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第71戦 VS緑の牙のジェニー&長い手のネリー



 バイオンがエルフと戦った次の日の朝。

 十月三日のフィーラ村の外れ。

 雲の流れる秋の青空の下、漆黒の魔女が自宅の玄関前の段差に座っていた。

 何もせずにただ眠たげな目で座っている魔女、そこに髭をたくさん生やした小男が訪れた。


「おはようございます。ラフター様」

「おはよう、ガラール」

 頭を下げるドワーフのガラール。

 ラフターは微動だにせず、じっとガラールとは別の場所を見ていた。


「私めは今から、バイオンに会いに行くところで……」

「何をしているの、プレゼン?」

「え?」

 ガラールが振り向くと、そこには一匹の子犬がいた。

 赤い毛並みの小さな子犬が、ラフターに近づきキャンキャンと鳴いている。


 ラフターは呆れた様なため息をついて、返答するように告げた。

「……いま、あなたに解呪の魔法を使ったわ。三十秒で元に戻る。早く家に戻りなさい、あなた裸でしょう?」

「!?」

 赤い子犬は言われると、すぐに四本足でかけて、プレゼンの家の開いた扉へと飛び込んだ。


 しばらくすると、いつもの赤いローブを来たプレゼンが家から出てきた。


 少し顔を赤くした赤い髪の少女は、ラフターにぺこりと頭を下げた。

「……おはようございます、お師匠様。ありがとうございます」

「プレゼン。寝ぼけて、魔法を頭の中に構造して放つ魔法使いなど、私はあなた以外に知りません」

「はい、申し訳ありませんでした」

 赤い帽子を揺らして頭を下げる少女。



 昨夜、新たに妖精との契約により色々と魔法を覚えたプレゼンは、魔法の練習や実験を行っていた。

 そのまま眠ってしまった彼女は、寝惚けたまま変化の魔法を使い犬に変わってしまったのである。

 元に戻る為の魔力も無く、ラフターに助けを求めて走ってきたのであった。



 自らの失態に沈み込むプレゼン。

 ラフターは無表情のまま、魔法で何かを作り出してそれをプレゼンに投げ渡した。

 慌てた顔で、プレゼンはその平たい小石を受け取る。

「えっと、これは何でしょうか、お師匠様?」

「魔法を使って、それを壊してみなさい」

「は、はい?」

 プレゼンは左手に持ったそれに、地割れの魔法を放って壊そうとした。


 しかし石には何の反応も無い。

「あれ?」

 プレゼンは石を地面に置いて、炎や氷など、様々な魔法で攻撃した。

 だが石に魔法がぶつかる前に、魔法が吸い込まれるように消失する。


「それは魔法封印石、シール・ストーンとも呼ばれる物です」

 淡々と説明するラフター。その言葉にプレゼンは驚いた顔で答える。

「学校で習いました! 魔力を霧散させる鉱石、魔法使いの天敵の様な物がこの世にはあると!」

「ええ、そうです」


 ラフターは生徒に説明するように、言葉を続けた。

「魔力そのものを受け付けない石。魔法を放てばその内面である魔力を消失させ、身に着ければそもそも魔力自体を使用できなくなる。魔法殺しといえるべき物質です」


「密度によって質が変わります。その程度ならばプレゼン、あなたが魔力を込めて魔法を放てば破壊できるでしょう」

 ラフターは指先を地面の石に向ける。そして見えない衝撃波を放つ。

 魔法を殺す石は、簡単に砕け散った。

「……プレゼン、後で同じ物を渡すので寝る時はそれを身につけなさい」

「ありがとうございます、お師匠様!」

 またも、帽子を揺らすほど大きく頭を下げるプレゼン。

「そんな石があるのか」

 ガラールは世の中の広さに感心していた。



 三人が話していると、大きな扉の家が音を立てた。

 中から厳つい顔の巨体の男が姿を見せる。

 彼の名はバイオン。バーバリアンの大男。


 腹を空かせた彼は、今から森で何かを狩りに行くつもりだった。

「おい、バイオン」

 それをドワーフの男が止める。

