第36話 小さな村の大きなジジョウ③
前話のあらすじ:
ユージン達は、気の弱そうな青年を自白に追い込んだ!
フラール「青年Aって、さすがに可哀想じゃないかしら……」
ユージン「仕方ない。彼にはほぼ役割はないから」
ディストラ「それならゴートも同じでは」
ユージン「彼は、名前がないと話を進めづらかった。そして、この村では名前を5人までしか設定できなかった」
フラール「どうして?」
ユージン「カギョウ(か行)村だから……」
ディストラ「ヒドイ」
青年ゴートの話では、1年前の事件の日、カールとケビン達3人は隣町に向かうために、交易品を積んだ馬車と共に裏山の道を進んでいた。
カールは昔から実直な人間で、それ故村の内外から信頼を集めていた。しかし上昇思考の強いケビンとは馬が合わず、度々衝突することもあった。
ただし、その背景に、カールの息子であるギルバートと、ケビンが思いを寄せているクリスとの仲が良い事が少なからずあるのは周知の事実であった。が、プライドの高いケビンにそれを正面から指摘する人間は居なかった。
だが、あの日。
いつものように隣町との交易のやり方で口論になったカールとケビンだったが、徐々にヒートアップし、ついには頭に血が上ったカールが言い捨てる。
「お前がそんな考えだから、クリスの好意は倅に向かうんだよ!」
クリスとギルバートは今のところ別に恋仲ではない。が、クリスの恋心が誰に向いているのかは、ケビンのそれと同様に村人にとっては周知の事実であった。
その言葉にカッとなったケビンは思わずカールの胸を突き飛ばした。
元から足場が悪い上に、前日の雨で滑りやすくなった山道を歩いていた一行である。突き飛ばされた勢いで後方にたたらを踏んだカールは、
「うおっ!?」
不安定な足場を踏み外し、転倒。
さらに勢いは止まらず、急勾配な坂を転げ落ちていった。
「あ……カ、カール……」
さすがにケビンも顔か青ざめるが、もはや後の祭り。
カールの姿はみるみる間に小さくなる。
「お、おい、まずいぞ。この先は沢に繋がる絶壁だ」
ゴートが立ちすくんだまま、どうする、と隣の2人を見る。だが2人も何も行動はとれず。
ついに地面の端から下に消えたカールの姿を目で追うことしかできなかった。
その後、沢を見下ろせる位置から周辺を見渡した3人は、下流の河川敷でピクリとも動かないカールらしき姿を発見した。
だが、沢は崖下を流れている上、現在は雨のせいで増水しているため、近付く事は不可能に近い。加えて、あの高さから落下して生きているとも思えなかった。
「ど、どうする?」
ゴートの不安そうな声に、ケビンは黙ったまま。
もう1人の青年が、ケビンをフォローするつもりで口を開く。
「ま、まあ、わざとって訳じゃないし、事故ってことにするしか……」
「いや」
だが、カールは青年の言葉を否定した。
彼は別の事を考えていた。
カールを殺すつもりはなかったが、これはちょうど良い機会ではないかと。
村を、そして自分を成長させるためには、カールのぬるいやり方ではダメなのだ。昔からそう思っていた。
だが、信頼されているカールのやり方を変える程の力をケビンはまだ持っていない。
それならば、カールの信用を落とせばいい。その上で、自分のやり方を主張し、実績を上げるのだ。
ケビンは、震える手を無理矢理抑えながら、暗い笑みを浮かべるのだった。
◆ ◆ ◆
ケビンの作戦は概ねうまくいった。
最初こそ、まさかカールが交易品を持ち逃げするはずがないと感じていた村人も、沢でカールの死体と馬車の残骸が見つかると、ケビンの主張に説得力があるように感じていった。
そして、それが事実のように広まったのだ。
もちろん、息子のギルバートは父親を信じ、村人にそんなことがあるはずないと言い続けた。
これはただの事故だと。
そこでケビンは一計を案じる。
カールも邪魔だったが、ギルバートの方が邪魔なのだ。
ギルバートを村人から孤立させるために、それならばカールが持ち逃げしたはずの交易品を見つけてこい、と言い放ったのだ。父親の失敗を息子が挽回しろと。
持ち逃げにせよ、事故にせよ、カールのせいで村の半年間の稼ぎである交易品を失ったと信じている村人は、ケビンに同調した。
怒りと失望を息子にぶつけることに躊躇わなかった。
ケビンに言われるだけならまだしも、多くの村人に非難されたギルバートは、絶望の表情を浮かべる。
父カールは、心から村の事を考え、常に誠実に働いていた。それを村人は理解し信頼してくれていたはずだし、ギルバートは父を誇りに思っていた。
だがその信頼は、こんな簡単に崩れるものだったのか。村のために働いてきた努力は、ケビンの言葉一つで失われてしまうほど軽いものだったのか。
