第37話 交易品の隠し場所へ
前話のあらすじ:
ユージン達は、ケビンを連れて交易品の隠し場所に向かった!
ディストラ「小さな村でも、色々あるよねえ」
ユージン「むしろ小さな村ほど、人と人との柵は多いだろうよ」
フラール「でも、大きな街になると、それはそれで暗い部分が大きくなる気がするわ」
ユージン「おっと、大切に育てられたお姫様とは思えぬ発言」
フラール「私だって脳内お花畑じゃあないつもりよ」
ユージン「こりゃ失礼。でもどこからそんな情報を?」
フラール「主にルキオール様ね。今にして思えば、私への教育の一環だったんでしょうね」
ユージン「兄の思いやり、か」
「さてと。じゃあまずはその隠し場所を吐いてもらおうか」
ユージンは、裏山の入り口に立って、ケビンに訊ねた。
しかしケビンはユージンをギロリと見下し、口を開こうとはしない。
「あれ?ゾーイ、まだ魔法かかってる?」
ユージンは、想定内と思いつつ、ゾーイに軽く訊ねた。
ゾーイは首を横に振る。
「ううん、コノヒトが殴られる前に完全に解除したよ~」
「っ!やっぱり貴様らの仕業だったのかっ!」
その会話でケビンは、先程ゴートが告白をする間、全く身動きも発言も出来ずに、彼を制止できなかった理由を確信した。
そして怒りのままにユージンに殴りかかろうとして、一瞬でユージンに取り押さえられた。
「ま、そう熱くなるなよ。自業自得だろ」
「でもその様子だと、おとなしく場所を教えてくれる気はなさそうだね」
ディストラが残念そうに言い、フラールも頷く。
「そうね。ユージン、何で彼を連れてきたの?自白してくれた彼の方が良かったんじゃない?」
「ん?ああ、まあ隠し場所を探すのはそうだけど、このケビンを村に置いておくと色々と混ぜっ返される可能性があったからな。今、村では、ケビンがいないことで、残った2人は大人しく村人に洗いざらい罪状を喋ってるだろうさ」
「貴様っ!」
ケビンはユージンの言葉を聞いて、ユージンの拘束から逃れようと抵抗したが、無駄に終わった。
「場所については、とりあえず探知魔法でなんとかなるかなと思って。やってみるよ」
片手でケビンの抵抗を抑えつつ、ユージンはまず索敵魔法を裏山に向かって行使した。
そして返ってきた反応に目を見開く。
「っ!?」
ユージンの気が逸れたことで、ケビンは拘束を逃れたが、走り出そうとする前にディストラが進路を阻んだことで、ようやく村に戻ることは諦めたようであった。
一方、妙な反応をしたユージンをゾーイが訝る。
「どしたの、ユージン?」
「……いや、ちょっと待て」
ユージンはそう言って、もう一度索敵魔法を行使する。
その結果、山の中腹辺りに人間らしき反応が一つと、それより麓に近い位置で、反応があやふやな場所が存在した。
ユージンは難しい顔のまま、ゾーイにも索敵魔法を使うよう促し、ユージンと同じ結果を得たことに頷いた。
「たぶん~、この、反応が曖昧な地点が、例の偽装魔法なんだろうね~」
「そうだろうな。そして、中腹にいる人間がギルバートだろう」
ユージンがゾーイに同意しながらケビンの反応を伺うと、彼は悔しそうに歯軋りをしていた。
どうやら間違いないようだ。
「じゃ、とりあえず隠し場所に向かうか。獣の類いは居るようだけど、確かに獣魔はいないらしい。道が崩れているところは、ゾーイ、頼めるか」
「りょ~か~い」
ユージンの定めた方針にゾーイが賛同した。
とそこへ、フレイヤが口を挟む。
「あの、ユージンお兄ちゃん。その役目、わたし達にさせてもらえますか?」
「ん?何でだ?」
「ここ数日、お兄ちゃんと基礎魔法の訓練を続けてきました。それで、魔力の扱いもうまくなってきたと思うんです」
「それをここで披露しようって訳だな!よし、兄ちゃん、俺とフレイヤに任せろ!」
自信満々のユングと、控え目だが真っ直ぐな視線を向けてくるフレイヤ。ユージンは一瞬考えたが、特に拒否する理由もないので、ニッと笑う。
「分かった。頼りにしてるぜ」
◆ ◆ ◆
先頭をヴァン兄妹とディストラに任せたユージンは、周囲を観察しながら山道を歩く。
