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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第3章 悪魔との遭遇
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第42話 辛勝

前話のあらすじ:

ユージン達の反撃!


ユージン「髪の色がそれぞれで違うと、第三者視点で人物特定がし易いな」

ディストラ「そうだね。ユージンが黒、俺が銀で、フラールが金」

ゾーイ「ボクが青で、ユングとフレイヤは翠」

フレイヤ「そしてライリーさんは茶色ですね」


ユージン「……はっ!赤が居ない!リーダーが不在だぞ!」

ディストラ「またよく分からないことを」

ユージン「ピンクも居ない!」

「天より下り 地より昇る その強大なる輝きを 重ね轟け 我の行く手を阻む 全てのものを 貫き燃やし 消し炭にせよ 射貫け『千雷せんらいあぎと』!!」


 ゾーイが詠唱を終えるや否や、ゾーイの前方に現れた黄色の魔法陣から、眩い閃光が轟音と共に迸る。魔法陣に込められた大量の魔力によって蓄積された電力が、目的地に向かって放出されたのだ。

 それは、その名に偽りなき千の雷であった。


 元々は、数kmに亘る広域に千の雷を落とし、敵を殲滅する広域殲滅上級魔法『裁きの千雷』という魔法である。その魔法を、ネアン帝国が誇る天才魔法士ルキオールが対個人用に再構築したのだ。


 雷というものは、一撃でも十分に人間を殺傷しうるエネルギーを有する。ただし、その効果時間があまりに短いため、人間でも運が良ければ生き延びることもある。雷撃への耐性や魔法耐性が高い生物であれば、生存率はさらに高まる。


 それを確実に仕留めるために開発されたのがこの『千雷の顎』である。


 千発もの雷という膨大なエネルギーを、数秒かけて対象に浴びせ続ける。

 何の対策も無しにこれを受ければ、数億ボルトの高電圧、数十万アンペアの大電流による電気的なダメージだけでなく、数万度に達する熱を浴び続けることになり、血は沸騰し細胞は燃え尽きる。

 後に残るのは、消し炭か灰のみである。生き延びる術はない。


 そのあまりにも凶悪な魔法を防ぐには、対魔障壁を張るのが最も有効である。

 戦術級、あるいは魔法によっては戦略級とされる上級魔法を防ぐには、同じ上級魔法の防壁で対策するしかない。対魔障壁は、魔法によって生じた事象であれば、雷であろうが岩であろうが効率的に防ぐことができる。


