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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第2章 魔剣と聖剣
22/163

第19話 ネアン帝国最後の村にて

前話のあらすじ:

たびの なかまに フラール が くわわった!

たびの なかまが 5にん に なった!

 ネアン帝国の帝都を出発してから数日間、一行は街道に沿って進んでいた。

 この街道は、ネアン帝国と、目的地である学術国家ミッドフィアやその周辺の国を結ぶもので、比較的交通量も多いために整備状況も良好であり、街道沿いには宿場町が点在している。そのため、ゾーイの懸念とは裏腹に、ちゃんとした風呂に毎日入る事が出来た。


 ちなみに、宿代の支払いは全てライリーが行っており、金銭管理も彼の任務である。

 とはいえ、旅の路銀を全て彼が所持しているのはリスクが大きいため、多少の金は各自に配布されている。さらに、メインの旅費は、行く先々の国にあるネアン帝国大使館にて都度支給を受ける予定となっている。


「ユージン、相談がある」


 宿で朝食を摂り、そろそろ出発の準備をしようかという時に、ライリーが言ってきた。

 席を立とうとしていた一同が、もう一度腰を落ち着ける。


「この先、ミッドフィアへの道は2ルートがある。向かう途中に山脈があるからだ。1つは最短ルートで、山越えを行う道。もう1つは迂回路で、比較的穏やかな勾配の道。後者の方が、道の宿場の整備は整っている。どちらで行く?」

「山越えは危険なのか?」

「そこまでの危険はないはずだ。ただし、野生の獣は多くなる上、最近は獣魔も確認されているらしい」


 ふむ、と考えだすユージン。

 早いにこしたことはないが、あえて危険を冒す必要はない。ただ、獣や獣魔程度を危険といっていては、この先が心配になる。

 とそこで、ディストラが口を開く。


「獣魔って何?」

「悪魔の魔力によって凶悪化した獣だ。悪魔が意図して作る場合もあれば、放出した魔力の余波で生まれることもある。さらに、強力な獣魔が生まれてしまうと、それ自体が獣魔を生む事もあるらしい」


 ライリーの説明に、ディストラが、へぇ、と納得する。

 そこへ、話が聞こえていたのか、宿の主人が口を挟んできた。


「お前さんたち、山越えの道は昨日崖崩れで塞がっちまったらしいぞ」


 その情報に、沈黙する一同。


「……選択肢は1つしかないみたいだな」


 ユージンの言葉に、ライリーが頷いた。


 ◆ ◆ ◆


 準備を整えた一行は、迂回路を粛々と進む。

 全員が騎馬であり、かつ無理をしない速度での行軍なので、一般的な行商人の2倍程のスピードで進んでいる。

 この辺りの宿場町は概ね行商人の速度で1日くらいかかる距離毎にあるため、彼らは昼頃に1つ目の宿場町を通り過ぎ、夕方に2つ目の宿場町に辿り着いて宿泊する、という行程を繰り返していた。

