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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第6章 偽物と遺産と贈物
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第97.5話 偽勇者ヘディンの回想

偽勇者がなぜ偽勇者となったかという裏話です。


後半にはさらにその裏話があります。

 

 傭兵ヘディンは、軽い気持ちでその仕事を請け負った。

 話を聞けば聞くほど、楽で美味しい仕事だと思ったからだ。


 ただ「勇者として行動する」だけで、金が貰えるなんて。


     ◆ ◆ ◆


 その仕事を持ってきたのは、若干怪しげな風体をした老人だった。

 というのも、身に付けている服は一級品と思われる使用人の服で、それだけなら貴族の使いのように見えるのだが、薄ら笑いを浮かべるその表情が、貴族の使用人というには相応しくないのだ。


 とはいえ、ヘディンもキレイな仕事ばかりをしてきたわけではない。多少汚かろうと、金さえ貰えればやる。それが傭兵だった。


 しかし、ヘディンのそんな心中とは裏腹に、その老人が持ってきた仕事は、殺しも盗みもない、実にクリーンに思えるものだった。


「勇者の振りをして西に向かう?そんなことをして、あんたに何の得があるんだ?」


 疑問を呈するヘディンに、老人は薄ら笑いを浮かべたまま。


「依頼主の事情は訊かない。傭兵の鉄則でしょう?」

「……まあ、そうだが」

「ひとまず、中海の西側、サガエン国の港町に向かってください。その後の動きは追って指示します」


 老人は、前金です、と言って布袋をテーブルの上に差し出した。

 この金を使って、仲間を雇うことと、その仲間にネアン帝国騎士と魔法士の服装を用意することを指示して、老人は去って行った。


 ヘディンは老人の気味悪さに一瞬だけ躊躇したが、すぐにテーブルの上の金を懐に収めた。そして気持ちを切り替え、付き合いのある傭兵に声を掛けるため、傭兵組合に向かうのだった。


     ◆ ◆ ◆


 仲間役の傭兵は、すぐに見つかった。何度も仕事を共にした、力量も性格も良く知っている連中がたまたま空いていたのだ。

 ヘディンが仕事内容を説明すると、少しだけ怪しむ声はあったものの、ヘディンと同様にすぐに首を縦に降った。


 そうして、「偽勇者一味」は誕生した。



 彼らは、「勇者一行として逸脱した行動をとらないこと」という指示を受けていたので、さすがに犯罪行為に走ることはしなかったが、勇者の名声は存分に活用し、美味しい汁を吸いまくった。


「いやぁ、ヘディン、最高の仕事だな、こりゃ」


 昨晩は良い女を抱けた、と満足げな男が言った。それに同調するように、別の男も。


「全くだ。仕事じゃなくても十分旨い。その上、金を貰えるってんだから、言うことなしだな」

「でも、もし偽物ってバレたらヤバくない?」


 唯一の女性である魔法士がそう言ったが、一味は楽天的だった。


「そんときゃ、トンズラすりゃ良いんだよ。でも、頼まれた獣魔の討伐なんかをちょくちょくやっとけば、バレねえだろ」

「本物とかち合わない限りな」

「その本物の場所も、わざわざ依頼主が教えてくれるってんだから、至れり尽くせりだな」


 サガエン国の港町に滞在していた一味は、数日前に依頼主の使いだという男に、本物が近づいているので西の町に移動するように言われたのだ。そのため、勇者としてちやほやしてくれた港町を出て、この国でも有数の街にやってきていた。

