第26話 ヴァン兄妹と師匠ロキの関係
前話のあらすじ:
双子の師匠が、双子の旅への同行を要求してきた!
ユージン「聖剣と言えば……」
ディストラ「なに?またゲームの話?」
ゾーイ「エクスカリバー!」
ユング「デュランダル!」
フレイヤ「天叢雲剣、です」
フラール「渋いわね」
ディストラ「え?ちょっと、また俺だけついていけてないんだけど……」
最初に硬直から復活したのは、勝手にこの先のことを決められた兄妹だった。
「ちょっと待てよ師匠!どういうことだよ!おれ達に飽きたから捨てるってことか!?」
「ひどいです。最低限の良識はあると思ってました」
幼い少年少女に詰られてなお、変態魔法士と名高いロキは意に介さずに笑い続ける。
「人聞きの悪いことを言わないでちょーだい。キミ達には、まだそんなには飽きてはないよ。ただ、たぶんこれがキミ達のためなんだよねえ」
「おれ達のため?」
師の不可解な言葉に、双子が首を傾げる。
そこでロキはようやく真面目な表情になった。
「そう。キミ達が一体何者で、なんで僕に拾われる事になったのか。それを知りたいんだったら、彼等と共に行くべきだ」
ロキの言葉に、ユージンが眉をひそめる。
ヴァン兄妹が親元を離れて変態魔法士に師事していることは聞いているが、その経緯までは聞いていなかった。今の発言からすると、彼等自身も、そしてロキもその原因を知らないようである。
「なんで、そう思うんですか?」
フレイヤが、冷静に訊ねた。
それに対してロキは再びにんまりと笑って、
「勘だね~」
ユージン達を呆れさせた。
しかし、ヴァン兄妹は慣れているのか、それとも別の要因か。呆れとは違う、顰めっ面をしていた。
それを疑問に思ったユージンが訊ねると、フレイヤが不本意そうに答えてくれた。
「師匠は、はっきり言ってしまえば勘で生きてるんです。数々の大発見も勘、旅の行き先をどこにするのかも勘、私達を助けてくれたのも勘……。だから、師匠は勘に逆らうことはしないし、私達もそれを否定できないんです」
10歳の少女が達観したかのような表情でそう告げるのを見て、ユージンは今日何度目かわからない、顔がひきつるのを感じた。
幼い双子を同行させる理由が勘と言われては、反論のしようもない。そして、当人達も積極的に否定してこない。
どうするか、というつもりでユージンはライリーの顔を窺う。
彼は、ロキの条件を飲んだ場合のメリットとデメリットを考えているようだが、やはり小さい子供を連れていくのは難しい、と判断したようだった。
だが、その代わり長期間ここに留まるか、強権を振りかざすか、どちらも判断が難しい。
そんな悩める男性に、ロキが言い放つ。
「あれ?その2人がまだ10歳だから躊躇っちゃってる?大丈夫だよ、この僕が魔法戦闘技術も旅の仕方もサバイバル術も仕込んだんだから。少なくとも、そこのお姫様よりは役に立つよ」
指差されたフラールは、何ですって!と叫ぼうとして、その双子の顔を見て冷静になり、反論できない事に気付いて押し黙った。
確かに、ヴァン兄妹は10歳とはいえ2人きりで片道数日の場所まで旅をして、師の要求通り村人と交渉し、鉱石を入手したのだ。フラールが1人で出来るか、と問われれば、首を横に振るしかなかった。
カエルの獣魔と戦って死にかけもしていたが、それだってフラールでは耐えることすら出来なかっただろう。
フラールに出来ることと言えば、回復魔法だけ。そして、フレイヤは現在回復魔法が苦手らしいが、それも訓練すれば使えるようになるだろう。
そうすれば。
「(あれ、もしフレイヤが一緒に行くことになったら、私のいる意味がない……?)」
フラールは、その事に気づいて愕然とした。
そのショックを受けている様子を横目で見ていたユージンは、ロキの言葉が思いの外深く刺さったようだと判断して、フォローする。
「おいおい、フラール様が役に立たないだなんて滅多なことを言うなよ。彼女がいるだけで、面倒な貴族連中の相手を全て任せられるんだぜ?」
この先、魔王のもとに辿り着くまでに様々な国を通ることになるが、入国審査が通常に機能すれば、勇者が来たことはすぐに国のトップに伝わるだろう。それが空気の読めない人物だった場合、もてなしと言う名の無駄な接待が行われることは想像に難くない。
それは政治の世界などほとんど知らないユージンにとって、獣魔と戦うよりも面倒なことであった。
そこで、フラールの出番である。
