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第56戦 VSオーガ



 一人、森の中で剣を振るう半裸の巨漢。バーバリアンの大男バイオン。

 木を殴り、葉っぱを降らしては連続で斬り払う。

 そのいかつい顔の目は不機嫌に歪み、その鋭い歯の並んだ大きな口も不満げである。

「……ああ、くそ、また負けた」

 男は昨日のワーウルフに逃げられた事を、未だに引きずっていた。



 そんなところに、一人のドワーフが来る。

「おお、バイオン。見つけたぞ」

「あ?」

 それ以外の仕事もしているが、ほとんどバイオン専属の鍛冶師のドワーフ兄弟の弟、フィアラルがバイオンの下を訪れたのだった。


 木々にロングソードを振り回していたバイオンは、剣を下に向ける。

 そして投げつけられたひき肉を、片手で受け止めた。

「休憩にしようぜ、話したい事もある」



 切り株に座って見合う、バイオンとフィアラル。バイオンはひき肉を噛み千切り水を飲む。

 フィアラルは持っていた筒を見せた。


「てめえのデカイ指にも合うように作った、散弾銃だ」

 口径が大きく、引き金も大きなそれは、ドワーフ兄弟が以前から考えていた武器であった。

 自慢の髭を撫でながら、フィアラルは説明する。

「一応、大きな銃弾も撃てるが、どうせ弾込めなんてしないだろ? なら一発限りで十分だな。セーフティは暴発の可能性も考えて、グレネードランチャーと一緒で二つ付けてあるから注意しろよ。散弾は貫通も射程も無いから近距離・中距離で」

「銃って強いか?」

 バイオンはフィアラルの説明を遮って、自分の考えを伝えた。


 バイオンは今まで銃弾を受けた事が、この三か月で何度もある。

 小さな鉛玉を、その肉体に当てられて傷つけられてきた。

 そのうえであまり強さを感じれなかった。



 理由はバイオンの筋肉質の大きな体、そして何よりオアンネスより学んだ肉体操作が原因だった。

 銃撃による小さな傷は、肉体操作ですぐに防げる。銃弾も体外にすぐに排出するので鉛の影響も受けない。

 小さな銃弾は見た目以上には、体内に広範囲にわたりダメージを与えるが、痛みに慣れているバイオンにはその程度だった。

 頭に当たれば死ぬのはバイオンにもわかるが、それはどんな攻撃でもそうである。


「バイオン、そりゃあお前の運が良いのと、ラフター様の回復魔法のおかげだ」

 フィアラルはそれを踏まえて説明する。

「銃ってのは脳や肺にでも当たらない限り、死亡する理由は出血によるものだ。内臓はもちろん動脈に直撃、いや、その付近にでも銃弾が当たれば衝撃で破れれば出血は止まらずに死ぬ」

