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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第2章 魔剣と聖剣
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第19.5話 ユング=ヴァンの誤算

新キャラ登場です

 もう何刻、同じ状況が続いているだろうか。


 天頂を通りすぎた太陽を睨みながら考える。

 少なくとも、日が昇り出してから……10刻はここでこうして耐え続けている。


「(くそっ、まさか、こんな事になるなんて)」


 ユング=ヴァンは、目の前の光景にぎりっと歯噛みして、胸に下がる翡翠のペンダントを握りしめた。


     ◆ ◆ ◆


 ユングが妹のフレイヤとこの村を訪れたのは、彼等の師の命令だった。


 魔道具を作る鉱石が欲しいが、街で売られているものの品質が悪い!と憤慨した彼等の師は、2人にこの村で鉱石を採掘してくるように命じた。

 まだ自分が子供であることを自覚している妹のフレイヤは、2人だけで遠出することを渋ったが、師に「おこちゃまには無理でちゅか~」とバカにされては、喧嘩っ早いユングはもちろん、温厚なフレイヤでさえも頭に来た。


 絶対にあのアホを見返してやる!と鼻息も荒く出発した2人は、特に問題なく目的の村に辿り着き、目的の鉱石を入手することに成功した。

 下山途中に狼の獣魔に襲われたが、スパルタンな師に魔法を鍛えられている2人は、苦戦しつつも退けることに成功した。


 この2つの成功で、良い気になっていたのだろう。村の少女が祖父のために山に入ってしまったという情報を聞くと、自分達ならなんとかできると軽く考えてしまった。

 そして、フレイヤが老人を回復した後で、村人の静止も聞かずに再び山に登った。


 しばらく進み、坑道の近くまで来たときに、悲鳴が聞こえた。

 2人は駆け出し、坑道前の広場で狼に襲われる少女を見つけた。


 ユングはすぐさま氷の槍の魔法で狼の数匹を貫き、敵の注意を引き付けた。

 その隙に、フレイヤが少女の周辺に『殻』系の防御魔法を展開する。それを確認してから、ユングは広場一面に炎の魔法を放った。

 魔法耐性の高くないブラック・ストーカーは、なすすべなく炎に飲まれ、灰と化して消えた。


 開けた土地であれば、あの狼なら苦戦することもなく倒せるな、とユングはさらに気分を良くする。

 狼を始末した2人は、ポカンとする少女(といっても自分達より年上だが)の怪我を治し、事情を説明した。そして、下山しようとしたのだが。


 アオーン、と近くで狼の遠吠えが聞こえた。

 既にほとんど日は落ちている。さすがに暗闇では相手に分があると判断したユングは、坑道入り口の脇にある、かつて鉱石採掘のために作られた小屋に1晩泊まることにした。


 ここまでは、良かった。

 問題は、翌朝やってきた。


     ◆ ◆ ◆


 日の出とともに目覚め、早速下山しようとしたヴァン兄妹と少女は、小屋のドアを開けて外を見た瞬間、固まった。

 そこは、昨夕ユングが放った魔法で焼き尽くされ、草も残らぬ焦げ跡だらけの広場のはずだった。

 だが、広場はほとんど見えなかった。埋め尽くされていた。


 巨大な、赤茶色のヒキガエルの集団に。


 巨大というのは、一般的な蛙の範疇における巨大、ではない。

 その体高は、ユングの身長を超えていた。成牛程の大きさはあるだろう。

 1匹だけならいざ知らず、このサイズの蛙の集団の威圧感は尋常ではなかった。しかも、ドアを開けたことで、蛙たちの横長の瞳孔がこちらに向いた。


 その光景に、たまらず少女が悲鳴を上げる。


「ひっ!」


 ユングとフレイヤも、目の前の光景に、恐怖と嫌悪を抱いていた。

 ただ、曲がりなりにも彼等は師と共に何度も、そして昨日は2人きりで獣魔との実戦を経験している。ここで声を出すのは良くないと、脳裏に警鐘が響いていたため、必死に声を押し殺した。


