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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第7章 フロンティア
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第102話 魔境攻略会議、難航

前話のあらすじ:

ユージンは魔王城までの地理を聞き、フラールは姉ドリファと談話中!

 

 トルハイム王国王妃であるドリファは、勇者の事を心配して憂いを浮かべる妹フラールに視線を向ける。

 ドリファが知る限り、フラールはその性格もあり、あまり他人と深くかかわることはなかった。それ故、家族以外の誰かを心配するようなこともあまりなかった。


 これは、フラールが冷たいとかそいういうことでなく、彼女が誰かを心配するような状況になることが稀であったからだ。

 彼女の立場や性格を考えて、多くの人はあまり彼女と関わろうとしなかった。フラールが日常的に接していたのは、家族や侍女達くらいのものだ。


 そして侍女達は、フラールの機嫌を損ねることを恐れて、彼女に心配をかけるような素振りは見せなかった。フラールが、どうしたの?と訊ねても、恐縮して、「大丈夫です!」と逃げるのが常だったのだ。


 そんな訳で、フラールが家族以外の誰かのためにこんな表情をするのを、ドリファは初めて見ることになった。


「フラール、貴女もしかして――」


 勇者様のことが好きなの?

 そう訊こうとして、ドリファは思い留まった。


 今、フラールにそう訊いても、否定の言葉しか返ってこない気がしたからだ。

 まずは、状況証拠を集めるところから。


 ドリファはそう考えて、何?と首を傾げる妹に微笑んだ。


「そういえばどうして、フラールは勇者様の旅に同行することになったの?お兄様に言われたわけじゃないんでしょう?」

「えっと……。私の回復魔法に目を付けたユージンが、同行してくれって言ってきたのよ」


 フラールは、責任をユージンになすりつけた。しかし、でっち上げたにせよ理由としてはまずまずである、とフラールは思う。


 だが、妹の一瞬の迷いを見逃す姉ではない。今フラールが口にした理由が全てではないと、ドリファはすぐに看破した。

 しかしそこを追求するよりも、フラールが口にした理由を深堀した方が面白そうである、と判断し、ドリファは少し惚けたような表情になり。


「そうなの?じゃあ、もしかしたら勇者様は貴女に気があるのかしら?」

「……へ?」


 姉の言葉に間抜け面を晒すフラールに、ドリファは追撃する。


「だってそうでしょう?いくら貴女が回復魔法が得意だからって、普通、旅に慣れていない皇女を連れて行ったりしないわ。それよりも、専門の魔法士を連れて行った方が旅は順調に進むはずよ。それなのに貴女に同行を頼んだってことは、フラール自身に傍に居て欲しかったってことじゃないの?」


 内心ではニヤリと笑いつつ、ドリファは優し気な表情で首を傾けた。

 一方のフラールは、ドリファの言葉を理解するに従い、焦りが増していく。


 まさか自分の思い付きで言った理由が、そんなところに繋がるなんて考えもしなかった。

 ユージンに同行したのは自分の意思によるので、ユージンがフラールに気があるなんてことは、まずない。

 それなのに――。


 もしそうだったら、などと考えてしまった。

 もしユージンが、自分に気があったのなら――。


 そこまで考えたフラールは、ボン、と音がしそうなほど顔を真っ赤に上気させ。


「ち、ちが!違うわよ!」


 良く分からないままに、姉の言葉を否定するしかなかった。

 しかし、妹の反応に手応えを感じた姉ドリファは、攻勢の手を緩めない。


「あら、そうなの?でも、これまでずっと一緒に旅してきたんでしょう?最初は違っても、今はそうかもしれないわよ?」


 ドリファの質問が、旅に同行した理由から、好意の有無にシフトしているが、焦るフラールは気付けない。

 しかもこの質問は、ユージンだけに当てはまるものではない。


 最初は違ったかもしれないけど、今は好意があるかもしれない。


 フラールが、ユージンに対して。


 そう考えさせることもできる、巧みな罠であった。



 果たしてフラールは、姉の思惑通りに混乱していく。


「(い、今はそうかもしれないって……今はユージンが私に気があるってこと!?そ、そんなの……。え、でも待って。元々は私がユージンについて行くって言ったわけで、それはつまり、今は私がユージンに……)」