そう思うと、悔しさで涙が滲んだ。
だが、それでも。父を失った悲しみと虚脱感を抱え、村人の非難に怒りと無念を感じても。
自分だけは絶対に父親の無罪を信じ続ける。
その意思から、ギルバートは山に通うようになったのだ。父親の失った交易品を探すために。
だが、ギルバートがどれだけ沢の下流を捜索しても、何一つ見つからなかった。
それはそのはず、交易品はケビン達が裏山の中に隠しており、自分達の実績を水増しするために少しずつ使われていたのだ。
ギルバートの1年は、完全なる徒労であった。
◆ ◆ ◆
ゴートの告白を聞いた村人は、水を打ったように静まり返った。
驚き、困惑、怒り、様々な感情が彼らの頭を巡っているのだろう。
そしてまず表に現れた感情は、
「ふざけるな!」
怒りだった。
まさに喧喧囂囂、周囲の村人からの罵声がケビン達に降り注ぐ。
のみならず、数人の村人は怒髪天を突いた状態でケビンに近付き、そのうち1人がケビンの胸ぐらを掴んだ。
昨晩、ユージン達に最初に喋りかけてきた男性だった。
「おいケビン!黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!?」
それまで口を閉じ目を見開いたまま制止していたケビンは、そう言われて初めて口を開いた。
ユージンに合図されたゾーイが、ケビンの行動と発言を止めていた魔法を解除したのだ。
「っ!?動ける!?」
「ああ!?」
「いや、ちが、俺は……!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
そう言って、男性は左拳をケビンの頬に振り抜いた。
バキッ、と鈍い音がして、ケビンが地面に倒れる。
「よくもこれまで騙してくれたな。どう落とし前つける気だ、あぁ?」
「っ!」
数人の強面の男性に取り囲まれて威圧されたケビンは、青い顔で口をつぐむ。
「おいおい、黙りか――」
「待って」
男性の苛立ちがピークに達したとき、制止が入った。
誰だ、と声のした方に顔を向けた男性は、予想外の人物――クリスに、キョトンとした。
ケビン達の所業に、一番怒り狂っているはずの少女からの制止。
男性は訳が分からず、首を傾げる。
「クリス?何で止める?お前が一番怒ってるはずだろう?」
「ええ、怒っているという言葉では言い表せないほどにね。その人は、人として最低よ。視界に入れたくもないわ。でも――」
クリスは、自分を注視する、先程までケビンを非難していた村人を見回す。
そして厳しい表情のまま。
「みんな、まるで自分達はただの被害者みたいな顔をしてるけど、ギルへの態度を忘れたとは言わせないわよ。ただでさえカールおじさんを亡くして辛いのに、みんなケビンの言葉を簡単に信じて、あれほど村のために頑張っていたおじさんを悪者扱い。ギルがどんな気持ちだったか分かる?そんなこと絶対にしてないって涙目で主張するしかなかったギルの気持ちを考えたことがある?」
クリスの言葉に、村人は何一つ反論できず、気まずそうに俯く。
「その上、みんなして交易品を探し出してこいだなんて。この1年、誰かギルの手伝いを少しでもした?ギルは、みんながおじさんを信じていれば必要なかった、おじさんの名誉を守るために、毎日泥だらけになって山に通っているのよ。一体誰のせい?カールおじさんを疑うだけでも恩を仇で返す行為なのに、息子のギルにこんな仕打ちをしておいて、ただの被害者面するのはあたしが許さないわ」
再び、その場に静寂が訪れた。
ギルバートへの態度は、村人は皆少なからず負い目を感じていた点であり、そこをつかれて開き直れるほどの人間はここには居なかった。
クリスを除く村人誰もが罪の意識を感じている中、ユージンが空気を読まずに発言した。
「あー、じゃあ、とりあえずその交易品を回収してきましょうか。どうせ裏山には行くつもりだったんで。その後、事実確認をしてはどうですか?まあ本人達が認めてるようですが、一応物的証拠としてね」
この場の収拾方法は誰も思い付かなかったため、積極的にユージンに意見をする村人は居なかった。
「で、隠し場所を吐いてもらうために、そこのケビン氏を少し借りていきますよ。もちろん責任を持って返しますし、不安なら誰か1人位付いてきても良いですが」
村人達は、このままケビンが逃げるのでは、と少し不安そうだったが、そもそもケビンの罪を暴いたのはこの旅人達であるため、任せることにした。
「それじゃ、行こうか」
ユージンが、右頬を腫らすケビンにそう言うと、ケビンはギリッと歯軋りをしたが抵抗はせずに従った。
そして、ユージン一行+ケビンが村を出るのを、村人達は複雑な表情で見送るのだった。
次の投稿は明後日の予定です。




