第35話 小さな村の大きなジジョウ②
前話のあらすじ:
ユージンは、村のジジョウに巻き込まれかけている!
ユージン「ゾーイって意外と恋愛話好きだよな」
ゾーイ「意外ってどういうコト!?」
ユージン「いや、口調とかがほぼ少年だろお前」
ゾーイ「失礼な!中性的と言ってくれたまえ!」
ディストラ「まあ、この年頃の女の子はそんなもんじゃないの?」
ユージン「そういうもんかね。でも意外とフラールはあまり興味がないという」
フラール「そういう訳でもないけど、私の場合は下手に恋愛に夢を持つと色々不都合だから」
ユージン「お貴族様はつらいな」
フラール「嫌味かしら?」
ユージン「いや、同情」
フラール「それも何か嫌ね……」
フレイヤ(実はこっそり興味津々)
ユング(興味なし)
翌朝、ユージン達は「以前は北の裏山に獣魔が多く出ていた」という宿の主人の言葉の裏を取るため、活動し始めた村人達に聞き込みを行っていた。
何故そんなことを聞くのか、と訝る村人もいたが、そこは正直に「獣魔がいなくなった理由を知りたいので少し環境を観察したい」と話す。
そうすると特に疑わずに教えてくれ、やはりその多くは裏山に出ていた、という証言だった。
30分ほど聞き込みをしていたユージンは、彼らを遠巻きに眺める村人達の中に、目的の人物がいるのを確認する。
そして、その内の1人、クリスと呼ばれていた少女に近づき、彼女が村を歩くにはやや重めの服装――例えば登山でもするような――をしているのを確認して、話しかける。
「俺達はこれから北の裏山に向かおうと思うんだけど、案内してくれないか?」
突然話しかけられたクリスは、不審そうな表情で返答する。
「なんであたしが?」
「なに、うちのお嬢様の話し相手にもなってくれればと思ってな。それに、君はこれからその山に向かうつもりだった。違うかい?」
ユージンの言葉に、少女は不機嫌そうな顔で周囲を見渡す。
「皆に聞いたの?」
ユージンは肯定も否定もせず、苦笑して肩を竦めた。
それを肯定と捉えたのか、少女は一瞬だけ哀しそうな表情をした後に、勝ち気な表情に戻り、フン、と鼻を鳴らして、
「まあ、いいわ。少し準備するから――」
クリスが踵を返そうとしたところで、
「ちょっと待った」
制止の声が掛かった。
それは、クリスに向けてというよりも、ユージン達に向けられたものらしい。
村人達の中から出て、近付いてくるケビンとその友人2名を確認したユージンは、
「(計画通り。単純な奴等で助かるぜ)」
とほくそ笑んだ。
◆ ◆ ◆
昨晩、ゾーイから「とんでもない村のジジョウ」を聞かされたユージンは、村外れの廃屋に凭れて、これからどうするべきか考えた。
このままさっさと村を出るのが、危険も面倒もなくて楽ではある。だが、目の前のゾーイがそれを許すとは思えない。ここまで知ってしまったら、ユージンやフラールがなんと言って制止しても、勝手に何かしらのアクションは起こしてしまうだろう。
そうなると、事態がどう動くか分からないし、危険が生じるかもしれない。であれば、こちらで筋道をつけてゾーイが納得するようにする方が建設的である。
とりあえず、ライリー達に相談だな、と考えたユージンは、ゾーイ達3人と共に宿に戻る。
ライリー達と合流したユージンは、まず彼らから宿の主人の話を聞いた。
メインの質問であった、獣魔が良く出ていた場所についての回答は、北の裏山、とのことだった。
そこは、例のカールという村人が転落死した沢がある場所でもあった。
そしてそれに付随する情報として、その裏山は今はほとんど誰も足を踏み入れようとはしないが、約2名例外がいるらしい。
「誰だ、その例外は」
「先程のクリスという女性と、亡くなった男性の息子であるギルバートという男性よ」
ユージンの質問に、フラールが答えた。
ユージンは質問を重ねる。
「その2名はなぜ裏山に入る?そして他の村人はなぜ入らない?」
「後者に対する回答は、入る必要もないし縁起が悪いから、ということらしい。北へ向かうルートは、山を迂回する裏道を本道にしたようだ」
今度は、ライリーが答えた。
そして、ディストラが続く。
「一方、その2人が山に入る理由については、宿の主人は言いづらそうにして、あまり詳しくは聞けなかったんだけど、どうもギルバートは父親が持ち逃げしたとされる交易品を探すために山に入ってるらしい。そして、クリスはギルバートを心配して、彼が数日帰ってこないような場合は差し入れを持って探しにいくらしい」
