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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第1章 2度目の召喚
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第14話 皇族の秘密

 さめざめと涙を流す少女の髪を撫でながら、ユージンはこの件の解決策を考える。


「(でも、結局はその秘密とやらを何とかしないといけないんだよなぁ……。ん?でもさっき、フラールは国を救う1つ目の方法として、俺が魔王を倒すことでイサーク殿下の実績を確固たるものにする、って言ってたな)」


 イサークの地盤が揺るがなくなれば、ジョアン=ウラバンが権力を持っても問題ないのか、あるいはその秘密が暴露しても問題ないのか。

 話の流れとしては後者の気がする。であれば、やはり秘密とはイサークの地位を脅かす何かなのだろう。


 現状で国政の多くを任せられ、大きな権力を持っている皇太子が更迭でもされれば、国は揺らぐし荒れるだろう。

 だが、現在の皇太子の地盤は、まだ若いこともあり盤石とはいいがたいものの、そもそも対抗馬がいないので揺らぎようもないと聞いている。


 では、その秘密とは?


「(実績、対抗馬、皇太子……)」


 ふと、このスフィテレンドに召喚されたときの光景が、ユージンの脳裏に過ぎった。


 あの時はそう。皇太子がまず跪いて助けを乞い、その後、ルキオールが進み出てきて――。


「……」


 ぴたり、とユージンの手が止まった。

 ユージンに撫でられるのが気持ち良くなってきていたフラールは、何で止めるのかと不満を言いそうになり、慌てて口を噤んだ。


「(な、何を言おうとしていたの!ていうか、何を気持ち良いとか思っちゃってるの!)」


 そのことですっかり泣き止んだフラールは、ハンカチで涙を拭い、隣に立つユージンを見上げる。


「ユージン……?」


 ユージンは、眉根を寄せて難しい顔をしていた。そしてフラールに視線を向けて訊ねてくる。


「なあ、フラール。お前、この件について、お姉さんには相談しなかったのか?」


 ユージンは今、確信を得るための重大な質問をしたのだが、あまりにもあっさりとした口調だったため、フラールは気付かずに素直に答えた。


「できなかったのよ。姉様は、そのちょっと前に嫁いで行ってしまったから。簡単に行ける距離じゃないし、手紙でのやり取りなんて、いつ情報が洩れるか分からないし怖くてできないわ」

