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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第2章 魔剣と聖剣
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第21話 下山

前話のあらすじ:

子供達を蛙の大群から守った!


フラール「思い出すだけで背筋が凍るわ」

ユージン「でも、蛙って結構美味いらしいぞ」

ディストラ「そうだね。サバイバル訓練ではよく食べたよ。あれだけ大きければ食べ応えも十分だね」

ゾーイ「」(ドン引き)

 地表を覆っていた氷が数秒で砕け、上空に舞い、水蒸気となって消えてゆく。

 同時に、数十匹の蛙達が空に舞い上がり、炎に焼き尽くされて灰となり、高く高く昇る。

 その火柱は、数十mの高さとなり、麓の村からもはっきりと見えたことだろう。



 ユージン達が唖然としていると、すっかり綺麗になった広場の向こうから、ゾーイが悠々と歩いてきた。


「いや~すっかりさっぱり。跡片付けって大事だよねっ!」

「いや、お前何やっちゃってんの?」


 軽い感じの「跡片付け」という言葉とは大きく乖離がある行動に、麓では大騒ぎになっていることだろう、とユージンが首を振る。


「だって、あのまま氷が溶けちゃったら広場はべちゃべちゃぐちょぐちょ蛙の死体まみれだよ~。ボク、そんなところには二度と行きたくないもん」

「う。確かに、それは想像したくないな……。ゾーイ、良くやった!」

「いえーい!」


 氷が溶けた後のことを具体的に想像していなかったユージンは、掌を返してゾーイを褒めた。

 しかし、冷静なフラールはハイタッチする2人を半眼で眺めて突っ込む。


「いや、他にやり方あったでしょ多分」

「え~、フラール様だって、私にこんな事させるなんて、とかユージンにぶちぶち文句言ってたじゃな~い。だから、ボクがきれいさっぱりお掃除したんだよ!」

「そ、そんなこと言ってないわよ!それに、問題なのは目的じゃなくて手段よ」


 ユージンから、言ったのか?と訊かれて、言ってないわよ!と顔を背けつつ剣を返却するフラール。


「まあまあ、過ぎた事を言っててもしかたないし、そろそろ下山しない?」


 ディストラが、3人の言い合いが始まる前にと話を誘導する。

 ユージンもそれに頷いて、一行は山を下り始めた。


 ◆ ◆ ◆


 登りと同様に、ユージンとゾーイが先頭を行くが、今度は並んで歩く。

 その後ろに子供達が続き、その後ろにはフラールとディストラが並んで、最後にライリーという隊列である。


 歩きながらユージンが索敵魔法を使うが、周囲にはポツポツと狼らしき存在が確認できるだけで、群れはいなかった。