「あ?」

 バイオンに挨拶なんて無駄なものはない。そんな知性も無い。それを重々、知っているので周りの者は誰も何も言わない。

「おはようございます、バイオンさん!」

 しかしプレゼンだけは返ってこないと分かった上で、笑顔で挨拶をした。



 ガラールはバイオンの前に、絞めた鶏を渡した。

 バイオンはその羽根を素手でむしり、間にプレゼンが焚火を作り出した。


 鶏を丸ごと焼くバイオン。焼き上げる前にガラールが説明しだした。

「食い物でも渡さねえと、お前に説明する暇が無いからな」

「何の話だ?」

 バイオンは岩に、他はドワーフ手作りの椅子に座って話を始める。

 燃え上がる炎が鶏の肉を焼いていく中、ガラールは解説する。

「お前、魔法石がガントレットに装着できるのは十二個、その後に無理して十三個装備させられるようにした。そして今、お前が所有している魔法石はその数をオーバーしている」

「ああ、四つ増えたな」

「いえ、六つです!」

 プレゼンがバイオンの言葉を訂正した。

「エルフさんと契約してですね。なんと私、回復と明かりの魔法が使えるようになりました!」

 胸を張るプレゼン。

 だがその仮弟子の姿を見たラフターが、口をへの字に曲げた。

「プレゼン。お前は少しは努力して魔法を覚えようとする気は無いのか?」

「すみません、お師匠様!? でも勉強したら一ヵ月以上かかる魔法の取得を、契約しただけでその構造を丸覚え出来て楽なんです!!」

 立ちあがって頭を下げる赤い少女に、ラフターは少し呆れていた。


 ガラールは説明を再開する。

「でだ、バイオン。お前は魔法石の装着を選ばないとならないと思っている」

「まあな。とりあえず、暗闇は外すつもりだ」

 一瞬バイオンの影が揺れるが、すぐに元の形に戻った。

「魔法石は手の近くではないと発動しない。右腕には鎖がまかれている。だから左腕に太いガントレットを使っていたのだが」


「別に外さなくても、別の形で所有すればいいんじゃないか?」

「あ?」

 そこにフィアラルが遅れて訪れ、その物体を見せた。

 それは、以前よりも一回り大きくなった、バイオンが使用していた鋼鉄の小盾である。

「修理中に思ったんだ。新しく手に入れた魔法石は、盾の内側に装着すればいいのでないかとな」

「おお! 別に装着すればいいとは、盲点でしたね!」

 バイオンの代わりに、プレゼンが感心の声を上げたのだった。

 しかしバイオンは難しい顔をする。

「……どっちにどっちの魔法が込められているのか、分からねえ」

「それは慣れろ」

 バイオンの悩みを、ドワーフの兄は斬り捨てた。

「あと、ぶん投げるかもしれねえ」

「盾を投げるな。後でラフター様が回収するだろうが、防ぐために使え」

 バイオンの言葉に、ドワーフの弟が突っ込んだ。



 焼いた鶏を、骨ごと噛み砕くバーバリアン。

 それを気にせず、少女が言う。

「しかし、魔法十九個ですか」

 プレゼンは悩む。

「魔力は十分ですが、毎日込め直すのは面倒ですね」

「なら」

「ですがこれも修行。毎日、魔法を使えば自分の魔法を忘れずに済むし良い事でしょう!」

 ラフターが「代わりに魔法を込めようか」と言おうとしたのを察し、プレゼンはそんなことを師匠にさせられないと言い直したのだった。












 月明りの夜。

 どこかの村の近くの川。

 そこの藻で濁った水の中に、二つの眼光が光っていた。

 藻に隠れて、緑の歯の老婆がいやらしく笑った。


(ひっひっひっ)

 眼光の持ち主は、川側を歩く子供の姿をじっととらえていた。

 川底の老婆の名はジェニー・グリーンティース。あるいは緑の牙のジェニーと呼ばれる、人食いの怪物である。



 ランタンを手にした赤い服と赤い帽子の少女。

 川の中で老婆が、その少女を見て舌なめずりをする。

(危ないよ、お嬢ちゃん。こんな夜に川の側を歩いていたら、恐ろしい怪物に捕まって食べられちゃうよ~)