「なるほど。それでそのギルバートは今日居なかった訳か。そして、村人が彼に対して言及したがらないのは、おそらく何かしらの負い目があるんだろうな。カールを罪人と決めつけたことか、あるいは、ギルバートが裏山の捜索をすることになった原因か……そんなところだろ」
「まあ、妥当だね。息子であるギルバートを責めたんだろうね。それで、山の捜索を強制したか、彼が捜索せざるを得ない雰囲気を作ったか」
ユージンの意見に、ディストラが同意した。そこでフラールが首を傾げる。
「でも、1年も1人で山の捜索なんてするかしら?」
「頑固な性格なんだろ、そのギルバートって人は。村人は、あの感じだともはや彼に山を捜索して欲しいと思ってる訳じゃないだろう。でも、彼が捜索をやめないから、負い目に感じてるわけで」
「そう、ね……」
フラールが、村人とギルバートの感情を考えてか、難しい顔をしたところで、ユージンは話を切り出す。
「で、だ。その件に大いに関係する重大な情報を、ゾーイ達が仕入れてきた」
ユージンが勿体ぶってそう言うと、フラールは半信半疑、ディストラは興味深げに食いつく。
「重大な情報?本当に?こんな短時間で?」
「面白そうだね」
「俺も、まさかとは思ったけどな。運が良いのか悪いのか……、まあ、聞いてくれ」
そしてユージンが、ゾーイの補足を受けつつ3人にゾーイから聞いた話を説明する。
話が進むにつれ、若干疑いの目をしていたフラールも目を見開き、そして話が終わる頃には険しい顔になった。
「と、まあこんな事があったらしい」
ユージンが話し終わった後、奇妙な沈黙が降りた。
それぞれ、今の話を自分の中で消化しているらしい。
そして暫くの後、まずフラールが口を開いた。
「それはつまり、1年前の事件の真相は別にあったということね?」
そしてディストラがゾーイを見ながら続ける。
「そして、それを村人達に伝えるつもりなわけだ」
それを受け、ゾーイはフンス!と鼻息を荒くする。
「そりゃもちろん!このままほっとくなんてボクの中の正義がユルサナイ!ね、ユング!」
「ああ、そうだぜ!悪いやつらは懲らしめないとな!」
「カールさんとギルバートさんが可哀想です……」
一致団結する年少組に、ユージンは肩を竦めて年長組を見る。
それを見て、ユージン同様、これは止まらないな、と判断したライリーは、冷静に話を進める。
「だが、今の話が本当だったとしても、証拠がない。ゾーイ達が話を聞いただけでは、村人の信用は得られないだろう」
痛い所を突かれたゾーイは、唇を突き出す。
「それは、そうだけど……。今から奴等を捕まえれば、証拠にならないかな?」
「それは無理でしょう。土地勘のない私達が夜に村人達を捕まえるのは危険な上、難しいし、たとえ捕まえられたとしても、結局怪しいだけで証拠にはならないわ」
フラールに否定されてゾーイは項垂れる。
良案の思い浮かばないディストラも、首を捻りつつ。
「うーん、時間をかければなんとかなる気はするんだけどね。さすがに長居はできないし」
ディストラの視線の先のライリーが頷く。
「じゃあ、結局なにもできないってこと?」
ユングがむくれた顔でそう言うと、フレイヤが黙ったままのユージンを見上げた。
「ユージンお兄ちゃん?」
声を掛けられ、皆の視線がユージンに集まる。
ユージンは微妙な顔をしつつ口を開く。
「案が無いわけではない。ただ、成功率が高いとは言えないんだよなぁ」
「なになに?成功率低くても、何もないよりマシだよ!どんな案?」
ここぞとばかりに食いついてきたゾーイに、ユージンは口を歪めて笑った。
「なに、簡単なことだ。俺達に信用がないのなら、村人が言葉を信じる人物に証言させれば良いんだよ」
「村人が信じる人?」
「そうだ。つまり――」
◆ ◆ ◆
「ちょっと待った」
制止を受けたユージンが、制止してきたケビンに向き合う。
「何か?」
ユージンは、内心の笑みを隠し、さも意外そうな顔をしながら訊ねた。
近付いてきたケビン達は、ちらりとクリスに視線を向けた後、ユージンの前で止まった。
「裏山に向かうということだけど、止めておいた方がいい。実は今、裏山の道で崖崩れが起きているから危険だ」
「何よそれ!あたしは知らないわよ!」
話しかけられたわけではないが、幼馴染みのギルバートが今現在裏山にいるはずで、自分も向かおうと思っていたクリスが大声をあげる。周囲の村人も、そうなのか?と首を捻っている。
