第28話 七の魔剣『セブン・フォース』
前話のあらすじ:
ユージンは謎の世界にとばされた!?
ジャンヌ「ねえ、ここなら私が出ても良いんじゃない?」
フラール「誰、貴女?」
ゾーイ「だれ~?」
ユング「誰だ、姉ちゃん」
フラール「どちら様ですか?」
ジャンヌ「う、心折れそう」
ユージン「まあ待っとけよ。一応、読者に忘れられないように章末に出番は用意してあるらしい」
ジャンヌ「ホントかしらね……」
そこは、どこまでも続く無限の白だった。
光もなければ影もない。ただの白い空間だった。
そして、ユージンはそこに立っていた。
いや、もしかしたら「立っている」というのも気のせいかもしれない。上もなければ下もない空間で、「立つ」という概念は成り立たない。
「一体、何が――?」
『まさか、この剣が本当に再び目覚めることがあるとはな』
ユージンが周囲を見渡していると、どこからともなく声が聞こえてきた。
それは、空間全体から聞こえているようであり、直接脳に響いているようでもあった。
「誰だ!?」
『しかも、その剣……。その剣を持った少年が、ここを訪れるとは。因果とは実に奇妙なものだな』
謎の声はユージンの誰何に答えることはなく、勝手に感想を述べるのみ。
ユージンは、1つ深呼吸をして、現状を把握しようと努める。
おそらくであるが、これは現実ではない。あまりにも現実味がない。
光も影もない世界など、あるはずがない。したがって、これは、この家に仕掛けられた何らかの魔法によって、意識のみの世界――そんなものがあるのかは知らないが、今ここがそうでなければ頭がおかしくなる――に飛ばされたのだろう。
であれば、この声は、おそらく。
「あんたが、千年前の勇者か?」
『千年……そうか、もうあれから千年も経ったのか』
ユージンの声が聞こえていないわけではないらしい。単に答える気がないだけか。
若干イラッとしつつ、ユージンは質問する。
「この剣を知っているのか?」
そう言って、ユージンはベルトに差した、折れた魔剣を宙に掲げた。
『ああ、懐かしいな。しかし、そこそこの強度があるはずのそれが折られるとは。相手は魔剣か。まあ、本当の魔剣が相手では分が悪いな』
ユージンは、声の内容に眉をひそめる。
本当の魔剣相手、という表現は、まるでこの『セブン・フォース』が偽物の魔剣であるかのように聞こえる――。
「これは、正真正銘、七の魔剣『セブン・フォース』だぞ」
ユージンがそう言うと、一瞬の静寂の後、空間に豪快な笑い声が鳴り響いた。
『はっはははっ!それが『セブン・フォース』だと?傑作だ!千年前と同じ間違いを、また聞くことになろうとは!』
ユージンは混乱した。
この声は、確かに魔剣のことをよく知っているようである。明らかに、自分以上に。
その声が言うには、ユージンがずっと『セブン・フォース』だと思っていたこの剣は、違うものであるらしい。
だが、この魔剣は『嘆きの丘』に千年間封印されていた、歴とした魔剣であるはずだ。
封印を解いたユージンだからこそ、声の否定は受け入れられなかった。
「じゃあ、この剣は何だと言うんだ!?」
語気も荒くユージンが問うと、声はフッと鼻で笑った後に答えた。
『その剣の銘は、『セーブ・フォース』。七の魔剣の試作品だ』
「試作品、だと?」
『そうだ。その試作品で他の魔剣を抑えたアイツはマジですげえよ』
声が、しみじみと言った。
他の魔剣を抑えた?何の話だ?
ユージンはそう問おうとして、1つだけ思い当たるものがあった。
魔剣大戦。
千年前、マナスカイで大陸全土を巻き込んだ大戦争の発端となった六つの魔剣と、それを封印した英雄。
この声は、その事を指しているのか?であれば、七の魔剣は、もともと魔剣ではなかった?この声は、その英雄と知り合いだった?本物の七の魔剣はどこにある?
