第24話 学術国家ミッドフィア(外区画)
前話のあらすじ:
仲間が増えて賑やかに再出発!
ユージン「子供が3人に増えたな」
ゾーイ「あぁ!ユージン今ボクをお子様枠に入れたね!?」
フラール「ゾーイ、流しなさい。ユージンの思う壺よ」
ディストラ「おお、さすがにフラールは大人だね」
ユージン「の割に……」
フラール「ユージン!どこ見て言ってるの!?」
ディストラ「駄目だこりゃ」
ユージン達一行は、ヴァン兄妹を加えても特に行軍速度を落とすことなく進んだ。兄妹が召喚した山羊の幻獣は、彼らが誇る通り、馬にも全く遅れをとらなかったのだ。
その上、白蛇のように喋ることはできないものの、人間の言葉は完全に分かるようで、足としてはかなり有能であった。
ちなみに、ヴァン兄妹の魔法能力をユージンが訊ねると、兄のユングが攻撃魔法特化型、妹のフレイヤが防御魔法特化型であるとの回答を得た。
基本的に2人は一緒にいるし、1つを伸ばした方が効率が良いとの師の意見だそうだが、ユングが師を評して曰く、その方が面白いからそうしてるだけに違いない、とのこと。
ちなみに村の老人を治療した、回復魔法に適正があるのはフレイヤだが、あまり得意ではないらしく、使えるのは「完全回復」だけであり、非常に効率が悪いらしい。
そのため、あまり使わなくてすむように防御魔法を頑張っているとのこと。
さて、2人の加入によって行軍速度が落ちることは無かった一行だが、ネアン帝国を出てから街道の整備が甘くなり、それによって僅かながらに行軍速度が落ちたことは否めなかった。
ライリーによれば、この街道は別の国の領地ではあるものの、実はネアン帝国とミッドフィアがこっそり整備しているとのことだった。実際に使用しているのはこの両国を行き来する商人が主だからだ。
こっそり行っているのは、もちろん本来の持ち主を立てるためである。
彼の国も自国の領土で道が整備されていることに気づいてはいるものの、不利益ではないので黙認状態との事。街道沿いの宿場町にもあまり干渉してこないらしい。
なぜそんなことになっているのかというユージンの問いに、ライリーは、彼の国の首都や主だった都市はずっと東にあり、経済も東の国との間に成り立っているものが大きいからと答えた。
ユージンは、その言葉の裏にネアン帝国との不仲を感じた。
それはともかく、ネアン帝国を出た2日後に、彼等はミッドフィアの外周に辿り着いていた。
そこには、ミッドフィアの国境を示す看板と、国境線沿いに20cm程の灰色の杭が、概ね1m間隔で延々と打たれていた。
「あれが、首都の外壁、じゃないよな?」
事前にライリーから、ミッドフィアは都市国家であり、首都の外壁が国の領地であると聞いていたユージンが首を傾げてライリーを見る。
しかしライリーも困惑した表情をしており、彼にとっても予想外の出来事であったらしい。
「私もこれまでミッドフィアに来たことはないので、情報としてそう聞いていたのだが……」
首を捻るユージンとライリーに、後ろからフラールが解説した。
「ミッドフィアは、同心円上の3つの区画に分かれているのよ。その1番中央がいわゆる首都で、『知識区画』と呼ばれている区画よ。そこに頑丈な外壁があるわ。首都の外側に、魔道具作成工房や魔法実験施設が林立する『実験区画』があって、その外側に『農場区画』があるの。この最後の区画が、実質上のミッドフィアの国境ね」
ここから馬で数刻走れば、その首都に着くらしい。
ちなみに、実験区画と農場区画は区画改編が頻繁に行われるため、物理的な外壁は作らず、魔道具による魔法の『壁』によって獣魔等の侵入を防いでいるらしい。
その魔道具が、例の杭である。
なお、ミッドフィアは元々は知識区画が国土の全てであり、他の区画は知識区画が手狭になったために近年開拓した土地である。
さらに「知識」を最優先する学術国家の性質上、現在でも知識区画以外は付属区画とみなされることも多く、ライリーのような認識でいる人間も国内外に少なからずいるのだ。
「なるほどな……。フラールが頭よく見えるな」
「再三言うけれど、私は皇女で、相応の教育を受けているのよ?皇女としてミッドフィアを訪問したこともあるわ。ただのお転婆姫とは思わないことね」
「自分で言ってるし」
「な・に・か?」
「いえ」
疑問を解消したユージンは、国名が表記してある看板を掲げる、門らしきものへと進む。材質は木でできているようなのだが、妙につるっとしており、色も灰色だ。
その門をくぐった瞬間、パリッと何かを感じた。
「ん?これは……」
眉根を寄せるユージンに、続いて門をくぐったゾーイも口を開き、
「何か魔法がかかったにゃ~。索敵に近い感じ~」
続くフレイヤが解説する。
「農業区画の門には、周囲の魔道具と同様に『魔珠』を解析する魔法が備わっています。ここで、悪魔や獣魔の持つ『黒い魔力』を感知して、『壁』を展開するんです。次の実験区画との境には、変な人が入ってこないか確認するために衛兵さんが居るはずです」
「便利な魔法だね」
ディストラが門を潜りながら、その先に視線を遣る。
見渡す限り一面の畑が広がっており、規則正しく畝が並んでいる。ディストラもクゼール王国の片田舎出身なので田園風景は珍しいものではないが、これだけの規模で畑だけが並んでいると圧巻であった。