この世界で最も大きい帝国の皇女である彼女がいれば、勇者であるユージンへの注目は薄まる。さらに、貴族世界に長くいたフラールなので、貴族ならではの腹芸も任せられる。
実際のところ、その点ではフラールを頼りにするつもりだったユージンは、今後起きるであろうと想定していたことを言った。
しかし言われたフラールは微妙な表情で。
「ユージン、それはフォローなのかしら?何故だかあまり嬉しくないのだけど」
「仕事っていうのは嬉しくないものと相場が決まってるらしいぜ」
「使いどころが違わない?」
「細かいことは気にすんなよ」
一応、ユージンの気遣いであることは分かっているフラールは、深く追求はしなかった。
そして、ユージンのフォローがその方面でしかされないことに、彼の中での自分の評価を改めて認識して少し落ち込む。
「(でも、事実よね)」
そもそもフラールは、そういう立場で、そのように育てられたのだ。出来ない事に嘆くより、出来る事で役に立とう。
そして、出来ない事はこれから出来るようになればいい。
そう考え、フラールはユージンに微笑んだ。
さすがにフラールのその心境までは把握できないユージンは内心首を傾げるが、とりあえずフラールの機嫌は直ったようだと話を本題に戻す。
「えーっと、一応、2人の意見を聞いとこうかと思うんだけど?」
こちら側が受け入れるかどうかはともかく、彼等に行く意思がなければ、倫理的にも連れて行くわけにはいかない。
であれば、それについての議論など無意味である。
「(ただ、さっきの感じだとフレイヤはすでに諦めてるし、ユングはどうだ?)」
ユージンの視線を受け、ユングが口を開く。
「まだ師匠に色々教えてもらいたい気持ちもあるけど、正直言って、兄ちゃん達に付いて行った方が楽しそうなんだよなぁ。あと、やっぱり、おれ達が何者なのかは知りたい」
楽しそう、という理由でついて来ようとするならば断ろうと思ったユージンだが――ユングは、台詞の前半はふざけたように笑っていたものの、後半で真剣な表情になった。
フレイヤも、頷いている。
「それについても聞いておかないとな。どういう事なんだ?自分たちが何者なのか知るとはどういう意味だ?」
自分探し、とか、自分が何のために生まれたのか、とかそういう哲学的な話をしているわけではないだろう。
ユージンの質問に双子は頷いて、フレイヤが説明した。
曰く、2人は元々行商人の子供で、幼い頃から両親と数人の使用人とで行商をしながら各地を転々としていたらしい。
しかし、彼等が5歳の頃に強力な獣魔と思われる何かに襲われ、両親と使用人は殺されてしまった。そして、次は兄妹も殺される、というところで、勘によってその場に導かれたロキによって救われたのだ。
彼等が旅をしていた馬車は全て獣魔の攻撃によって破壊されてしまい、残ったのは着の身着のままの2人と、父親が最期にユングに託した、炎を模った翡翠のペンダントだけだった。
その後、2人の魔法の才能に気付いたロキは、兄妹を施設に入れるのではなく自分で引き取り、ミッドフィアに身を落ち着けて魔法の英才教育を施したのだった。もちろん、自分が楽しみながら、ではあったが。
そこまで説明を聞いたユージンは、首を捻る。
「それだけ聞くと、2人には悪いけれど、良くある話のように思えるけど?」
行商には、危険が付きものだ。そもそも全財産を持ち歩いているので、野盗にも狙われる上、国と国の間の移動では安全が保障されない。獣魔に襲われることも、ままあるだろう。
もちろん獣魔対策に護衛は雇っているだろうが、それで対処しきれない獣魔に襲われて全滅することが珍しいとは思えない。
ユージンの考えに、ライリー達も同意する。そこに、ロキが情報を追加する。
「なんだけど、ねぇ~。3つ、気がかりがある。
1つ、彼等の両親を殺した獣魔があまりに強すぎた。この僕ですら止めを刺せないほど。もしかしたら、悪魔の一種だったのかもしれない。どちらにせよ、そんな強力な敵がピンポイントで彼等を狙うのは不自然だ。襲われた場所に居座っていた訳でもなかったし。何らかの狙われる理由があったと僕は考えている。
2つ、この2人の魔法能力が高すぎる。潜在能力だけならこの僕をも凌ぐだろう。僕のように普通の両親からポンと天才が生まれることはあるけれど、基本的には魔法の才能は両親の能力を受け継ぎやすい。2人とも才能があるということは、それなりの魔法士の家系である可能性がかなり高い。2人の記憶でも、両親は上級魔法をポンポン使っていたらしい。そんな両親がなぜ行商をしていた?
