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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第3章 悪魔との遭遇
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第43話 ギルバートの帰村

前話のあらすじ:

ユージン達は、悪魔に勝利した!


ユージン「そういえば、フレイヤも治癒魔法を使えるはずでは?」

フレイヤ「使えるには使えるんですが、まだ集中力をしっかり保てる状況じゃないとうまく発動できなくて……すみません」

ユージン「あ、いや責めているわけでは」

ゾーイ「あー!ユージンがフレイヤを泣かせた~!!」

ディストラ「ホントに?それは酷いね」

ユング「男の風上にも置けないぜ!」

フラール「最低ね」

ユージン「何だこの流れはっ!」

フレイヤ「泣いてはいません……」

 まだ腹部の違和感は拭えないものの、動くのに問題ない程度に回復したユージンは、悪魔の遺骸を眺める。

 意思ある生物を殺したのは初めてであるが、そこまで罪悪感を覚えることはなかった。


 日本にいた頃の感覚のままなら、そうはならなかっただろうが、ユージンはマナスカイで、大型哺乳類に近い魔獣を何度も殺している。

 最初こそ、自分を襲うモンスターとはいえ、命を奪うことに抵抗はあったものの、何度も行えばそんな感覚は麻痺してくる。なにより、戦いの場で敵を殺すことを躊躇うのは、自分の身の危険につながる。

 そんなジャンヌやディストラ、カイナのアドバイスにより、ユージンは魔獣を殺すことに極力心を乱さないように意識し、やがてそれが普通になった。


 一度身に付いた感覚は、スフィテレンドに来ても変わらず、こちらの獣魔との戦いでも最早殺すことにためらいはなくなった。人として、それが良いことなのかはユージンには分からなかったが、こちらの世界で生きていく上では必要なことと割り切った。


 だが、マナスカイの魔獣もスフィテレンドの獣魔も、いかにもけもの然としており、明確な意思を持っているようには見えなかった。もちろん、会話などできるはずもない。

 そんな獣と、意思があり、会話も可能であった悪魔。これらには大きな隔たりがあるはずだ。


 にもかかわらず、ユージンの胸中は罪悪感よりも安心感が大きく占めていた。


 それはそうだ、殺さなければ、殺されていた。もし日本だったとしても、正当防衛という立派な建前がユージンの心を納得させただろう。

 加えて、相手は多くの人間を殺してきている。連続殺人鬼のようなものだ。


 さらに、最終的に直接手を下したわけではなく、雷によって死んでしまった。

 今回の件を日本で例えるならば、連続殺人鬼に襲われて殺されかけたものの、必死の抵抗で相手を電線にぶつけて感電死させたようなものだ。


 思うものがないわけではないが、罪悪感や忌避感を大きく感じることもなかった。

 そんな風に自分の心中を分析しつつ、ユージンはライリーに訊ねた。


「これは放置で良いのか?」

「我が国の中であれば、軍に回収させるのだが……。一応、この地域のトップに伝わるようにはした方がいいだろう。悪魔に襲われていた街にも知らせる必要があるからな」


「そうすると、俺達の身分もばらす必要があるか?」

「少なくとも、匂わせる必要はあるな。この村の村長に伝えて後は任せ、さっさと村を出てしまうのが一番だと思うが」

「え~!今日出るのははんた~い!少なくとも1泊しないと、魔力が回復しないよ。さっきのでボクの魔力はあと僅かなんだからね!」


 ゾーイの根拠ある反対に、ユージンは少し考え、


「それなら、今日は何も言わずに1泊して、明日の朝出る前に村長に伝えるという作戦でどうだ?」


 その発言に特に異論はでなかったが、ディストラが少し困った顔をしつつ。


「そうすると、彼等をどうするか、だね」


 ギルバートとケビンに顔を向けた。


 ◆ ◆ ◆


 一行の視線を受けて、彼等に罪を暴かれたケビンだけでなく、ギルバートまでもがビクリと肩を揺らした。悪魔との戦い――特に、最後の大魔法が彼らに恐怖を抱かせたのだろう。


 それを察知したライリーは、これ幸いとばかりに、やや威圧的に、ギルバートに自分達の(嘘の)紹介をした上で、この裏山を登るに至った状況を説明し、ケビン共々明日まで今日の悪魔のことは口外しないように言い含めた。