「だが俺は傷を止められるぞ?」

「ああ、その点ではお前には大丈夫だったが。それでも回避し辛さは理解しているだろ?」

 あまり納得のいかない顔だったが、鉄鎧を貫通するその威力は理解しており受け取った。


「それと帰ったら嬢ちゃんから、薬を受け取っておけよ」

「あ?」

「昨日の夜、作った薬があるんだよ」

 時は過ぎて、夜となる。

 武装したバイオンはプレゼンからのそれも受け取り、修行の為に魔法陣から転移した。











 昼の太陽の下。

 草木も見えない険しい山の、その中腹に小さな城が立っていた。

 その城には一人の住人がいた。


 衣服を着た人型で三メートルほどの背丈、厳つい顔、筋肉質な体、ぼうぼうに生えた髪に顎髭の大男がいた。

 オーガと呼ばれる存在だった。


「……」

 オーガとはヨーロッパに伝わる怪物。

 肉食性で人を食らい、城に住み着き財宝を蓄える。

 性格は残忍であり狂暴、人々を襲い攫い殺して喰らう、人間にとっては倒すべき敵と言ってよい。

 お姫様を攫い勇者に倒される。そんな役割の怪物であった。



 彼はこの地に気が付いたらおり、そしてその性格のまま暴れて人々を襲った。

 人々は圧倒的な力を振るう怪物に、立ち向かっては敗北を繰り返した。

 そんなことを十年以上、オーガと人の間で続けた。

 そして人間は全員、この地から逃げ出していったのだ。


「グググゥゥ……」

 オーガはその醜い顔をさらに歪ませて、悩んだ。

 それは人間を襲いに遠くまで行くべきかどうかという事だった。

 だがそれをできない理由があった。それはこの城に蓄えられた財宝だった。


 彼は村を町をそして城を単独で襲い人々を食い殺し、そして金銀を奪った。

 それにより、この城には大量の財宝が存在していたのである。

 もはやオーガ一人で持ち運べる量ではなかったのだ。


「……人を襲いたい……、だが遠くに行く必要性がある……、財宝を置いて行くのは、勿体ない……どうすればいい?」

 オーガは悩む。悩み続ける。

 すでに悩んでから三年が経っている事に、全く気付いていない。





 そんなところに現れたのは、全身鉄鎧の鉄仮面の男だった。

 頭を抱えて悩んでいたオーガ。

 突然に現れた剣と盾を持った大男に、驚き立ちあがった。

「何だ貴様!?」

「あ? テメェこそ誰だ?」

 態度のでかい、自分より一メートル小さい男にオーガは堂々と名乗る。

「俺か? 俺はオーガ! 誰よりも強き、そして賢き怪物よ!」

「賢い?」

 バイオンは頭を傾げる。オーガの自分に匹敵した厳つい見た目が、知性を全く感じさせなかったからである。


「おうよ」

 オーガは胸を張って告げた。

「俺は力があるだけじゃねえ、魔法も使えるのだ!」

「ほう?」

 魔法が全く使えないバイオンは、素直にそれを感心する。


「疑うのならば、見ろ!」

 オーガの体がどんどん大きくなっていく。

 そして身長が、城の天井に届くほど巨大になる。


「どうだ! 驚いただろう!?」

 窮屈そうに体を曲げて、場内にその巨体を維持してバイオンを見下すオーガ。

 魔法の強力さを知っているバイオンは、少し妬みも込めて言った。

「じゃあ、逆に小さくもなれるのか?」

「おうよ!」


 オーガはどんどんと小さくなっていく。

 そして鼠そのものとなる。

「どうだ、俺の魔法はすごいだろう!」

 小さな鼠が、バイオンを見上げて胸を張って言った。


 バイオンはその鼠を、鉄の具足で蹴り飛ばした。

 鼠のオーガは吹っ飛んでいき、玉座にぶつかった。


「おのれぇえええ!! 貴様は食い殺してくれるわ!!」

 オーガは元の三メートルの大きさに戻り、殺気を込めてバイオンを睨む。

 バイオンもまた、鉄仮面の奥の目で笑い、殺気を返した。

「じゃあ殺し合おうぜ、オーガ」

 二人しかいない城の中、戦いが始まった。

 バイオンは剣と盾を構えて立ち、オーガは怒りに毛を逆立たせて叫び、城内を震わせた。



 オーガは走り寄り、その筋肉の盛り上がった太い腕で殴りかかる。

 その一撃は体の大きさにも比例して、かなりの破壊力のある拳だった。

「ああ?」

 しかし、バイオンはあっさりと横に避ける。

「遅えし、大振りだ。当たるか、そんなもの」

 オーガの拳よりも速く、的確な攻撃をいくつも見て喰らってきたバイオンにとって、その動作はあまりにもわかりやす過ぎた。


 その後もオーガの拳が振るわれるが、バイオンは盾も使わずに簡単に避けていく。

 そして大きな振りが来た時に、オーガの胸元へと飛び込む。


 バイオンのロングソードによる斬撃。右腕と右足、そして左足を連続で斬りつけ、さらに腹にロングソードを押し込んだ。

「ぐがあっ!?」

 バイオンは後ろに飛びのきながら、剣も引き抜く。

 オーガは前のめりに膝をついた。


「……くくっ、やるなぁ?」

 オーガは血を流しながら笑う。

「俺に傷をつけたのは、生まれてきてお前が初めてだ」

「あ?」

 バイオンが驚く。

 オーガの傷が見る見るうちに塞がって行くからである。

(肉体操作!? いや、回復魔法か!?)