 顔を赤くしたまま考えていたフラールが、ガタン!と勢い良く立ち上がった。

 それにドリファは驚くものの、フラールは姉の様子に気づくこともなく。


「そ、そそそそんなことない!」


 そう叫んで、頭を左右に大きく振った。


 はぁはぁ、と息を吐くフラールに、ドリファは一瞬キョトンとしたが、すぐに気を取り直し、微笑む。


「何が、そんなことないの?」

「私が、ユージンの事を――、じゃなくて、ユージンが、私の事を好きとか!そんなんじゃないから!」


 混乱しつつも、何とか主語を間違えなかったフラールに、ドリファは変わらず微笑んだまま。


「何で貴女に勇者様の気持ちが分かるの?」

「え、と。それは……」


 言葉に詰まったフラールに対して、ドリファは白々しく、今それに気付いたような表情で口を開く。


「あ、もしかして、勇者様には恋人がいるのかしら?」

「……え?」


 再び、フラールが固まった。


     ◆ ◆ ◆


 トルハイム王国の騎士から、王国の北側に広がる「魔境」と、魔王軍の参謀とされる悪魔ルーズニルの説明を受けたユージン達。


 その結果、魔境の前段部である原生林地帯には、ユージン達の進行を阻むような罠などが存在する可能性は低いと結論付けた。

 その理由として、参謀とされる悪魔ルーズニルがそこまで凝った作戦を実行した経歴が無いこと、そもそも広大な原生林のどこに罠を仕掛けるかという問題があることが挙げられる。

 罠の種類にもよるが、維持するのには多少のコストはかかる。人間がそこまで来るかもわからないのに、また予想したルートを通るかもわからないのに、罠を維持し続けるのは難しいという判断だ。

 加えて、いくら考えても本当に罠があるかないかは分からないので、気にしても無駄という思考も働いた。


 一方、魔境の後半である高山帯には、原生林との境界に何らかの防衛線が張られている可能性が高い。

 加えて、どういう訳か山裾から植生が急激に減少しているため、身を隠す場所がないのも問題だ。


「魔王城から、丸見えだね~」


 ゾーイが、王都トリトルから魔王城までのミニチュアモデルを前に、そんな感想を述べた。


「そうだな……。登山距離自体はそこまで長くないから、2日もあれば辿り着けそうなんだが」


 ユージンも、原生林との境界から魔王城までの地形を眺めてそう言った。


「でも、登山道も何もない山ですよね。大丈夫でしょうか」


 フレイヤの危惧に、ゾーイが答える。


「植物が生えてなければ、そこまで大変じゃないと思うよ。ボクの地形改変と、ユージンとフレイヤの『盾』とかのフォローがあれば、滑落の危険も少ないだろうし」

「やっぱ問題は丸見えな点だな。むしろそれがあるから、森林の方に色々手を回す必要なんて無いと考えてるのかもな」

「魔王城までの山中で、仕留められるという自信ですか?」

「そうだな」


 話の流れで、問題は原生林を出た後の山中ということになった。


「何か良い案はないかな?」


 ユージンが、トルハイム王国の騎士に訊ねた。

 騎士は難しい顔をして答える。


「我々はそこまで到達できておりませんので……すみません。一応、偵察魔法と同じように、遠距離魔法で攻撃をしたことはあるのですが、起動魔法陣も山地に入る境界線で撃ち落とされてしまいます。その手前から放ってみたこともあるのですが、さすがに遠距離で発動できる魔法程度では魔王城までは届かず……。唯一、国の魔法士が結集して最大規模の遠距離魔法を放ったときだけは、魔王城に届いたのですが、当然のように魔王城周辺に張られた防壁に阻まれました」

「そうか……」


 予想はしていたが芳しくない結果に、ユージンも眉を寄せた。


「その情報から予想すると、山地に入った途端に、悪魔からの魔法攻撃が降ってくると考えられますね」

「敵の本陣だからね~。容赦無く雨あられのように撃ってくるかもね。さすがにボク達でも耐え続けるのは厳しそう」


 フレイヤ、ゾーイの意見に、ユージンは押し黙る。


 2人の言うとおり、何の策もなしに敵陣に乗り込めば、蜂の巣になることは目に見えていた。

 1対1の戦闘ならまだしも、悪魔の集団相手に気合いで何とかできるとはユージンも考えていない。

 何らかの対策は必要だろう。


「(つってもな。ネアン帝国との戦争を見るに、敵の戦力は、数百は下らないだろうしな)」


 あの戦争に参加していた悪魔が、魔王軍の大半であり、既にそれらを打ち倒している、という楽観はできなかった。

 あれは、魔王軍の中でも遠征に耐える悪魔の編成部隊と考えるべきで、魔王軍には少なくとも同数以上の悪魔が存在している、というのがネアン帝国の研究者の見方だった。


 ユージンが召喚された当初、ルキオールは魔王軍の総数を、捕らえた悪魔から得た不確定情報ながら100前後と考えていたようだが、誤算も良いところである。


 それはさておき、数百規模の悪魔に対抗するには、ネアン帝国が採った作戦と同じく、相当な人数の魔法士による魔法障壁の守りと、熟練した騎士による近接戦闘が有効と考えられる。

 もちろん、近接戦闘では人間側の力量が上回っていることが条件で、1対1でそれが無理なら、複数人で当たるのが原則だ。つまり、近接戦闘員もかなりの数が必要となる。


 要するに、数だ。

 数を相手にするには、どうしても数が必要になる。


 いくらゾーイやニルガルドが強力な魔法を使えたところで、魔法防御が得意な悪魔など敵側にいくらでもいるはずであり、有効な攻撃になるとは考えにくい。

 戦いが常に1対1であれば、ユージンが『断物セパレーション』を連発できれば悪魔を倒していくこともできるだろうが、敵がお行儀良く1人ずつ尋常に勝負を挑んできてくれるはずがない。囲まれたり、敵味方構わずの魔法攻撃をされたりすれば、ユージンの勝機は限りなくゼロになる。

 全員で上手いこと連携すれば、何とかなるか?