 だが今回、この恐るべき魔法を受けた悪魔は、魔法が苦手であった。そして、心を乱され障壁を張る間もなかった。


 その結果。

 そこに残ったのは見るも無残な黒焦げの何かであった。


 ◆ ◆ ◆


 ゾーイの魔法の威力に、一同は唖然として動きを止める。というより、強烈な光と爆音に晒され、意識を保つのがやっとであった。


 唯一、発生する光と音を予測できたゾーイのみが、魔法の着弾点を注視する。山肌が溶けて赤熱する中に、未だ燃え続ける黒焦げの物体を見つけ、呟く。


「や、やった……みたい?」


 そして周囲の木々に火が付き燃え始めているのに気付き、慌てて水魔法で消火を始めた。


 ゾーイが消火を始めるのに合わせて、皆がハッとして行動を開始する。とはいえ、ユージンとヴァン兄妹は自力では動けない。

 フラールが慌てて回復に行こうとして――どちらを優先するべきか一瞬だけ考え、どう考えても重傷のユージンに向かおうとして――、


「俺は、大丈夫だ。先に、2人を、頼む」


 苦しそうな口調ながらも、強い視線を向けてくるユージンの言葉を受け、頷いた。


 それに驚いたのは当のユングとフレイヤである。駆け寄ってきたフラールに、フレイヤが自身も辛そうにしつつも非難めいた口調で問いかける。


「ユージンお兄ちゃんの方が酷い怪我です。なんでわたし達を先に……」


 そう言われるのが分かっていたフラールは、眉尻をやや下げつつ。


「ユージンが大丈夫って言ったからよ」


 その言葉に、ユングが口をへの字にして。


「それなら、俺達だって、痛いけど大丈夫だぜ。先に兄ちゃんを回復してくれよ」


 その懇願にも、フラールは首を振り、フレイヤから回復を始める。


「貴方達だって酷い怪我よ。体中の骨にヒビが入っているわ。それに、私が従ったのは、他でもないユージンの言葉だからよ。怪我をしたのがもし私達の他の誰かでも、ルキオール様でも、兄様だったとしても、私は大丈夫という言葉を信じずにあちらを優先したわ」


 フラールの言葉に、双子はシンクロして首を傾げる。


「それは、ユージンお兄ちゃんの身体が丈夫だってことですか?」

「そうじゃないわ。ただ……ユージンが大丈夫って言うのなら、大丈夫なのよ」


 その妙な信頼に、ユングとフラールは顔を見合わせて再び首を捻るのだった。


 ◆ ◆ ◆


 フラールが双子を治療している時、ディストラは悪魔の焼死体を慎重に観察していた。

 あれだけの攻撃の直撃を受けて生きていられるとは思えないが、悪魔という存在がどういう生物なのか良く分かっていない身としては、慎重になるにこしたことはない。黒焦げの状態から復活してこないとも限らないからだ。あるいは、死に際して道連れ用の魔法などを準備しているかもしれない。


 だが、炭のようになりブスブスと煙をあげるそれが、再び動き出そうとする気配は一切無かった。

 消火活動を終えたゾーイも近寄ってきて、それを観察する。


「これは、死んだの?」

「ん~、たぶん。よっぽどとんでもない生命力でもない限り、この状態からの復活はできないはずだにゃ~。悪魔の生命力は凄まじくて、心臓を破壊されても復活したって記録はあるけど、消し炭状態からはちょっとね」


「そう。……それにしても凄まじい魔法だったね。この世界の魔法使いはみんな、あんな魔法を使えるの?」

「みんなは無理~。ボクの知る限り、さっきのくらいの戦略級魔法を個人で使えるのは、ネアン帝国でも20人くらいじゃないかにゃ。その中でも、戦闘中に短時間で使えるとなると、ボクを含めて5人かな~。あとの人は、ガッチガチに護りを固められて陣地の奥で長時間準備すれば使える、てカンジかな。複数人での発動もできるけど、その場合は術式が面倒になってもっと時間がかかるね」


「へえ。ゾーイって意外とすごいんだね」

「そうだよっ!それなのにユージンと来たら……って、ユージンは大丈夫かにゃ」


 ディストラとゾーイは、悪魔の成の果てから離れてユージンの元に向かった。



「ユージン、大丈夫~?」

「大丈夫に、見えるか?」


 先程フラールに向かって大丈夫と言った口で、真逆の回答をするユージン。


「まあ、見えないね。じゃあ何でフラールを向こうに?」


 そう言いつつチラリとディストラが視線を遣った先で、フラールがユングの治療を始めている。


「あの2人も、立ち上がれない、程の、ダメージだった。もしかしたら、本人が、気付いていない、ほどのダメージで、内蔵や脳に、重大な傷が、あるかもしれない。だから、先に行かせた」


