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三者三様

 リーズは二人に、三日滞在したら次の町に行くと言っていた。

 せっかく会えたのだから、もう少しいてほしいという気持ちも強かったが、ほかの町にいる仲間たちからの知らせでも、ほとんど全員が最大三日の滞在で終わっているので、自分たちだけ特別に長くしてほしいとは言えなかった。

 初期パーティーからの親友だったロジオンが強く頼めば、もしかしたら一日二日は滞在を伸ばしてくれたかもしれないが――――


「ホント……何もかも、変わっちまったな。俺にはもう、リーズより優先するべきことがたくさんある」


 ロジオンの店に集う冒険者たちに囲まれ、笑顔で話しているリーズを眺め、ロジオンは自分の薄い顎鬚をさすった。

 彼が髭を伸ばそうと思ったのは、リーズと同じく年齢に比して子供っぽく見える自分を何とかしようとしたからだ。はじめのうちは顎の違和感が酷く、あまり格好もつかなかったが、このところは手入れもしっかりできるようになり、威厳も出てきた。

 それが気持ちに影響したのかはわからないが、冒険者時代の腕白ぶりは鳴りを潜め、妻と店を背負う大黒柱としての責任感も自然に芽生えた。


「ねぇアナタっ、リーズさんが来て、昔に戻りたいって思わなかった?」

「思ったさ。リーズと姉貴が引っ張って、エノーと騒いで張り合って、アーシェラが支えてくれた。何も考えずにバカができたものだ。けど、昔は昔だ。世界一大切人間はサマンサ、君だけだし、次に大切なのは店で働く従業員たちだ」

「言ってくれるわねぇ~♪ やっぱあんたと結婚出来て正解だったわぁ~!」

「ふっ、そうだろう? 昔は昔、今は今だ。さ、今のうちに串焼きパーティーの準備をするぞ! 手の空いてる従業員全員すぐに動かせ!」


 昼は町の人々を大勢集めて、串焼き肉のバーベキューパーティーを行い、食事のあとは楽団による音楽の演奏など、町を挙げてリーズをもてなすイベントは夜になるまでずっと続いた。リーズは心から満足そうで、言葉を交わす人々は彼女の笑顔から莫大なガッツをもらっていた。

 明日には帰ってしまうというのは少々寂しいが、リーズには十分いい思い出を作ってもらえたことだろう。


 ところが―――――



「リーズさんは次いつ来てくれるかなぁ~」

「下手したら二度目はないだろうよ。俺たち二軍メンバーを王都から締め出した奴らのことだ、リーズを私物化してもおかしくない」


 朝日が昇ってまだ間もない時間、ロジオンとサマンサはいつものように「勇者の碑」の手入れを行うために、モルメンツの丘を登る階段を歩いていた。

 二人はそれぞれ片手ずつに、手入れするための道具一式が入ったカバンと、水が入ったバケツを手に持ち、空いた方の手を恋人つなぎにしている。日中仕事に追われる二人には、この時間が愛する人と気兼ねなく過ごせる貴重なものなのだろう。


「そう考えると……リーズさんがアーシェラさんに会えないのは、ちょっと……いや、かなりかわいそうよねぇ~」

「なんだかんだで、リーズが一番会いたがっているのはアーシェラだし、リーズに会えなくて一番寂しい思いをしているのも、アーシェラだろうからな」


「じゃあ教えてよっ!!」

『うっ!?』


 二人が完全に油断していたところに、この場にいるはずがない人物の声が階段の上から聞こえた。驚いたロジオンとサマンサが見上げてみれば、そこには紅のツインテールに金と銀の瞳の少女――――勇者リーズが厳しい表情で仁王立ちをしていた。

 まさかの人物の出現に、二人は蛇に睨まれた蛙のように、その場に固まってしまった。


「リーズ……何でここに!?」

「まさか、あたしたちが来るのを待ってたの!?」

「二人は毎朝欠かさずここに来るんだよね。二人からそう聞いてたから、リーズは夜中に部屋を抜けだして…………ずっとここで、待ってたの。リーズがここまでした理由……もちろんわかるよね」


 素直で曲がったことが大嫌いなリーズが、ここまで思い切ったことをするとは……詰め寄られた二人は、彼女の隠された執念深さに戸惑うほかなかった。


「ロジオンとサマンサが、リーズに隠し事をしているのはわかってる。二人はあの日の夕食……リーズがシェラの居場所を聞くのをあきらめたとき、二人で顔を合わせてほっとしてた!」


 そして、まさか自分たちのわずかなしぐさを観察していて、嘘をついていることを見破ってきた。ここまで徹底的に問い詰められると、もはや言い逃れは不可能だ。

 リーズは……アーシェラに会いたいその一心で、ここまで用意周到にロジオンたちの裏を掻いてきた。だからこそ、ふたりはリーズにアーシェラのことを教えたくはなかったのだが……

 サマンサが不安げにロジオンの顔を見る。判断はロジオンに任せるということなのだろう。ロジオンは意を決して、リーズに向かい合った。


「確かに……俺とサマンサは、アーシェラの居場所を知っている。仲間内でも、あいつの居場所を知っているのは、俺を含めて片手の指で数えられるほどだ。けどよリーズ、お前はアーシェラの居場所を知って……どうする気だ?」

「もちろん! 会いに行くに決まってるでしょっ! リーズは、居場所を聞くだけじゃ満足しないんだからっ!」

「それもそうだろうな。だが、もう少し考えてみてくれ。なんで俺は、リーズにわざわざ嘘までついて、アーシェラの居場所を言いたくないのか…………。言っておくが、俺はお前に嫌がらせをする気は全くないんだぜ?」

「それもわかってる。けどっ、だからと言って、シェラだけ仲間外れにして……もしかしたら二度と会えないなんて…………っ! そんなの、嫌だよっ!!」


 リーズの声が震えている。本当なら泣きわめいて駄々をこねたいのかもしれないが、涙をぐっとこらえて、しっかりとロジオンの目を見据えている。その瞳には、並々ならぬ覚悟が見える。

 とうとうロジオンは根負けし、リーズにアーシェラの居場所を教えることにした。


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