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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第2章 魔剣と聖剣
33/163

第29話 学術国家ミッドフィア(知識区画)

前話のあらすじ:

ユージンは精神世界(?)で千年前の勇者と出会った!


ユージン「一人称の話。俺は、俺」

フラール「私」

ゾーイ「ボク」

ライリー「私」

ディストラ「俺」

ユング「おれ」

フレイヤ「わたし」

ユージン「俺とディストラ、フラールとライリーが被ってるな」

ディストラ「まあ、フラールとライリーは口調が全然違うから、間違いそうなのは俺とユージンだね」

ユージン「一応、俺とディストラも口調に違いはあるが、なるべく誤解を受けないように注意しよう」

「ユージン!どうかしたのか?」


 すぐ隣から、ディストラの声がした。


 ユージンの伸ばした左手には、先程ロキから渡された日記のような本が握られている。


「ユージン?」


 返答のないユージンを疑問に思ってか、再びディストラが訊ねてくる。

 この様子だと、ユージンの意識が謎の白い世界に行っていたのはほんの一瞬だったのだろう。でなければ、もっと心配するなど、ディストラは違った反応を見せるに違いない。


 ユージンは、大丈夫だ、と告げて、右手を見る。

 そこには、確かに握られていた。


 本当の七の魔剣『セブン・フォース』が。


「……え?ユージン、それ……」


 ユージンの視線を辿ったディストラも、それに気付いた。

 その声に反応して、地下室を見物していた他の皆もユージンの右手に注目する。


「あっは~~!す・ご・い!本物の聖剣!?一体いつのまに!?」


『セブン・フォース』が目に入るや否や、ロキがずざざっと近寄ってきてまじまじと剣を眺める。

 ロキの驚きも当然で、今目の前にある剣は圧倒的な存在感を放っているにも関わらず、視界に入るその時まで全く気づかなかったのだから。


「え~!?どゆこと?」


 感知能力の高いゾーイもこの事態に驚き、首を傾げる。


「ユージン、どうやってそれを手に入れたの?」


 驚いてはいるものの、比較的冷静なフラールが訊ねた。

 ユージンは、どこまで説明するか迷い、『魔剣』に関する点は省いて、白い精神世界(?)に飛ばされたこと、千年前の勇者らしき声と会話したこと、魔剣――こちらの世界では聖剣――を託されたこと、を話した。


「一体どんなトンでも魔法だよ……」


 ユージンの話を聞いて、ユングが呆れた声を上げた。


「確かに、対象の意識を引き上げるだけならまだしも、そこで顕れた聖剣が現実世界にまで渡るなんて、どういう原理か想像も付きません」


 フレイヤも、難問を前にしたような表情で首を捻り、ついには師を見上げた。

 対するロキは、ん~、と唸った後に、口を開く。


「まあ、幾つかの時空間魔法を複合的に発動させれば可能かもね。ただちょっと面倒すぎてやる気にはならな~い」


 師匠の面目躍如と言ったところか、一応アイデアはあるらしい。

 そこでユージンが気になったのは、このロキと言う魔法士は、ネアン帝国であまり発展していない時空間系の魔法にも詳しそうだと言うことだ。


 しかしユージンがその事について訊ねる前に、ディストラが訊いてきた。


「それ、剣の形状以外はホントに『セブン・フォース』に似てるね。何か勇者は言ってた?」

「ああ。まあお前には後で話すけど、これが本当の『セブン・フォース』らしい」

「は?」


 ユージンの発言に、ディストラがポカンとする。

 それはそうだろう。今まで魔剣だと思っていたものが、実は魔剣じゃありませんでした、なんて言われれば誰だって最初は信じられない。

 しかし今はディストラのその感情に付き合うより、周囲への説明をユージンは優先した。


「俺が前に使っていたこの剣は、千年前の勇者から託されたこっちの聖剣の試作品だったらしい。だからこんなに似てるんだとよ」


 罅の一つもない『セブン・フォース』と、折れてしまった『セーブ・フォース』を掲げてそう説明すると、なるほど~、とゾーイ始め一同は納得した。

 ディストラを除いて。


 だが、実のところユージンも完全に納得したわけではなかった。

 白い世界に行く前にロキの意見を聞こうと思っていた疑問が、さらに大きくなったのだ。


 なぜ、こちらの千年前、つまりマナスカイの百年前の時点で召喚された勇者が本物の七の魔剣を持っているのか。

 その勇者が古代文字を常用していたのは何故なのか。


「(こっちの千年前があっちの千年前だったら説明は簡単なんだが)」


 そうすれば、全てはまるっと収まる。


 マナスカイの千年前には、『セブン・フォース』とその試作である『セーブ・フォース』があった。そしてその時代の人たちは古スカイ文字を常用していた。

 こちらの世界の千年前の勇者は、マナスカイで『セブン・フォース』を所持しており、そのままスフィテレンドに召喚され、勇者として魔王を倒し、『セブン・フォース』をここに封印した。