 新しい街で勇者として疑われないかと危惧したが、市民はあっさりと自分達が勇者であると信じた。そして、港町以上に様々なもてなしをしてくれたのだ。


「ああ。本当に最高の仕事だぜ」


 ヘディンはそう言って、今日はどの店で接待を受けようか、と算段した。


     ◆ ◆ ◆


 ヘディン達は、しばらくこの街に留まっている。依頼主からの指示がないからだ。

 一味の一人が、それを訝る。


「なあ、次の指示はないのか?」

「ああ。今のところ何もないな」


 それに返答したヘディン。彼自身も、少しそれは気になっているのだ。

 勇者と偽って生活している以上、ボロを出さないためにも、1つの街に長く留まるのが良いとは思えない。だが、依頼主の指示無しに勝手に街を出るわけにもいかない。


 そんな微妙な焦燥感を覚えている一味のもとに、不安を煽る情報がもたらされる。



「ちょっと、街で私達のことを聞き回っている連中がいるらしいわよ」


 昼過ぎに、一味の女が市民から得た情報を共有した。


「なんだと?俺達の追っかけじゃなくてか?」


 それなりに派手に動いているヘディン達には、勇者の追っかけのような者達が存在していた。

 彼らの多くは、勇者とお近づきになりたいだけのただの支援者が多いが、たまに勇者を利用しようとしたり、弱味を握ろうとして探ってくる人間もいる。

 だが、今回はそういう者達でもないようだった。


「ネアン帝国騎士の服を来た男もいたらしいわ」

「なに?まさか……」

「本物の勇者か!?」


 一味が俄に浮き足立つ。

 もし本物の勇者一行がこの街に来たのだとしたら、マズイことになる。自分達が偽物であることがバレれば、市民から袋叩きにあうことだろう。


「今のところ、自分達が勇者だとかは言ってないみたいだけど」


 女の言葉を聞いて、ヘディンの心は決まった。


 ならば、先手必勝だ。

 今、この街の住人は自分達を本物の勇者であると思い込んでいる。その間に、相手の信用を貶めてやれば、例えその連中が本物の勇者だったとしても、市民は簡単には認めないだろう。

 そして、本当に本物だったとしたら、相手が市民相手に説明や説得をしている間に逃げてしまえば良いのだ。


 依頼主の指示はまだ来ていないが、このままだと任務の遂行に支障が出る。それに、本物が来ることを連絡しなかったのは依頼主の落ち度なので、自分達が勝手に移動することの面目も立つ。なんなら、責任を向こうに押し付けることもできるだろう。


 そのようなことを、ヘディンは一味に説明した。

 説明を聞いて、1人の男が躊躇いがちに口を開く。


「つまり、直接会うってことだよな。もし向こうが実力行使してきたらどうする?」

「そしたら、全力で逃げつつ、向こうを非難するんだよ。こんな街中で剣を抜くなんて、勇者じゃない!ってな」

「なるほどな」

「どうする?今から行くか?」

「いや、街の役人などをつれてこられても面倒だから、夜にしよう」


 そうしてヘディン達は、自分達の事を調べる一行のもとに赴き――、ユージンに退散させられるのだった。


     ◆ ◆ ◆


 拠点にしている宿に戻ってきたヘディン達は、苛立った様子で椅子に腰掛ける。


「なんなんだ、あのガキは!」


 途中までは、良い感じにネアン帝国騎士らしい男を煽って、周囲の市民の感情を操作できていたのだが、最後の最後であの少年にひっくり返された。

 ネアン帝国の領事館だと?それを開けられるだと?そんなことできる訳がねえだろ!

 と叫びたくなるところだが、あの少年のあの自信に満ちた表情。もしかしたら、と思ってしまった。


 それが、ヘディンは悔しかった。


 あんなガキに、言い負けることになるとは!


