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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
序章 召喚勇者
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第1話 平穏の終わりを告げる音

初投稿です。

よろしくお願いします。

かつて、まだ人と精霊が近くに在った時代。


強大な力を持つ六つの魔剣により、世界は分裂し、争い、荒らされていた。


人々が絶望の淵に晒されたそのとき。

1人の英雄が現れた。



英雄は七つ目の魔剣を携え、世界を巡って、六つの魔剣を封印していった。


やがて全ての魔剣を封印し、世界を救った英雄は、自分の故郷に帰還した。

そして、自らの持つ最後の魔剣を故郷に封印した。


その封印を中心に発展した国が、クゼール王国である。


≪クゼール王国建国記序文より≫




 クゼール王国の建国からおよそ千年の月日が流れた頃。

 世界各地で厳重に施されていたはずの魔剣の封印に綻びが生じ始めていた。


 千年前の戦禍――通称「魔剣大戦」を恐れたクゼール王国は、自国に封じられる七の魔剣の解放を目論むが、試みは全て失敗に終わる。


 やがて、不安に駆られる国民の間で「勇者を召喚すればこの国を救ってくれる」という噂が広まった。

 それに応える形で、国王は勇者召喚の儀式を敢行する。


 そして、異世界の日本という国から、1人の少年が召喚された。


     ◆ ◆ ◆


 3か月後。


「それで、ジャンヌ。今日も鍛錬場に引き籠って、筋骨隆々のお兄さん方と向かい合って滝のように汗を滴らせる必要があるのか?」


 いかにも日本人らしい顔つきの、17歳の黒髪黒目の少年が、隣を歩く少女に不服そうな顔で問いかけた。

 ジャンヌと呼ばれた少女は、少年と同年代だが顔付きは日本人よりも西欧人寄りで、控え目に表現しても美少女といえる相貌を不機嫌そうに歪める。


「仕方ないでしょ。今やるべきことがそれなんだから」


 そして紫の眼を勝気に細めて、革鎧を身につけた少女は同じ格好の少年に答えた。


「でももしユージンが彼らに楽々勝てるようになれば、次は魔法の練習をしてもらおうかしら」

「いや、たった100日やそこらで、ド素人がプロの兵士に勝てるようになるわけないだろ。常識的に考えて」


 ユージンと呼ばれた日本人の少年は、自らの腰に装備された剣をちらりと見遣る。


 3か月前、訳の分からぬまま封印を解き、それからひたすら振り続けて来た。もう手に馴染んだと言っても良い、七の魔剣『セブン・フォース』である。


 当初はズシリと重く感じた剣も、隣の少女に鍛えられた今では概ね自在に操ることができるようになった。

 とはいえ、ただの高校生だった少年が、何年も訓練を続けてきた、戦うことが仕事の兵士に簡単に勝てるはずがない。


 それなのに、栗色のポニーテールを揺らして、少女は微笑む。


「うん。でも、ユージンならすぐにできるようになるわ。勇者だもの」


 ジャンヌから疑いのない信頼の眼差しを向けられ、ユージンは肩を竦めて視線を逸らした。




「しかし、城の中で訓練するより、前みたいに森で魔獣を狩ってた方が実践的な気がするんだけど」


 10日ほど前までは、彼ら2人に加えて、同世代の腕利き騎士1名と、同盟国スカリオから派遣された凄腕の魔獣ハンターである騎士の合計4人で、王都の外の森に出かけ、魔獣と呼ばれる強力な獣を相手に戦闘訓練を行っていたのだ。


「あれは、カイナさんがいたから許されていたようなものよ。それに、対人戦闘だって重要よ。あと基本的に、今の貴方には王都の中で腕を磨いて欲しいっていうのが、上の考えなのよね。ユージンには悪いけど」


 しかし、王都外の危険な森に勇者を送り出す担保であった凄腕の騎士が、周囲の情勢悪化に伴い自国に帰還してしまったため、ユージンには王都から出る許可が下りなくなってしまっていた。


