?)」
――探知されたから出てきた――。
――お仕置きが必要かしら――。
まさか。
ユージンの胸中に、不安と期待が渦巻いた。
そんなことがありうるのか?
だが、ユージンが最初に覚えた心の引っ掛かりは、まさにそれだったのだ。
ならば――試す価値はある。
ユージンは一つ覚悟を決め、一歩踏み出して――『セブン・フォース』を鞘に収めた。
次の投稿は明後日の予定です。