 しかし、何の訓練もしていない少女は、本能のままに恐怖を口に出してしまった。

 最も近い位置にいる蛙が、こちらを認識したのが分かる。


 そう、「餌」として。


 彼等にとって、自分と同じ体高サイズの人間など、一飲みである。

 その大きな口を開いて舌を伸ばしてくる直前、


「出でよ『物理の盾』!」


 フレイヤの盾が寸でのところで間に合い、蛙の舌を弾き飛ばした。

 しかし敵は1匹ではない。何十という数の蛙が、広場を埋め尽くしているのだ。


「戻るぞ!」


 ユングは慌てて妹と少女を小屋に押し戻し、扉を閉めた。


「な、なに、あれ?なにあれ!?」

「お、落ち着いてください」


 混乱する少女を宥めるフレイヤだが、彼女とて平静ではいられない。

 この小屋は、広場と崖に挟まれているのだ。あの広場を何とか突破しないと、村に戻ることはできない。

 そして広場は自分達を捕食しようとする巨大な蛙で埋め尽くされている。


「ど、どうしようお兄ちゃん」


 泣き出しそうな妹に頼られ、何とか打開策を考えるユングだが、状況は彼らにそれすら許しはしなかった。


 バキィ!という破砕音と共に、小屋の扉が内側に吹っ飛んできた。

 そして、周辺の木材を破壊しながら蛙が侵入してきたのだ。


「くそっ!やるしかないか!昨日と同じように広場全体を焼き尽くす!フレイヤ、少し耐えてくれ!」

「分かった!」


 でかくなっても蛙は蛙。火には弱いだろうとユングは判断し、炎の上級魔法を唱える。

 その間、襲い来る蛙をフレイヤの『盾』が防ぐ。


 そして数秒後。


「燃え尽きろ!『湧昇炎舞』!」


 広場全体に巨大な赤い魔法陣が現れ、その至る所から炎が噴き出した。

 まるで火山の噴火である。その勢いに煽られ、何体もの蛙が宙を舞う。


 だが。


「効いて、無い……!?」


 炎の直撃を受けて噴き上がったものも、そうでなく炎に焼かれたものも、多少の身じろぎをしただけで、ケロリとした顔で動き出した。


「そんな、並の獣魔なら消し炭になる威力なのに――」


 ユングがショックを受け入れる暇すらなく、今度は窓が破られて蛙が殺到してきた。


「くそっ!裏口から逃げるんだ!」


 崖下に作られた小屋は、崖との僅かな隙間に裏口が設けられていた。

 そこから脱出し、一気に坑道内まで逃げ込む。それが咄嗟に思い付いた唯一の作戦だった。


 戦闘力のない少女を庇いつつ、裏口から外に出て、坑道の入り口まで駆ける、が――。


「ウソだろ……」


 坑道の中が顕になるにつれ、少年の顔が絶望に染まっていった。

 その薄暗い空間は、広場以上の蛙で埋め尽くされていたのだ。


「お兄ちゃん!」

「っ!くそっ、ひとまず『殻』だ!」


 小屋からは離れてしまった。

 今いる場所は、小屋と坑道の間。背後に崖があるものの、それ以外は開けた空間だ。

 そして、その空間は現在既に蛙で埋め尽くされてしまっている。


 退路は、無い。


 フレイヤが作った『殻』により、蛙の攻撃は問題なく跳ね返す事が出来る。

 だが、彼女の魔力も無限ではない。いずれ、この『殻』は消え去る。


 そしてその時は、


「(ダメだ!何とかしないと!)」


 弱気になりかけた自分を叱咤し、ユングは首を振る。

 だが、あの炎の上級魔法で傷すら負わない魔法耐性の獣魔に、いったい自分は何ができるというのか。


「(考えろ、何か方法は、あるはず……!)」


 しかし、その後ユングが炎や雷の魔法で何度攻撃しても、蛙が堪えた様子は無かった。

 そして、時間だけが過ぎてゆき。




「お兄ちゃん、そろそろ、魔力無くなっちゃうよ……」


 妹の泣きそうな声に、ユングの焦りが募る。


「(くそっ、まさか、こんな事になるなんて)」


 村の大人達の言う通り、大人しくしておけばよかった?少女を見殺しにして?もっとちゃんと準備をすればよかった?準備といっても何を?大人達と一緒に来るべきだった?