「王都の外は暗殺の危険がある、か」


 どれだけ世界の状況が悪いのか彼には分らなかったが、わざわざ異世界から自分を召喚するほど、この国、クゼール王国は追い込まれているのだ。


「けど、まだ実際に他の魔剣が解放されて戦争が起こったりしている訳じゃないんだろ?俺を狙う人がいるのか?」


 戦争が起きるかもしれない、という不安はあり、治安がやや悪化しているものの、戦争を止める役割であるはずの勇者を害する必要がある者などいるのか。


 その疑問に、背後から応えがあった。


「世の中には、戦争を恐れる者だけではなく、魔剣を手中に収め、世を乱したいと考える者もいるからね。後者にとって、君は非常に邪魔な存在となりうる」


 同時に振り返る少年と少女。


「「ディストラ」」


 声を掛けてきたのは、2人と同世代の少年、ディストラ。

 男にしてはやや長めの銀髪をきっちりとまとめ、涼しげな黒目と相成って理知的な雰囲気を醸し出している。ユージンの狩りに同行していた少年騎士である。


「それに、魔剣の中にはついに封印が解かれたものがある、という噂もある」


 ディストラの言葉に、ジャンヌが反応する。


「なにそれ。私は聞いてないわ」

「まだ市井の噂レベルだからね。俺もさっき若手兵士の更衣室で耳に挟んだだけだ」

「ふうん。でも、王都の市民の噂って王室にも影響力あるし、馬鹿にできないのよね」


 そして、ユージンに向かってにっこりと笑い、


「王都から出られる可能性は壊滅的ね」

「というか不可能だね」


 仲間2人からの攻撃に、異世界から来た勇者は顔を引きつらせる。


「お前ら……覚えとけよ。すぐにディストラなんて伸して王都から出る許可を勝ち取ってやる」

「その意気よ」

「さすがにまだユージンには負けないよ」


 晴れ渡る空を背景に、屈託なく笑いあう少年少女。


 後になって彼らは思い返すことになる。

 この日が、彼らにとって何の憂いもなく笑っていられた最後の日であったと。



     ◆ ◆ ◆



 それから数時間後、ユージンは王城に付属する兵士の訓練場で、大の字になって寝転んでいた。


「あー、くそっ。勝てねー!」


 彼を見下ろすのは、彼を地面に転がした張本人であるディストラ。


「まあ、そりゃね。でも、動きはほとんど兵士のそれになったよ。軍に入って数年の新人ならいい勝負じゃないかな」

「入って数年の新人って、お前はどうなんだ?俺と同じ17歳だろ?」

「俺は12で軍に入ったから、5年は経っているし、もう新人と呼ばれる時期じゃないよ。あと、自分で言うのもなんだけど、剣の才能に関しては10年に1人の逸材って言われてるから、俺」

