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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第6章 偽物と遺産と贈物
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第94話 襲われた偽勇者

前話のあらすじ:

ユージンは、伝説の魔法士バルザールの遺産から、送還魔法や2つの世界の在り方についての情報を得た!

 

 ダグラスの屋敷で成果を上げて、意気揚々と宿に帰還したユージン達とは対照的に、ライリーの表情は暗かった。


「おお?どうした、ライリー?」


 宿の1階、食堂の端で1人座って皆を待っていたライリーに、ユージンが話しかけた。

 何かマズイことがあったのか、と思って気持ちを引き締め、そういえばライリーに付いていたはずのニルガルドはどうした、と周囲を見渡す。

 するとユージンの気持ちを察したのか、どこからともなく碧い小鳥がテーブルに降り立った。


「あれ?どこにいた?」

『宿の入口で待っていたよ。宿の中に居ては目立つからね』


 そう言ったニルガルドは、再び飛び上がり、今度はフレイヤの肩に着地した。そこで話を聞こうというのだろう。


 全員が着席したのを見て、ユージンが再びライリーに訊ねる。


「で、どうしたんだ?暗い顔して」


 ユージンの質問に、ライリーは言いづらそうにしながらも、口を開く。


「……この宿だが、明日には出て行かなければならなくなった」


 予想外の言葉に、ユージン達は少しキョトンとする。

 そして、その意味を理解して、ユージンは首を傾げつつ。


「何かあったのか?」

「いや、夕方に戻ってきたら、宿の女将から突然そう告げられた」


 ユージンは、食堂の厨房付近で働いている女将の姿をチラリと盗み見る。彼女は、時々こちらに犯罪者を見るような視線を送ってきていた。


「あー、昨日のいざこざのせいか。まあ、どうせ明日には街を出るつもりだし、問題無いだろ?」

「バルザールの遺産の方は、もう良いのか?」

「ああ、まあ後で説明するけど、成果は十分得られた」

「そうか。なら良いのだが……」


 ふう、と溜め息を吐いて相変わらず暗いライリーに、ユージンは再度訊ねる。


「……なんで落ち込んでるんだ?」

「出て行けという女将に対して、うまく交渉することができなかったことに反省しているだけだ。明日も滞在することになれば、また宿を探さなければならないところだった」


 旅程を管理する身として、また昨日失敗した身としては、それは回避しなければならなかったのに、結局押し切られてしまった。それをライリーは気に病んでいた。

 ちなみに、ライリーがうまく交渉できなかった理由として、昨日の件もあり下手したてに出てしまったことと、今回のようにネアン帝国の騎士であることを疑われた状況で、こちらの言葉に対して相手がどう反応するかが分からなかったことがある。

 要は、経験不足という事だ。一行の中では最も年上のライリーも、まだ30半ば。老獪というにはほど遠く、こういったことに関してはまだまだ修行中であった。


「ま、今回はしょうがないだろ。下手に動いて市民感情を逆撫でするのも良くないし。領事館の仕事に期待だな」


 ユージンはその辺りは気にせず、食事にしようぜ、と言って、店員を呼んだ。そして、嫌そうな顔で見下してくるウェイターに対して、ポンポンと注文する。


「ユージンって、心臓にすんごい毛が生えてるよね」


 ゾーイが溢した言葉に、皆は深く頷くのだった。


     ◆ ◆ ◆


 翌日、ユージン達は追い払われるようにして宿を後にした。

 二度と来るな、と言わんばかりの女将や店員の態度に、フラールが立腹する。


「いくら気に入らなくても、仕事としてやっている以上は最低限の礼儀を弁えるべきだわ」


 馬車の荷台の上でそう主張した彼女に、ユングが同意する。


「そーだそーだ。しばりくびだー」

「お兄ちゃん」


 さすがにあの程度で縛り首は言い過ぎだ、ということか、フレイヤがユングをじろりと睨んだ。

 ユングは妹の視線に若干ビビりつつも、口を尖らせて反論する。


「だっておかしいだろ。魔王軍を倒したり、魔王を倒そうと頑張ってるのはユージン兄ちゃんなのに、その兄ちゃんを邪魔者にして、あんなムカつく奴らを持ち上げるなんて」

「それはそうだけど、それとお兄ちゃんの口調とは関係ありません。王様になるんならちゃんとして」

「ぐぅ」


 最近、フレイヤが意見をはっきり述べるようになった気がすると思うユージン。

 それはさておき、宿を出ても、ユージン達に向けられる視線は何とも嫌な気分になるものだった。


「口調はゼンショするけど、この犯罪者を見るような視線は何とかならねーのかなー」

「印象が悪い時には、何やってもだいたい無駄だからな。さっさと出て行こう」


 ユージンはそんなドライなことを言って、馬を進める。


「それは分かるけれど、気分が悪いわ」


 気分が悪い、くらいで済んでいるのは、フラールはもともと本国でもそこまで好意的な目で見られていなかったからか。ちやほやされて育った、気の弱い皇女であれば泣き出していたかもしれない。

