第31話 ロキの餞別①
前話のあらすじ:
ユージンはロキから情報と諫言を受けとった!
ゾーイ「天才と変人って紙一重だよね」
フレイヤ「紙一重というか、同一ですね、師匠の場合」
ユージン「そういえば、ゾーイお前、前に自分の事それなりの天才とか言ってたな。つまり……」
ユング「ああ、なるほど」
ゾーイ「納得するなっ!」
ロキと2人で話をした翌朝、ユージンは早朝に1人宿を出て、近くの広場で剣を振るっていた。
剣に眠る能力の習得や、そもそもの剣の扱いに慣れる必要があるからだ。
が、後者については意外なほどに剣が手に馴染んだ。
これまで使っていた直剣と、反りのある『セブン・フォース』では重心も使い勝手も違うはずなのだが、朝日を受けて輝く剣筋は、ユージンの思い通りの軌跡を描いた。
「(魔剣補正とかあんのかな……)」
良く分からないものの、使えるのだからまあ良いだろう、と考え、ユージンは一旦動きを止めた。
そして、魔剣に魔力を流す。
イメージは、魔剣という器に大量に内蔵されている水を、周囲の魔力を呼び水にすることで剣の外に出してやる。
すると、魔剣はその周囲に薄い光を纏った。
そう、あの場所で、『嘆きの丘』で、ユージンの師であったカイナの持つ四の魔剣『デリュージ・ファンフ』を前にしたときと同じだった。
「(これが、『断魔』の能力か)」
おそらく、あらゆる魔法的な事象を切り裂くことのできる、対魔法としてはこの上なく強力な武器。
ユージンは、剣に光をまとわせた状態で剣を振るう。
気を抜くと光が消えてしまいそうになるが、戦闘中に『盾』の魔法を使うよりかは断然楽である。単に魔力を適量注ぐだけで良いのだから。
ユージンは、しばらくの間そうして1人剣舞を続けたが、問題なしと判断し、次はゾーイと訓練しよう、と考えながら剣を鞘に納めた。
◆ ◆ ◆
ユージンが宿に戻ると、4人はすでに1階のダイニングに揃っていた。
「ユージン、どこ行ってたの?部屋にもいないし」
首を傾げるゾーイに、ユージンは少し剣を振ってきた、と簡潔に答えた。
「え~、水臭~い。言ってくれればボクも手伝ったのに」
魔剣――こちらでは聖剣だが、ユージンは魔剣と呼ぶことにした――の未知なる能力を期待しての事だろう、わくわくした顔で手伝いを申し出るゾーイに、ユージンは肩を竦めた。
「まずは1人で剣の扱いに慣れたかったからな。次からは頼むぜ」
ユージンが席に着くと、まもなく朝食が準備された。
それを食べながら、ディストラが訊ねてくる。
「どうだった?新しい剣はサーベル型だから、ユージンがこれまで使ってたブロードソードとは勝手が違うんじゃない?」
「んー、そのはずなんだけどな。1人で振る分にはあんまり違和感なく使える。打ち合うとどうなるか分からんけど」
ユージンも行儀悪く食べながら返答するが、フラールがそれをチラリと見ただけで、特に意見はしなかった。
「そうなの?じゃあ、後で俺とやる?」
ディストラが楽しそうに言うが、ユージンが答える前にライリーが口を挟む。
「朝食後は、すぐに荷物をまとめて北西の門に集合だ。訓練は昼時にやってくれ」
それにユージンは肩を竦め、ディストラは苦笑した。
◆ ◆ ◆
ユージン達5人が宿を引き払い、馬に乗ってミッドフィア知識区画の北西の門に行くと、既にそこにはロキとヴァン兄妹が待っていた。
兄妹の隣には、2頭のヤギがいる。2人が契約している幻獣のリスニとニストだ。
ユージン達の馬よりも一回り小さく、最高速では馬には劣るものの、行軍スピードには十分ついてこれるし、馬力や持久力もある。
しかも、幻獣であるため、言葉を発することはできないものの人間の言葉は完全に理解しており、ユング達の細かな指示にもしっかり対応する賢さを持つ。さらに、ユージン達はまだ見ていないが魔法も使えるらしい。
そんなヤギの幻獣だが、ユージン達が自分の馬に荷物を少なからず載せているのに対して、何一つ荷物を背負ってはいない。
