第32話 ロキの餞別②
前話のあらすじ:
ユージンはロキから四次元ポケット(ひみつ道具はなし)を貰った!
ユージン「旅には必須だよな、四次元ポケット」
ディストラ「また堂々と」
ユージン「大丈夫。ここはパロディ欄」
ディストラ「パロディって言っとけば何でも許されるわけじゃないからね?」
ユージン「大丈夫。この程度は、大丈夫……たぶん」
ユージンが弓について説明をすると、ディストラ以外は、そんな武器があるのか、と感心していた。
なぜこちらの世界で弓が発達していないかについてロキがその場で考察したところによると、魔法の方が便利だから、という言葉に集約された。
すなわち、狙った点に攻撃をしたいなら、遠距離魔法を使った方が正確で簡単、という事らしい。
もちろん、そこまで魔法が得意でない人もいるのでその人たちのためには別の魔道具が開発されているらしい。
「え~っと、どこかにあったと思うけど……ああ、あったあった」
ロキが、自分の『無限袋』を漁り、目的の物を引っ張り出した。
それは、長さ1m、直径5cm程の、中空の円柱であり、見た目は完全に鉄パイプであった。
「これで対象を覗いて、魔力を流すと、そこに向かって仕込まれた魔法が飛んで行くっていうワケ。簡単でしょ?」
試しに攻撃魔法など全く覚えていないディストラが使ってみると、威力こそショボいものの、きちんと炎が10m程先にある岩に命中した。
「す、すごい。俺でもこんな簡単に魔法が使えるなんて。これなら、確かに弓が発明されないのも分かるね」
ディストラの感想に、ユージンも納得した。
スフィテレンドでは、ほぼ例外なくすべての人間が魔力を持っているらしい。であれば、誰にでもこの魔道具は使えるのだろう。
一方のマナスカイでは、魔力適正がない人間はどうやっても魔法を使えないし、適正があっても周囲にマナがなければ魔法は使えない。
そういった事情から、遠距離の攻撃手段として普通に弓が発達したのだろうとユージンは推測した。
ちなみに、この鉄パイプ型の魔道具の名前は『銃』というらしい。
弓はないのに銃はあるって……、とユージンが微妙な気分になったのは致し方あるまい。
「さあって、餞別の続きだよ。勇者君、左手を出して」
ユージンが言われるままに左手をロキに向かって差し出すと、ロキはそこにスコン、と銀色に輝く細い腕輪を装着した。
腕輪はユージンの手首まで来ると自動で縮まり、隙間なくぴったりと収まった。
「次はお姫様~」
そう言ってロキは、フラール、ライリー、ゾーイ、フレイヤに同じように腕輪を着けていき、
「あれ、足りない?」
ユングとディストラを前にして首を傾げた。
「おかしいな。ちゃんと5人分用意したんだけど」
「あの、師匠。わたしとお兄ちゃんを含めてるのならば7人ですよ。5人分ということはわたし達を含めないようなので、これはディストラさんに……」
フレイヤが左手の腕輪を外そうとして、少し格闘して、諦めてロキを見上げた。
「師匠、外れないんですけど」
「ああ、それ一度着けると二度と外せない呪い付きだから」
ロキがあっけらかんをそう言い放ち、腕輪を着けられた面子は、はあ!?と仰天し急いで外そうとするが、成功した者は居なかった。
「おい、何のつもりだ」
ここに来てまさかの敵対行動か、とユージンがロキを睨むと、あっは~、とロキが楽しそうに笑った。
「呪いっていうのは冗談だよ。まあ自力で外せない以上、似たようなものだけど。それはね、『伝心招来の腕輪』っていうシロモノでね、頑張れば腕輪を着けている者同士で伝言したり、超頑張れば親機のもとに仲間を呼び寄せることができるはずの凄い腕輪なんだよ!悪用されるとまずいから、ボク以外には取り外せないようになってるんだ。ちなみに親機は勇者君のやつね」
それが本当ならば確かに凄い。
ノータイムで意思疏通ができ、先行したユージンのもとに仲間の転移ができるのならばとてつもなく有用だ。だが。
「おい、その『頑張れば』ってのはなんだ?」
発動条件が曖昧すぎる。そもそも、できるはず、という表現が信頼できない。
「ま~理論上は可能なはず、ってことで。魔力の波長とか合わせれば多分いける?みたいな?あと感情とか意思の力とかにも左右されると思うから、頑張れば、ってこと」
「……外してくれ」
ユージンの判断に、皆が頷く。
しかしロキは外す気はないようで情報を追加した。
「まあまあ。ついでに魔法軽減の能力も付けてるから。悪魔相手だと気休めだろうけど、弱い獣魔が相手ならそれなりに攻撃魔法によるダメージを軽減してくれるはずだよ」
ロキの説明に、それならまあ貰っておくか、という雰囲気が漂ったところで、ユングが口を挟んだ。
