第38話 悪魔出現
前話のあらすじ:
交易品を探しに来たユージン達の前に、何者かが現れた!
ディストラ「何者か、って……」
ユージン「出オチ、とはちょっと違うか?でもそこを伏せる意味は皆無だな」
フラール「サブタイトルでバレてるし、本文冒頭で言っちゃってるわね」
ユージン「という事で、本編へどうぞ」
「おやおや。何かと思ったら人間共がこんなに」
何が起きているのかと戸惑う一行の前に、「それ」が現れた。
2.5メートル程の身長は、人間からすれば規格外のサイズではあるものの、引き締まった体躯は、人間のそれと大差ない。
だが、一見して人間と異なる点がいくつか。
黒々とした皮膚の色と、米神から生えた1対の角。
加えて、悪魔の証である深紅の瞳。
ユージンが初めて対面した悪魔は、何の前触れもなく現れた。
その事実を、ユージン含め一行のほとんどは正確に理解することができなかった。
唯一、現在の危機的状況を認識していたライリーが、フラールの前に陣取りながら叫ぶ。
「ユージン、ゾーイ!戦闘準備だ!」
ユージン達がハッと意識を切り替えるのと同時に、悪魔がポツリと呟く。
「これだけ数が居ると、魔法の方がいいですかね。苦手なのですが」
その言葉を聞き終わらぬ内に、ユージンが『セブン・フォース』を抜きつつ悪魔から距離を取り、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「ゾーイ、フレイヤ!対魔防壁!ユングとディストラはその後ろに退避!あんたは離れてろ!」
最後にケビンに向かって叫び、ユージンはゾーイとフレイヤの間に立って、自身も前方に『万能の盾』を展開する。
そんなユージン達を見るともなしに、悪魔は呪文を唱え始めた。
「ほのおよほのお もえろよもえろ 力なき者を 消し炭にしろ」
次の瞬間、悪魔の掌からユージン達を燃やし尽くして余りある規模の炎が噴出し、襲いかかってきた。
それは、一番外側のフレイヤの防壁を数秒で破壊し、ゾーイの防壁を拮抗の末に貫通し――、最後のユージンが斜めに展開した盾にぶつかって上方へと逸れた。
「うっそ~。中級魔法クラスの防壁があの程度の詠唱の魔法に破られるなんて。錬度は全然だけど、魔力はめちゃくちゃあるよ、あの悪魔」
ゾーイが、自らの防壁が破られたことにショックを受けつつ、相手の戦力を分析する。
「つーか、呪文が無かった気がするんだが」
先程の悪魔の詠唱を思い出しつつユージンが言った。それにゾーイが答える。
「悪魔の使う魔法は、ボク達とは違うらしいんだよね。詠唱自体が呪文として効力を発揮するらしくて、要するに一言でも小さい魔法を発動できるし、長々と詠唱すれば強力な魔法を行使できる。そこに定型的な詠唱や呪文はないんだにゃ~」
「反則くせえ」
「でもその分、効率は悪いはずなんだけどね。その悪い効率であの威力だから、恐ろしいほどの魔力だよ」
ユージンとゾーイが相手の戦力に戦いているとき、相手もやや驚いた顔をしていた。
「私の魔法を防ぎきるとは……。ただの人間ではないようですね。面倒ですが、1匹ずつ殺していく他ないようです」
言うや否や、正面にいるユージンに向かって急接近した。
ユージンはそれに怯まず敵を見据え、1歩前進する。
「ゾーイとフレイヤは下がれ!ディストラは援護を頼む!」
叫んだ次の瞬間には、悪魔は手の届く位置に居た。
小手始めとばかりにユージンが剣を左から横に薙ぐと、悪魔は右手の掌でそれを防ぐ。
ガキン!という、まるで鉄に当たったかのような感触にユージンは眉をしかめる。が、相手は待ったなしで、勢いのまま左拳をユージンの顔面目掛けて降り下ろしてきた。
ユージンはそれをしっかりと見て、ぎりぎりで身を後ろに引いて避けたが、ブオン、という空振りの音は正に豪腕と呼ぶに相応しい。
「(当たったら一撃でスイカ割り状態だな、こりゃ)」
敵の腕力と硬度から推測される衝撃に、ユージンの背中を嫌な汗が伝う。