「ああ、そういえば、市民のファンから『天賦の才を与えられた銀狼騎士』とか呼ばれてるんだっけ」


 立ち上がりながら、ディストラの情報を思い出すユージン。

 立場上、あまり市井に繰り出すことはできないのだが、その辺りの情報はジャンヌがくれるのだ。


「……あまりその名は出さないでくれるかな」


 しかし、本人はその渾名を気に入ってはいないらしい。気恥ずかしそうな、不服そうな顔で、観戦していたジャンヌを軽く睨む。


「ユージンに教えたのは君だろ、ジャンヌ」

「あら、いいじゃない、銀狼。私は好きよ?……笑えるから」


 途中まではフォローかと思いきや、最後にしっかりと落とす辺りに、ジャンヌの中でのディストラの扱いが窺える。

 しかしそれで黙っているディストラではない。すっと目を細めると、


「そういえば、俺も笑わせてもらったな。君の『魔女っ子アメジスト』には」


 ぴしり、とジャンヌが固まった。

 一方のユージンは首を傾げる。


「魔女っ子アメジスト?」

「うん。2年程前かな。事の発端は彼女に助けられた幼い子供が、紫の瞳と――」

「だ、黙りなさい、ディストラ!」


 真っ赤な顔で、声を荒らげるジャンヌ。

 暫し睨み合い火花を散らす2人だったが、やがてどちらかともなく歩み出し、向かい合った。


「今日こそはその減らず口を叩き斬ってやるわ」

「減らず口は君のことだろう。俺のは正当なる報復だ」


 そしてお互い腰に下げた剣を抜き、


「「勝負!」」


 相手に斬りかかった。



 ジャンヌは、正式には軍の兵士ではない。

 彼女は、国の魔導研究所に所属する魔導士である。それも、魔法を行使する際に消費される物質『マナ』になぞらえ、『マナの申し子』と呼ばれるほど才能のある魔導士だ。


 しかし彼女が異色なのは、その身体能力もずば抜けて高かったことによる。 

 彼女は魔法を研究するだけでなく、魔法で戦い、さらには剣術と魔法を併せて戦う『魔法剣士』に自ら望んでなったのだ。このため彼女は、通常は軍か近衛に所属する兵士以外許されない城内での帯剣を許されている。


 単純な剣術では、同世代一であるディストラには遠く及ばないが、補助魔法や攻撃魔法を併せて戦う彼女は、単騎での戦闘能力はディストラに匹敵する。

 さらに、彼女は時間をかければ大規模な魔法の行使も可能であるため、魔導研究所の中ではやや持て余されているものの、王国の実力主義者内では彼女の評価は高い。


 そうした理由から、勇者の召喚にも携わり、その後も、同世代ということもあり勇者の補佐役として活動している。


 が、今現在はその勇者を放ったらかして、喧嘩友達とのお遊びに興じている。


「相変わらずお手本通りで面白くない剣筋ねっ!」


 ガキン!


「お褒めいただきありがとうっ」


 ザッ!


「褒めてないわよっ、『雹針』!」


 斬り合いの隙間にジャンヌが放った短縮呪文に応じて、空中に浮かび上がった青い魔法陣と共に十数本の氷の針が出現し、ディストラを襲う。


「くっ、これしき!」


 それを驚くべき剣速で打ち落とし、あるいは避け、直撃を免れるディストラ。

 そしてお返しとばかりに、ジャンヌを超える足捌きで接近し、中段から渾身の一撃を放つ。


「速っ!?」


 呪文を唱える間もなかったジャンヌは、何とか自身の剣でディストラの斬撃を受けたものの、勢いは殺しきれずに大きく弾かれる。

 その隙をさらに追撃せんと追うディストラだが、


「『石槍』」

「っ!」


 いきなり地面から生えて目の前に現れた石の槍に、急停止せざるを得なかった。

 そんな2人の戦いを、ユージンは真剣な表情で観察する。


 勇者として召喚された彼だが、平和な日本では何かと戦った経験などはもちろんない。

 そして、戦いに関して天才的な才能もなかった彼は、成長が速いと評されつつも常人レベルにとどまり、未だに彼らの域には達していなかった。


 だからこそ、彼らの戦いを視て、自分に何が足りず、何が出来るのかを考える。

 まあ、魔法の適性がそこまで高くなかったユージンに、ジャンヌの戦い方はちょっと無理なので、主にディストラを視ている訳だが。


 そして、彼らの戦いを視ているのはユージンだけではなかった。

 ユージンの戦闘訓練は、色々なタイプの相手との経験を積むため、ディストラ以外にも多くの兵士が交代で受け持っている。

 彼らは、ユージンの相手をしていない時はそれぞれで訓練をしているのだが、今行われている2人の戦闘は彼らから見ても参考になるものが多いため、数多くの目が2人に集まっていた。


 そんな、2人のやりあう音以外静まり返った訓練場に、


 ドォン


 鈍い爆破音が響いた。



     ◆ ◆ ◆



「何だ!?」


 音自体はかなり遠くから響いたようである。しかし、王都中に響かんばかりの轟音は、ただ事ではない。

 さすがに戦いを止めたジャンヌとディストラも、他の兵士と共に情報収集に動きだした。


 騒然とするその場で、自分はどうするべきかと迷うユージン。下手に出しゃばっても邪魔になるだけだろう。かといって、1人ぼけっとしているのもどうなのか。


 と、そこで、再び爆音が響いた。


 ドンッ!