「獣魔はあまりいないな。登りで大量に狩ったから、手を出さない方が良いと分かったのか」

「というか~、この辺が縄張りの一群を殲滅しちゃったんじゃない?」

「いや、そこまでは減っていないはずだ。戦っている最中に、半分近くは逃げて行ったからな」

「え、狼の群れの中に突っ込んでる最中にそこまで見てたの?」

「いや、さすがに視認は難しい。時々索敵魔法で確認してたんだよ」

「いや、そっちの方が驚くんだけどにゃ~。まあユージンの戦闘中の魔法行使にいちいち突っ込んでも無駄かにゃ~」

「俺を変人みたく言うんじゃねえよ」

「え~、自覚無し?だいぶ変人だけど~」

「お前にだけは言われたくない」

「ボクは~自覚してるし~」

「自覚しててそれかよ。性質悪いな」

「それほどでも~」

「うざっ」


 ユージンとゾーイがいつものように会話していると、後ろからユングが話しかけてくる。


「なあ、姉ちゃん。おれもあいつらに炎の魔法を使ったんだけど、全然効かなかったんだ。なんで姉ちゃんの魔法は効いたんだ?」

「あ~、それはね~」


 ゾーイは、フレイム・トードとの戦闘前にライリーから聞いた情報をユングに教える。


「あの蛙に、そんな能力が……」

「獣魔って変な能力持ってるのがいっぱい居るからね~。ボクも、ライリーに教えてもらわなかったら蛙に水を浴びせようなんて思わなかったねっ」


 驚く少年に、ゾーイがフォローするように言う。

 それを聞いて、ユージンも真剣に考える。



 確かに、ゾーイの言う通り、あの蛙の対処法をライリーが知らなかった場合、苦戦した事は想像に難くない。

 剣で倒せないことはないが、あの数全てを倒すには骨が折れる。


 今後、もしライリーも知らない敵が現れた時、敵の能力を看破して無事に倒す事が出来るか。


「(経験と、発想が大事だな)」


 経験は言うまでもないが、経験に囚われると、逆に行き詰る可能性もある。

 今回の蛙も、蛙に水をかけても弱りはしないだろいうという経験則からは導き出せない対処法だった。


「(まあ、何にせよ、知識は大事だな。『獣魔の全て』みたいな図鑑が欲しいところだな。あるいは――)」


 ユージンは、RPG等では、敵の弱点を見つける系の魔法が良くある事を思い出した。


「なあ、ゾーイ。出会った敵の特徴とか弱点を判別する魔法とかって無いのか?」

「ん~、さっきの、蛙の粘液みたいなのを見抜くってことだよね?それは無いかな~。魔法って、発生する事象は人間が設定する必要があるからね。例えば、こういった特徴がある獣魔はこれが弱点、っていうのが分かってれば、その特徴があるかどうかを判別することはできるけど~。だからこそ未知の特徴に対しては、ノーアイデア、ってことになるワケ。それじゃ~ユージンの求めるものじゃないでしょ?」