頭部に食らえば即死だろう。いくらフラールの回復魔法が優れていても、死者を蘇らせることはできない。
一瞬の油断が命取りになる。
「(だが、魔王を倒そうという俺達が、その配下である悪魔相手に退くわけにはいかないな)」
ユージンがその心意気で悪魔を睨み付ける。
敵はそれを意外そうな顔で見下し――、背後からのディストラの斬撃に気付いて身を翻した。
「くっ!接近戦にも慣れてるみたいだね」
奇襲を避けられたディストラは、体勢を立て直してユージンの隣に並んだ。
「むしろそっちが得意そうな感じだな」
そういえば、最初に魔法は苦手と呟いていた気がする、と思い出しながらユージンが評した。
それを聞いて、ディストラが敵を警戒しつつユージンに、どうする?と視線を向けてくる。
ユージンはこの数十秒の戦いから、敵の戦闘力を分析する。
魔法攻撃は、苦手と言いつつ、かなりの破壊力。物理攻撃も、まともに食らえば一撃で戦闘不能になるだろう。
防御については魔法物理ともにまだ不明だが、少なくとも手首より先は鋼鉄のように硬く、剣で有効なダメージは与えられそうにない。そして身体能力はかなりのもの。
となると。
「ゾーイ!ユング!速度重視の攻撃魔法!フレイヤとフラールは防御魔法の準備!後の指示はライリー、任せる!……俺達は、とりあえず壁だ。あれに当たるなよ?」
最後に隣のディストラにそう言って、ユージンは背後から放たれた雷撃に悪魔がどう対応するかを観察する。
悪魔は、正確に自分を狙ってくるゾーイの雷魔法に一瞬だけ嫌そうな表情をしたが、雷が到達する直前に、横に跳躍して軽く避けた。
「(避けるということは、多少なりともダメージはあるということか)」
ユージンがそう考察する間にも、氷の槍やら土の槍やらが悪魔に殺到する。それなりに植生のある山なので、周囲への被害を考え炎系統は使っていないようだ。
悪魔は自分を狙う槍を避けるか、あるいは拳で砕いて難なく処理していくが、さすがに苛ついてはいるようだ。
間断無く魔法を放つ少女と少年を睨み。
「面倒ですね。先に魔法士から処理しますか……塵を払え 空気の波動」
そう言いながら悪魔が手を振るうと、衝撃波が生じてゾーイとユングの魔法を一時的に吹き飛ばした。
その空いた隙間に、悪魔が地を蹴り2人へと迫る――。
「行かすかよ!」
ユージンが悪魔の正面に陣取り、悪魔に斬りかかった。
悪魔は今度はそれを受け止めずに、避けた。そして大降り後の隙だらけのユージンを先に始末するか、と考えそうになったが、背後に気配を感じて横っ飛びに避ける。
「勘は良いな!」
先程と同じように避けられたディストラだったが、役目は果たした。
ユージンに悪魔が肉薄していたために攻撃を中断していたゾーイとユングが、魔法を再開する。
「槍とかの物理系の攻撃魔法はあまり効果がなさそうだから、搦め手で行こうかにゃ~。ユング、風系で攻撃よろ~。ボクは足場を狙うよ」
ゾーイの指示通りにユングが放った風の刃が、悪魔に迫る。
常人にはほとんど視認できないそれを、しかし悪魔は把握できているようだった。
最初に到達した1刃を最小限の動きで避け、続く刃も躱そうとしたところで。
「ぬっ!?」
突然崩れた足場に体勢を崩し、悪魔の注意が風刃から逸れた。
それは僅かな時間で、悪魔はすぐさま退避して体勢を整えたが、それで十分だ。
ユングの風の刃はもう悪魔の目の前で、避けることは不可能だった。
「くっ!」
それでも何とか被害を抑えようと悪魔は身体を捻り、同時にいくつかの刃を手で撃ち落としたが、風の刃は悪魔の身体に傷をつけることに成功していた。
そのいずれもが浅い傷ではあったが、胸や二の腕、太腿などに赤い線が生まれ、そこから僅かに血が流れだしていた。
「(手以外の場所の防御力は大したことないようだ。ならば勝機は十分あるな。だが……)」
ユージンは、そう判断して作戦を考える。