 ギルバートは、旅のお嬢様とその護衛という紹介に当然のように疑問を抱いたが、余計なことは口にするまいと静かに頷いた。

 逆らってあの魔法を自分に向けられてはたまったものではない。そして何より、彼等は恩人である。


「ありがとう」


 ギルバートの感謝に、ライリーが片眉を上げ、何のことだ?という表情になる。

 ギルバートは苦笑した後、真剣な顔になって説明する。


「父の汚名を灌ぐこと。そして父の死の真相を暴くこと。この1年、俺が必死に成し遂げようとしたことを、あなた方はなしてくれた。その事に、感謝を」


 頭を下げるギルバートに、なるほどと納得したライリーが、気にしないでいい、と伝えようとしたところで、


「その前に」


 ユージンが口を挟んだ。

 皆の視線がユージンに集まる。


「俺達に感謝する前に、あんたが感謝しなければならない人が居るんじゃないか?」


 ユージンにそう言われて、それが誰の事なのか分からないほどギルバートは察しが悪くなかった。


「クリスには……感謝してるさ。でも、彼女は俺にとって妹みたいなもので――」

「別にあんたに彼女とくっつけなんて言うつもりはない」


 ギルバートの言葉を遮り、ユージンが不遜に言い放った。


「けど、あんたは彼女の想いに真剣に向き合うべきだ。俺は話を聞いただけだが、あんたはクリスの想いから逃げていないか?そうでなければ、彼女があんな哀しそうな表情をしたり、追い詰められたように村人に反発したりはしないだろう。それに、妹みたいであっても妹ではない。仮に妹だとしても、彼女の行為と想いに感謝して、行動と言葉で返すことが、あんたには必要なんじゃないか?」


 ユージンの言葉に、ギルバートが苦虫を噛んだような顔になる。


「それは……」


 ギルバートにとってクリスが、妹のような存在というのは嘘ではない。だが、そこに異性という感情がないかというと、そうでもない。

 クリスのことは可愛いし魅力的な異性であると感じてはいる。だがギルバートは、母を亡くしてからは、その後を継ぎ村の防備に心力を注ぎ、この1年は亡き父の事にかかりきりだった。

 加えて、ケビンと既に仲が悪いとはいえ、その想い人であるクリスと恋人になればさらに仲がこじれることは目に見えている。


 そんな事情から、あまり考えないようにしていたことは否めない。

 つまり、ユージンの言うとおり、逃げていたのだ。


 だが、今。

 父の件はひとまず解決し、ケビンとの仲はこじれるとかいう次元を超えてしまった。ケビンに慮る必要など最早皆無である。

 村の防備に関しても、幸か不幸か悪魔のおかげで一時的にでも周囲に獣魔の危険はなくなった。つまり、ギルバートがクリスとの関係を考えることから逃げるための建前が無くなってしまった。


 そんな状態で、クリスに向き合えと言われてしまっては、根が真面目なギルバートには正面から拒否することはできなかった。


 真面目な顔で黙り込んだギルバートを見て、ユージンは一つ溜息を吐く。


「まあ、とりあえず下山するか」


 そうして一行を促そうとするユージンに、ライリーが待ったをかける。


「ユージン、元々ここに来た目的である交易品を持って帰る必要があるだろう」

「あ、それもそうだな。そうしたら、ディストラと……ギルバートさんも手伝ってくれ。持てる範囲で持って帰ろう」


 ライリーはフラールの護衛と全体監視、ゾーイはケビンの監視があるので、荷運びは男3人で良いだろうとユージンは判断した。


 ユングとフレイヤは、身体が小さく持てる量もしれているので、予備戦力としてすぐに動けるようにしておく。

 まあ、魔法を使えば2人も大量の荷運びはできるし、何ならロキから貰った魔法の鞄『無限袋』を使えば巨大なもの以外は全て持って帰れるのだが、能力や道具を無暗に披露するべきではない。

 今回重要なのは、確かに1年前に消失した交易品が隠されていたという証拠であり、後は村人で何とかすれば良いのだ。


 ユージンとディストラは、ギルバートと共にケビン達の隠し洞穴に入り、残されていた交易品のいくつかを持って外に出た。


「じゃ、今度こそ下山しよう」


 ◆ ◆ ◆


 何事もなく村まで戻った一行は、彼等を待っていた村人が一様に不安気な表情をしているのに気づいた。

 どうしたのかとユージンが問うと、村人は、山の方から物凄い轟音が聞こえ、何かが光る様子もあったので心配していた、と答えた。

 その回答に、さもありなんと頷いたユージンは、裏山の探索中に突然獣魔が出て、ついオーバーな魔法を使ったが問題ない、と答えておいた。


 そして、それよりも交易品を途中で合流したギルバートと見つけて来た、と言って話題を逸らし、背負っていた布袋を広場に降ろした。

 村人達はその中身をあらため、まさに1年前に失ったはずの交易品であることを確認し、ケビン達の所業を裏付ける証拠となった。


 ケビンもことここに来て下手な反論や反抗はしなかった。もしかすると、先程の、彼等からすれば人外の戦闘を見て色々と諦めたのかもしれない。

 何にせよ、他の2人と同じく大人しく処罰を受ける意向のようで、ひとまず村長の家に連行されて行った。




 その晩は宴会となった。

 正しく言うならば、ユージン達への感謝とギルバートへの謝罪の会である。


 クリスに叱られた村人達は、まずギルバートに頭を下げた。

 ギルバートは、複雑そうな表情ながらもそれを受け入れる。村のために身を粉にして働いていた父カールを疑われた、というわだかまりがギルバートの中から完全に消えたわけではないが、それは時間と共に薄れていくことだろう。