「そうだな……。まあ既知の特徴全てを網羅して、同じような特徴があるかどうか判別されるだけでも多少はマシかもしれないが」

「それなら、理論上は可能だね。でも~、呪文が非現実的な長さになるかな~。触媒とか使えば短縮はできるだろうけど、開発に時間はかかるね~」

「結局、無理って事か……」


「そーゆーこと。できればすでにやってるよ。結局、今言った特徴を網羅する魔法についても、これまでの獣魔の特徴を人が覚えた方が早いって結論になったんだよね~」

「なるほどな。で、何でお前はあの蛙の特徴を知らなかったんだ?」


 ゾーイの話を聞く限りでは、魔法士の実戦部隊もその知識を持っていてしかるべきだと思うユージン。

 その質問に、ゾーイはあからさまに動揺した。


「え?あ、それはその~。にゃんと言いますか~。ボク、魔法以外の座学苦手なんだよねっ☆」


 テヘッと舌を出してウィンクする少女に、ユージンは冷たい視線を投げる。


「あ、その目は止めて。ボクのか弱い乙女心に再起不能なダメージが来ちゃう」

「いっそのこと再起不能になってしまえ」

「酷い!今日の功労賞は絶対ボクだよ!?」

「功績からウザさと残念さが差し引かれた結果、残念ながらマイナスだ」

「ユージンのマイナス評価は厳しすぎるよっ」

「これでも当初よりだいぶ甘くしているつもりだが。でなければお前が口を開く度にデコピンをしている所だ」

「暴力はんた~い!」

「これは躾だ」

「……ユージン、虐待を行う親は、そう言って誤魔化すんだよ?」

「いや、マジなトーンはやめろ」


 そうして、ユージン一行は相変わらず賑やかに道を進み、特に何事もなく村へと辿り着くのだった。


     ◆ ◆ ◆


 村に戻ったユージン一行の中に、ラルフの孫と、彼女を助けに向かった子供達が居るのを見て、喝采が挙がった。

 ラルフは孫を叱りながらも、涙を流して抱きしめる。


 安堵と興奮が落ち着いたころに、ライリーが現状を村人に説明し、坑道をどうするかについての判断を仰いだ。

 村人達の中には色々な意見があったようだが、結局は強力な獣魔の群れを倒す手段がないことから、坑道を閉鎖することを決断せざるをえなかった。



 その様子を見ていたフラールが、ポツリと呟く。


「何とかしてあげられないものかしらね」


 それを聞いたユージンが、彼女の軽く肩を叩く。


「皇女として国民を想う気持ちは良いと思うけどな、今回はどうしようもないだろ。俺達だって坑道の中を隈なく回って大量の蛙を退治する時間はないし、彼等に傭兵などの戦力を雇う金もない。可能性があるとすれば、帝国に依頼して騎士を派遣して貰う事だろうが、現在の情勢で帝国が、辺境の地の、人命の危機があるわけでもない所に、騎士を派遣するとは思えない」


 蛙を始末するだけで良ければ、方法はないこともないとユージンは考えている。

 ゾーイの魔法で坑道内を洗って、その後燃やし尽くせば良いのだ。


 だが、そんな事をすれば坑道内の岩盤はボロボロになり、いつ崩れるか分からなくなる。とてもではないが採掘できる状態ではないだろう。

 それでは、蛙を退治する意味がない。つまり、現状魔法で何とかする事は不可能に近い。


 であれば、残る手段は人力でひたすらぶった斬っていくのみ。だが坑道というからには、内部は広く、迷路のように入り組んでいることだろう。それを人の手で虱潰しに捜索するのはあまりにも手間がかかる。


「分かってるわ……」


 フラールとて、その辺りが分からないほど子供ではない。だがそれでも、と思ってしまったのだ。

 ユージンはその少女の気持ちを好ましく思い、頭を撫でてやろうかとしたところで、


「なあ、兄ちゃん。明日で良ければ、あの蛙達をなんとかできるかもしれないぜ」


 話を聞いていた少年から声がかかり、顔をそちらに向けた。




「どういう事だ?」


 村人達から少し離れた位置で、ユージンはユングに先程の発言の意図を問う。

 ちなみに、村人との話はライリーとディストラに任せ、フラールとゾーイもこちらに来ていた。


「あの蛙達を、坑道を傷付けずに何とかすればいいんだろ?おれとフレイヤの魔法なら、たぶん何とかできる」


 フン、と胸を張る少年と、おずおずと頷く少女。


「具体的には?」


 ユージンの質問に、ユングは得意気に答える。


「蛙を食べちゃう幻獣に協力して貰うのさ!あいつらなら、話が通じるから坑道を傷付けるなって言えば大丈夫だ!」

「……幻獣?」


 聞き慣れない単語に、ユージンが首を傾げて隣を見遣る。

 フラールはユージンと同じらしく首を横に降ったが、ゾーイは心当たりがあったらしい。


「人間と意思疏通をできるほど知能が高くて、滅多に姿を現さない獣達の総称だね~。概して魔力が非常に高くて、気に入った人間に協力することもあるって聞くけど~」


 ゾーイの説明に、ユングが頷く。


「そう!おれ達、何体かの幻獣と契約してるから、呼べば来てくれるんだぜ!」


 ゾーイが話にしか聞いたことがない程度のレアな獣との契約を、こんな子供がしているのだろうか、とやや疑ってかかるユージンが、フラールとゾーイの意見を聞くべく視線を向ける。