 ゆっくりと川の底で、老婆は気配を消して少女に近づく。

 てくてく歩く、小さな女の子へと、そいつは近寄った。


「こんなふうにねえ!!」

 老婆の手が大きくなり、少女を掴まんと川から延ばされた。


 鎖の付いた鉄斧が飛んできて、ジェニーをぶっ飛ばした。

「あ? なんだ、前もこんなことをしたような?」

 鉄斧をぶつけられた緑の牙の老婆は、そのまま川の中へと落下した。

 既視感を覚えながらも、斧を投げたバイオンは鎖を引っ張って回収し、鉄斧をキャッチする。


 ランタンを川岸に捨てて、プレゼンはやる気を見せる。

「今回はお師匠様から、私も戦っていいと言われたので、加勢します!」

『気を付けろ』

「はい、お師匠様!!」

 プレゼンは、小さな体に闘気を漲らせた。

「チー。(水の中だとやる事ねえな)」

「ワン!」

 その横に、プレゼンの使い魔である鼠のハッピラと黒犬のエルジョイも寄り添う。


 緑の藻の中を、沈んでいくジェニー。

 プレゼンは川を少し離れて、注意深く見る。

 エルジョイも、水の中では臭いが分かりにくいのか音と気配を逃すまいと集中する。

 ハッピラは遠くに離れた。


 鉄仮面と全身鎧、さらに右手には鎖付きの斧、左手にはドワーフ新作のシールドを手にしたバイオン。

 そのバイオンは、鉄仮面の顔で遠く上流を見ていた。

「? どうしたんですか、バイオンさん?」

 目の前の敵から目を逸らす、いつもと違う大男の様子にプレゼンは声をかける。


 その言葉には返事をせず、バイオンは虚空に声をかける。

「おい、ラフター」

『なんだ、言う前に気付いたか?』

 ラフターは抑揚のない声で説明した。

『お前が思った通り、もう一体いるぞ。そこに泳いで向かっている、気を付けろ』




 上流から波しぶきをあげて、何かが川を下る。

 そして大きな音を立てて、水の中から飛びあがり、そしてバイオン達から少し離れた同じ岸に着地した。


 水から出てきた、その姿は一人の老婆。

 だが大きく長い手と腕が、それが人間ではない事を物語っている。

 彼女はネリー・ロングアームズ。長い手のネリーと呼ばれる、川や湖に棲む人食いの怪物であった。


 呼応するかのように、ジェニー・グリーンティースも岸に上がり、バイオン達を挟み撃ちにした。

 夜の川。二人の老婆が、バイオンとプレゼン、そしてエルジョイを挟み込む。

 二人の老婆は、そのまま会話をする。


「やあ、ジェニー。なんだお前、狩られそうじゃないか?」

「うるさいね、ネリー! 私が今からこいつらを狩るんだよ!」

「そう邪険にするな、あの半魚人から逃げ出した仲だ。一緒に戦ってやるよぉ!」


 二人の老婆は同時に、川へと飛び込んだ。

 それが戦いの合図だった。



「川ごと、氷漬けにしてやります!」

 プレゼンが、氷結の魔法を川へと放つ。


 だがその冷気の塊は、大きな水弾によって迎撃されて霧散した。

 さらに続くように、川から二つの水の弾丸が飛ぶ。

「!?」

 咄嗟に水のバリアを張るプレゼン。

 だが水の弾丸はそれを貫通して、二人と一匹に襲い掛かった。


 バリアでいったん威力を抑えられ、さらに全身鎧のバイオンと魔力を体に流して硬化しているプレゼン。

 そのうえで、水の弾丸は二人を衝撃で仰け反らせた。

「っち!?」

「きゃあ!?」

 その威力の水の弾丸が、次々と川から放たれる。

 二人と一匹は水の弾幕に耐え切れず、川を離れて地面に伏せる。



「っこの、だったら次は川に電撃を!」

 伏せたままプレゼンは頭の中で、電撃をイメージして魔力で作成していく。

「チー! (下だ!)」

 遠くからの鼠の声に、反射的にプレゼンは地面を飛びのいた。



 地面に大きな振動が起きる。

 プレゼンがさっきまでいた場所の地面を吹き飛ばし、大きな水の柱が立った。

 驚愕するプレゼン。

 その一瞬の隙を突いて、水の柱から手が出てくる。

 怪物のその手は、プレゼンの少女の腕を掴んだ。


 バイオンは咄嗟にプレゼンを掴んで助けようとする。

 だがその足の鉄の具足を、地面から生えた二つの手が掴んで留めた。

「あんたはこっちだよ、大男!」

 長い手のネリーが笑い、水のドリルで抉った地面の中へとバイオンを沈み込ませた。




 二人の凶悪な水の妖精。人食いの老婆のジェニーとネリーは、それぞれバイオンとプレゼンを捕まえて川へと引きずり込む。

 すぐに二人は、水の中でもアザラシの如く泳ぐ魔法を使って、身を守った。



 地面に作り出されたトンネルから、川へと引きずり込まれたバイオンとプレゼン。

(呼吸は大丈夫。でも!?)