 机をダン、と拳で叩くヘディンに、一味の男が言う。


「まあ、それでも周囲の市民は俺達を信じてたみたいだがな。あの場は退いて正解だろ」

「そうだな。万が一、本当にあれが勇者だった場合、マズイことになるのはこちらの方だ」

「これからどうする?」


 一味は対応案を考えるが、良い案は浮かばない。

 仕方がないので、少し様子を見て、市民の態度に変化があればすぐに街を出るということにした。


 だがもちろん、自分達の保身のための根回しは忘れない。

 追っかけの存在を存分に利用し、あの連中が勇者にとって邪魔な存在であると言いふらしてもらうことにした。



 その翌日だった。

 村人から、街から少し行ったところに見たこともない奇妙な獣魔がいるから討伐してくれないか、と頼まれたのは。


 市民に、自分達こそが勇者一行であると示すには絶好の機会であった。

 そのため、ヘディン達は二つ返事で獣魔討伐を請け負い、街を出発したのだった。


 自分達が、「依頼主」の意図した通りに動き、そして消されようとしていることに気づかぬまま。



     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 

 人間の住む最果ての土地から、原生林を越え、さらに険しい山を登った先に、城があった。

 重厚かつ荘厳でありながら、どこか人間のセンスからずれたその白亜の城は、悪魔が魔法によって建築した城である。


 魔王城――人間からは、そう呼ばれている。


 その魔王城の一室で、部下からの報告を受けた悪魔が、盛大に溜め息を吐いた。


「やれやれ、アレも存外使えませんでしたねぇ」

「……アレは、一体なんだったのです?」


 部下の質問に、悪魔『偉才なる韋駄天』は、薄ら笑いを浮かべた。


「おや、説明していませんでしたか?アレは、通称『悪意マリス贈物プレゼント』――500年前の魔王が、人間のとある王族を全滅させるために創った魔法生命体です」

「500年前の、魔王の……!」

「置き土産です。まあ、こちらの言うことを聞くでもなし、大した利用価値もなかったのですが、その戦闘能力だけは折り紙つきでしたからねぇ。わざわざ面倒な手を使って勇者を誘導したのですが、無駄でしたね」


 勇者本人は無理でも、仲間の1人や2人くらいは道連れにしてくれればと思っていたが、結局始末できたのは、もう不要となった偽物だけだったらしい。しかも、偽勇者は取り逃がしたということだ。全く以て使えない。


「しかし、アレを始末した最後の魔法は尋常ではありませんでした。正直、魔王様クラスの――」

「おっと、それ以上はやめておきなさい。あの方の耳に入れば、お前の首が胴体に別れを告げることになる」

「……すみません。しかし、人間にあのような魔法の行使が可能ならば、少し考え直す必要がありませんか?」


 部下の慎重な意見に、『偉才なる韋駄天』はニンマリと満足そうに笑った。


「お前は悪魔にしては思慮深い。頭も回る。他のアホ共に見習わせてやりたいですねぇ。魔王様ももう少し――っと、これでは私が殺されかねません」


 ハハハハ、と笑った『偉才なる韋駄天』は、少し顔を引き締める。


「お前が見た魔法は、恐らく極大魔法でしょう。通常の人間には使えないとされる、上級魔法よりも更に上のクラスに分類される魔法です」

「しかし、それなればなぜ?」

「使ったのは人間ではない可能性が高い。我々の前に姿を表すことはほぼありませんが、この世界には幻獣と呼ばれる、魔法を使う知的動物が居ます。その中でも最も強い魔力を持つ種族は、極大魔法を使えるようです」

「ということは、勇者一行にはその幻獣とやらが味方についているということですか?」

「そういうことでしょう。勇者周辺で時々碧い鳥が観察されているらしいですね。それかもしれません」

「なっ!?あんなに小さな生物がですか?」

「魔法を使うのに生物的な身体の大きさは関係ありません」


 上司の言葉に押し黙る部下の悪魔。暫く考えた後に、部下は口を開く。


「ですが、人間でなかったとしても、敵があれほどの魔法を使えるという事実に変わりはありません。脅威となりえるのでは?」


 悪魔にしては珍しいほどに用心深い部下の意見に、『偉才なる韋駄天』は、ハハハハと笑う。


「そうですね。ただ、我々がこの城に居る限りは脅威となりえません。そして、ほとんどの悪魔には気を付けろと言っても無駄です。彼らは聞く耳持たないので」

「それもそうですが」


 不服そうな部下に、上司が補足する。


「まあ、私の直属の悪魔には一応警告しておきましょうか。損害が少ないに越したことはない」


 そうして視線を向けられた部下は、頷いた。


「分かりました。伝えてきます」


 そうして部下が部屋を去り、『偉才なる韋駄天』は1人になる。


 ガランとした部屋の中で、彼は不気味に微笑む。

 そして窓の外、遠く遠くに見える人間の街に向かって、妖しく呟いた。


「さて、次はどうしますかねぇ」


次話から、第7章です。

いよいよユージンのスフィテレンドでの旅も終盤となりました。

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