 頭の中を、後悔と苛立ちが駆け巡る。

 今はそんなことを考えている場合じゃない、と思っても、もうどうしていいのか分からない。

 フレイヤも、あと1刻が限度だろう。

 その時が過ぎれば、その時は――。


 少年が、諦めかけたその時だった。


「大丈夫かっ!」


 声と共に、何かが広場の方から飛んできた。

 そしてそれはユング達の頭上、崖の横腹の垂直面に着地し、見上げたユングと一瞬だけ目が合う。


 少年だった。

 自分達よりそれなりに年上に見えるが、20歳にはなっていないだろう。

 黒髪黒目で、均整の取れた体つきだ。そして右手に剣を携えている。


 一瞬の邂逅。

 だが、ユングにとってこの一瞬は、一生忘れられないものとなる。


「全員無事だな!」


 上空から3人に怪我がないことを確認した少年は、そのまま岩壁を蹴り、『殻』の目の前に急降下した。

 そしてそこに陣取る1匹の蛙の脳天に剣を突き刺す。脳を刺された蛙は、ぐえっと一瞬鳴いて、力なく倒れ伏す。

 少年はその蛙には見向きもせず、すぐ隣の蛙の首を一刀両断にした。

 蛙の首は、彼の剣の長さと同じくらいの太さがある。それを見事に切断していることから、少年の剣の腕が窺えた。


「しばらく『殻』を維持してろ!」


 少年が、ユング達に向かって叫ぶ。

 その頃になって、ようやく蛙達は敵が現れたことに気付いた。

 蛙達は、その巨体を活かした体当たりや、触れたものを表面の粘りで取り込む舌などを繰り出して敵を排除しようとするが、仲間が密集しているため、満足に狙いが定まらない。そんな中を少年はするすると移動し、サクサクと蛙の頭を落としていく。

 簡単にやっているように見えるが、蛙の攻撃を一度でも食らえば良くて骨折、悪ければ即死だ。

 そんな状況をまるで気にしないかのように、少年は剣を振るっている。


「す、すごい……」


 フレイヤが、呆然として彼の姿に見入っている。

 いや、フレイヤだけではない。蹲る少女も、そして自分自身も彼に釘付けになっていたとユングは気付いた。


「(確かに、凄い。だけど)」


 敵の数が多すぎる。蛙達が一斉に突進でもしてきたら対処できないのではないか。

 そう、ユングが懸念した時だった。


「ユージン!上に退避しろ!」


 どこからか、男性の声が響いた。

 それに応じて、少年が空を見上げ、


「『再展』『再展』『再展』!」


 驚きの速度で呪文を唱え、跳ねた。

 そして、展開された『盾』に足を掛け、さらに上空に舞い上がる。


 ユング達がそれを唖然と見ていると、広場の奥の方からすごい勢いで水が流れて来た。


「きゃあっ!なになにっ!?」


 「殻」の目の前まで押し寄せて来た水流に、少女が動転して震える。

 ユングとフレイヤは、これが魔法によるものだと看破するが、蛙に水をかけても喜ぶだけでは、と首を捻る。


 とそこで、一瞬にして大量の水が凍り付いた。

 地上にいた蛙の大群は、哀れ氷漬けとなって動きを止めた。


「一体、何なのぉ……」


 連続する異常事態(少女にとって)に、相変わらず震えたままの少女。

 その少女の目前に――氷の厚みがあるため、やや見上げる位置だが――先ほど空に跳び上がった少年が着地した。


「さあ、今の内に避難するぞ」


 その姿は、大量の返り血を浴び、まさに凄惨の一言に尽きる。

 だがそれでも、内から滲む強さと凛々しさは少しも損なわれておらず。


 まるで御伽話に聞く勇者のような姿に、少年少女は強い憧憬を覚えるのだった。


次の投稿は明日の予定です。

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