 濁った水の中では、相手がどこにいるかもわからない。プレゼンは見えない相手に恐怖を覚えた。

 地面に足が着いたので、深い川の底であると少女は理解する。

 相手の水の二人の妖精は、じわじわと嬲り殺しにするつもりだとプレゼンは勘付く。


(こんな水の中では不利、だったら!)

 プレゼンは頭の中で構造に対して魔力を流し込み、魔法を編み出していく。

 イメージするのは衝撃、プレゼンは大量の魔力をその想像した設計図の中に流し込んだ。

 念動力によって、プレゼンは周囲一帯の川の水を吹き飛ばした。





 一時的に川の水がなくなり、たくさんの飛沫が周囲と空へと吹っ飛んでいく。

 それと共に、川にあった藻などの植物も周囲へと吹き飛ぶ。

 一緒にバイオンとネリーとジェニーも、吹き飛ばされた。


 水がなくなった川は、地面の大きな溝へと姿を変えた。

 しかしすぐに上流から水が流れ込み、川へと戻ろうとする。


 魔力の大半を消費して、その衝撃にふらつくプレゼン。

 黒い犬がその少女の赤い服を噛んで、川から逃げようとする。


「へえ! なかなかやるじゃないか!?」

 緑の牙をむき出しにするジェニーが、雨となって落ちる川の水と共に、空を走る。

 背中から水流を噴射して、プレゼンを噛んでいるために遅くなった黒犬に向かって飛びつかんとした。



 バイオンの鎖が飛んでくる。

「また!?」

 ジェニーは死角からの攻撃に、またもやふっ飛ばされた。

 わりと重かったために、バイオンは川底を転がるだけだった。その為、他より立ち直りが早かったのである。


 そこにジェニーと同じく、水の噴射で素早く飛ぶ長い手のネリーが、バイオンに掴みかかる。

「あんたの相手は私だって、言っただろう!?」


 左手の盾を向けて、その体当たりを防ぐバイオン。

 盾に激突するがダメージも無く、腕を回り込ませてバイオンにネリーは掴みかかった。


 盾が強く光り、ネリーの目を潰す。

「ぐぎぃ!?」

 動きを止めたネリーの腕、それを鉄斧を投げた右手でバイオンは掴む。

 盾から念動力が放たれ、ネリーは岸へと吹っ飛んだ。バイオンも共に吹っ飛んだ。




 大きな音と共に川が流れ込み、さらに叩きつけるように空から水が落ちてくる。

 川原に背中から叩きつけられたネリー。

 盾を捨てて、その老婆の上に乗りかかるバイオン。

 鎖を引きずり鋼鉄を着けた右腕が、ネリーの顔面に落とされる。

 ネリーは水のバリアでその一撃を防ぐ、だが防ぎきれずに顔面に一撃を食らう。


「っこの、やろぉおおおう!!」

 一撃を貰ってキレたネリーは、全身を怪物の如く変化させ、大きくなる。

 バイオンは気にせず、今度は左手を叩きこもうとした。


 ネリーは首を横に伸ばして顔面へのパンチを避けた。さらにバイオンのその左手を、長い両腕でつかみ取る。

 バイオンの手から放たれる振動波が、ネリーの両腕を吹き飛ばした。

「ぐげぇえ!?」

 目が完全に回復しておらず、右腕の一撃でふらついていたネリー。

 防ぐ手段を失ったうえに避けられる余裕もないネリーは、さらに顔面を殴りつけられ、そのまま気を失った。





 叩きつける雨の中、岸までたどり着いたプレゼン。

「さすがに魔力を使い過ぎました、頭がふらふらする」

 よろよろと川原にプレゼンは立つ。

 エルジョイはプレゼンから顔を背け、そのまま川の方角に向かって吠えた。

「全く、大した嬢ちゃんだよ」


 プレゼンがすぐに後方を振り向き、電撃を放つ。

 だがその動きを予測していたジェニーは、横に避けた。


 エルジョイが、老婆に向かって飛び掛かった。

「はっ!」

 嘲笑うジェニー。

 犬のとびかかりの噛みつきを、ジェニーは紙一重で避ける。

