第41話 ユージンの作戦
前話のあらすじ:
ユージンは大ダメージを受けた!
ユージン「悪魔と俺達は普通に会話できてるが、何語で会話してるんだ?」
ゾーイ「言語としてはいわば『悪魔語』みたいなもので、ボク達人間が使ってるどの言語とも違うよ」
フレイヤ「彼らは、人間と会話する時にはほぼ無意識に翻訳魔法を使っているようです。そのため、わたし達とも普通に会話が可能です」
ゾーイ「つまり、ユージンと同じような感じだにゃ」
フレイヤ「喋っている本人は自分の母国語で、聞いている側もその人の普段使う言語で聞こえるということですね」
ユージン「なるほど。地球にもそんな魔法があれば良いのに」
フラール「通訳が廃業するわね」
悪魔の右腕が、肉を引き裂く音を周囲に撒き散らしながら、ユージンの腹部を貫通した。
完全に悪魔の狙い通りだった。
だから、悪魔は気付かなかった。腹を貫かれた少年が、その口許に笑みを浮かべていたことに。
◆ ◆ ◆
少し時間は遡り、悪魔がギルバートを話をしている時。
ユージンは、立ち位置を変えつつディストラとゾーイを視線で呼び、2人に小声で話しかけた。
「相手の魔力量や体力が分からない以上、持久戦になると不利になる可能性が高い。こっちにはお荷物もいることだし」
ユージンが、ちらりとケビンに視線を遣った。
「だから、次で何とか決めたい」
「何か作戦が?」
ディストラの質問に、ユージンが肩を竦める。
「作戦なんて大したもんじゃない。ただ、俺が何としてでも奴の動きを止める。その瞬間に、ディストラが一撃与えてほしい。仕留められそうなら仕留めてくれ。無理でも、相手の余裕を奪うくらいのダメージは与えたい」
控え目に言いつつも、要するに防御無視で何とか一撃決めろということである。下手をすれば反撃を食らってそのままあの世行きだ。
それを察したディストラは、顔を引き締めつつ、首肯する。
「……分かった」
「ボクは?」
「ゾーイはその間、魔法を準備してくれ。対個人用で最高の攻撃力を持つ魔法を」
一撃で悪魔を葬り去る魔法を。
ユージンの言葉に込められた意図を理解し、ゾーイは難しい顔をする。
「え~っと、それなりに時間かかるよ?10秒くらい」
「もっと短く」
「鬼!」
「ゾーイならできる俺はシンジテル」
「棒読み!っていうか、あの悪魔のスピードだと避けられる可能性が高いケド」
「そこはまあ……何とかする」
ユージンのふわっとした回答に、ゾーイが胡乱な視線を投げる。が、すぐに苦笑して、
「ま、決め手がないのは確かだし~。やりますかにゃ~」
◆ ◆ ◆
そんな会話をしたからか。
ディストラとゾーイは、目の前の光景に呆然としてしまっていた。
ユージンが悪魔に腹を貫かれた光景に。
◆ ◆ ◆
「ユージンっ!」
真っ先に反応したのは、意外にもフラールだった。
旅に出てからこっち、何だかんだでユージンはこれまで大怪我もせずに来たというのに、これは明らかに致命傷である。すぐに回復しなければ、死んでしまう。
ユージンが、死んでしまう!
そんな思いから、顔を真っ青にしたフラールが、ユージンに向かって駆け出す。が、動揺のあまり足を縺れさせてしまってたたらを踏む。
「ユージン兄ちゃん!」「ユージンお兄ちゃん!」
そして、悪魔の魔法を受けて吹き飛ばされ、地面に転がっていた双子も起き上がろうとする。が、当人たちの想像以上に身体が受けたダメージが大きく、呻いただけで起き上がることはできなかった。
「ユージン……」
悪魔とユージンに最も近いところに居るディストラとゾーイは、このまま戦うべきか、ユージンを救出して退くべきか、内心の葛藤のため動けないでいる。
そして、ライリーだけは冷静にフラールの移動に合わせて彼女の前で構えを崩さない。
一行が次の行動に移りかねていた時。
「ゾーイ!」
ユージンが叫んだ。
それが聞こえた瞬間、弾かれたようにゾーイは口を動かし始めた。そしてディストラも動き出す――。
◆ ◆ ◆
悪魔は、勝利を確信していた。
敵対する人間どものキーマンとなる少年は、もはや戦闘不能。この少年さえいなければ、人間どもの連携など恐れる必要もない。
青髪の少女がやぶれかぶれで強力な魔法を行使しようとしているが、そんな暇は与えない。仮に発動できたとしても、余裕で避ける自信がある。
風魔法で吹き飛ばした翠髪の子供2人は、あれしきでもう動けないようだ。
金髪の少女はそもそも脅威になり得ないし、彼女が居る限りその護衛も動けまい。