「どうした、ディストラ兄ちゃん?ただの畑だぜ?」
見慣れているユングが、感心した様子のディストラに問いかけた。
「いや、これだけ大規模な畑は見たことなかったから」
ディストラの意見に、ユージンも同意した。
「そうだな。まるでプランテーションだ」
「ぷらんて……?」
ディストラ含め、一同が顔に疑問符を浮かべた。
「ああ、いや何でもない。さあ、先に進もうぜ。畑見学は残念ながらお預けだ」
地球の単語の解説に時間を取っても仕方ないので、ユージンは皆を促して道を行く。
そして、1刻ほど進むと、先ほどと同じような杭の列と、工場のような大きくシンプルな外観の建物、さらにその彼方に灰色の壁らしきものが見えてきた。
「あれが首都の外壁か」
「そうです。手前の実験区画との境界に関所があって、そこで軽く身分確認されます」
フレイヤが、道の先にある小屋を指して言った。
身分確認、と言われ、ユージンはライリーを見る。身分証の類などは一切持っていない訳だが。
「大丈夫だ。ネアン帝国の正騎士である私が身分を保証すれば、ほとんどの国で問題なく入国できる。その後、その国での身分が必要な場合は、大使館で特例として身分証を発行してもらう」
その辺りは抜かりがないようだ。ユージンは安心して、先に見える関所へと向かった。
一行が近付くと、小屋の中にいた中年の男性が表に出てきた。
一応帯剣をしてはいるが、防具は何も身に付けていない。ここでいさかいが起きるはずもないと思っているのだろう。
もし悪魔が来たらどうするんだ、と思ったユージンだが、その時は諦めるのだろうか。
男性は、一行を観察し、その中に見知った顔を見つけて顔を和らげた。
「ロキ先生の所の双子じゃねえか。無事戻ってきたんだな」
「あったり前だ!あんなの俺達の手にかかればどうってこと無かったぜ!」
威勢良く答えるユングに、フレイヤがやや恥ずかしそうな表情になる。
確かに、師の求める鉱石の入手に難はなかったが、その後に死ぬ思いをしたのを兄はもう忘れたのだろうか、と思うが、ユングが調子が良いのはいつもの事なので突っ込みはしなかった。
「はは、いつも通りで安心するぜ。それで、こっちの人達は?」
視線を向けられたライリーが、馬から降りて対応する。
「私は、ネアン帝国の騎士ライリー=ナダルヤだ。所用があってこの国に来る途中、彼等と出会ったので同行していた。後ろの少年達は、任務の協力者で、身分は私が保証する。入国して構わないか?」
ライリーのお堅い態度に、男性はやや引いたようだが、特に疑うことなく頷いた。
「ここでは、よほど怪しい人間以外は通すことにしているからな。ネアン帝国の騎士様の保証とあっちゃあ、通さないわけにはいかないな。外壁にある入国管理所できちんと審査を受けてくれ」
テキトーな身分確認を簡単にスルーして、一行は実験区画に立ち入る。
遠くから見えていた工場や倉庫のような建物に加えて、背の高い塔のような建物や、平たくて何なのかよく分からない建造物があちこちに林立している。
ここだって、スパイなどに入られたら大打撃を受けそうなものだ。とユージンが告げると、フレイヤが、各建物に防犯用の魔法が掛かっているからそう簡単には侵入できないと解説する。
「それにしても、フレイヤは色々知ってるな。どっちが兄か分からんな」
ユージンがユングに視線を向けて言うと、少年は面白くなさそうに顔を背ける。
「おれだってそのくらい知ってるよ!ただ、フレイヤの方が説明がうまいだけで」
その言葉に、ゾーイが生温い視線を向ける。
「ふ~ん」
「何だよ」
「べっつに~。それより、さっきの人が言ってたけど、2人の師匠って、あの魔法士ロキなの?」
ゾーイの質問に、双子が頷く。
それは誰だ、というユージンに対して、ゾーイが答える。
曰く、まだ30代半ばだが若い頃から頭角を表していた天才魔法士で、ネアン帝国にもその噂は届いていたらしい。
実力はルキオールにも劣らないとされるが、性格に難がありすぎて誰かに仕えるということはしないとのこと。
昔は様々な国を転々としていたらしいが、個々の実力が評価され個人主義が強いミッドフィアに根を下ろし、現在は勝手気ままな研究をしているらしい。
その非凡な才能によって魔法学上重要な新発見をいくつも成しており、ネアン帝国の魔法局でも彼の発見から得るものは多いとのこと。
「話を聞く限り、子供を弟子にとるようには思えないんだけど?」
ユージンの指摘に、ユングが顔をしかめる。
「あの人は、楽しけりゃ何だってやるんだよ。俺達だって弟子ってことになってるけど、たぶん面白いオモチャくらいにしか思ってねーよ」
「わたし達に魔法を教えて変な現象を起こすのが好きなんです。一応、人間として最低限の倫理観は持っていますが、最低限しか持っていないというか」
ユングはともかく、物腰柔らかなフレイヤをしてこれである。相当な変人であることが容易に想像できたので、ユージンは彼の人には関わらないことに決めた。
もちろん、それで済めば、であるが。
知識区画とやらに着いたら、なるべく早く双子とは別れてその人とは会わずにさっさと目的を達したい。
そう思いながら、10m程の高さがある首都外壁へと近づくのだった。
次の投稿は明日の予定です。




