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第61戦 VS人間の騎士その4



 九月中旬のフィーラ村。

 村長である老人が、机の前で一人書類に目を通していた。

 紙に書かれていたのは「フィーラ村の祭り」に関するものであった。


 祭りは十月の初日に行われる。

 祈願されるのは豊作の他、無病息災、モンスター除けなど様々な内容。

 そこまで派手なお祭りではないが、それでも村にとっては羽目を外せる大事な行事であった。


「今年の豊作は、おそらく女神様のおかげ」

 老人は独り言を呟きながら、今年のお祭りをどう行おうかと考えていた。

「女神様がいらっしゃる以上、やはり来てくださるように声をかけておくべきか?」


 村長は悩んでいた。

 二十年間、ずっとこの国の守護神たる女神が顔を出さなかったからである。



 村長が知っていたかつてのお祭りでは、女神は毎年、祭りに参加していた。

 四十年ぐらい前から、村にはあまり顔を出さなかったが、それでも祭りの日だけは女神は村へと訪れたのである。

 あまり目立ちたくはないという女神であったが、それでもその日は現れて、村の子供達から感謝の贈り物を受け取っていた。

 女神はそれを笑顔で受け取っていた。村長もまた、子供の時には贈り物をした事もあった。

 この国の王族ですら知らない、この国にとって重要な行事であったのだった。


 しかし二十年前に突然、女神は顔を出さなくなってしまった。

 村人達は何か粗相をしたのかと慌てた。

 だが女神がいるとされる山は険しく、容易にはたどり着けない。

 なんとか村の若者が山の頂上付近までたどり着いたが、そこにあったのはどうやっても壊れない大きな箱だけだった。


 それからこの国は決して良い国とはならなかった。

 八十年間豊作だったこの国は、いつしか不作の年も起きるようになった。

 それまでは全くモンスターや盗賊が出なかったが、それらの被害が年々増加していった。

 女神の勘気をこうむったのだと村人達は慌てたが、しかし手の打ちようがない。


 いつしか何年経っても答えない女神に、村人達は関係を持たなくなった。

 人間達はいつしか自分達で柵を作り、武器を持ち、不作でも食って行けるように道具を作って売り始めた。

 村は女神の力を頼らない道を選んだのだった。


 それでも村長は、祭りの存続だけは決してなくさなかった。

 いずれ女神様はまた訪れてくれる、村長だけはずっとそれを信じていた。



 そして二十年、ようやく女神は訪れる。

 しかし彼女はいつも無表情であり、また村人に距離を取るように告げる。

 彼女は女神ではなく、魔女を名乗るようになっていた。

 かつて己の名前を答えなかった女神は、ラフターという魔女を自称していた。


 理由は誰にも分からない。

 だが村人達はとにかく怒りを買いたくないがために、近寄る事を止めたのだった。

 魔女が村を守るのもあくまで取引。

 モンスター除けの結界も張らないし張れない、村に居住を認めて貰うのも金銭を払っての事。

 女神はもはや、そこにはいなかった。



 ゆえに村長は悩む。

 女神を信仰するための祭りを、どう執り行うかを悩む。

「もはや祭りを女神を信仰する為のものだと、考えている村人はいないでしょうな」

 村長はその事を、ラフターに告げるべきかどうか考えていたのだった。

「……とりあえず、明日の朝にでも伝えるだけ伝えましょう」

 時間は夕方。老人はそう決めると立ちあがった。


 村長はふと一枚の手紙を見る。

 それは宛名も差出人も書いていない手紙だった。

 最初はいたずらかと思い、後で開けようと思ってそのまま村長は置いていた手紙である。

 それを忘れていた村長は、何気なく今その手紙を開く。

「……!?」

 手紙の中の文字を読んで村長は驚く。


 それは村長の息子の手紙だった。

 二十年前に、必死で山に登って女神が訪れない事を知らせた若者。

 そして十九年前に唐突に、村を出て行った男だった。

「ブラッドル……」











 夜のカントラル王国。

 合理化された街並み、悪く言えば人の個性を徹底的に無くした家々。

 国から発された法により、夜間の兵士達以外の行動は禁じられている。

 サーチライトによって照らされた街は、牢獄と大きな違いはない。



 その統率された王国の一角に、大きな音を立てて起動する場所があった。

 その場所はこの国の機械産業を受け持つ工場である。

 休み無く動き続けるその場所には、たくさんの人がベルトコンベアの上を進む機械の組み立てに、ただひたすら機械の一部のように手を入れていた。

 万年人手不足のその労働には、犯罪者なども駆り立てられている。



 この国の軍事の中央でもあるその場所は、テロリストや隣国からの攻撃が考えられ警備も厳重である。

 工場の周囲には川が流れ、巨大な塀が立てられ、二十四時間周囲を兵士達が隙間なく守っている。

 目に見えない罠が周囲をいくつも張り、近寄るだけでも難しい。

 外と繋がる罠の無い場所は、正門である大橋だけである。

 しかし逆に言うと、そこが最も厳重で、迎撃の整えられた場所だと言っても良い。



 そこに一人の大男が現れた。

 鉄仮面に全身鉄装備、背中には無数の武器、肩にマント、手には大筒。

 三週間ほど前にもこの国に現れた大男、名前をバイオンと呼ぶ。


 バイオンはとりあえず、目の前の橋に対して大筒を放つ。