 オーガは立ち上がり、またも拳を振りぬく。

 バイオンは避けながら、腕を斬り落とさんと剣を振り抜く。


 オーガの腕に当たったバイオンの剣が弾かれた。

「鉄か!?」

 オーガの両腕が硬化されていた。


 さらにオーガが拳を振り上げる。

 バイオンはまたも避けようとした。


 だがそれより早く、オーガの口から息が吐きだされる。

 吐いた空気がバイオンの足元に着弾。バイオンの足を地面へと氷つかせていた。

「!?」

 そこにオーガの巨大で硬い拳が叩きこまれた。

 バイオンは後ろへと吹っ飛ぶ。その拳を防ぐのに使った、剣と盾を取り落とす事になる。


 バイオンは城内を転ぶ。

 魔法で出来た足元の氷は消滅していた。


「くははははっ! どうしたぁ!!」

 オーガが冷気の魔法を放ち、バイオンは咄嗟に転んで避ける。

 さらにオーガが地面を思い切り踏むと、城の床を衝撃が伝う。その魔法にバイオンは吹き飛ばされて、さらに後方へと転がった。

「喰らえい!!」

 オーガは走りバイオンへと突進した。


 バイオンは、走ってきた巨体に手榴弾を投げつける。

 オーガの目前で、その筒が爆発した。


 爆炎に直撃したオーガ。

 魔法で作り上げた幻のオーガは消えてなくなった

「なんだとぉ!?」

 驚くバイオンの右側から、オーガが現れた。

 ガードも間に合わずにバイオンはオーガに蹴り飛ばされた。


 城壁へとぶつかり、息を吐くバイオン。

「さっきの蹴りのお返しだぁ、そして死ねえ!」

 バイオンは痛みを耐えつつ、左腕のガントレットを敵へと向ける。

 バイオンが魔法を放つ前に、暗闇がバイオンの視界を覆った。

(暗闇の魔法もかよ!?)


「くはははは!! さあ、止めを刺してやる!」

 声は聞こえるが相手が見えない暗闇の中。バイオンは恐怖に焦り、ひたすら左腕の魔法を放つ。

 火炎、氷弾、電撃、花に草、水弾に水流、地割れに暗闇、ついでに水のバリア。

 ただ腕を振り回して、適当に放った。

 

「がはははは! そんなメチャクチャに撃ってもあたらなぐほぉ!? いた、げはっ!?」

 勝ち誇っていたオーガは、二発ほど魔法を食らってしまい、床に倒れた。



 しばらくして暗闇が消えて、床に座ったバイオンの目が見えるようになる。

 見えたのはオーガが、足を振り上げた姿だった。

「きっさまぁ! 殺す!」

 オーガは勝ち誇り中を傷つけられたがために、馬鹿にされた気分となり、その怒りのまま足を振り下ろす。

 技も何もない踏みつけ。しかし巨体で重たいオーガのその攻撃は、それだけで破壊力のある攻撃だった。


 鉄仮面の上から二度三度と踏みつけられるバイオン。

 血反吐を出し、鉄仮面の頭を床に叩きつけられる。

 さらに止めとオーガが一撃を加えた。

 バイオンはダメージを受けながら、その足を捕まえてダガーを突き刺した。


「ぐう!?」

 脚の痛みに後ろに退くオーガ。

 バイオンはふらつきながらも立ちあがり、その腹に拳の一撃を叩きこんだ。


 だが硬化されたその腹にダメージを与えられない。

(振動波を……!?)