 もちろん、街道ができた後に作られた宿場町ではなく、元々あった街や村が宿場町の代わりにある場合もある。


 本日の昼に辿り着いたのは、そんな山の麓にある昔ながらの村だった。


「農耕と狩猟、それに工芸品が産業の中心かな」


 村のはずれに広がる畑、民家が近付くにつれて目に入ってきた加工中の肉や、木彫りの装飾品を誂えた門扉などを見ながら、ユージンが分析した。


「どこにでもある~農村ってことだにゃ~」

「身も蓋もねぇ言い方するんじゃねーよ」


 村に入り縦列を解いたことで隣にいたゾーイに、ユージンが突っ込む。


「そうよ。ここの人からしたら良い気はしないでしょう」

「は~い」


 フラールにも嗜められ、言葉だけは反省するゾーイ。


「とりあえず、昼食が食べられる場所があると良いけど」


 それらしい建物を探すディストラと、同じく周囲を窺うライリー。

 外に出ている村人からの視線はちらちらと感じるものの、往々にしてこういった村は仲間意識が強く、余所者には風当たりが強い。

 好意的な対応は望めないかもしれないな、とライリーが考えていたところだった。


 ゆったりと馬を進める一行の前に、40歳過ぎと見える女性が遠慮がちに立ち、声をかけてきた。


「あんた達、騎士様かい?」


 渉外担当のライリーが前に進み出て、普段通りの答えを、外行きの態度でする。


「騎士ではなく、傭兵のようなものです」


 ある意味で、ユージンは世界規模での傭兵といえるだろう。

 ライリーは正しく騎士であるが、そうすると正規の騎士がなぜここに、など説明が面倒になるため、入国手続きの際などの必要なとき以外は傭兵で通すことにしていた。


「傭兵……そうかい。ところで、食堂を探してるのかい?この村には昼にやってる店は1件しかないよ。案内しようか?」


 ユージン達が傭兵と宣言したことで僅かに喜色を漏らした女性は、ご丁寧にもそう言ってきた。

 ライリーがちらりとユージンを見てきたので、ユージンは頷く。


「では、お願いします」


 何か目的があるのは確かだろうが、まずは腹ごしらえだ。

 いきなり睡眠薬が盛られたりはしないだろう、と思いつつも、ユージンはこっそりと自分に耐毒魔法をかけた。




 女性に案内されたのは、いかにも村の食堂です、といった風情の、木造平屋建ての建物だった。

 テーブルは丸太の上に一枚板をくっつけただけのもの。椅子に至ってはただの丸太である。

 とはいえその作りは丁寧で、テーブルは艶があって美しい。おそらくあえてこの雰囲気なのだろう。


 ちなみに馬は、村共同の馬屋があり、そこに預けられた。


 出てきた料理は一同の予想に違わぬ大味であったが、不味くはない。

 そもそも、暖かい食事というだけでありがたいものだ。これまでの行軍では、無理せず宿場町に泊まったため、夜と朝は宿で食べられたが、昼はタイミングが合わず、保存食の時もあった。

 そうなると、ゾーイがぶーぶー言い出すので、ユージンが、減量のために食べなくても良いんだぞ、と告げ、いつも通りのじゃれあい始まるのだった。


 食事を終えたユージンは、これからの予定をライリーに訊ねる。


「今日は、何もなければ次の宿場町で泊まる予定だな?」

「ああ。順調に行けば、明日にはネアン帝国から出ることになるな」

「というと、そこからは遂にミッドフィアか?」

「いや、ミッドフィアは都市国家だ。首都の外壁が国の領土と等しい。ネアン帝国からミッドフィアまでは一応、東の別国の領土になるが、あちらの国の関所などはなく、ほとんど空白地帯と言って良い」

「その空白地帯はどれくらい続くんだ?」

「我々の行軍速度であれば、1日半だな」

「ということは、3日後にはミッドフィアに着く計算か」

「ああ……何もなければな」


 ライリーは、食堂の外からこちらに近付いて来る複数の気配を警戒しながら、ユージンに答えた。



 食堂に入って来たのは、先ほどここに案内してくれた女性と、杖を突いた老翁、そして彼を支える壮年の男性だった。

 老人は、杖を突いてはいるが、足取りはしっかりしており、矍鑠とした雰囲気を醸している。

 その老人が、ユージン達の注目を浴びている事に頷いて、口を開いた。


「儂は、前に村長をしておったラルフという者だ。だが、今は何も持っておらぬただの隠居爺よ。お前さん達傭兵は、金があれば何でもするという。逆を言えば、金がなければ何もしないということだ。それを承知の上で、儂の話を聞いてほしい」


 金は払えないが頼みがある。要するにそういう事か。

 ライリーが、ユージンに視線を向ける。ユージンは頷き、老人に応えた。


「ひとまず、話を聞きましょうか」


 ◆ ◆ ◆


 ラルフの話をまとめると、こういう事だった。


 この村の後背にある山は、昔から魔道具に使われる特殊な鉱石の産地としてそこそこ有名であった。かつては、坑道を掘り、それが産業の中心であったほどだ。

 しかし、数十年前に鉱石の産出量がガクッと下がり、商売として立ち行かなくなってしまった。ただし、現在でも頑張って探せば質の良い鉱石は手に入る。そのため、今では採掘を希望する者から1日定額の入山料を取る商売を細々と行っている。