「それで、おれとディストラ兄ちゃんのは?」
ユングの質問に、ロキが笑顔で固まった。
「……まさか無いとか?」
ユングの頬がひきつりかけたところで、ロキが、うはっ、と笑った。
「まっさか~。分かってたよ7人分要るとか。そうそう。え~っと、確かこの辺りに……うん?あれ、あ~そっか。いやいやあったはず。ああ、これだ」
『無限袋』に手を突っ込んで唸っていたロキが、ようやく袋から手を出す。
その手には、一応ユージン達の手首に鈍く輝く腕輪と似た物が2つ掴まれていた。
「絶対違うものだろ、それ」
ユングの疑いの眼差しに、ロキはちっちっち、と指を振る。
「これは、正しく『伝心招来の腕輪』だよ。ただ、ちょっと魔法回路が旧版のせいで、耐久力が低いんだよね。それでも、僕レベルの魔法士の本気魔法が直撃するような事がなければ早々壊れないはずだけど」
そう言いながら、ロキはユングとディストラの腕に腕輪を装着する。
皆がお揃いの腕輪を着けたことで、『勇者と愉快な仲間達』感がユージンの中で生まれたが、頭を振ってそれを振り払う。
それは駄目なやつだ、ネタ系だ。ギャグマンガになってしまう。
そんなユージンを無視して、ロキのターンが続く。
「さて、続いて戦闘力皆無なフラール姫への餞別だよ」
ロキはそう言いながら『無限袋』に手を突っ込み、掌よりやや小さいサイズの円盤を3つ取り出した。薄い黄色をしており、見た目としてはコースターのようだ。
それを、戦闘力皆無と言われてやや怒り顔のフラールに渡す。
「これは、起動魔力を込めることで、あらかじめ仕込んだ魔法を発動する使い捨ての魔道具だよ。この黄色いのには、周囲に強力な電撃を発して麻痺させる効果がある。ピンチの時に使うといいよ」
案外マトモな効果で、フラールにはちょうどいいアイテムかもしれない、と貰ったフラール含め一同がロキを見直したところで、フレイヤが言いにくそうに補足した。
「あの、フラールお姉ちゃん。それ、使った本人も麻痺しちゃうので、注意した方がいいです」
「……は?」
当然のように使用者には電撃は当たらないと思っていた一同は、俄には信じられずにフレイヤを見る。
そして続いてロキを見ると、ケラケラと笑う。
「簡易魔道具だからしかたないよね~」
「使えないじゃない!」
フラールが円盤を握りしめながら抗議するが、ロキは意外そうな顔をする。
「時間稼ぎには使えると思うけど?味方が助けに来てくれるまで、キミがやられる時間を延ばすことができる」
一理ある、ようなそうでもないような……。少なくとも、これを使うには相当の覚悟が必要そうである。
それを想像してか、フラールが嫌そうな顔で円盤を眺める。
「それに、同シリーズがいくつかあるから渡しとくね~」
ロキはそう言って、水色、紫色、黒色の円盤を3つずつ取り出してフラールに渡した。
「水色が周囲を凍らせる魔法で、紫は周囲の生物を強制的に眠らせる。黒はすんごく濃い煙幕を張る」
「……一応聞くけど、凍らせるのと眠らせるのは」
「もちろん使用者も対象だよ」
ロキの回答に、はあ、と溜め息を吐いたフラールは、しばらく円盤達を凝視して葛藤していたが、本当にいざとなったときは無いよりマシか、と判断して自分の荷物に加えた。
「ありがとう。受け取っておくわ。とても使いたくないけれど」
「どーいたしまして。あ、お姫様にはまだあるんだ~」
ロキは再び『無限袋』に手を入れ、何かを掴んで抜き出した。
「……何よそれ。スプーン?」
フラールの胡乱な視線の先にあるのは、巨大なスプーンだった。
巨大と言っても、人間大のサイズというわけではない。スプーンとしては大きいというだけで、長さ50cm程度だろう。
頭の部分が深いため、スプーンというよりは柄杓に近いかもしれない。そう考えると普通の大きさである。
「いいでしょ、これ?僕のお気に入りなんだ~。実用性も考えて作ったから、鍋からスープを掬ったりするのにも役立つよ。しかしその本質は衝撃を何倍にも増幅する『破砕スプーン』なのだっ!」
「あのスプーンの頭の部分には衝撃を増幅する魔法回路が組まれているので、魔力を込めて殴れば岩でも破壊できます」
すかさず解説してきたフレイヤの言葉に、一同の顔がややひきつる。
いや、凄いとは思う。攻撃手段のないフラールにはもってこいかもしれない。
だが、なぜスプーンなのか。敵を殴って破砕した後のスプーンで汁をよそえというのか。
ユージンは、ロキの意味不明なセンスが発揮されたそれを受け取るフラールに同情を禁じ得なかった。
素直にメイスにでもしておけば良いものを……。