 一方のマナスカイでは、千年前に勃発した『魔剣大戦』を『セーブ・フォース』を手にした英雄が終わらせ、『セーブ・フォース』は『嘆きの丘』に封印した。


「(だが、それでは2つの世界の時間のずれが説明できない)」


 ユージンがこちらで過ごした30日あまりと、ディストラがあちらで過ごした3日。これを説明するためには、2つの世界での時間の流れには差があると考えざるを得ない。

 すると、スフィテレンドの千年前はマナスカイの百年前になり、千年前の勇者の使う文字や『セブン・フォース』の出自について疑問が残る。


 そんなことをユージンが考え込んでいたため、ユージンに代わってライリーが場を仕切った。


「我々の目論み通り、無事聖剣を手に入れることができたので、とりあえず外に出るか。この国にも長居する必要はあるまい」

「え、もう出発するの?せめて1泊くらいしよーよ」


 ライリーの性急ともとれる発言に、ゾーイが不満を漏らした。

 それにフラールとディストラも同意する。


「そうね。今から出発しても中途半端になるし」

「まあ、そこまで急いで出る必要もないね」

「そんじゃ、フラール様もこう言ってることだし、今日はこの国で泊まろ~」


 ゾーイがそう言って右手を高らかに挙げた。

 ライリーも、フラールの言葉に納得したのか特に反論することはなく、粛々と梯子を上ろうとする。


 とそこで、ロキが口を開く。


「それなら、一応首相に挨拶した方がいいかもねえ。入国の時、馬鹿正直に書いちゃったでしょ、名前。さすがにネアン帝国の皇族が来たのに国が対応しないわけには~って言われちゃったよ僕が」


 ロキが面倒臭い感を隠さずにそう言った。

 さっそく面倒なことが、と思ったユージンだったが、それを感じてかすかさずフレイヤが補足した。


「大丈夫です。今の首相さんは出来たお方なので、こちらの事情も考慮した本当に形式だけの挨拶で、長居する必要はないと思います」

「じゃあ、この後向かいましょうか。それで大丈夫かしら?」


 フラールが訊ねると、ロキが多分い~んじゃない?と曖昧な返答をする。

 再びフレイヤが、ここを出たらすぐに使いを出します、と師匠をフォローする。


 それを見て、ゾーイが一言。


「フレイヤ、やり手の秘書みたい」

「だね。10歳とは思えないよ」


 ディストラもうんうんと頷く。

 それを聞いたフレイヤは、恥ずかしそうに頬を染めて俯く。


 それに対してロキも同意するのだが、


「ま~、確かにフレイヤ君はよく気が付くし事務処理の才能もあるから、居なくなるのは僕にとっても損失だけど、ユング君だけ行かせるわけには行かないしね」

「おい師匠、おれは要らないってのか?」

「というか、わたしもあまり嬉しくないです」


 双子から揃ってジト目を向けられる。

 しかし相変わらず堪えた様子はなく、


「あれ?僕、失言~?」


 ケラケラと笑うだけだった。


 ◆ ◆ ◆


 その後、再び国の中央に戻った一行は、例の橋を通って堀を渡り、建物のある島に進んだ。「入島」審査は通常は厳しいものだが、ロキと一緒だとすんなり通過することが出来た。

 権力者恐るべし、である。


 フレイヤの連絡が通っていたこともあり、一行は多忙であるはずのミッドフィア首相と時を待たずして面会できた。

 そこでさらっと挨拶を交わし、聖剣を持ち出すことを断って別れる、はずであったが、もしよろしければ夕食を、と首相から誘われ、フラールとライリーは少し相談した後でそれを快諾した。