3つ、ユング君の翡翠のペンダント。彼等の父親が肌身離さず身に着けていたらしいけど、かなり精巧な魔法技術によって内部に三重の魔法陣が刻まれている。こんな技術は、若い頃に世界中回った僕ですら見たことがない。今は失われた技術だ。おそらく、売ればとんでもない値段になるだろう。というか、研究機関か博物館行きだね。そんな代物を、豪商でもない行商人が普通持ってる?何らかのルートで手に入れたとして、後生大事に取っておく?さて、キミ達はどう思う?」
ロキの言う「気がかり」は、確たる証拠はなく、彼の勘によるものだ。
強い敵に襲われたのはたまたまかもしれないし、2人の両親が行商をしていたのは、単に性に合っていたからかもしれない。ペンダントだって価値を知らなかったのかもしれないし、知っていたとしても一目惚れして身に着けていたかっただけかもしれない。
冷静に考えればそうなるのだが、ロキの言葉には不思議な説得力があった。
ユングとフレイヤの兄妹が、「何者か」であるような気になってくる。そして、自分達と行動を共にすることで、それが判明するのではないかという気分に。
気分で釣られるべきではない。ユージンはそう考えるものの、翡翠のような髪を持つ2人がその黄色い瞳をこちらに向けて真剣に見つめてくるのを受け、大いに気持ちが揺らいだ。
それに、とユージンは思う。
「勘」というものは、本当に虫の知らせのように何の根拠もないこともあるが、多くは経験によって得られるものだ。視覚や聴覚といった五感から得られた情報を、本人の自覚もないままに経験から推測・判断しているものが、勘だ。
今回のロキの思い付きも、もしかしたら魔法的な何らかの情報から無意識に判断している可能性も……無いか?
そうしてユージンはしばらく考えたのちに、うん、と頷いた。
「分かった。2人を連れて行こう」
「ユージン!?」
ぎょっとしたのは、ライリーだけだった。
他の3人は、ユージン以上にロキの話に感化され、双子の眼差しに敗北していた。ライリーも危なかったが、やはり子供を連れて行くわけには、という大人の冷静さを発揮していた。
ユージンはライリーの非難の視線に苦笑し、悪いと思いながらも、フラールもその気だし、と自分を正当化する。
「ただし、いくつか条件がある。まず、同行する期限を設ける。2人が何者なのか判明するまで。それ以降については、その時にまた話し合う。次に、危険度が高い作戦などの場合は待機すること。その場合、フラールも同様に待機させる。最後に――、1番重要な事を。
俺達は観光旅行をしているわけじゃない。魔王を討伐するために旅をしているんだ。足手まといを連れていることはできない。一緒に行くなら、2人とも一人前として扱う。子供だからという逃げは通用しない。
そして俺達は敵からすれば暗殺部隊だ。常に危険が付きまとう。いつ死んでもおかしくない。本当に、それに付いて来る覚悟があるか?」
ユージンの甘えを許さない厳しい声色に、ヴァン兄妹は真剣な表情で数秒口ごもった。
ユージンの言葉の意味を、しっかりと考えているのだろう。
やがて表情が、大人に守られてきた子供のものから、10歳ながら、自分の身の責任を自分で負う覚悟を決めたものとなる。
最後に2人はお互いの顔を見て頷き、
「分かってる。兄ちゃん達に迷惑をかけないとは言えないけれど、自分の行いには責任を持つよ」
「自分の身は、自分で守ります。だから、お願いします」
頭を下げた双子に、ユージンは頷いた。
次の投稿は明日の予定です。