そして――、銀髪の少年が背後から斬りかかってくるのも、見え見えである。
悪魔は、軽く地を蹴るだけで、その斬撃をかわそうとし――、そして、右腕の肘から先を失った。
何のことはない、動こうとした方向と逆方向に右腕を引っ張られただけだ。だがそれだけで、悪魔が余裕をもって避けようとした斬撃が右腕を綺麗に切断したのだ。
「ぐぅっ!がっ!き、貴様ああぁぁ!」
悪魔の怒りの視線が、腕を落とした銀髪の少年、ではなく、未だ腹を腕に貫かれたままの黒髪の少年に向かった。黒髪の少年は、ガクリと膝を落とし、痛みに顔を歪めながらも、口の端を上げて見せる。
瀕死の重傷を負いながらも、渾身の力で足を踏ん張って悪魔の行動を阻害した少年に、怒りのままに止めを刺さんと左拳を握りしめた悪魔だったが、その前に銀髪の少年が立ちはだかる。
それに悪魔は舌打ちをしつつも、少し冷静さを取り戻した。
失った右腕は、魔法が得意な悪魔ならば回復も可能である。が、今すぐに回復するのは不可能だ。
自身の戦闘力は大きく低下した。しかし、それは敵も同様である。いや、むしろ敵の人間どもの被害の方が大きいだろう。
何せ、連携の要となる少年は、最後の力を振り絞って自分の右腕を奪ったものの、瀕死の重傷だ。もはや戦力外。
そして、翠髪の子供2人も動けない。金髪少女と護衛も、戦力外だ。
つまり、まともに戦えるのは銀髪の少年剣士と青髪の魔法士のみ。
前衛が1人であれば、抜いて魔法士のところまで行くのは容易い。接近して青髪の少女を殺し、その後ゆっくりと銀髪の剣士を魔法で料理する。何の問題もない。
そう考えた悪魔は、以前魔王の仲間に教えられた言葉を忘れていた。
『想定外の事態に陥ったときは、まず退却すること。冷静になったつもりでも、それは所詮つもりに過ぎない』
これまで窮地に陥ったことのない悪魔には、この言葉は全く響かなかった。
そして、想定外の今現在。
悪魔は、青髪の少女の魔法の発動を阻止するのは時間が足りないと判断し、ひとまずこの魔法をやり過ごしてから反撃だ、と考え、銀髪の少年から距離をとり――、『壁』にぶつかった。
悪魔の空間把握能力は、人間よりも数段優れている。
激しい戦闘中であっても、自分が今どこに立っており、周囲がどんな地形であるかを見失うことはまずない。
それゆえ、そこにあるはずのない『壁』に驚き、それが前方以外――左右と後方、上方まで自分を囲っていることに気付いて青ざめた。
魔法による『壁』により逃げ道を防ぎ、正面から強力な魔法を浴びせる、という作戦。逃げ道は前方しかなく、前へ回り込んでから回避しようとすれば、間に合うかギリギリである。
まずい、と思った悪魔は、しかしすぐにそれに気付いた。
自分を囲っている魔法はなんと下級魔法である。こんなもの、拳一つで簡単に破壊することができる。
ホッと息を吐いた悪魔は、落ち着いて考える。
それはそうだ。敵のうち、まともに動ける魔法士は青髪の少女だけなのだ。そしてその少女は、今まさに強力な攻撃魔法を放たんとしている。魔法の『壁』を作る余裕などはない。
では誰が――と悪魔が周囲を見渡し、そこにゼイゼイと苦しげに呼吸をしながらも、左手をこちらに向けて魔法を制御する黒髪の少年を見つけた。
「(その気概だけは称賛しましょう)」
悪魔は、自分にとって然程の障害にもならない『壁』を必死に維持する少年に、そしてすぐにそれが無駄になる事を思い、憐憫と嗜虐という相反する感情を抱えつつ、左拳を『壁』に叩き付けた。
◆ ◆ ◆
下級魔法による『壁』は、地球で例えると、普通のコンクリートブロックをモルタルで積み重ねた程度の物理防御力を持つ。当然、普通の人間の腕力で殴って壊すことなど不可能である。
しかし、悪魔の腕力を地球で例えると、高速道路を走る乗用車の運動エネルギー程度はある。乗用車が高速でコンクリートブロックに突っ込めば、普通は壁は崩れ落ちる。
したがって、当然のように、悪魔の周囲の『壁』の魔法は――砕けなかった。
「なっ!?」
ありえない。下級魔法程度に、自分の拳が通らないなど、そんなことがありえるはずがない。
驚愕と屈辱と焦りが、悪魔の思考を埋め尽くす。
二度、三度と壁を殴り、ようやくヒビが入ったと思ったら、すぐに修復されてしまう。
それが『魔力ブースト』によるものだと、悪魔が知る由もない。
「どっ、どういうことだっ!?」
悪魔はそこで振り返って黒髪の少年を見ようとして――光に包まれた。
次の投稿は明後日の予定です。