「なるほど、ね」


 ユージンが知りたかったのは、姉に相談したかどうかよりも、姉に相談する気があったかどうか。

 そして、フラールは、姉になら相談する気はあったと判明した。


 そこから導き出される結論は。


「あのさ。フラールって、友達少ないだろ?」


 いきなり話を変えられた上に失礼な質問に、フラールが口を尖らせる。


「何よそれ、失礼すぎるわよ」

「いやいや、真面目な話。ついでに、普段から近くにいる侍女とかと世間話とかあんまりしないだろ」

「……まあ、そうだけど」


 反論したいが、事実だけにフラールは不満気に頷く。


「それだったら、ありうるのかなぁ。だってあの2人が気付いてない訳ないしなぁ。それであんだけ堂々としてんだから、その線だよなぁ」


 何か1人で納得しているユージン。

 その様子に放っておかれた気がして、フラールが憤慨する。


「何よ1人で勝手に結論付けて。散々失礼なこと言って、あんまりじゃないかしら!」

「おっと、悪い悪い。あのさ、フラール」


 ユージンが少し微笑みながら、フラールの耳元にに顔を近づける。

 それにドキッとして少し頬を染めるフラールだったが、


「お前が抱えてる秘密って――だろ?」


「なっ!?」


 ユージンが軽い感じで言った内容に、顔を青褪めさせて絶句する。根が素直な彼女は、咄嗟の時に繕うのも苦手だった。

 それもなんだか可愛いと思えてきたユージンである。


「な、なな何で?どういうこと?えぇ!?」


 立ち上がり、ユージンを見つめながら語彙をなくす少女に対し、ユージンは肩に手を置いて着席を促す。


「まあ、落ち着けよ」

「これが落ち着いていられる訳ないでしょう!何で!?どうして分かったの?あの男に聞いたの!?」


 ユージンの説を正解だと完全に認める発言に、ユージンは苦笑する。


「何も聞いてねーよ。ただ、色々情報をくっつけたら見えてきただけ」

「そんな簡単に――」

「簡単なんだよ」


 不満気に憤るフラールの肩を、ユージンがもう一度押さえてソファに座らせる。


「あのさ、このタイミングで言うのも可哀そうだけど、フラール、お前馬鹿だよ」

「ふぇ?」


 驚き、焦り、憤りと感情に翻弄された挙句に馬鹿呼ばわりされ、フラールの中で何かが許容範囲を超えたようで、口調が怪しくなり再び涙が滲んでいる。


「もっと早くに誰かに相談しておけば、こんな事にはならなかったはずだ」

「で、でも、言えないよ……」


 叱られた子供のようにしょんぼりと俯く少女を、ユージンは叱咤する。


「もっと周りを信用して頼れ。イサーク殿下やルキオールさん、周りにいる人たち、そして俺も含めてな」

「ユージン……でも」

「もちろん、信用を裏切りで返されることもあるかもしれない。でもそれ以上に得られるものがあるはずだ。……1人で、頑張らなくても良いんだよ」

「!」


 初めて、身内じゃない人間に、頼って良いと言われた。

 自分が信用したいと思った人間に、信用して頼れと言われた。


 そして、たった1人で誰にも言えず、頑張ってきたのに、頑張らなくて良いと、言われた。

 言われてしまった。


「そんなこと言われたら、私、頑張れなくなる」


 放り出された子供のように、不安で泣きそうな表情の少女に、ユージンは優しく諭す。


「1人では、頑張らなくて良い。みんなで、頑張れば良いんだ」

「みんなで……」

「そうだ」


「……ユージンも?」

「ああ」


 ユージンの答えを聞いて、フラールは少し考えた後、


「わかったわ」


 にっこりと、憑き物の落ちたような顔で、天使のように微笑んだ。


 ◆ ◆ ◆


 ユージンがフラールと話をしてから数日後。


 ユージンは、話をするためにイサークとルキオールに時間を作って貰っていた。

 本題はもちろん、例の秘密の件であるが、もしもユージンの読みが外れていた場合は目も当てられない。

 したがって、表向きは、召喚魔法について詳しく話がしたいという事にしている。


「ユージン、本当に大丈夫かしら」


 イサークに指定された部屋に向かう道すがら、フラールが不安そうに訪ねてくる。


「多分な。まあ、なるべく遠回しに確認して、感触が悪かったら撤退するから」

「頼むわよ」


 フラールにとって、コレを失敗することは、自分が死を覚悟するほどの秘密を守れなかった事を意味する。不安にもなろうと言うものだ。

 しかし、ユージンは割と楽観的に考えていた。

 案ずるより産むが易し。客観的に彼らを見た結果の結論だ。


「任せろ」


 自信満々に言うユージンに、フラールは少し呆れながらも微笑んだ。




「とりあえず、召喚魔法にかかる進捗状況を詳しく教えてほしいんですけど」


 以前と同じように、一つの円卓の回りにイサーク、ルキオール、ユージン、フラールの順に時計回りに座っており、ユージンが対面のイサークに質問した。


「そうだな……ルキオールが報告している内容とあまり変わってはいないのだが、現状、特別な魔珠を持つ少女の回復待ちだ。かなり回復はしているんだが……」


 そこでちらりとルキオールに視線を向けるイサーク。

 それを受け、ルキオールが引き継ぐ。


「彼女は現在王宮内で療養中ですが、普段と環境が違うためか、魔珠の回復速度がやや遅くなっているようです。召喚を確実に行うためにも、もう10日ほど待っていただければと思います」

「10日か……その少女以外の段取りは、特に問題ないんですか?」

「ええ、それ以外は万全です」


「俺を召喚した時は、余波で少女が飛ばされるアクシデントがあったようですが」

「それも、原因は特定済みです。固定魔法陣の一部の記述が完結しておらず、魔力に乱れが生じたことが原因でした」

「召喚する剣の特定は、俺のイメージを用いるとのことでしたが、何か準備しなくて良いんですか?」

「そうですね……。魔力を通じて召喚する人間にイメージを渡してもらうので、魔力の扱いが未熟な場合は少し訓練していただくところですが、ユージン様はもう一級魔法士レベルの練度で魔力を扱えていますので、必要ないかと」


「え、一級魔法士って結構凄いんじゃないんですか?ゾーイがやたら自慢してきたんですけど」

「ええ、魔法局の資格としては最上位のものです。もちろん、今のユージン様が一級魔法士の試験を受けたところで受かりはしません。様々な魔法理論や広範囲の知識、呪文に精通している必要がありますから。ただ、実践的な魔力の扱いに関しては彼らのレベルに達しています。正直私も驚きですが、あれだけ無茶な訓練をした賜物というべきでしょうか」


 予想外の高評価に、ユージンは少し嬉しくなる。

 ようやく勇者っぽくなってきた、といった心境だ。


「ユージン殿の訓練方法については私も聞いている。正直頭が下がる思いだ。それに報いるためにも、なるべく早く召喚を行いたいのだが……すまないがもう数日は待ってほしい」


 イサークに言われ、ユージンは頷く。


「分かりました。ちなみに、剣の召喚が成功したらすぐに発つ予定なんでしょうか?というか、誰が同行して、どんなルートで、どうやって旅をしていくかについても説明がほしいんですが」


 ユージンの質問に、ルキオールが答える。


「そうですね、すみません。そろそろその辺りについても詰めていく必要がありますね。最初にお話しした通り、ユージン様に率いていただく部隊は奇襲部隊なので、基本的に少数精鋭です。ユージン様の他数名で構成する予定です。隊のリーダーはユージン様に就いていただきますが、行程や各国での振る舞いなどは、任せられる者を付ける予定ですので、心配頂かなくても大丈夫です。魔王の根城までは、徒歩では1年以上かかる場所ですので……あっ」