「あ、でもそれも使うときに注意が必要です。攻撃が成功すると、衝撃の一部が柄にまで伝わってしまって、数秒は使用者も痺れて動けなくなります」
「そういうのばっかりじゃない!」
もうっ!と怒りながらも、律儀に荷物に加えるフラール。
一方のロキは不思議そうにしている。
「あれ?お気に召さない?しょうがないな、じゃあこれならどう?」
ごそごそと『無限袋』を漁るロキに、フラールはもはや期待はしていないようで冷たい視線を浴びせている。
そして袋から取り出された物は、フレームに2つのレンズを嵌め込んだモノ。
「今度は眼鏡?」
スフィテレンドでも、高価ではあるものの眼鏡は存在していた。主に室内で資料と格闘することの多い政治家や魔法士が使っている。
円形のレンズに金のフレームの、ユージンからすれば骨董品に見える眼鏡を受け取ったフラールは、変なところがないかしげしげと観察する。
「それは、『反射眼鏡』って言うんだけど、なんと相手の攻撃魔法を反射することができるスグレモノなんだよ」
その言葉だけ聞くと確かに凄い。だが、この場の誰もが最早ロキの言葉を額面通りに受け取ろうとはしなかった。
自然と、皆の視線がフレイヤに向かう。注目されたフレイヤは、やや照れつつも解説する。
「はい、皆さんが考えている通り、その魔道具にも注釈が付きます。師匠の言葉通り攻撃魔法を反射することはできるのですが、それは眼鏡のレンズ部分のみです。なので、炎系魔法のように多少範囲がある魔法に対してはほぼ無意味です。着弾点が小さい雷撃系、氷撃系等の魔法に対しては有効ですが、この狭い範囲に当てる必要があり、しかも失敗すれば顔面にダメージを受けるわけで、相当の技量と度胸が無ければ使えない代物です」
ああ、やっぱりね。一同の心が一致した瞬間だった。
しかしロキは不満気である。
「え~、眼を守れるんだよ。凄くない?しかもオシャレ。顔バレリスクのあるお姫様には変装道具としてもぴったりだね!」
ロキにそう推され、フラールは渋々と眼鏡を着用した。
美少女に眼鏡。ユージンは、中々ありだな、と思いはしたが口には出さなかった。
代わりに他のメンバーが口を開く。
「結構似合ってるね。良いと思うよ」
とディストラが言うと、ゾーイが続けて、
「確かに~。なんか高貴な感じがする。深窓の令嬢みたいな。温室で読書~って感じ」
「まあ、着けといて損はないんじゃないの」
ユングがそう言った後に、ライリーが締める。
「確かに、フラール様であることを少しでも隠すには有効かもしれませんね」
皆が割と好意的に受け止めたため、フラールはこれも返すに返せず、とりあえず荷物に追加することになった。まともに使えそうなものが1つもない、とぼやいてはいるが。
フラールへの餞別は終わったのか、ロキが次にライリー、ゾーイ、ディストラと眺める。
そして、『無限袋』には手を入れずにさらりと言う。
「キミ達3人は、まだまだ向上の余地は大いにあるけど、戦力としては一応一人前みたいだし、餞別は要らないでしょ?ユング君とフレイヤ君には昨日色々と渡してあるので、僕からは以上!じゃあ頑張ってね~」
そしてひらひらと手を振って、街へと戻っていってしまった。
「……え?」
あまりにあっさりとしたその別れに、ヴァン兄妹だけでなく、ユージン達もポカンとしてしまった。
「え、ボクには何もなし?まあ、フラール様みたいなものを渡されてもありがた迷惑だけど」
「一応腕輪は貰ったけどね」
ゾーイとディストラが、やや残念そうにそう言った。同じく貰えなかったライリーはさして気にした様子はない。
一方でユージンは、ロキの最後の言葉にやや釈然としない思いであった。あれでは、ユージンは一人前ではないと言われたようなものだ。
「(だが、冷静に考えて、俺は胸を張って一人前と言えるだろうか。少なくとも、世界を救う勇者としては半人前もいいところだな。……まだまだ成長しなければならないと言われてるんだろうな)」
ユージンは1つ溜め息を吐いて、頭を切り替える。
ルキオールも、ロキも、ユージンに対してそれなりに厳しい評価を口にしているが、認めていないわけではないはずだ。
ポジティブに受け取れば、期待されているということだろう。
その期待に応えられるかどうか。
「(いや、応えなければならない。ジャンヌへの誓いを果たすために。そして、俺が俺であるために)」
ユージンは、胸の上に右手を当て、グッと拳を握りしめる。
そして顔を上げ、行く先を見据えた。
その瞳の先に待っているのは、どのような未来か。
今はまだ、誰にも分からない。
第2章終了です。
章末に幕間として、もう一つの世界マナスカイの話を投稿します。