 苦しそうに言葉を区切りながら、ユージンが答える。


「ユージンも致命傷に見えるけど……一応回復魔法を使ってるんだね」


 悪魔の腕に貫かれたままの腹部に向かって、ユージンは魔法を行使し続けている。そして返答も面倒とばかりに息を吐いた。


「その腕は抜かないの?」

「フラールが、来てから、抜く」


 そう言ったユージンは、木にもたれ掛かって目を瞑り、今度こそ沈黙した。


 ◆ ◆ ◆


 双子の治療を終えたフラールが、ユージンに駆け寄り、魔法で傷の状況を確認する。


「……やっぱり。さすが、というべきかしらね」


 そしてそんなことを言いながら、悪魔の腕を抜く準備をする。

 治癒魔法による魔力の圧力で血が吹き出さないようにした上で、


「いくわよ?」

「ああ……。ぐっぅ!」


 フラールが勢い良く悪魔の腕をユージンの腹から引き抜き、同時に筋肉等の再生を急速に行う。

 引き抜かれた瞬間こそ苦しそうに声をあげたユージンだが、その後は目を瞑って肉体が再生される痛みと違和感に耐えている。


 その様子を見ながら、フレイヤがフラールに訊ねた。


「さすが、とはどういう意味ですか?」


 フラールが自分達を優先した理由を知りたいのだろう。

 フレイヤは、フラールと治療されるユージンを注意深く窺っていた。


「内臓にほとんどダメージがないのよ。もし内臓を突き破られていたら、短時間で大量に失血してショック死していたところよ。でも、ユージンのことだから、何か細工をして内臓へのダメージを無くしたんでしょう?」


 フラールの視線を受けて、ユージンが小さく答える。


「悪魔の拳のちょっとした誘導と、臓器を動かしただけだ」

「臓器を動かすって……ああ、それで内臓を支える筋肉が変に損傷してるのね。相変わらず無茶をするわ」


 ユージンとフラールの会話を聞いて、双子の顔に動揺が走った。2人には、ユージンが行ったことの無茶さが理解できたのだ。

 それに気付かず、ディストラがゾーイに訊ねる。


「それって難しいの?」

「う~ん、念動力で内臓を動かすってことだろうけど……。難しい以前にやりたくないよね。たぶんメチャクチャ痛いし。イメージとしては、生爪を自分で剥ぐ感じに近いかな……そしてミスったら内臓が傷ついてそのまま失血死っていうね」

「うわぁ……」


 呆れた様子のゾーイに対し、ディストラは若干引いている。


 ユージンの無茶に対してフラールとゾーイの反応が薄いのは、もちろんあの無茶な訓練を知っているからである。それこそ、訓練ではもっと酷い怪我を何度もしている。ユージンならそれくらいはやるだろうと納得しているのだ。

 ただ、さきほど実戦での大怪我を目にしたときには、さすがに肝が冷えたが。


 しかしそれをはじめて目の当たりにしたヴァン兄妹――特にフレイヤには刺激が強かったようだ。フラールが治癒を終え、ユージンが立ち上がるや否や、涙目でユージンの腹部を確認し、そのままキュッと抱きついたのだ。


「ユージンお兄ちゃん……怖かったです。もうこんな無茶はしないでください」


 腹部に抱きついた幼女の上目使いに、ユージンは一瞬、うっと口ごもるが、すぐに苦笑しつつも首を横に振る。


「それは約束できない」


 断られるとは思わなかったのか、フレイヤはぱちくりと目を瞬いた後に、頬を膨らませて抗議する。


「な、何でですか!?」


 ちっとも怖くない、むしろ可愛らしい少女の怒りに対して、ユージンはやや厳しい表情になり。


「俺達は今、魔王を倒すために旅をしているんだ。これくらいの危険や怪我は、当然今後も起こりうる。それを避けて通ることはできない。フレイヤも、ユングも、もう一度良く考えてみろ。今回、俺はこんな怪我をしてもなお、2人を守りきれなかった。そして、今後は必ず守りきれるなんて、とてもじゃないが言えない。今回は怪我ですんだが、それですまない事態になる可能性もある。俺達と共に旅をするとは、そういうことだ」


 視線を向けられたユングが、表情を固くした。


「その上で、それでも俺達と共に来るか?」


 ユージンの真剣な眼差しを受け、フレイヤはユージンの身体から手を離す。そして、ユージンと同じ真剣な表情で、


「行きます。そして、ユージンお兄ちゃんを守れるくらい、強くなります!」


 ユージン達が予想もしなかった決意を表明し、驚かせるのだった。


次の投稿は明後日の予定です。

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