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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第1章 2度目の召喚
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第16話 魔剣召喚

 フラール達の話し合いから数日後。

 諸々の準備を終えたイサークが、ジョアン=ウラバンにフラールとの婚約破棄を言い渡した上で逮捕連行し、尋問した。

 もちろん、貴族相手なのでいずれも紳士的に行われたし、彼も抵抗はしなかった。


 しかし、尋問の結果得られたものは何もなかった。

 彼が自白したことは、フラールと権力を手に入れたかったという、それだけだった。計画の杜撰さについても、上手く行くと思っていた、と冷静に返答をするのみ。

 現在は、貴族用の独房に禁固されている。


「結局、気持ち悪さだけが残ったな……」


 馬上のユージンが、同じく隣で馬に乗るフラールに話しかける。


「そうね。計画が失敗して落胆した様子もなかったらしいわ。子爵家に問い詰めても、息子がそんなことをしていたとは知らなかった。申し訳ない、と謝罪するだけで、何も語る様子はないし」

「怪しすぎる」


 パカッパカッと小走りの馬の手綱を操って方向転換させながら、ユージン渋い顔をした。


「でも現状ではどうしようもないわ。一応貴族だからあまり手荒なことも出来ないし」

「魔法で自白させるとかは出来ないのか?」

「やったみたいなんだけどね。効果は無かったらしいわ」

「というと?同じ内容しか言わなかったのか?」

「そう。もしあの男が何か隠していて、それを誤魔化せているとしたら、ルキオール様を超える呪術の使い手が深層心理を制御していることになるそうよ」

「……ますますきな臭いな」


 ルキオールはこの国一番の魔法の使い手とされている。呪術は魔法の一分野であり、それに特化した人間は確かに存在するが、ルキオールを超える程となると、それは最早「人間ではない」可能性がある。


 ジョアン=ウラバンがただの阿呆であればそれで良いのだが……。


 ユージンが難しい顔で考え込んでいると、フラールがクスリと笑う。


「でも、どうせ私達はこの国を離れる訳だし、後は兄様とルキオール様に任せましょう」

「ああ、そうだな。……ん?私達?」


 フラールの発言に頷いたユージンだが、彼女の言葉に引っかかった。


「いや、もうお前が来る必要はないだろ。婚約の件は解決した訳だし」


 フラールがユージンの旅に同行する目的は、この国に留まってジョアン=ウラバンと結婚させられるのを避けるためだったはずだた。

 その可能性が無くなったのであれば、彼女が危険な旅に同行する必要性は無い。


 その当たり前の理屈を、フラールがぶった切る。


「何言ってるのよ。私は、世界を救うために旅に出るのよ。婚約なんて関係ないわ」

「はぁ?お前……」


 ユージンが、何言ってるんだ?という顔でフラールを見るが、彼女は楽しそうに笑うだけ。


「何でお前まで乗馬の訓練をしてるのかと思ったら、そういうつもりか……」


 乗馬の訓練でフラールに治癒魔法が必要な怪我をするとも思えなかったので、フラールにはユージンが乗馬の訓練をしている間は自由にしていて良いと言ったのだが、彼女は丁度良い機会なので自分も訓練すると付いてきたのだ。

 ユージンは溜息を吐くが、あえて断る必要もないと気付く。


「まあ、俺の要請で、という縛りが無くなった訳だからな。イサーク殿下の説得ができるならば好きにすれば良いさ」


 実際、彼女が皇女であることを無視すれば、その回復力は確かに有用だ。

 だが、さすがにイサークが妹の旅を許可するとも思えない。その辺りはもう兄妹で勝手にやれば良い。


 ユージンは無駄にフラールを説得することをやめ、自分の訓練に集中した。




 そして、案の定。


「なんでダメなのよ!」


「何故駄目なのか説明が必要か?馬鹿な事を言っていないで、新しい婚約者を真剣に考えろ。さもなくばこちらで決めるぞ」


 数日後、ユージンが昼食を摂り、厩舎に向かっている途中で、そんな言い合いの声が聞こえた。

 ユージンが視線を遣ると、予想通りこの国で最も身分の高い兄妹が、軍本部のある施設の入り口付近で睨み合っていた。


「この状態で新しい婚約者なんて決められないわよ!」

「ただでさえ、お前の婚約解消は国民の不安を煽ったんだ。この状況だからこそ、早めに決める必要がある」

「前の婚約者との話が駄目になってすぐに新しい婚約者を選ぶ方が、国民感情は悪化すると思うけど?」

「もちろん国民への発表は期間を空けるさ。だが、早めに内定しておく必要がある」


 ユージンは、彼らの会話を横目に、貴族とか皇族とかってのも大変だなー、でもこんなところで大っぴらにやらない方が良いんじゃないかなー、等と考えながら、見つからないうちに脇をささっと通り過ぎようとしたが、