 今度はかなり近い!と思うと同時に音がした方向に目をやると、黒煙が昇り始めたところだった。


「敵か?城に侵入されたのか?」


 魔法か何かの実験の誤爆であればまだ良いのだが、もし何らかの賊が城内に侵入しているのであれば、大問題である。

 現場に行くべきか、留まるべきか。少し考え、立ち止まるのは性に合わないな、と結論付けたユージンが煙が昇る方に向かいかけたところで、


「ユージン!」


 先ほど魔導研究所の方に駆けて行ったはずのジャンヌが駆け寄ってきた。


「どうした?何か分かったのか?」

「爆発の原因は分からない。けど、方角からして実験の失敗とかじゃないわ。多分、敵襲よ。狙いが何なのか分からないけど、貴方かもしれないわ」

「俺?」


 冗談だろう?という声色で尋ねるも、ジャンヌの表情は真剣そのもの。そもそも、冗談を言える状況ではない。


 ドォン!


 会話の間にも、再び爆音が聞こえた。


「王城そのものにはまだ被害は無いみたいだけど、敷地の外縁に何か仕掛けられてるみたいね……。この分じゃ、城内も安全か分からないわ」

「……どうする?」


 王城の構造や国組織の指揮系統などを十分に把握できていないユージンは、有事の行動指針が分からなかった。


「もし、本当にユージンが狙われているのであれば、この訓練場や、貴方の部屋がある来客用の宿舎も危険ね。……一旦、王城を離れた方が良いかもしれないわ。リスク分散のためにも」


 今、この国で最優先で守るべき存在は、国王を含んだ王家。そして次点で勇者であるユージンとなっている。


 もちろん、王城はこの国で最も警備が固い場所ではあるが、その王城が襲撃されている現状で、王家と勇者のどちらもが王城に留まるのは得策ではないとジャンヌは判断した。

 そして、より身軽に動けるユージンをひとまず王城から避難させようということだ。


「王城から離れるって言っても、どこへ?」


 もしユージンが狙われているのであれば、移動先の守りが手薄な場所で敵に出くわした場合、致命的だろう。

 もちろんジャンヌもそれは承知している。ユージンのために王城の護衛を多数引き連れていくのも、戦力の分散になるため避けた方が良い。

 したがって、避難できる場所はおのずと限られる。


「『嘆きの丘』に行くわ」



     ◆ ◆ ◆



 クゼール王国の王都ホルディアの北側には、なだらかな丘陵が広がっている。

 背の高い樹木は生えず、緑の草本に覆われた丘は、日本で例えるなら奈良の若草山のような外観である。


 この丘には、「遥か昔、ある英雄の悲劇的な死を嘆いた女神の涙が積み重なって生まれた」という逸話が残されており、そのことから『嘆きの丘』と呼ばれていた。

 そして千年前、世界を救った英雄が、魔剣『セブン・フォース』を封印した地でもある。


 丘の頂には、魔剣を収める台座だけが残っており、一見すると他には何もないように見える。

 だが、実は頂上近辺には厳重な結界魔法が施されており、ユージンが魔剣を解放する前は何人たりとも侵入できない領域であった。


 現在は、魔剣解放のために、王家に伝わっていた結界解除法が行使されたため、結界そのものは発動していない。

 しかし、結界魔法の基礎となる魔法陣や触媒となる魔道具は配置されたままであるため、相応の実力がある魔導士が結界魔法を使えば、結界を復活させられる。


 ディストラを含む数人の護衛だけを連れて丘に向かうジャンヌの説明に、ユージンは頷いた。


「なるほど。で、ジャンヌなら1人で結界を起動できる訳だな」

「完全ではないけどね。それでも、結界を起動すれば、通常の物理攻撃や魔法攻撃で動じることはまずないわ。見晴らしも良いし、王城での騒動が落ち着くまでしばらく籠城よ」


 千年も続くような大層な結界を簡単に使って良いのかと思ったユージンであるが、深く知らないこの国の事情に口を挟むべきでない、と考え、ジャンヌに意見はせずに再び頷いた。