ゾーイとユングは、有効だった風の刃と足場崩しの連携を続けている。だが悪魔も学習したようで、特に足場崩しには苛立っているようだが、最早有効なダメージは与えられていない。
「(遠距離からの魔法攻撃は、不意を突けば当たるものの、相当の手数でも避けられる。近接戦闘も、俺とディストラの2人掛かりでもすぐには仕留められない。逆に俺達が抜かれれば、ゾーイ達が危険だ。いざとなればゾーイに逃げ場のない広域魔法を使ってもらうか?だが、こちらが巻き込まれない距離まで離れてくれるとは思えない。このまま少しずつ削って行くのが良いか……)」
ユージンがそう考えていると、悪魔の苛立ちがピークに達したようだ。
「ええい!邪魔だ! 風よ!」
再び先程と同じように悪魔の前方に衝撃波が生じ、ユングの魔法を打ち消した。
「人間共の魔法など、どんなに大人数で連携していても、障害にすらならないと思っていましたが……。それはこれまでの人間共が弱かっただけで、お前達はやはり一味違うようですねぇ」
悪魔の言葉に、ユージンは少し引っかかって訊ねる。
「これまでの人間?」
「ええ。私の身体は少々燃費が悪くてね。他の生物――人間や獣魔の魔珠を定期的に得ないと、能力が著しく落ちるのですよ」
それを聞いて、ユージンは村で聞いた二つの話が一つに繋がった気がした。
ここ半年ほどで居なくなった裏山の獣魔。
最近定期的に北の街に現れては人を殺していく悪魔。
実はどちらも同じ行動の結果だったのだ。
「つまりお前が、最近北の街で人間を殺して回っている悪魔ってことだな?」
「そういう事になりますねぇ」
悪魔は、全く悪びれなく答えた。まあ、反省していると言われても反応に困るが。
それにしても、獣魔が減った理由がまさかこんな原因だったとは、予想だにしなかった。これでは、他の場所に適用などできるはずもない。
とんだ無駄骨である。――いや、人間を殺めている悪魔と出会い、それを止めることができれば、無駄ではないか。
だがその前に、敵である悪魔という存在の情報を少しでも得た方が良い。
そう考えたユージンは、素朴な疑問を口にする。
「なぜ、近くの村ではなくわざわざ遠くの街を狙う?」
北の街に現れるという悪魔の存在と、裏山の獣魔の減少を結び付けられなかったのは、通常悪魔は獣魔を減らすのではなく増やすという固定概念もあったが、最寄りの村に悪魔による被害や出没情報が全く無かったからだ。
ユージンの質問に、悪魔は誇らし気に答えた。
「先人の知恵、ってヤツですかね。拠点の近くの街を襲えば、いずれ所在が人間共にバレて面倒なことになる。だから、襲うのは拠点から少し離れた場所の方が良い。このように仲間からアドバイスされましてね。ここには愚かな人間が作ったちょうど良い隠れ家があったので、利用していたのですよ」
「仲間……。つまりお前も、魔王の手下というわけか」
悪魔に仲間がいるとなれば、それはすなわち魔王一派と考えて、ユージンが言った。
それに対して、悪魔が不機嫌そうに答える。
「手下になったつもりはありませんねぇ。必要とあらば協力はしますがね。彼らからもたらされる情報は有用なものが多い。先も言ったような人間共の習性から、戦術面までね。例えば――」
悪魔はそこで言葉を区切り、ニヤリと笑う。そして、何事か小さく呟き、
「まず弱い所から崩せ、とね!」
宙に出現させた氷の槍を、目にも止まらぬ速さで投擲した。
「っ!」
一瞬焦ってフラールに視線を遣ったユージンだが、彼女の前には既にライリーが陣取っており、彼女自身も魔法の盾をしっかりと張っていた。
そして何より、
「どこを狙って――」
氷の槍の狙いは、フラールからは大きく外れていた。
が、その先にあるものを把握したとき、今度こそユージンは息を飲んだ。
「しまった!逃げろケビン!」
槍の先には、遠くから戦いを観察していた青年の姿があった。
次の投稿は明後日の予定です。