 昨日も、2人1組の採掘希望者がこの村を訪れ、昼の間採掘し、夕方にはしっかりと目的の物を手に入れて戻って来たらしい。

 また、この山は鉱石以外にも、質の良い薬草の産地でもあった。ただし、これはそれほど珍しいものでもないため、産業になるものでもなかった。地元民が旬の時期に刈り取っては行商人に売って小銭稼ぎをする程度のものだ。


 事件は、昨日の昼過ぎ、採掘者が戻ってくる前に起きた。

 長いこと体調が悪く、咳も酷かったラルフの容態が急に悪化したのだ。熱も上がり、息も絶え絶えとなってしまった。もう年だ、仕方ないと諦めたラルフに対し、彼の孫娘は諦めきれなかった。

 そして、薬草を取りに、1人山へと登って行ってしまったのだ。


 普段であれば、まだ少女の彼女が1人山に登っても問題なかった。さらに言えば、薬草が村のどの家からも無くなってしまうことなどもなかった。

 しかし、ここ最近はこの山にも獣魔が出没するようになり、村人が山に入るのを躊躇っていた。そのため、どこの家でも薬草の備蓄が尽きていたのだ。

 さらに、昨日の土砂崩れのせいか獣魔も獣も気が立っており、山には禍々しい殺気が充満していた。


 村を訪れた採掘者は、土砂崩れの情報を村人が知る前に山に入ってしまったため、村人は、獣魔が出るから注意するように、と普通の注意喚起しかしなかった。でなければ、いくら2人旅をできる実力があると胸を張られたとしても、()()()()()2()()を山に入らせはしなかっただろう。

 しかし、採掘者2人は何食わぬ顔で下山し、嬉しそうに成果を村人に見せてきた。そこで、村人の只ならぬ気配を感じた彼らは、事情を聴くや否や、制止の声も聞かずに2人して少女を探しに行ってしまったのだ。


「もちろん、村の男達も捜索しに行ったが、強力な獣魔に阻まれ、まともに進むこともできず、ただ怪我人が増えるだけだった。……頼む。孫娘もだが、あの子を助けるために危険な山に入って行った子供達を助けてくれないだろうか」


 頭を下げる老人に、ユージンとライリーは顔を見合わせる。

 ちなみに、ラルフの隣の女性は、彼の娘であり、男性はその夫であるとのことであった。山に入ってしまった少女はラルフの息子の娘であり、女性からすれば姪にあたる。


 さてどうするか、とユージンが考えるより早く、少女の声が食堂に響いた。


「分かったわ。すぐに探しに行きましょう!」


 ガタン、と席を立ち、気合十分な瞳でユージンを見据えるフラール。

 ユージンは、早計過ぎるだろ、と感じ、そのまま口にした。


「あのな。少し冷静になって――」

「その子達が山に入ってもう半日以上経っているのよ?時間がないわ。国民を守るのは皇族の義――」

「あーあーあー、黙れアホ!」


 ユージンが、身分バレ確実の発言をしようとしたフラールの言葉を遮り、手で口を塞ぐ。そしてライリー、ディストラをちらりと見て、2人ともが、仕方ない、という表情をしているのを確認する。