 やがて一行は丘の麓までたどり着いた。


「ここから先は、王都からも丸見えになるわ。頂上に着いてから完全に結界を張るのに1刻くらいかかるから、急いで行くわよ」


 そう言って走り出したジャンヌの後を追うユージンだが、そこはかとない不安を拭えない。

 こちらの世界の1刻とは、日本でいうところの30分ほどなのだ。


「いや、大丈夫かよ。1刻もあれば敵さんも気付いてここまで来るんじゃないか?」

「大丈夫、とは言い切れないわ。でも、外側から段階的に結界を張っていくから、それが足止めにはなるはずよ。後は護衛の皆に頑張ってもらうしかないわね」


 ちらりと振り返ったジャンヌの視線を受け、ディストラ他数名の兵士が頷く。


「ここにいるのは数名だが、実力は折り紙付きだ。そこらの賊などに遅れはとらん」


 リーダーらしい壮年の騎士が静かに言った。

 確か、ユージンも何度か手合わせをしたことのある中隊長で、手も足も出なかった記憶がある。


 彼のいかにも義務的な発言にユージンは頷くと、それ以上は口を開かず、ひたすらに足を動かした。



 そこまで標高が高くないない丘ということもあり、現役の兵士が全力で走れば10分も経たずに頂上まで辿り着く。

 ジャンヌは早速、魔剣の台座の脇に設置してある魔道具の前に蹲った。

 その魔道具は、台座の四方に1枚ずつ設置されており、ぱっと見はただの長方形の踏み石である。しかし実際には内部に精巧な魔導回路が組み込まれており、正しく操作することで、丘を覆う魔法陣と共に結界を発生させることができる代物なのだ。


 ジャンヌがその1つの表面を真剣な表情で指でなぞるのをユージンが眺めていると、


「誰だ!」


 周囲を警戒していた兵士の1人が声を張った。

 皆の視線が、丘の反対側に集まる。




 そこには、1人の青年が立っていた。

 2mに届こうかという身長に、程よく締まった体躯。そして頭の上には、1対の狐耳が鎮座していた。


「カイナさん!」


 彼は、クゼール王国と同盟を結んでいる獣人国スカリオの騎士であり、ユージン達に魔獣との戦いを指導した、狐の獣人であった。


 彼の存在は、クゼール王国の兵士の間でも良く知られていたため、皆溜息を吐いて緊張を解いた。

 ジャンヌも兵士の叫び声を聞いて中断していた作業を再開する。


「久しぶり、カイナさん。でもどうしてここに?今こっちは見てのとおり大変なんだよ」


 既知の仲間との再会に、笑顔で歩み寄るユージン。ユージンにとって彼は、仲間であると共に剣の師でもあった。


 もちろん、ジャンヌやディストラの闘い方もユージンは参考にしているが、2人ともユージンとは同い年であることもあり、師という感じではない。

 一方、カイナは獣人であるため見た目こそ若いものの、3人よりもそこそこ年上であり、気のいい兄貴分という雰囲気であった。


 その上、クゼール王国の多くの騎士が「勇者」であるユージンに好悪含めて何かしらの感情を抱き、特別視しているのに対し、スカリオ国の騎士であるカイナはユージンに対してフラットな感情で接しているため、ユージンとしても接しやすい。

 このため、ユージンにとっては最も近しい剣の師なのであった。


 10日前に自国に帰ってしまい、ユージンとしては魔獣との戦闘訓練ができなくなると共に寂しく思っていたところだが、この緊急事態にその顔を見れて、ユージンの気持ちも少し上向く。

 少し後ろから付いてくるディストラも、ユージン同様に緊張していた顔を緩和させつつも、不思議そうな顔をする。10日前に自国に帰ると言って別れたはずの彼が、何故かここにいるのだ。


 対するカイナは、口角を釣り上げて、薄く笑った。


「ああ、久しぶりだな、ユージン。()()()()()

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