 断ろうと思えば断れたが、ロキの承諾があったとは言え半ば強引に聖剣を持ち出す訳であるから、なるべく礼儀を尽くそう、という訳である。



 夕食まではまだ時間があるため、一行はひとまず首相が用意してくれた宿に荷物と馬を預けることにした。


 当然のように、用意されたのは国内最高峰の宿の最高の部屋であった。

 1番上のランクの部屋にフラールが泊まり、以下4名は1つ下のランクの部屋である。


「うわ、こんな良い部屋始めてだよ」


 ディストラが、宛がわれた部屋の広さや調度品の美しさに溜め息を漏らした。

 ユージンも、同感だ、と言おうとして、クゼール王国でもネアン帝国でも国賓対応の部屋に泊まっていたため、同意できなかった。


 心は庶民なのに、と何故か1人悲しくなるユージン。

 一方でユージンの代わりにディストラの言葉に静かに頷いたのは、ライリーだった。

 ゾーイは清潔な部屋にはしゃいでおり、フラールは当然、という顔である。


 一行は一旦荷物を部屋に置いてロビーに集合し、これからについて話し合うことにした。


「まず、喜ばしいことに聖剣の入手に成功した。これは予定通りだな。そして予定外なのは、旅の人員が増えること」


 ユージンが、左腰に差した『セブン・フォース』にちらりと目を遣る。

 これまで使っていた直剣と違い反りがあるため、やや違和感がある。だがすぐに慣れるだろう、という予感がある。


「その剣の能力について、試さなくて良いのか?『セブン・フォース』……いや、『セーブ・フォース』だったか。あの剣の能力、水の魔法を切った能力も使えるんだろ」


 ディストラが、クゼールでカイナの魔法を防いだことに言及して質問した。


「そのはずだ。まあ、それはおいおいやっていくつもりだ。朝や晩に訓練時間を取りたいが良いか?」


 ユージンがライリーに訊く。

 ライリーは少し考えてから頷く。


「その剣が、現状重要な戦力である以上、習熟の必要性がある。食事の準備等の当番からユージンを一時的に外して、その時間を充ててくれ」

「ありがとう」


 剣についての話が一段落したと見るや、ゾーイが口を開く。


「それで、双子は?どうするにゃ~?」


 一瞬、全員が答えあぐねたが、同行の許可を出した責任をとってユージンが口火を開く。


「まず、旅については俺が最初に2人に言った通り、俺達と同じ扱いで雑務も分担してもらおう。戦闘時の扱いについては、俺と一緒に訓練して、その中で実力を見極め、それに応じて采配するのでどうだ?」


 ユージンの発言内容を皆はそれぞれ咀嚼した上で、頷く。


「現実的には、そうするしかないだろうな」


 苦々しそうにライリーが言った。


「まあ、勇者の庵に行く前にユージンが言った通り、人が増えて作戦の幅が広がるのは良いことじゃないかな。足手まといになられると困るけど、彼等なら大丈夫そうだし」

「そだね~。魔法士がボク1人って言うのも、敵が大量に出てきたりするときには厳しいかなって思ってたし。それに、7人なら何とか2チームに分けての作戦も可能だねっ」


 ディストラとゾーイが前向きな意見を言った。

 それを聞いていたフラールが、改まった顔でライリーに告げる。


「ねえ、ライリー。私も、もう少し訓練したいのだけれど良いかしら」

「フラール様が訓練、ですか?」


 フラールの発言に、ライリーがやや驚いた顔で反応した。


「そうよ。貴方は、皇族には必要ない、と言うかもしれないけれど、現実問題、私はあの双子以上に足手まといになるわ。攻撃手段も、防御手段も持たない私は戦闘時には殆ど役に立たない。もし私が敵の指揮官なら、私をまず狙うでしょう。だから、少なくとも自分の身は自分で守れるようになりたいの」


 フラールの至極真っ当な意見に、ライリーだけでなく他の皆も感心した。


 無理矢理旅に付いてきたフラールは、厳しい旅の覚悟はできている、と言いつつも、実際のところ戦闘時には当たり前のようにライリーに守られていた。

 そして、それに対して特に何も感じていないように見え、まあ回復要員でお姫様だし仕方ないか、とユージン達は考えていた。


 しかし実際は色々考えていたのか、ここに至って自分の立ち位置を見直すつもりらしい。

 それ自体はとても歓迎すべきことである。


 が、ライリーは難色を示す。


「しかし、訓練とはいえ御身に何かあれば……」


 その臣下として模範的な態度に、フラールが口を尖らせる。


「実戦で何もできない方が危険でしょ!ユージンみたいな無茶な訓練する訳じゃないんだから。身体強化を使った回避の練習や、防御魔法の練習くらいよ」


 ずいっと身を乗り出して訴えるフラールに、ライリーは渋々頷く。

 ちなみに比較対照にされたユージンは、とりあえず黙って成り行きを見守っている。


「まあ、それくらいでしたら……」

「じゃあ、ユージンの訓練の相手は私がするわね!」


 ライリーが同意したのを見て、すぐさま訓練への意気込みを語るフラールだが、さすがにユージンが黙っていなかった。


「それは待て。訓練にならん。とりあえずお前がすべきは、ゾーイかフレイヤから防御魔法を学ぶことと、身体強化に習熟することだ。その次は双子かゾーイと組手だな。俺の相手をすることはありえない」