 それくらい、敵意に満ちた眼差しである。


「――というか、宿の外にまで俺達の噂は回ってるんだな。まだ2日と経ってねえのに」

「誰かが率先して噂を広めたとしか思えないわね」


 果たしてその「誰か」は、善意の市民か、悪意の操り人形か。


「ま、どちらにしても、さようなら、だな」


 ユージンは、街の北門を視界に捉えてそう言った。


     ◆ ◆ ◆


 一行が街を出て、北に進むこと30分。

 進路の左前方から、必死の形相で走ってくる人間がいた。


「ん?あれは……」


 ユージンは、その人物に見覚えがあった。

 名前は知らない。だが、一昨日の晩にユージン達()イチャモンをつけてきた一味の代表格、偽勇者その人だった。


 偽勇者は、まだユージン達が何者か判別できていないのだろう。ただひたすらに、必死で走りながら、


「た、助けてくれっ!」


 行きも絶え絶えに叫んだ。


 ユージン達は、馬を止める。


「な、仲間が!襲われっ、じゅ、ま……!」


 叫びながら近づいてきた偽勇者は、そこでようやくユージン達が()()なのか気付いたようだ。

 とはいえ、本物の勇者一行であると理解しているのかどうかは不明である。ただ、一昨日に揉めた相手だとは理解したらしい。


「お、お前らは……!」

「おー、一昨日の勇者の偽物か。死にそうな顔してどうした?」


 ユージンが、敢えてのんびりした口調でそう訊ねた。

 もちろん、おそらく偽勇者一味が強力な獣魔か何かに襲われているであろうことは分かったが、はっきり言ってこんな奴等を助ける義理はない。一昨日の意趣返しの意味もある。


 ユージンのそんな意図を察したのか、偽勇者はグッと唇を噛んで苦々しい顔になったが――、すぐに表情を悲愴なものに変えて。


「た、頼む!あの時のことは謝る!だから、助けてくれ!」

「犯罪者に助けを求められてもな」

「は、犯罪者だと!?」

「あ?そうだろ?あんたらは、詐欺師だ。勇者を騙り、多くの市民を騙した詐欺師だろ」


 ユージンは、勇者を騙ることそのものには、さして怒りを覚えていない。別に勇者の立場を誇るつもりなど毛頭ないからだ。

 だが、彼らはやり過ぎた。偽の立場を利用して、多くの市民を騙し、彼らに間違った認識を与え、不当な利益を得て、結果として――一味が偽物であると暴露されれば――市民を傷つけることになる。加えて、実際にユージン達は多大な不利益を得た。

 ユージンは、それらに対しては怒りを覚えていた。


 ユージンの冷たい瞳に晒され、偽勇者は言葉に詰まった。

 軽い気持ちで行ってきた行為を、犯罪者と断じられて動揺したのだ。そして、反論できずに、それを認めるしかない自分に気づき、さらに動揺する。


 とそこで、ズガァン!という音が北西の方から響いてきた。


 ユージンがそちらに視線を遣ると、土埃がもうもうと立ち上がるところだった。

 馬車の前方にまで様子を窺いに来ていたディストラとゾーイが、再び散開して周囲を警戒する。


 そして偽勇者はその音にハッとして、地面に跪いた。


「た、頼む!このままじゃ、俺達だけじゃなく、街まで全滅だ!」


 街が全滅――。大袈裟に言っているだけかもしれないが、確かに先程の爆音は、尋常ではなかった。

 少なくとも、上級魔法レベルの破壊が為されたと推測できる。


「ちっ!とりあえず、話してみろ」

「ユージン!」

「助ける気!?」


 ユージンが話を聞く気になったのを見て、ライリーやフラールが驚いたような、怒ったような顔になる。

 それを遮るように、偽勇者が喋り出した。


「昨日、変な獣魔がいるから退治して欲しいと依頼があって、俺達はそこに向かった。だが見つからず野宿して、今朝、アイツが現れたんだ!あの悪魔のような獣魔が!!」


 なるほどシンプルな話だった。

 それがなぜ街の全滅に繋がるかは不明だが、こんな街から程近い場所に強力な獣魔がいるのは、確かに危険である。


 さてどうするか。

 ユージンがそう考えたところで、ライリーが思考に割って入ってきた。


「ユージン、正気か!こいつらのやったことを忘れたのか!こいつらは、我々の誇りを汚し、名誉を利用したんだぞ!街の人間達も、こいつらに心酔している。今君が彼らを救ったとしても、彼らはこの偽勇者の手柄だと信じて、君に感謝などしないし、称賛もされないぞ!」

「そうだぜ、兄ちゃん!その獣魔がホントに街の方に行くかも分かんねーし」


 ユングも反対を表明し、フラールも不満げな顔をしている。

 フレイヤは、心配そうな表情でユージンを見上げ、少し離れた位置のゾーイは口をへの字にして良く分からない表情。

 ディストラは離れた位置で、チラリとユージンを見て肩を竦めた。


 ライリーの言うことは尤もである。

 根気強く説明すれば理解してくれるかもしれないが、少なくとも現状、街の人々はユージン達が街を救ったとしてもそれを信じはしないだろう。もしかすると、嘘つき呼ばわりされるかもしれない。


 でも。


 ユージンは、一つゆっくりと瞬きをして、ライリーを見据える。


「ライリー、俺はな。誇りや名誉のために、戦ってるんじゃない。感謝や称賛の言葉が欲しくて、戦ってるんじゃない」


 そして、静かにそう言った。



次話、ユージンの過去話です。

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