「あ、ユージン!貴方も兄様に言ってやってよ!」

「ユージン殿、フラールを諌めてもらえないか?」


 あっさりと見つかり、捕まってしまった。


「いや、勘弁してください。兄妹喧嘩はどうぞお2人で」


 ユージンが迷惑そうな雰囲気を隠さずに言うと、フラールが眉を吊り上げる。


「何よ他人事みたいに!どちらも貴方が関わっていることでしょ!」

「知るかよ。ここから先はこの国の問題だろ。俺を巻き込むんじゃねえよ」

「もうすでにかなり巻き込まれてるんだから、今更じゃない」

「いやそうだけどな?巻き込んでる側が言うセリフじゃないだろ」

「良いじゃない。私とユージンの仲でしょ?」

「どんな仲だよ。そんなに気が置けない仲になった覚えはないぞ」

「まあ、散々私を使っておいてそんな事を言う訳?」

「妙な誤解を生みかねない表現はヤメロ」

「あら、どんな誤解を生むって言うのよ」

「それは――っていうか、イサーク殿下逃げたけど良いのか?」


 フラールがユージンとの言い合いに気を取られいる隙に、イサークは、ユージンに「後は任せた」とばかりにウィンクして去って行った。


「ああっ!兄様!」


 ユージンに指摘されてフラールが兄の姿を探すも、その後ろ姿はすでに遠くなっており。

 フラールは、もうっ、と唇を尖らせるも、すぐに何やら好戦的な笑みを浮かべた。


「兄様がその気なら、こっちにも考えがあるわ」

「うわぁ、俺に飛び火しないでくれよ頼むから」


 その顔を横で眺めるユージンは、自分の被る影響を考えてげんなりするのだった。


     ◆ ◆ ◆


 その数日後。

 ユージンは、イサークに呼び出されて魔法局を訪れていた。


 ようやく、召喚魔法を執り行うというのだ。

 案内の者に従って魔法局内を進み、階段を下りる。

 およそ30日ほど前に自身が召喚された部屋だ。懐かしいようなそうでもないような、なんとも不思議な気分になる。


 部屋の中には十数人の紫系統のローブを来た魔法士がおり、魔法の準備をしていた。

 その中で、豪奢な服を着て浮いているイサークの側に寄り、その隣にも部屋の中のどこにもルキオールが居ないことに首を傾げるユージン。


「ルキオールさんは居ないんですか?」

「ああ、あいつはちょっと別件で手が離せない状況でな」


 ユージンの問いに、イサークが渋い顔をして返した。


「だが大丈夫だ。あいつと共に召喚魔法を完成させた専門家達が、きっちりと仕事をこなす。ユージン殿は、指示通り目標となる剣のイメージに集中して欲しい」

「はあ、分かりました」


 ルキオールの不在に、ユージンはそこはかとない不安を感じたが、皇太子が大丈夫だと太鼓判を押しているのだから杞憂なのだろう。

 そうして準備は着々と進み、年配の魔法士に指示された小さな魔法陣の上にユージンは立つ。

 そして指示されるままに、七の魔剣『セブン・フォース』を強くイメージする。


 ユージンのイメージと同調するように、部屋の中心に描かれた直径10m程度の魔法陣も明滅を繰り返しながら発光が強まる。

 やがて、色のはっきりしなかったその光が、描かれた魔法陣からずれて縮小し、赤、緑、青3色の、3つの魔法陣となり、重なり合いながら元の魔法陣の中をくるくると回り出した。

 光が強くなると共にそのスピードが上昇したが、光が強まり切ると徐々にスピードが落ちて行き、遂には停止した。


 そして、次の瞬間。


 カッ、と3つの魔法陣が閃光を放ち、ユージンの視界は白く染まった。




 反射的に目を瞑ったユージンが、眩惑から回復した眼を開き、魔法陣の中央に焦点を合わせる。

 そして、召喚されたモノと目が合った。


 もちろん、魔剣には目はない。目があるのは、基本的に生物だ。

 では、召喚は失敗してしまったのか。

 そういう訳でもなかった。


 魔剣は一応召喚されていた。ユージンの視界にもそれは入っている。

 問題は、魔剣が握られていたという事だ。

 誰に?


