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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第7章 フロンティア
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第98話 偽勇者の改心

第7章開始です。

 激戦の末に、ユージン達は500年前の魔王が遺した魔法生命体『悪意マリス贈物プレゼント』を倒した。

 その際に負傷したユージンが回復するのをしばらく待った後、ユージン、ゾーイ、ライリーの3人とニルガルドは、来た道を戻って街で待っているはずの仲間を迎えに行く。


「てゆーか、結局アレはなんだったの?ただの獣魔じゃないよね?」


 その道中、ゾーイが尤もな質問をした。

 獣魔とは、悪魔の「黒い魔力」の影響を受けた生物の総称であり、概して身体能力や魔法能力が普通の生物よりも高い。だがそれでも、あれほどの巨体、異常な能力を獲得するのは通常ではありえない。


 ユージンは、もう済んだ話なのですべて話してしまっても良いと思ったが――、視線を斜め上に向けた。

 視線を向けられたニルガルドは、スイっと降りてきてユージンの肩に留まり。


『アレは、500年前の魔王が、死ぬ間際に生み出した悪意の塊――魔法生命体だよ。生み出された500年前の戦場はヴァナル王国だったから、私も何度か戦ったことがあったが、結局これまで倒しきることはできなかった』

「え!500年前からあんなのがいたの?ボク全然知らなかった」


 確かに、それはユージンも疑問に思うところである。

 あれだけの巨体で、奔放に暴れまわるのであれば、人間への被害も大きいはずだ。そうすれば自ずとその存在は有名になるであろう。


 だが、実際に目にしているはずのヴァン兄妹やロキも、それが何であるのかを知らなかった。


 それに対して、ニルガルドが回答する。


『アレは、モデルの生物である猪の性質をある程度有しているらしく、基本的に森林にいたようだ。加えて、良く分からないがあのたてがみの能力なのか、普段はステルス性能が高い。活発に動いているとき以外は発見は困難だった。その辺りが、人間に存在が広まらなかった理由だと思う』

「ふ~ん。なんでまたそんな良く分からない生物を創り出したんだろうね、500年前の魔王は」

『さて、魔王の考えは私には分からないね。ただ、死ぬ間際に急造したせいで、色々と不具合が起きていたのかもしれない』


 ニルガルドは、『悪意の贈物』の本来の目的である「ヴァナル王家の根絶」については言わないことにしたらしい。ユングやフレイヤの耳に入るのを危惧したのかもしれない。

 確かに、自分達の血筋が、根絶やしにされるほど恨まれていると知ったらショックを受けるかもしれない。

 いずれは話すつもりなのかもしれないが、それは今ではないということだろう。


 ユージンは、2人を見守るニルガルドの判断に異を唱えることはなかった。


     ◆ ◆ ◆


 街の入口付近には、人だかりができていた。


 ニルガルドの使った極大魔法は大地を揺るがすほどだったのだ。さもありなん、とユージンは感じた。

 そんな中から、ユージン達に気づいてユングとフレイヤが駆けてきた。


「ユージン兄ちゃん、さっきの爆発は何だ?敵は倒したのか?」

「怪我はありませんか?」


 2人の質問に、ユージンは頷きつつ返答する。


「大丈夫だ。敵は何とか倒した。あの爆発については……説明が長くなるから、後でする。というか、その説明を求められても面倒だからさっさと出発したいけど、馬車の準備は?」


 双子に続いて近寄って来たディストラとフラールに、ユージンが視線を向ける。


「そんな事だろうと思ったから、すぐに出られるようにしてるわ」

「さすが。お姫様は気が利くぜ」

「素直に褒めなさいよ」

「あれ、そうしたつもりだけど」

「貴方にお姫様呼ばわりされると、皮肉にしか聞こえないわ」

「そりゃ失礼。っと、無駄話してると市民に捕まるな。さっさと行くぞ」

「はいはい」


 2人の会話を聞いていたディストラが、馬車を牽いてきた。それに合わせて、ライリーとゾーイも皆の馬を連れてくる。

 てきぱきと出発の準備を整えるユージン達を、集まっていた市民はポカンと眺めていたのだが。


 その中から、1人の男が飛び出してきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!あいつらはどうなったんだ?」