 技を放とうとするバイオンだったが、痛みで一瞬遅れ、その前に鉄仮面を殴り返される。

 仰け反るバイオンへとオーガの硬化された攻撃が続く。右左と二連撃の拳が左右から叩きこまれ、さらに頭上からの振り下ろしが放たれた。

 連続の攻撃に、バイオンはまたも床へと叩きつけられた。


「さあ、最後はデカくなって止めを刺してやる!!」

 オーガは部屋一杯のサイズへと大きくなった。

 そして右手で、息も絶え絶えなバイオンを掴み上げた。


「さあ、このまま握りつぶしてやる! その後に食ってやるぞ!!」

 醜悪な顔を歪ませ、嘲笑を向けるオーガ。

 バイオンを握りつぶさんと、オーガは右手に力を籠める。鉄鎧がきしむ音がした。


 ようやく意識を取り戻したバイオンは、握られ軋む体に力を籠める。

 逆にオーガの拳が開かれていく。


 そして振動波が放たれて、オーガの親指が吹き飛んだ。

「いたぁあああ!?」

 思わず手を離してしまった人食いの怪物。

 バイオンは床へと着地する。


 すぐにオーガはバイオンをその鋭い目で睨みつけて、攻撃を繰り出そうとした。

 それより早く、バイオンは背中のクロスボウを取り出した。


 短く太い矢が、オーガへと飛ぶ。

 オーガの左腕にクロスボウの矢が刺さった。

「はっ! そんな攻撃、少し痛いだけ……っ!??」

 オーガの左腕、矢が刺さった部分から毒が広がった。


 それは一ヵ月ほど前に入手した、鴆という毒鳥の毒を、プレゼンが独自に改造して毒薬にし、矢に染み込ませたものである。


 激痛と麻痺が、オーガの左腕を襲い広がっていく。

 これ以上、毒が広がる事を恐れたオーガは自らの左腕を右手で叩き落とした。


 自らの腕を潰した事の痛みに、仰け反るオーガ。

 もちろん、そんな大きな隙をバイオンは見逃さない。

 今度は背中から散弾銃を取り出して、オーガへと撃ち込んだ。


 無数の弾丸となった攻撃、一発一発は攻撃範囲も狭く、傷を癒せるオーガにとって大した問題ではなかった。

 しかしそれは当たり所にもよるのである。

 たくさんの弾はオーガの硬化された胴体へと当たり、そのうち一発はオーガの左目に当たった。


「いぎゃああああっっ!?」

 目の痛みに八メートルはある巨人は暴れた。

 そして走り逃げていく。

「逃がすか!」

 ようやくダメージのふらつきも治まって来たバイオンは、怪物の逃げる背中へと鎖付きの斧を投げつけた。


 その攻撃は幻のオーガを貫き消失させた。

「また魔法かよ!?」

 その斧の横を走るオーガ。バイオンは追いかける。



 片目を潰され、片腕を失ったオーガは城の門を蹴破り、さらに走る。

 そして近くにあった山の崖へと飛び降りたのだった。

「……ちっ! これじゃあ追えねえな」

 バイオンはそれ以上の追撃を諦めて、使った装備を回収した後に帰還したのである。








 山の麓の森へと落ちたオーガ。

「くそ、あの野郎、……とにかく回復しねえと」

 よろよろと立ちあがった重傷のオーガは、回復の魔法を使おうとした。


 そこを一匹の猫が走り寄る。

 二本足の猫の斬撃が、オーガの首を斬り落とした。

 人間を長きに渡り苦しめた巨躯の怪物、オーガはそのままあっさりと絶命したのだった。


「どうかにゃ、師匠!」

「一点」

「低い!? 厳しい!?」









 夜のフィーラ村へと戻ったバイオン。

 殴られまくった疲れからか、武装を解いた後にすぐに自分の家へと戻って行った。


 そんなバイオンに、ラフターは声をかけようとする。

 しかし眠たげな目は、面倒だと止めた。

「お前の事を調べまわっている奴が村の宿にいるが、……伝えるのは明日の朝でいいか」

 ラフターも自分の家に戻り、眠る事にした。



バイオンは散弾銃と鴆毒のクロスボウを手に入れた!


ググってオーガという名前の初出が「長靴をはいた猫」だった事に、ちょっと驚いた。

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