 ユージンと同じくらいの背丈に、同じくらいに見える年齢。

 そして、長めの銀髪をきっちりと纏め、周囲を警戒する瞳は理知的に輝いている。


「ディストラ……?」


 ユージンは、目の合った人物を知っていた。

 というか、ここに召喚される前の世界マナスカイでジャンヌの次に仲が良かった少年である。見間違えるはずがない。

 だがどうしてここに?という問いに対して、ユージンは即座に回答を推測していた。

 剣だけでなく、剣を所持している人物まで付属物として召喚してしまったのだろう。ユージンが召喚されたときに素っ裸にならなかったように。


 対して、相手は何が何だかさっぱり分かっていない様子で、周囲を警戒していたが、見知った相手を見つけ、驚愕に目を見開く。


「ユージン……?」


 驚きの表情で互いを見る少年2人に、イサーク始めネアン帝国の面々は空気を読んで静まるのだった。




 数秒沈黙したディストラは、一先ず目の前の少年が自分の知る人物かどうか問う。


「君はユージン、なのか?」

「ああ、そうだ。しかしディストラまで召喚しちまうとは、まずったな」


 頷いた後、頭をポリポリと掻くユージン。

 その様子に、自分の記憶と相違無いと判断したディストラが、さらに訊ねる。


「ここは、どこ?それに、君は今までどこに行っていたんだ?」

「まあ、待て。落ち着け。事情は説明する。とりあえず――」


 ユージンは、ディストラが持つ『刀身の中腹から折れた魔剣』に目を遣り、その後振り返ってイサークに頼む。


「どこかで、2人で話をさせて貰えませんか?彼は俺の友人なんです」

「分かった。最初にユージン殿に魔法を見せてもらった部屋を使ってくれ。場所は分かるか?」

「はい。ありがとうございます」


 頭を下げるユージンに、イサークは頷いて、その前に一つだけ訊きたい、と、ディストラの持つ折れた剣を見ながら訊ねる。


「召喚は、成功したのか?」


 ユージンもその剣を見て、


「彼が付いてきてしまった事を除けば、成功は、したようです。ただ、もしかすると意味がなかったかもしれません」


 残念そうに言う。

 イサークも、それを予想していたのか、そうか、とだけ呟き、魔法の後片付けに入った。


「ディストラ、こっちだ」

「あ、うん……」


 イマイチ状況が掴めていないディストラだったが、ユージンに付いて部屋を出て、階段を昇り、地上1階の1部屋に入った。


 他に誰もいない部屋で、向き合った少年2人。

 まず、ユージンが口を開いた。


「とりあえず、これまでの経緯を説明しようか」


 そして、ディストラに大まかな説明をした。すなわち、


 ・この世界はマナスカイの隣の世界であること


 ・魔王を名乗る悪魔に苦しめられ、それを倒すためにユージンが召喚されたこと


 ・現状、マナスカイに戻る方法がないこと


 ・悪魔を倒す力を得る手段として、『七の魔剣』を召喚したらディストラまで召喚されてしまったこと


 それを聞いたディストラは、はあぁ、と深く溜め息を吐いた。


「まさかそんな事になっていたとはね。ジャンヌが召喚の可能性を考えてはいたけど……」

「そうなのか?」

「うん。もしかしたら、というレベルだったけどね。しかし、戻るにはその魔王とやらを倒さないといけないわけか」

「悪い。お前まで巻き込む形になって」


 ユージンとしても完全に予想外だったが、ユージンの要望によって行使された魔法のせいでディストラが召喚されたのは事実なので、頭を下げる。


「まあ、事故なら仕方ないよ。タイミングが悪かっただけで。たまたまジャンヌから借りて状態を見てたんだけどね」


 右手に持つ折れた魔剣をユージンに差し出すディストラ。


「そうだ。なんで『セブン・フォース』が折れている?向こうの状況も教えてくれるか?」


 折れた愛剣を受け取り訊ねるユージンに、ディストラが頷く。


 ディストラが召喚されてしまったのは事故ではあるが、ユージンにとって向こうの状況を知るまたとない機会となったのだった。


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