そんなユージンにフラールが質問する。
「結局、さっきの反応はなんだったの?」
「さっきの反応?」
「索敵魔法を使った後よ。ケビンを取り逃がすほど動揺していたじゃない」
「ああ、あれね……。いや、気のせいだと思うんだが、一瞬だけ山頂付近に強力な魔力反応があった気がしたから驚いたんだよ。まあ、その後何度やっても反応はないし、精度の高いゾーイがやっても何もないんだから、最初魔法を使うときに何かミスったんだと思う」
ユージンが肩を竦めてそう正直に言うと、フラールはやや不安そうな顔になる。
「それ、強力な魔獣が潜んでるかもしれないってことじゃないの?」
「ゾーイの索敵を誤魔化せる程の獣魔がもしいるのなら、可能性はなくはないけど……どうなんだ、ゾーイ?」
2人の前を歩いていたゾーイが、顔半分振り返って答える。
「う~ん、ボクの索敵から逃れるとなると、ルキオール様でも難しいと思うんだよね。自らの魔力を完全に抑える必要があるわけで、でも保有する魔力が大きければ大きいほど、隠すにはそれに匹敵するだけの魔法を使わないといけないからね。どっちにしても索敵魔法に引っ掛かると思うよ」
ゾーイの言葉に、フラールは溜飲を下げる。が、ゾーイは言葉を続ける。
「ま~、ボクの知らない魔法が無いとも限らないけど~。今回のこの光学偽装魔法?は、魔法の発生を隠蔽するタイプみたいだけど、理論か制御が完璧じゃなくて魔力の揺らぎが観測できるから発見は簡単だったね。でも、もし似たタイプの完璧な隠蔽魔法があったら分からないかも。とはいえ、どっちにしても高度な魔法になるから、獣魔には無理だろうね~」
なら、まあ大丈夫か。とフラールが判断した時に、思いがけないところから質問が来た。
「……あんたら、何者だ?この国の軍人じゃないのか?」
ゾーイの少し前を歩かされているケビンだ。
彼は特に物理的に拘束はされていないが、ゾーイが速度制御の魔法を仕込んでおり、ゾーイが魔力を込めると即座に止まらざるを得ないようにしていた。
そういうわけで、ユージン達の会話が聞こえていたケビンは、その内容から違和感を受けていたのだ。
昨晩、ゴートが大丈夫だと太鼓判を押した偽装魔法はあっさり見破られる上、ネアン帝国の魔法士ルキオールを知っているような発言。それに一行を率いているのは官吏とおぼしき少女かと思いきや、傭兵を自称した少年のようであり、特殊兵と予想していた子供2人はその少年を兄と呼ぶ。
ケビンが予測した立場とはどうも異なる気がしてならない。そのくせ、自分達の罪を暴き拘束するなど、行っていることは正に軍や警察のものだ。
一体何者なのか。ケビンが疑問に思うのも当然であった。
しかしそのリーダーたる少年は、不敵に笑う。
「さあ?今その質問に答える気はないな。それよりあんたは今後の身の振り方を考えた方が良いんじゃないか?一応言っておくが俺達はあんたをどうこうする気はない。全ては村人の判断に任せるつもりだ」
ユージンの言葉に、そんなこと言っていいの?とフラールが耳打ちしてくるが、ユージンは、実際何かしたら国際問題になるんじゃないのか?と聞き返し、それもそうね、とフラールは納得する。
一方のケビンは、ユージンの言葉を聞き、思うところはあるものの確かに今はそっちが先決だ、と、この後村に帰った後の事を考え出した。
この少年の言葉を信じるなら、彼らに連行され、国の機関から断罪されるようなことはないようだ。一方で村人からの断罪は避けようがないだろうが――、それだけならまだなんとかなるかもしれない。
そう、最善となる手を考えよう。
黙り込んだケビンを見て、フラールは再びユージンに耳打ちする。
「ねえ、あんまり反省してないように見えるんだけど」
「そうみたいだな」
「良いの?彼、口は上手いみたいだから、村人が丸め込まれるかもしれないわ」
「その可能性はあるけど、正直そこまで俺達が面倒見る必要はないし、面倒見るべきでもないだろ。元々これはこの村の問題だ。俺達は、隠されていた交易品を村に返し、隠していたのはケビン達だという事実を伝えて、それで終わりにすべきだ」