 説明の途中で、ルキオールが何かに気付いて、やや焦った表情をする。


「ユージン様、馬には乗れますか?」


 話の流れから、騎馬での移動になると言うことだろう。ユージンは困った表情を作る。


「一応、少しなら経験があります。ただ、こちらの馬がどんなものかわかりませんし、練習したいですね」


 その経験は、日本でのものではない。

 マナスカイに召喚された後、訓練の一貫としてさせられていたのだ。


「お願いします。いつでも練習できるよう手配しておきますので、ゾーイを監督役に使ってください。あれで結構、馬の扱いも上手です」

「分かりました」


 意外にハイスペックなんだよな、あいつ。と思いながら、ユージンは乗馬訓練をどこに組み込むか思案する。


「旅に参加する人選はこちらで進めておきますが、ユージン様の剣の召喚後、状況を見て、ユージン様とも話し合って最終決定する形で良いですか?」

「分かりました。ちなみに、ルキオールさんは参加するんですか?この国の最高戦力だと噂されてますけど」


 噂のもとはもちろんゾーイだ。だが、騎士達の評価も似たようなものだった。

 剣術だけでも騎士の最強レベルに近いらしく、さらに魔法に関しては文句無しの最強なのだ。

 魔王を倒すのにもってこいの人材であると思うのだが、彼は済まなそうな顔で首を横に振った。


「行きたいのはやまやまなのですが……」

「ユージン殿にはすまないと思うが、こいつだけは行かせられないんだよ」


 ルキオールに代わって、イサークが説明しだす。


「確かにルキオールはこの国最大の戦力の1人だ。特に魔法に関してはな。だが、それ故に現在のこの王宮の防御はルキオール頼みになっている。常設の防御結界は他の者でも何とかなるだろうが、緊急時の対物、対魔防御壁はルキオールの制御によって最も効果を発揮する。ルキオールが不在の時に悪魔の集団に攻められて、魔王は倒したが国が滅んだ、では目も当てられないからな。現状でルキオールを国外に出すのは難しい」

「なるほど」


 ユージンは顎に手を当てて考える。

 魔王討伐部隊が軽く見られている感がしないでもないが、お偉方が最強の盾が無くなることを許すはずもない、か。


「事情は分かりましたが、僭越ながら言わせていただくと、1人の人間に頼る防御システムはいかがなものかと思いますね」


 ユージンの言葉に、イサークが苦い顔をする。


「痛い所を突くな。全く以てその通りだ。ただ、我々もその懸念を放置している訳ではない。現在の防御壁は、魔王による悪魔たちの組織化に対抗するために、ルキオールが既存の物を急拵えで改良したものだ。だから、ルキオール以外に制御が難しい。現在、それを他の者達でも制御できるように、ルキオールと魔法局のトップの者たちで改良・検討している最中なんだよ」

「これが意外に難航していまして。通常業務に加えて悪魔対策の研究、被害に遭った土地の復旧などが増えてどうしても人が足りず……。これまで後任をしっかり育てておかなかった私の責任です」


 ルキオールに深々と頭を下げられては、ユージンもそれ以上追及はできない。

 肩を竦めるユージンは、そろそろ頃合いか、と話を切り出した。


「そういう事情ですか……。ところで、話は変わりますが、イサーク殿下とルキオールさんの眼の色はよく似ていますね。この国では灰色の眼の方は多いんですか?」


 突然の話題に、イサークとルキオールがお互いの眼を見る。

 灰色の眼、と一口に言っても、その色彩は多様である。黒に近いものから青味がかっているもの、褐色が混じっているものなど。

 その中で、彼らの眼は、彩度の全くない無彩色の灰色であった。そんな色の瞳は、この国では他にフラールしかユージンは見ていなかった。


 フラールが非常に緊張した面持ちで2人を見ているが、それに2人は気付かない。そして数秒の沈黙の後、イサークが楽しそうに笑った。


「ついに気付かれてしまったか」


 それに対する反応は、三者三様であった。

 フラールは零れんばかりに目を見開いて口元を手で覆い、ユージンはイサークと同じように笑い、ルキオールは、


「おい」


 およそ皇太子に向ける臣下の言葉とは思えない鋭さで彼を諫めた。


「別に良いだろう。公然の秘密というやつだ。だいたい、お前の態度も大概じゃないか」


 だが、イサークはルキオールの静止を一瞥して一蹴した。


「それは、そうだが」


 ルキオールも、その「公然の秘密」をユージンに暴露することを強硬に反対するつもりはないらしく、イサークに対する敬語を止めた。

 それを見て満足したイサークは、再びユージンに向き直り、言った。


「ユージン殿が考えている通り、そこにいるルキオールは、私の兄だ。母親は違うがな」


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