「しゃあねえな。確かに子供を見捨てるのは寝覚めが悪い。とりあえず、今日の夜まで捜索に当たるか」

「おお!本当か!」


 喜色を浮かべるラルフだが、それまで沈黙していた隣の男性が、不安そうに口を開いた。


「しかし、彼らも子供ばかりですが……」


 確かに、30代過ぎのライリーを除けば、残る4人はまだ20歳にもならない少年少女だ。

 特に、一番年下のゾーイはまだ15歳。ラルフの孫娘と同じ年齢だった。


 それに憤慨するのは、例によって最も子供っぽい少女。


「むむ!ボクをコドモ扱いするな~!これでも一級まほ――」

「お前も黙れ」


 フラールを抑えていた右手を放し、今度は逆の手でゾーイの唇を摘まんだユージン。


「大丈夫です。彼らの実力はそこらの騎士にも負けません」


 唯一の大人であるライリーがそう保証することで、村人の表情がやや和らぐ。


「それじゃ、さっさと行こうよ。フラールの言う通り、彼らの安否が心配だ」


 ディストラに言われ、全員が席を立つ。

 そしていざ行かん、としたところで、ユージンが、そういえば、と切り出した。


「ラルフさん。あんた死にそうだったんじゃないんですか?えらく元気そうだけど」


 孫娘が危険を承知で山に登るほどの容態だったはずだ。それが目の前では、握った杖で、ユージン達を疑う発言をした娘婿をゲシゲシと打ち据えていた。

 それについては、女性が説明をする。


「山に入った子供の1人が、凄い魔法使いだったんです。死にそうだった父に回復魔法をかけたと思ったら、あっという間にこの通りでした」

「子供が、回復魔法ねぇ……」


 若干眉唾だな、と思ったユージンだが、天才というのはひょんなところに居るものだ。

 ちらりとゾーイを見ると、ぼそっと耳打ちしてきた。


「たぶん、ホント。あのお爺さん、顔や指に全然シミや傷が無いでしょ?『完全回復』をかけられた患者に特有の症状だよ。体の中に入った術者の魔力が完全に消えると、シミとかは元に戻っちゃうんだけどね~」

「『完全回復』って、回復魔法の中でも相当上位の魔法じゃなかったか?」

「そうだよ。フラール様くらい回復魔法に適性がないと使えないね!」


 そんな魔法を、ただの子供が使えるだろうか?適性があったとしても、教える人物がいなければ無理だろう。

 という事は、希少な回復魔法を教える事が出来る人物に師事していることになる。


「(まあ、今はいいか)」


 ユージンは、子供に関する考察を一旦頭の隅に置き、皆に訊ねる。


「準備は良いか?」


 それに、3人は頷いたが、1人だけ頷かなかった。


「ちょっと待って、ユージン。怪我人がいるなら、治してあげたいわ。どんな獣魔がいるのかも聞けるでしょうし」


 フラールである。

 先ほど、時間がない、って言ってなかったか?と思ったユージンだが、フラールの意見は尤もだ。

 フラールの能力なら、回復自体に時間はかからないし、敵の情報があるにこしたことはない。


「そうだな……。彼女も回復魔法を使えます。怪我をした人の所に案内してもらえますか?」


 ユージンに言われ、ラルフは驚いた顔をするも、すぐにありがとうと頭を下げた。


「儂の息子も怪我をしておってな。こんな村だ。診療所はあるにはあるが、薬草から作った薬を処方する以外にできることもない。魔法で治してもらえるなら本当に助かる」




 村の診療所には、比較的怪我の重い患者が数人寝かされていた。

 小さい診療所なので、布団がぎゅうぎゅうに敷き詰められている。怪我の軽い患者は自宅療養も致し方ないだろう。


 フラールは、患者の様態を見て、無駄に魔力を使わない魔法を選んでかけてゆく。

 数秒で大怪我から回復した患者は、まるで女神でも見るかのような賛美の眼差しと言葉をフラールに送っていた。

 それを受けてフラールは、照れ臭そうに、でも嬉しそうな表情をする。


 一通り重傷患者の回復を終えた後、彼等から獣魔についての情報を得た。


 昨日彼等が山道に入ってしばらくした後、『ブラック・ストーカー』と呼ばれる狼の獣魔の群れに襲われたらしい。

 元が狼であるため、連携も得意で、速さも膂力も劣る村人はあっという間に劣勢に追いやられ、ほうぼうの体で逃げ帰ってきたとの事だった。


「『ブラック・ストーカー』か……。そこそこ知能もあり、スピードが速い獣魔だな。ほとんど足音を立てずに移動するため、狙われているのにも気付きづらい」


 ライリーの解説に、ユージンが訊ねる。


「手こずりそうか?」

「いや。ゾーイの索敵があれば不意打ちは避けられるし、速いといっても私やユージンが対処できないスピードではない。多少問題があるとすれば、地形が山林で敵にとって有利である点だな」