「それは……そうね」
王族として、民の進むべき道を指し示すべきとは思うが、そもそもここは自国ではないことを再度認識するフラール。
自分には、口を出す責任もないし、権利もないのだ。そう結論付け、釈然としないもののなんとか自分を納得させる。
その様子を最後尾から眺めていたライリーは、特に意見することもなく、周囲とケビンを警戒していた。
◆ ◆ ◆
それから30分程、一行は山道を登っていた。
山に入ってからしばらくは、ケビン達が施した土砂崩れが散見されたが、途中からはほとんど何の問題もない綺麗な山道であった。
土砂崩れについても、ヴァン兄妹が「念動力」系の魔法であっさりと道の脇に土砂を移動させ、数分と経たずして通れるようになり、昨晩苦労して道を塞いだケビンを愕然とさせた。
そうして、大して苦労なく一行は目的の地点に辿り着いた。
「ここか。途中は手抜きだったが、一応最後はきちんとやったらしいな。いや、順番的には一番最初か?」
ユージンは、これまでで最も大規模な土砂崩れを目の当たりにして、チラリとケビンに視線を遣った。
目を向けられたケビンは、フン、と鼻を鳴らして視線を逸らす。
「ま、だからといって手間はさほど変わらないんだけどね~」
ゾーイがそう言いながら、ヴァン兄妹と共に土砂を退かしていく。
数分後には、あっさりと周囲は整えられた。
「さて、問題の場所は、あれか……」
ユージンは、道の脇に鎮座する巨大な岩を見上げた。
大きさとしては乗用車を2台重ねたくらいで、特に変わった点は見られない。
実際、目の前にしてもフラールやディストラ達にはただの岩にしか見えなかった。
だが、ユージンとゾーイは違和感を覚える。
いや、正確には、2人にとっても目視ではただの岩にしか見えない。ただ、索敵魔法を使うと、目の前の岩が「あるのかないのか分からない」という状況になるのだ。
ユージンが手の届く範囲をペタペタと触ってみるが、感触もただの岩に他ならない。
おそらく、このどこかに入り口がある筈だが、視覚で認識できないとなると、やはり少し面倒である。
「ゾーイ、魔法の解除はできないか?」
「ん~、どうかな~。こういう一子相伝系の特殊魔法はその家系じゃないと普通解除できないんだよね~。ま、力業っていうのはあるケド☆」
そう言ってゾーイはユージンを下がらせて両手を岩に掲げ、呪文を唱えようとして、
「あれ、そういえば、ユージンの剣は?」
視線をユージンの腰に向けた。
「あ、そういえば」
目を向けられたユージンは、ポン、と手を打って、左腰に提げる魔剣『セブン・フォース』を抜いた。
そしてゾーイに替わって大岩の前に立ち、ゆっくりとその上部を剣でなぞっていった。
一同が注視する中、剣先が岩の中央部に至った時、パキン、と空気が割れるような音が周囲に響いた。
見ると、大岩上部の大半が無くなっており、そこからぽっかりと洞窟の入り口が口を開けていた。
「なるほど。手が届くくらいの範囲は元々岩で、その上に洞窟を作り、そこも岩と同化しているかのように見せることでカモフラージュしていたのか。だから、道から普通に触った範囲では入り口の存在がバレないと」
ユージンが感心したように頷きながら剣を鞘に戻す。
そこにフラールが突っ込む。
「なに悪知恵に感心してるのよ」
「悪知恵でも知恵だ。手段に罪はない。目的が不純なだけで」
「尤もらしいことを。それは詭弁よ」
「いや真理だ」
「なに2人で不毛な言い争いをしてるの。さっさと中を調べよう」
睨み合うユージンとフラールをディストラが諌めた。
「そうだな。ま、とりあえず索敵――っ!?おいゾーイ!」
軽い感じで索敵魔法を使ったユージンの顔が青ざめた。そして慌ててゾーイを呼ぶ。
その様子に首を傾げつつも索敵魔法を使ったゾーイが、目を見開いて表情を固くする。
「え?――ユージン!これ――」
「おやおや。何かと思ったら人間共がこんなに」
そして何が起きているのかと戸惑う一行の前に、「それ」が現れた。
次の投稿は明後日の予定です。