昨日までの旅でもそうだったのだが、それについては短い旅の予定だったので背嚢だけで充分なのだろう、と考えていたユージンだが、これからの旅はそうはいかない。何せ、魔王を討つまでは帰らない予定なのだ。
まあ、ヴァン兄妹に関してはひとまず期限付きではあるが、それでもかなり長期の旅になることが予想される。それなのに、彼らの荷物は昨日までと同じ背嚢のみで、彼らを乗せるヤギ達にも何も荷物を積んでいない。
「え、荷物少なくね?」
馬から降りたユージンがそう問うと、フレイヤが目をぱちくりとさせた後、隣に立つ師を仰ぎ見た。
見上げられたロキは、うん?と首を傾げたのちに、ああ、と納得したように頷いた。
そして、手に持っていた巾着をユージンに差し出す。
「これだよ。はい、勇者君にも1つ貸してあげよう」
これだよ、って何だ?と思いつつ、ユージンは差し出されたそこそこの大きさの巾着を受け取った。
初めて見る材質だが、何らかの布と思われる灰銀のそれは、いわゆる「非常持出袋」にサイズといい色合いといいよく似ていた。
「これは?」
ユージンが、口を開いて中を覗き込む。
ただの巾着にしてはやや重さがあるが、何かが入っている感じはしなかった。そして、内部には何も見えなかった。
そこには、漆黒の世界が広がっていた。
「それはね~、ボクが発明した物の中でも三指に入るヤバいやつ。『世界を変えちゃう』レベルの発明品だよ。名付けて『無限袋』!どう?イカすでしょ?」
その名前と、袋の中身が明らかに異空間な雰囲気を醸していることから、ユージンはすぐに察した。
青い猫型ロボットの腹部についているポケット的なアイテムである。
「これは、中の空間が歪んでいて、どれだけ物を入れても一杯にならないし、重くならない、凄い発明品です。私も1つ貸してもらってるんです。お兄ちゃんの荷物共々、そこに全部入れてます」
フレイヤが、腰に着けている同色の巾着をユージンに見せた。
ユージンが受け取ったものよりもやや汚れが見られるが、同じものなのだろう。
やや自慢げにそれを見せる少女の姿に、ユージンは内心苦笑する。
彼女は、最初この『無限袋』のことを口にするのを躊躇い、ロキに判断を仰いだことから、これについて口外しないようロキに言い含められているようだが、その理由については良く分かっていないようだ。
でなければ、ネアン帝国のトップに近い位置にいる人間がいるこの場で、能力について嬉々として話はしないだろう。
これは、おそらく、ロキ本人が口にしている通り本当にヤバいやつだ。
もし地球にあったとしても相当な代物ではあるが、交通手段が地球での中世くらいしか発達していないこの世界においては、その影響は遥かに大きい。特に軍事面においてはそうだろう。
はっきり言って、これが1つあれば戦争の在り方が変わる。そういう代物だ。
それを理解しているのだろう、フラール、ライリー、ゾーイがやや深刻な顔をしている。
「それって……」
「本当なら、危険どころの話ではないですね」
「ヤバすぎだにゃ~」
3人の反応を十分に見たうえで、ロキが口を開いた。
「そのとおり。だから、これは存在そのものも誰にも公表してないボク個人の極秘アイテムなんだよね。だから、キミ達も口外はしないようにね?たとえ相手が誰であろうとも」
そして、鋭い視線で一同を睥睨する。
「もし、ルキオール君やイサーク殿下に知られてみたまえ。戦争が起きるよ?ボクは絶対にこれを渡す気はないし、作り方も公開するつもりは無いからね。まあ、材料がレアすぎるから、これ以上は作れないし、現存する3つで打ち止めだろうけど~。勇者君に貸すのも、キミ達に貸すのではなく、勇者君個人に貸すものだ。意味が分かるね?」
ロキがユージンに視線を寄越す。
正直なんてヤバいものを渡してくるんだ、とは思うものの、それ以上にこれは便利だ。便利すぎる。
何でこんな代物を貸してくれるのか、ロキを疑いたくなるくらいには便利だ。
「……これは俺個人の責任において管理する。そして、誰にも渡してはならない。そういうことだろ?」