「なるほど。俺達の連携を確かめるのにちょうど良さそうだな」


 ユージンの言葉に、一行は力強く頷いた。


 ◆ ◆ ◆


 山道の入り口に立ったユージンは、まず自分で索敵魔法をかけてみた。


「うわー、何かたくさんいて良く分からんな。ゾーイ、頼む。子供たちの場所が分かれば良いんだが」

「やってみるね~」


 そう言って、索敵魔法を使うゾーイ。

 ちなみに、この魔法は地球で言うところのアクティブソナーに近いもので、魔力を感知する魔力波を展開し、範囲内の生物等を把握するものだ。このため、魔力感知能力が高い相手だと、索敵魔法を使ったことはすぐにばれる。


「ホントだ。いっぱいいるね~。動きが速いのがブラック・ストーカーかな~。これはバレたね。こっちに向かってくるよ~。それはさておき、山の中腹、坑道がある場所辺りに、人間っぽい魔力が3つあるね。それと、ブラック・ストーカーとはまた違う獣魔っぽい魔力が周りにすごくたくさん」

「それはつまり、ブラック・ストーカーよりも強い獣魔に子供達が襲われてるって事かな?」


 ゾーイの実況に、ディストラが訊ねる。それに返すのはライリー。


「おそらく、そうだろう。ブラック・ストーカーより弱い獣魔であれば、奴等に蹴散らされるはずだ。状況は良くないな」

「よし、急ぐぞ。ブラック・ストーカーの相手はほどほどにして、子供達優先だ」


 ユージンはそう宣言して、先頭に立って走り出した。それにゾーイが続き、ディストラ、フラール、ライリーの順で山道を駆け上がる。

 ゾーイとフラールは男性陣よりも体力がないものの、どちらも身体強化を行っているため、それなりの速度で走り続ける事が出来る。


「ユージン、正面!」


 ゾーイに言われるまでもなく、ユージンの眼は正面から襲ってくる黒い狼を捉えていた。

 ユージンは走りながら腰の剣を抜き、何のひねりもなく跳びかかってきたブラック・ストーカーをすれ違い様に両断した。


「単体なら大したことないな」

「でも、めっちゃ囲まれてる~」


 走る一行の後方から、殺気立った瞳がいくつも追いかけてきており、それは左右にも展開しかけていた。


「平地だったらゾーイの範囲魔法で一網打尽なんだけどな」


 生憎と、今いる場所は傾斜のある山道であり、周囲には木々が生い茂っている。


「木を焼き払って良いなら、ここでもできるけど~?」

「いや、やめとけ。それより、足止め系の魔法を頼む」

「りょ~かい!んじゃあ~、縛れ『いかづちの網』!」


 1秒程、走りながら集中したと思ったら、一行の前後左右に地を這う電気の網が広がって行った。

 それは近い所から順に、すぐに消えて行ったが、網にかかったブラック・ストーカーの足には残り続け、動きを阻害していた。


「一旦殲滅するぞ!ディストラ、左半分は任せた!ライリーとゾーイは討ち漏らしを頼む!」


 言うや否や、ユージンは山道から逸れて右手の林に突っ込み、動きの鈍った狼を両断していった。

 山を下る方向に狼を蹴散らしながら林を進み、やがて再び山道に戻ったユージンは、少し上で待機している3人を見遣る。

 彼らの周囲には、真っ二つになったり消し炭になったりした生物の残骸が積まれている。


 ガサガサっと左手の林から音がして、ディストラが現れた。


「どうだった?」

「動きが鈍ってたし、特に問題は無かったかな」


 ユージンの質問に、ディストラは植物の葉で剣を拭きながら答える。

 頷いて、ユージンは索敵魔法を使う。


「俺達を追ってきた集団は粗方始末したな。さっさと進むか」

「そうだね」


 2人は山道を登り、仲間と合流する。


「怪我は?」


 フラールの質問に、2人は首を振る。

 多少の返り血を浴びてはいるが、鎧に傷すらついていなかった。


「ゾーイの魔法がなかったら、怪我くらいはしたかもね。助かったよ」

「お?ディストラはボクの有能さが分かってるね!ユージンも褒めてくれて良いんだよ?」

「ああ、助かった助かった。じゃあ進むか」

「相変わらずなおざり!」


 危なげなく緒戦を切り抜けたユージン達は、子供達がいるとみられる坑道に向けて再び駆け出した。


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