 勇者を騙っていた傭兵、ヘディンであった。

 ユージンは彼を見てようやく、この男が切っ掛けとなり『悪意の贈物』を倒しに向かった事を思い出した。そして、同時に『悪意の贈物』と戦ったとみられる男の仲間達の行く末を思い出し。


「ああ……、悪いが間に合わなかった。俺が奴の所に辿り着いた時には、4人とも死んでたよ」

「そ、そんな……」


 項垂れる男に、ユージンは肩を竦める。


「相手が悪かったな。アレは俺達でもギリギリだった。お陰であんたの仲間の遺体を回収するのも忘れてたぜ、悪いな」


 というより、最後のニルガルドの魔法による衝撃が大きく、偽勇者の事など完全に忘れていただけだが。


 ユージンが偽勇者ヘディンと会話している間にも、ライリー達の手によって着々と出発の準備が進められており、すぐにそれは完了した。


「ユージン、終わったぞ」


 ライリーにそう言われ、ユージンは街に背を向ける。

 その背中に、傭兵ヘディンが慌てて声を掛ける。


「ま、待ってくれ!アレを倒したんだよな!?」


 ユージンは立ち止まり、首だけ振り返って。


「ああ、そうだ。安心しろ、もう街が襲われる心配はねえよ」

「それは良かった……じゃなく!それで、何でもう出発しようとしてるんだ!?」

「は?何でも何も、留まる理由がない。装備の被害も軽微だし、魔力の枯渇などもない」

「いや、それも大概だが、そういうことじゃなく……」


 傭兵ヘディンは、困惑して口ごもった。

 もし自分があの悪魔のような獣魔を討伐したとしたら、その功績を讃えろと市長に迫り、多額の褒賞金をせしめていただろう。

 それだけでなく、これまで彼に失礼な態度をとった市民に謝罪させ、過去の態度を楯に慰謝料を請求していたかもしれない。

 あの獣魔の討伐には、それだけの価値があるとヘディンは理解していた。


 だが、目の前の少年は、それに微塵も興味を示さずに、街を出ると言う。

 まさか、自分の行いの価値に気づいていないのか?

 それならば、それを利用して――、と、浅ましい考えがヘディンの脳裏を過りかけたところで、思い出した。


『俺は、誇りや名誉のために、戦ってるんじゃない。感謝や称賛の言葉が欲しくて、戦ってるんじゃない』


 この少年が、アレとの戦いに向かう前に、言った言葉だ。

 あの時はまだ、その言葉を実感していなかった。何を言っているんだ、このガキは?とすら思っていた。


 だが――。


 今、ヘディンには、彼の言葉の意味がはっきりと理解できた。


 自分達の策に乗った市民に、散々敵視されていながら。

 そんな彼らの安全のために、強力な獣魔に戦いを挑み。

 それを見事に打ち倒して、市民を見返す場を得ながら。

 名誉の回復や称賛の言葉など不要とばかりに、旅立つ。


 そんな人間など、存在するはずがない。昨日までのヘディンは、そう考えていた。

 人間は、利益や欲に弱い生き物だ。目の前に金がぶら下がっていれば、多少汚い手を使ってでもそれを奪い取る。隣の人間が己の欲しいものを持っていたら、隣人を騙してそれを奪い取る。