「そのとおり!」
「何でこんなものを貸してくれるんだ?」
ユージンの質問に、ロキが、意味深な笑みを浮かべる。
それにユージンが悪寒を感じたところで、ロキがユージンから目を逸らして自分の『無限袋』を漁る。
「それ以外にも、いくつか餞別を用意してるんだけど~、まずは勇者君からにしようかな。これの使い方は簡単。袋に手を入れると、中に何が入っているのか頭に浮かんでくるので、欲しいものを頭の中で選択する。すると、手にそれが触れるという素晴らしい思考ルーチンが組み込まれているのだよ!」
さあ、やってみて!と視線で促されたユージンは、袋に右手を入れてみる。
すると、脳裏に様々な物が浮かんできた。既に色々入っているらしい。
その内容物は、何本かの剣に短剣、ナイフが沢山、斧、槍、鎚、etc……。やたら武器ばかり入っている。
申し訳程度に皮水筒やビスケット等の食料品もあるようだ。
「なんか武器が一杯入ってんだけど、どういう事?」
ユージンが訊ねると、ロキが、うむ、と鷹揚に頷いた。
「勇者君は、そのスタイルからして、軽戦士だろう?右利きのキミは、基本的に主武器である剣を右手にして速さで戦うタイプのはずだ。ただ、昨日今日とキミの剣の扱いを見ていると、どうもキミは非常に器用で、武器の扱いに関しては天性のものがあるようだ。というのも、時々左手でも剣を持ってたけど、それが妙に様になってるんだよね。おそらく、剣を左右の手で同時に扱うこともできるし、他の武器を使ってみても良いと思う。この先、長物があった方がいい場面もあるだろうしね」
ユージンは、意外なことを言われて驚いた。
武器の扱いに才能がある?初めて言われた。だが、言われてみて妙に納得する所もある。
日本では本物の武器など扱ったこともなかったのに、ジャンヌに召喚されたクゼール王国で『セーブ・フォース』の封印を解いてそれを使えと言われたときも、スフィテレンドに召喚されて、剣を貸与されたときも、昨日使ったことのない反りのある『セブン・フォース』を手にしたときも、不思議と剣の扱いそのものに躓くことはなかったのだ。
それは、ロキの言うとおり武器の扱いに才能があるからなのかもしれない。
ただ、扱いに才能があったとしても、それと剣術とは別物なのだろう。ユージンの剣術の成長が、ディストラのそれに劣っているのは事実である。
「あと、その『聖剣』は、文献によると岩のように固い悪魔をバターのように両断できる能力があるみたいだからね。そうすると、剣を両手で扱うメリットはほぼなくなって左手が空くよね。左手に同サイズの剣を持つのもありだとは思うけど、個人的には『聖剣』ともう一方の手はハッキリ分けた方がいいと思うから、オススメはナイフによる牽制か短剣の防御主体の使い方だね~」
ロキがユージンの今後の戦闘スタイルについて、意外なほど真面目にアドバイスをしてくれた。
それで短剣やナイフが多く入っているのか、と納得するユージン。
現状では岩を砕くような能力は使えないが、恐らくこの先魔剣の能力を使いこなせるようになれば、そういうこともできると期待したい。
「まあ、色々試してみなよ。ただ、『聖剣』だけに頼る戦い方は危険だからやめた方がいい」
ロキの忠告に、ユージンは神妙に頷いた。
考えたくはないが、この魔剣だって『セーブ・フォース』のように破壊される可能性がないわけではない。その時に戦えなくなるようでは困る。
とはいえ、現状ではこの剣の能力を最大限に引き出すことが重要であることに変わりはない。
ユージンは、『無限袋』の中にある武器の類を確認し、しばらくは使わないかな、と思ったところで、ふと気がついた。
「……なあ、そういえば、こっちの世界には弓矢はないのか?」
マナスカイには剣士の他に弓兵もいたが、スフィテレンドに来てから、弓を使う人間を見たことがなかった。
そういえば確かに、と納得するディストラに対して、他の面々は、弓?と首を傾げるのだった。
次の投稿は明日の予定です。