 飛び出した爆弾は橋を直撃。石と鉄筋で作り上げられた橋に大きなヒビが入った。


 するとその門の前方部分を守っていた、六人の兵士が現れた。

「奴がでたぞぉ!?」

「援軍を送れ!」

「囮かもしれん、工場全体の守りも怠るな!」


 鉄仮面の大男はそれを見ながら、虚空に問う。

「おい、ラフター、ここに目当ての物があるのか?」

『……さあ?』

「おい!」

『私に機械について聞くな。とりあえず持って帰ってガラールとフィアラルに見せろ』


 現れた六人の兵士は全員が重装備であり、そして巨大な盾と斧を持っていた。

 しかしその装備は決して、ただの鉄装備では無かった。

 全身に機械によるアシストをされた、ロボットスーツであった。


「拷問隊のミネス団長や、暗殺隊のエクプレネス団長、そしてモンスター使役のギアバップ団長を倒した相手」

 大きな鉄仮面を被った、六人の兵士の隊長は仮面の奥で嘲笑う。

「どれも戦闘向けの騎士団ではない。その団長を倒して調子に乗っている馬鹿が、この国の軍事力を見せてくれる!」


「助けは不要! 我ら六人でこいつを殺すぞ!」

『ハッ!』

 隊長の言葉に、五人の兵士は同時に返事をした。


 六人の兵士が巨大な盾を構えて横に並ぶ。

 盾が開き、そこから銃口が現れた。

「これぞ攻防一体のシールドガンよ!」

 その銃弾が同時に発射される。

 無数の弾がバイオンへと放たれた。


 バイオンの前に水のバリアが現れ、その銃弾を防いだ。

 威力が減衰した銃弾が、バイオンの全身鎧へとぶつかり叩き落ちる。


 バイオンは、お返しにと手榴弾を投げ込んだ。

 六人の兵士の目前で爆発。

 しかし大盾と全身鎧はその爆撃を防いだ。

 だが煙が上がったせいで、バイオンの姿が見えない。

 しかし煙で姿が見えないのはバイオンも同じ、重武装の隊長はこれを好機と見て追撃を行う。


「特攻するぞ!」

『ハッ!』

 背中からジェット噴射された六人の兵士。

 鉄の具足には車輪が生えており、六人はそのまま前方へと走り出す。

 盾を構えてのタックル。

 その一撃は猪や熊の比ではなく、岩すら砕く破壊力だった。


 石畳の上を、煙を吹き飛ばしながら六人は特攻を仕掛ける。

 それはもはや一枚の壁が迫るような物であった。


 ジェット噴射の推進力を、車輪はきちんと地面に伝え走る。

 車輪は物を運搬するのに適した形の物体であり、重装備の彼らを動かすのに必要な物であった。

 重たい物を運ぶのに車輪は優秀な形であった。



 だがそれは同時に欠点もある。

 車輪とは舗装された道路でこそその成果を発するものである。

 例えば、デコボコの道ではうまくその動きを伝える事は出来ない。

 煙の先にバイオンが生み出した地割れによる溝が生まれていた場合も、それを渡る事などできないのだった。



『ぎゃあああ!?』

 五人の重装備の兵士は、地割れに車輪を取られ、そのうえで背中のジェット推進を受けて、大きな音を立てて激しく転倒した。

 重装備の衝撃がもろに自身の体に入り、地面を転がった五人はそのまま気を失ったのだった。


 なんとかその窪みを越えた隊長。逆噴射により地面の上をストップする。

「お、お前達!?」

 そこに飛んでくる鎖の着いた斧。

 それは隊長の盾に絡まる。


 隊長はすぐに盾から手を離し、相手を見た。

 盾を奪ったバイオンは、それを横に捨てて重装備の兵士へと迫った。

「このぉっ!?」

 隊長は手に持った斧を向ける。

 その斧の頭には銃口があり、そこからも銃弾を放つ事が出来た。


 だがそれよりも先に、バイオンが左手のガントレットから魔法を放つ。

 電撃と炎と水弾が、重装備兵士を襲う。


 銃弾はバイオンの右肩の鉄鎧を貫通する。

 同時に電撃と火炎が重装備の隊長を感電させ焼き上げた。

「ぐがあああ!?」

 激痛に苦しみながらも、隊長は意地で耐え凌ぐ。

 そして目の前まで接近した鉄仮面に対して、斧を振り下ろした。


 バイオンも斧を叩きつける。

 ぶつかり合う斧。

 打ち負けたのは兵士の隊長の方であった。








「貴様ら、負けたとはどういうことだ!?」

 橋の前で立ち並ぶ六人の兵士。その前に立つは白衣を着た男性の老人。

 彼こそはカントラル機械部門のトップであり、騎士団長の称号も持つ男テンパムである。

 騎士団長と称されるが戦闘力は無く、あくまで機械作成の頭脳だけで得た実力であった。

 男は杖で六人の兵士の隊長を何度も殴る。


 隊長は裸であった。

 バイオンが彼の鎧などを持って行ったのである。

「くそっ! くそぉ! 負けただけでなく盗まれるとは!!?」

 テンパムの杖が隊長の頬を殴り、抵抗しない隊長はその度に血を流した。



 一通り殴った老人は、荒げた呼吸を整える。

 そして遠くを見ながら、小さく呟いたのだった。

「外付けの装備では駄目か……、やはりサイボーグ計画を推進しなくてはなあ」











 フィーラ村の次の日の朝。

 村長がラフターの下を訪れた。


「私に手紙ですか?」

 眠たげな魔女の言葉に、老人は頷く。

「はい、二十年ほど前に村を出て行方不明になった我が息子、ブラッドルからのものです」

 その名前に魔女は少し目を見開く。

「ブラッドル……」

 その男を、ラフターは覚えていた。

(……昔、私がフッた男だ)



バイオンは今回も特に無し!

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