「まあ、やるだけやってみたら良いんじゃないかしら?」

「さんせ~。もしホントだったら興味深いし~」


 彼女達は、少年の言葉を半信半疑ながらも信じてみようという意見らしい。

 ユージンも、まあ一日くらいなら良いか、とそれを許容することにした。


「分かった。じゃあ、やってみてくれ。それで、何で明日なんだ?」

「フレイヤの魔力が今日の昼までにほとんど尽きちゃったから。明日になれば招集魔法を使えるくらいには回復するはずだよ」

「君一人じゃ出来ないのか?」


 ユージンの質問に、ユングが悔しそうな顔をした。


「あの蛙をなんとかできるやつは、2人で契約したから、おれ一人じゃ招集できないんだ」

「なるほどな。そうしたら、とりあえず今日はこの村で休んで、明日、村人には伝えずにその魔法を使ってみるか。失敗したときに変に失望されてもうまくない」


 ユージンの言葉が不満だったのか、ユングが唇を尖らせる。


「失敗なんてしねーよっ!」

「お、お兄ちゃん」


 ユージンは、鼻息荒い少年の頭に手を乗せ、


「失敗すると思ってる訳じゃない。だが、今の言葉だけで完全にうまく行くと信じられるはずがないだろう?現に君達は今日死にかけている」


 厳しくも冷静に諭した。


「そ、それは……」

「失敗することが悪い訳じゃない。だが、あえて失敗が許されない状況に自分を追い込む必要がないだけだ。これでも君達には期待してるんだぞ?俺達にはあの蛙を何とかする術はないからな」

「期待、してる?」


 少年と少女が、少し不思議そうな顔でユージンを見上げてくる。


「ああ。今日死にかけたとはいえ、結果的に君達は立派にあの少女を守ってみせた。10歳という年齢なんて関係なく、君達の能力には期待している」

「そっか……分かった。任せろ、兄ちゃん!」


 ユージンの言葉で機嫌を治した少年は、ぐっと握り拳を突き出してきた。

 ユージンは、笑顔でそれに自分の拳をコツンと付き合わせた。


     ◆ ◆ ◆


「という事で、今日はこの村に泊まることにした。勝手に決めて悪かったな」


 ヴァン兄妹が宿の部屋に引いた後、村人から解放されたライリーとディストラに事の次第を説明した後にユージンが謝った。


「まあ、良いんじゃない?俺も、このまま去るのは少し後味が悪いと思ってたし」


 笑顔で同意するディストラに続いて、ライリーも頷く。


「一日くらいであれば大丈夫だろう。ただ、これが何度も続けば問題だが」


 が、釘を刺しておくことも忘れない。

 行軍の責任者は彼だ。ユージン達の旅は一分一秒を争うわけではないが、のんびり観光している時間などは無いのだ。


「ああ。分かってるよ。ところでライリー、幻獣について何か知っているか?」

「その存在自体は知っているが、実際に見たという話は聞いたことがないな。招集魔法とやらを使うのならば、魔法士の畑ではないのか?」


 ライリーに視線を向けられたゾーイが肩を竦める。


「ボクも知らないんだ~。もともと、ネアン帝国は時空間系の魔法はあまり研究してこなかったんだよ。その分野は、北にあった国が得意だったんだけど、もう滅んじゃったから、あまり知識は広まってないんだにゃ」

「なんで研究してこなかったの?」


 ディストラの質問に、ゾーイが困った顔をする。


「それは~、ボクに言われても~」


 国の方針だし、とフラールに目を向けるゾーイだが、フラールも、私も知らないわよ、と首を横に振る。


「ま、なんにせよ、今日はこの村に泊まって、明日の朝、またあの坑道に出かけよう」


 ユージンの宣言に、一同は同意した。


     ◆ ◆ ◆


 孫を助けてくれたお礼に、と無料で宿を提供してもらったユージン達は、久しぶりの個室でゆっくりと身を休める。


「失われた魔法、か」


 ユージンは、他に誰もいない空間で呟く。


 ネアン帝国にはない魔法を使えるという少年少女。彼等は、どこでその魔法を覚えたのだろうか。

 北にあった大きな国は500年前に滅んだらしいが、その魔法体系が近くの国に細々と生き残っているということか。

 そうであれば、もしかすると異世界への送還魔法も残っているかもしれない。


 そこまで考えて、ユージンは溜息を吐いた。


「(いや、今更放り出すつもりはない。この世界を救う。それが、今の俺の生きる意味だ)」


 決意も新たに、ユージンは拳を握り、胸の上に置く。

 その内側では、静かに、だが熱く、心が燃えていた。


次の投稿は明日の予定です。

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