 ギルバートがいつまでも自分のために村人と確執を残したままであることを、カールが望まないことは、ギルバートには良く分かっていた。

 そしてその和解を見て、1人の少女が呟く。


「本当に、良かった……」


 涙ぐみながら微笑むクリスに、ギルバートが駆け寄る。そしてこれまでの礼を告げて微笑み合う。




「なんだか良い雰囲気ね」


 村人達がギルバートとクリスを冷やかすのを見ながら、フラールが呟いた。

 それにゾーイも同意する。


「そうだね~。これもユージンのおかげかな?」


 その言葉で、裏山でユージンがギルバートに言った内容を思い出したディストラがユージンに訊ねる。


「そういえば、あの時、珍しく憶測と感情で彼を責めたよね、ユージン」

「確かに~。『村の事情に深入りするつもりはない』とか言ってたのに~」


 2人に好奇の眼で見られ、ユージンは嫌そうな顔になる。

 しかしディストラは追撃を止めなかった。


「彼女、少しジャンヌに雰囲気が似てるよね。それで肩入れしたの?」

「違えよ。それよりむしろ――」


 若干上ずった表情で否定した後に、ユージンは少しだけ遠い目をして。


「向けられる好意には、きちんと向き合うべきだろ。それが妹だろうがなんだろうが」


 先程の言葉には微妙に続かないものの、らしくない行動をとった理由を、あの時の言葉を流用して回答した。

 そしてユージンの言葉に、ディストラが予想外の食いつきを見せた。


「そうだよね。妹からの好意は最っ高に嬉しいものだからね。しっかりと応えて百倍にして返さないと」


 いつものように穏やかに笑いながら、そんなことを言うものだから、フラールやゾーイは一瞬自分の耳がおかしくなったのかと錯覚した。

 しかしユージンの、


「あー、そういえばこいつ、度を越したシスコンだったな……」


 という呟きを聞き、おかしいのは自分の耳ではなくディストラの発言であったと確認した。


「い、妹さんがいるのね……?」


 フラールが、引き攣った顔をディストラに向けた。

 その表情に気付いているのかいないのか、ディストラは満面の笑みで。


「うん。ちょっと身体が弱いんだけどね。すごく可愛いんだ。騎士になってからも非番の日には毎回実家に帰って会ってたんだけど、いつだって花のような笑顔で迎えてくれるんだよね。本当に癒されるよ。ああ、俺がこっちに来てしまって心配しているだろうな。というか、家は無事だろうか……。やはり、早急にクゼールに戻る必要があるな。ユージン、頑張ろう!待ってろよ、エイダ!」


 1人で盛り上がるディストラに、何とも言えない表情のユージン達。


「ボク、ディストラはマトモな人だと思ってたのに……」

「お前が言うな。だが、気持ちは分かる。妹のこと以外は真面なんだけどなぁ」

「少し、見る目が変わってしまったわね……」


 しょっぱい気持ちになっている年長組に対して、年少組ははそこまで変だとは感じず、


「え?妹想いの良いお兄さんなのでは……?」


 首を傾げるフレイヤと、


「あれ?ディストラ兄ちゃんって、ユージン兄ちゃんと同じマナスカイ出身なんだっけ?」


 全然別の所を気にするユングであった。

 2人とユージン達が出会った村で、白い大蛇の幻獣ヨルムがちらりとディストラの出自について発言したのだが、覚えてはいないだろう。

 しかしそのユングの発言にディストラが反応した。そして小声で説明する。


「あ、そういえば2人には言ってなかったっけ。俺はユージンが折れた魔剣を向こうの世界から召喚する時に巻き込まれてこっちに来たんだよ。だからユージンとは一番長い付き合いだね。俺の妹への想いも十分理解しているって事」

「理解っつーか何つーか。諦めの境地だな」

「照れるなよ。同士だろ?ユージンも妹を大事にしてるって話だったじゃないか」


 ディストラの発言にユージンは心底嫌そうな顔をする。


「お前と同類に思われるのは心外だ。俺は常識の範囲内で家族を愛している」

「え、俺もそうだけど?」

「見解の相違だな」

「そのようだね」


 冷笑を浮かべるユージンと、微笑を浮かべるディストラ。

 ハハハハハと笑いあう少年達を横目に、ゾーイがポツリと独りごちる。


「ていうか、ジャンヌって誰?」


 しかしその答えを持つ2人はよく分からない笑顔の戦いをしており、ゾーイの呟きを耳に入れたのはフラールとフレイヤだけだった。


次の投稿は明後日の予定です。

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