ケビンはクリスに対して頷き、村人にも聞こえるように少し大きな声で話す。
「昨晩、山の方から音がした気がしたから、今朝早く見に行ったんだよ。幸い規模は小さくて、人が飲まれるほどのものではなかったけど、いくつか散発的に発生していたようで、これからもっと大きいのが起きるかもしれない」
ケビンの言葉に村人は、そうだったのか、とか、なんでまた急に?と不思議がるが、疑う様子はない。
そしてクリスは、
「ギルが、まだいるのに……!巻き込まれてないか確かめにいかないと!」
慌てた様子で山に向かおうとしたところを、ケビンに腕を取られて止められる。
「何よ!」
「規模は小さい、と言っただろう。この1年、山に通いつめたギルバートなら大丈夫だ。それより君の方が危険だろう。逆にギルバートに助けられることになるぞ」
「それは……」
いきり立つクリスだったが、ケビンに正論を諭されて勢いを失う。
それを見たユージンが、ここぞとばかりに口を開いた。
「それなら、俺達が付いていくから大丈夫だ。多少の山崩れなら問題ない」
ユージンの提案に、ケビンが眉間に皺を寄せる。
「いや、あんた達はあの山の地形を何も知らないだろう。どこが危険で崩れやすいか、どの道なら安全そうか。せっかくこの村を訪れてくれたあんた達を危険にさらすわけにはいかない」
ユージン達を思ってのことだ、というケビンにユージンは薄く笑う。
「心配してくれるのはありがたいが、それは杞憂というものだ。俺達は、そういった危険には慣れっこでな。初めての場所でも忠実に任務を遂行するために、地形を把握する魔法をはじめとして、足場を固める魔法、土砂崩れを止める魔法、目的の物を探索する魔法も使える。こう言っては悪いが、村人が気軽に立ち入る程度の山で危険に陥ることはまずないから大丈夫だ」
ユージンは、特定の言葉を強調しながら、ケビンの後ろに控える2人に視線を遣る。
するとその2人はすぐにささっと視線を逸らし、落ち着かない様子で不安そうな表情になる。
一方、そんな2人に気付かないケビンは、自信満々のユージンに対してなおも口を挟む。
「いや、しかし――」
「それとも」
しかし、ケビンの言葉をユージンが遮った。
「何か、俺達に山に行ってほしくない理由でもあるのか?」
ユージンがそう問うと、ケビンと後ろ2人の顔色が目に見えて悪くなった。
ユージンの後ろから眼光鋭いライリーが歩み出てきたのは、そんな時だった。
年下とおぼしきユージンより数段威圧感のある、いかにも職業軍人といった風体の青年からの眼差しと、そして、
「もし、何か知っていることがあるのなら、今の内に言っておくことを勧める。今ならまだ事を大きくせずに済むだろう。だが、もし我々がこのまま山に向かえば……」
中途半端に言葉を区切り、青年達の想像力を十分に働かせた上で、ライリーはいつもよりさらに温度の低い瞳で、ギロン、と青年達を睥睨した。
ユージンも思わず感心する「睨み付ける」技に、ついにケビンの後ろの青年1人が、震えながら膝を付いた。
「す、すみませんでしたぁ!」
そして、震える声で謝罪したのだった。
その瞬間、ユージンがゾーイに目で合図を送る。
ゾーイは、心の中で「合点承知!」と叫びながら、村人に気付かれないように魔法を行使する。
昨日の夜から入念に準備していた魔法だ。魔法陣の大きさや発光を極力押さえ、かつ発生場所も村人からはユージンが重なって見えないケビンの胸の辺り。
1秒足らずの早業に、村人は誰一人気付くことはなかった。
そしてゾーイがユージンにグッと親指を上げて見せる。
その間に歩き出していたフラールが、膝を付いた青年の前に立ちはだかる。
フラールの気配に気付いた青年が顔を上げると、フラールは悲しそうな表情を作って、
「貴方の知っていることを、話してください。我々は、それさえ聞ければ悪いようにはしません」
最後に少しだけ微笑んだ。
そのフラールの表情を見て、青年は涙ぐみながら深く頷く。
「ゴート……」
跪いた彼の隣に立つもう1人の青年が、項垂れながら諦めたように彼の名を呟いた。
そして村人が注視する中、話し出した青年ゴートの傍で、ケビンが不自然に固まっている事実には誰も気付かなかった。
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