「(無理だな。遠くから魔法を連発されればそれで終わりだ)」


 そこでやはり必要なのが、数になる。

 大量の魔法を防ぐには、大勢の魔法士で防壁を張るしかない。


 だが、現実的にユージンにはそんな数の魔法士を用意できないし、もしトルハイム王国が協力してくれたとして、原生林の先まで魔法士を連れて行く手段は思いつかない。


「(いや、可能性があるとすれば、あの転移魔法か)」


 ユージン達が、悪魔襲撃のためネアン帝国に帰還しろと命じられた際に使用した魔法陣。ナルセルド王国から数百キロメートルの距離があるネアン帝国まで一瞬で移動できた。

 あれを用いれば、トルハイム王国から魔法士を移動できるのでは――と考えたユージンだが、その魔法の存在を知った時に同じことを考えたのを思い出した。


 あの時は、ゾーイに「制約が多い」と言われ、直接魔王城に軍を転移するのは難しいということだった。

 それは、自分達が魔王城の目の前に来た現在も変わらないのだろうか。転移先まで地道に進んだゾーイが、何か工夫をすれば転移できたりはしないのか。


 ユージンはそんな考えを、ゾーイに訊ねてみた。

 問われたゾーイは、うーん、と唸った後に回答する。


「理論的には不可能じゃないけど、現実的には難しいね。一応、あの山の麓に魔法陣を設置して、それと対になるものをこっちに敷設すれば、通行は出来ると思う。ただ、魔法陣の設置は転移魔法の専門家が必要で、ボクには無理。あと、転移には、転移する人間の数に応じた魔力が必要になるけど、そんな何百人も移動するには莫大な魔力が必要になる。仮に魔法士が自分の転移に自分の魔力を使おうとしたら、魔力の大部分を使わないといけなくなるだろうから、戦力にならないよ」


 ついでに悪魔が転移妨害の魔法を組んでいないことが前提、と付け足して、ゾーイは言葉を締めた。


「俺達が前に転移した時は、元から魔法陣が組んであったから行けたのか」

「そだね。あれは帝国に帰還する専用の魔法陣をすでに専門家が組んでて、しかも魔力も込められた後のものだったから、比較的簡単に使えたんだ。汎用性の高い『転移扉』の設置は、実は結構制約が多いんだよね」


 ゾーイの解説に、ユージンは肩を落とす。


「結局、良い案は無し、ってことか」


 ユージンの下したシンプルな結論に、部屋に重い空気が下りるのだった。


     ◆ ◆ ◆


 一方その頃、城下町を散策していたディストラと、肩にニルガルドを乗せたユングは。


「やっぱ、この辺りは東の方と全然違うな!」

「そうだね。俺がいた国も、どちらかというとネアン帝国の雰囲気に近いから、こういう町並みは新鮮だ」


 そんな会話をしながら、トルハイム王国の王都トリトルを歩く。

 ネアン帝国程ではないが、この街も活気がある。悪魔との戦いの最前線であるため、厭戦気分が蔓延しているかと思いきや、国軍が悪魔相手に善戦しているためか、意外にも市民の表情は明るい。

 言葉を変えれば、逞しいと言えるかもしれない。世界中の富が集まるネアン帝国と違い、この地では娯楽も少なく、生きるのに精一杯という人も少なくない。だがそれ故に、生きることを楽しむ術を知っているのかもしれない。


 そんな市民が行き交う街並みの先に、ディストラは見知った顔を発見した。


「ん?あれは、ライリーか?」


 ディストラの言葉が疑問形だったのは、彼の服装が普段と違ったからだ。

 ライリーは、普段着用しているネアン帝国騎士の制服ではなく、市民に紛れても違和感のない、一般的な服を着ていた。


 確かに、物資の調達を何事もなくこなすにはその方が適しているかもしれないが、ライリーはこれまでそのように服装を変えることはなかった。

 ここに来て、心境の変化か?と首を傾げたディストラの視線の先で、ライリーが隣の男と会話をするのが見えた。


 それは、ただこの場で知り合った人間と挨拶を交わすような雰囲気ではなく、明らかに知人と接しているようで。


 こんな世界の果ての地に、知り合いが?と、ディストラはますます首を傾げるのだった。



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