 そして犬の顎へと掌底、さらに無防備の腹へと追撃の一撃を与えてエルジョイをふっ飛ばした。


「エルジョイ!?」

 悲痛の声を出しながら、プレゼンは手を伸ばして、雨の中で魔法を放つ。

 しかし見えないそれも、ジェニーは横に跳んで避けた。


「嬢ちゃん! あんた口調や表情で、考えがわかりやすいんだよ!」

 ジェニーは振り向き、緑の歯をむき出しにして笑う。

 後ろからプレゼンの念動力で飛んできたバイオンを、ジェニーは迎え撃つ。


 大きくした手を鉄のように硬化させ、ジェニーは飛んできたバイオンにストレートを放つ。

 バイオンは左腕のロングソードで迎え撃つ。

 ぶつかりあう手と剣、しかし態勢の悪いバイオンの剣が勢いに負ける。


 そのままぶつかり合う二人の体。

 老婆は、雨とともに落ちてくる巨漢を受け止めて地面に立つ。


 すぐに右腕の手で殴りかかるバイオン。

 ジェニーはバイオンを受け止めたままの形で、技を放った。



 パンチとは本来、距離を取って、勢いをつけて殴る事で威力のある技となる。

 相手に触れたままの拳で殴っても、それはただ相手を押し出すだけとなる。

 殴打には相手が適切な距離で離れていないと、破壊力を持てないのが常識である。


 相手の体に手を触れたまま、ほとんど距離の無い状態では打撃は威力を持てない。拳に勢いという加重を乗せられてこそ、拳は武器へと変化する。

 相手に触れたまま、そんな状態で拳を叩きつけても、威力は無いに等しい。


 だが拳と腕に勢いをつけるのではなく、自分の全身の勢いをその拳に乗せる事で破壊力を乗せる技がある。

 相手に触れたままならば寸勁、少し距離があるなら短勁もしくはワンインチパンチと呼ばれる技であった。

 全身の動きを狂いもなく使用しなければならない技であり、人間には簡単には習得できない技である。

 だが自分の肉体を好きに変じられる妖精ならば、勢いを拳に乗せるだけならばそんなに難しくはない。



 緑の牙のジェニーは、かつて半魚人より教わったそのパンチを、手に触れた鋼鉄の鎧に向かって放った。

 ジェニーの全体重の乗ったその触れたままの掌底の一撃は、バイオンの鎧を砕き、その体に衝撃を与えた。

 強烈な一撃に血を吐き出すバイオン。

(勝った!)


 しかしジェニーは格闘家ではない。ただの妖精である。今まで生きた中で、戦いなどの経験はほとんどない。

 その程度で勝利を勘違いしてしまう程度の、戦闘しか知らなかった。



 ダメージを受けながらも、バイオンはすぐに立ち直り、殴り返した。

 顔面をふっ飛ばされ仰け反るジェニー。

 さらに後方からプレゼンの電撃の魔法を受ける。

 降り終わった雨の中、ジェニーはそのまま倒れて、戦いは終了した。














 次の日。

 オアンネスの待つコースト海岸。

「よお、バイオン。久しぶりだな。今回は二人も連れて来たんだな。じゃあ、何を教えようか?」

 魚の頭は楽しげに笑った。



バイオンは明かりと回復の魔法石、そしてマジック・シールドを手に入れた!


 ジェニー・グリーンティース:緑の牙のジェニー。イギリスに伝わる川や湖に棲む邪悪な水の妖精。子供達が川で遊んでいると捕まえて、水の中に引きずり込んで食べてしまう。

 ネリー・ロングアームズ:長い手のネリー。イギリスに伝わる川や湖に棲む邪悪な水の妖精。子供達が川で遊んでいると捕まえて、水の中に引きずり込んで食べてしまう。両方とも見た目は若い女性・老婆・化け物など一定しない。上記と共に、水の側は危ないという事を子供に伝える為に作られた怪物。


またギリギリ投稿すみません。

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