「何よ、私じゃ不足だって言うの?」

「当たり前だろ。俺の訓練に合わせればお前は死ぬし、お前の訓練に合わせれば俺の訓練にならない」


 不満げに鼻を鳴らしたフラールに、ユージンが厳然とした口調で告げる。

 ライリーも意見は完全にユージンと同じなのだが、フラールにどう伝えるべきか迷い、結局ユージンに任せて口をつぐんだ。


 ユージンの真面目な視線を受けたフラールは、少しの間睨み合う。

 ゾーイとディストラも思わずごくりと喉を鳴らした。


 そして、フラールが小さく溜め息を吐いた。


「ハッキリ言うわね。まあ、冗談よ。私だって現状でユージン相手に何かできるとは思わないわ」

「な~んだ、冗談か~、ビックリした~」


 は~、と息を吐いて身体の力を抜いたゾーイ。

 その様子に、フラールがチクリと棘を指す。


「あら、それは私が自分の力量も分からない愚か者だと思ったってことかしら?」

「え?え~っと、なんと言いますか~、ねえ、ディストラ?」


 フラールの冷たい視線を受けたゾーイは、あたふたして隣のディストラに助けを求めた。


「俺に振られても。まあ、でもフラールが今より動けるようになるのは、良いことだと思うよ」


 笑顔でそう言うディストラに、ライリーが続けて口を開く。


「フラール様の訓練については、今後適宜行っていきましょう。そろそろ時間です」


 ライリーの言うとおり、首相との会食の時間が迫っていた。

 一同は話を切り上げて、既に宿の入り口に来ていた迎えに応じて宿を発った。


 ◆ ◆ ◆


 会食には、首相の他、国の要人が数人出席していた。

 もちろん、ロキとヴァン兄妹も同席した。


 最初こそ彼らはフラールへの社交辞令を述べたが、それ以降は、現在の世界情勢の情報共有や、今後の予定、聖剣の扱いなど実用的な話題に終始した。


 驚くべきことに、彼らはユージンが聖剣を持ち出すことに、全く反対しなかった。

 それは、ロキが許可していることやネアン帝国皇女であるフラールへの配慮もあるだろうが、そもそも、彼らは聖剣を自分達のものだと認識していなかったことによる。


 ミッドフィアという国は、千年前の勇者の知識を享受することで始まり、発展していった都市、そして国だ。


 だからこそ、『勇者の物』に対する所有権を主張することはタブーとされていた。

 彼から得た知識や、それを発展していった魔法体系、魔道具作成能力は、この国の誇るべき財産である。

 一方で、彼の家とそこに眠る蔵書や魔道具そのものは、管理こそすれ、所有権は未だ勇者にあるべきである、という考えが根付いているのだ。


 彼のおかげで発展した国が、彼の所有物を横領するなど言語道断、ということである。


 とはいえ、『勇者の庵』に保管されている数々の品を他国の人間にホイホイ貸し出すつもりはない。かの家はミッドフィアとして厳重に管理し、物品の持ち出しも厳格にするべきとの認識はある。

 だがそれでも、千年前の勇者自らが、当代の勇者に託した聖剣の所有に関して口を出すほど恥知らずではない、とのことだ。


 最悪、一悶着の末に逃げるように出国することもあり得るか、と考えていただけに、ミッドフィアの首脳が良心的な思考の持ち主で、ユージンは心からホッとした。

 まあ、それでもここの人間の多くは研究者出身であるため、聖剣への興味はあるようで、ユージンの腰にある剣への視線が熱かったが。


 食後に、少しだけ、と『セブン・フォース』を触りたがった首脳陣に、ユージンは苦笑しながら剣を手渡した。

 そして首脳陣に混じって剣を観察するロキに近寄り、耳打ちした。


 それに対して、ロキは面白そうなニヤケ顔をして頷くのだった。




次の投稿は明日の予定です。

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