様々な疑問がユージンの頭を駆け巡る。
そんなことを気にすることもなく声は続ける。
『そのアイツに認められたお前なら、この剣の本当の姿を見ることができるかもしれないな。もしお前が、この剣に眠る七つの力全てを解放できたなら、その時こそ、世界は真に救われるだろう』
いつの間にか、ユージンの右手に剣が握られていた。
◆ ◆ ◆
これまでユージンが『セブン・フォース』だと思っていた剣とほぼ同じ、日本刀を模した柄。
そしてそこから伸びる刀身はやや婉曲しており、日本刀のようにも見えるが、日本刀独特の鎬や刃文は見られない。形状としてはサーベルに位置するだろう。
「これは……」
ユージンは、その剣の持つ存在感に、若干たじろいだ。
声が『セーブ・フォース』だと言った、ユージンが数ヶ月間使い続けた剣も、十分に強烈な存在感を放ってはいたが、これはさらにその上を行く。
その源はおそらく、内に秘められた強大な力と、芸術品のような美しさと――若干の違和感。フォルムも柄や鍔のデザインも完全に日本刀なのに、刀身だけが西洋風だからだろうか。
軽く振ってみると、『セーブ・フォース』よりも若干重く感じるが――精神世界(?)でも重さを感じる――使用に問題はなさそうである。
『聖剣、だなんてこの世界では呼ばれたがな、何一つ神聖なものなんてない。それは、魔力を使って、敵を倒すために作られた魔剣だ。ただ一つ、他の魔剣と違うのは、あらゆる局面に対応するために、複数の能力を備えていることだ』
そういえば、とユージンは思い出す。
一の魔剣から六の魔剣までは、マナスカイにおけるマナの六大属性に特化した能力を持っているとジャンヌから聞いた覚えがある。
すなわち、
一の魔剣は、闇。
二の魔剣は、光。
三の魔剣は、炎。
四の魔剣は、水。
五の魔剣は、風。
六の魔剣は、土。
七の魔剣だけは、属性も能力も不明とされ、故に本物の魔剣と同列に扱うかどうかで議論を呼んでいた。
「複数の能力?」
対して、声が魔剣と称したこの剣は、属性特化ではなく複数の能力があるらしい。
『そうだ。試作品である『セーブ・フォース』は『断魔』という一つの能力しかなかったが、この剣には他にも六つの能力が眠っている。お前がこの剣を使いこなしていけば、いずれその能力も目覚めるだろう』
かつて、カイナの魔剣の攻撃を防いだ能力は『断魔』というものだったらしい。
あれだけでも、カイナと同等の剣の腕前があれば四の魔剣にはある程度対抗できたように思う。
それに加えて、まだ六つもの力が眠っているという。それが本当なら、この剣は、確かに恐るべき力を秘めていると、ユージンは少し薄ら寒いものを感じた。
そして、千年前の勇者がこの剣を使いこなしていたのならば、魔王を倒せたのも納得と言うものだ。
ユージンは、もう一度その剣を振るう。
剣の形は反りがあるため、直剣だったこれまでの剣とは異なる。それでも、いやに手に馴染むそれは、やはり『セーブ・フォース』と作りが似ているためか。
そして、これほどまでに『七の魔剣の試作』と似ているということは、つまり。
「この剣の、銘は?」
ユージンの質問に、声は少し笑ったようだった。
『もう分かってんだろ?それこそが、七つの力を持つ最後の魔剣――七の魔剣『セブン・フォース』だ』
「これが、本当の、『セブン・フォース』……」
クゼール王国で、数か月にわたりその名前の剣を、しかし本当は違う名前だった剣を振り続けた身としては、感慨深いものがある。
名前は全く新鮮味はない。それなのに、ようやく逢えたような、不思議な感覚。
ユージンが複雑な感情でその剣を眺めていると、周囲の『白』が揺らいだ。
そして、声が遠ざかっていく。
『じゃあな。頑張れよ、少年――いや、当代の勇者』
「っ!ちょ、待ってくれ!まだ訊きたいことが――!」
ユージンが虚空に左手を伸ばすも、そもそも声には影も形もない。
何も掴むことのできぬまま、ユージンの意識は周囲の空間と共に揺らいでいき――。
『俺が生まれた世界と俺が死んだ世界を、頼んだぜ』
次の投稿は明日の予定です。