 もちろん、程度の差はある。傭兵という人種は、それらが強い部類に入ることをヘディンは自覚している。


 それでも、どんな人間でも、利益なしに動きはしないし、自らの行いを他人に認めて欲しいと考えている。

 そう、思っていた。


 利益にならない働きをする人間など、他人に認められなくても行動する人間など、居るはずがないのだ。


 だが今、目の前に、居る少年は――。



 世の中にすれ切った自分には、存在すら信じられなかった。そんな彼は、いったい何者なのか。


 その答えにたどり着いたヘディンは、天を仰ぎ見た。


「(役者が、違いすぎる――)」


 そして、自らのこれまでの行動を省みて、今度は深く首を垂れる。


「(俺は……)」


 そんなヘディンの様子を訝りつつも、ユージンはこちらの様子を窺う市民を気にして、再び顔を前に向けた。


「じゃあな。仲間は弔ってやれよ」


 そして、それだけ声を掛けて、馬車に乗り込んだ。

 その声に、ヘディンは頭を上げる。


 あの少年は、自分達を犯罪者と非難するくらいには、相応に嫌い疎んでいた。こちらが彼らに対して行った恥ずべき行為も、把握しているはずだ。

 それでも、彼は最早こちらを責めることはなかった。

 そして、市民に本当の事を話すように要求することもなかった。


 それを冷たいと捉えるか、甘いと捉えるかは、考え方次第だろう。

 ヘディンは、そのどちらも受けとり――、そして、生き残った自分が、自分達の行いの責任をとらなければならないと、自覚した。


 そのたまに、まずは。


 ヘディンは、街を振り返り、興味津々な視線を向けてくる市民に向き直り、唇を結ぶ。

 そして、覚悟をもって口を開くのだった。


 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆第3回YSJ秘密会議


フレイヤ「ユージンお兄ちゃんって、あちらの世界に恋人いないんでしょうか?」

ゾーイ「……」

フレイヤ「なんですかゾーイちゃん。突然黙って」

ゾーイ「いやあ、いきなり核心来たなぁって思って」

フレイヤ「ええ、わたしもようやくこの会議の意義を見出しつつあります」

ゾーイ「あれっ?前2回は?」

フレイヤ「正直めんどうだなと」

ゾーイ「酷いっ!フレイヤの毒舌がひどい!」

フレイヤ「そういうのいいですから」

ゾーイ「フレイヤって本当にユージンとその他――っていうかボクとの態度の差が激しいよね」

フレイヤ「好きな人に対する態度と友達への態度がほとんど同じのゾーイちゃんの方が、わたしには信じられません」

ゾーイ「裏表がないってことだね☆」

フレイヤ「物凄く前向きな捉え方ですね……。まあ、ゾーイちゃんを否定するつもりは無いですけど」

ゾーイ「だって、いちいち態度変えてたら疲れない?」

フレイヤ「別にわざと変えてるわけじゃないですからね。特に疲れません」

ゾーイ「ふーん。これはもう、性格の違いだね」

フレイヤ「そうですね。……といいつつ、ゾーイちゃんも少し変わりましたよね、前より」

ゾーイ「え、そう?」

フレイヤ「はい。ネアン帝国で、南の国の侵攻を防いだ件以降、壁が無くなった気がします」

ゾーイ「壁?そんなのあった?」

フレイヤ「この会議が良い証拠です。ゾーイちゃん、なんだかんだ言って、こういう本音って、これまで殆ど喋ってなかったじゃないですか」

ゾーイ「あー、まあ、そうかもね」

フレイヤ「特にユージンお兄ちゃんに対する心理的な距離が前よりだいぶ近くなったように感じます」

ゾーイ「良く見てるね。まあ、あそこで本気でユージンに惚れちゃったのは間違いない」

フレイヤ「何があったんですか?」

ゾーイ「詳しくは言わないけど……。ボクが一番欲しかったものをくれた、ってとこかな」

フレイヤ「欲しかったもの?」

ゾーイ「それはちょっと恥ずかしいから秘密。あ、別にいかがわしいものじゃないから」

フレイヤ「……まあ良いですけど」

ゾーイ「というか、そういうフレイヤも変わったよね。ヴァナル王国以来」

フレイヤ「そうですね。自覚はあります」

ゾーイ「あるんだ」

フレイヤ「はい。少しくらいなら我儘を言っても良いかなと思うようになりました」

ゾーイ「あはは。そだね。フレイヤの我儘くらいなら可愛いもんだしね」

フレイヤ「今ならまだ、ユージンお兄ちゃんに抱きついたりしても、お兄ちゃんは拒否しませんからね」

ゾーイ「その計算はどうなの!?確かに、ボクくらいの年齢になっちゃうと、ユージンも無抵抗でハグを受け入れはしないかもしれないけど」

フレイヤ「使えるものは使うのです」

ゾーイ「この潔さよ。ボクには真似できない……!」

フレイヤ「ゾーイちゃん、中途半端にヘタレですからね」

ゾーイ「グサッ!ここ最近で一番刺さる言葉!!」

フレイヤ「わたしと違って色々できる年齢なのに、覚悟が足りません」

ゾーイ「分かってるけどやめて!ボクの心も、フレイヤのキャラも死んじゃう!」

フレイヤ「やれやれです。ゾーイちゃんのせいで本題がどこかに行っちゃいましたよ」

ゾーイ「駄目だ。早くフラール様も引き入れないと、ボクの心が力尽きてしまう!!」


つづく


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