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第53戦 VSオロボン



 フィーラ村の外れ、濡れない程度の弱い雨が降る日。

 昨日に続き、今日も夜からセンターナ王国へと向かう予定のバイオンとプレゼンはそれぞれの家で時間を待っていた。


 バイオンの元にドワーフ兄弟の弟のフィアラルと、妖精国に住んでいる水色のドレスを着た水のニンフのナーイアスが訪れた。

「はーい、元気してる。バイオン、それにランパス!」

「ええ、お久しぶりねナーイアス!」

 バイオンの陰から現れた冥府の妖精ことランパス。

 ドレスを着た二人の美女が、お互いに顔を合わせてハイタッチする。


「スライムで侵食していたが、少しの修理で済んだ」

 フィアラルはバイオンの左腕のガントレットの修復が終わった事を告げに来た。 

「それに私が持ってきたニクスとニクシー二人の、魔法石を装着したわ」

 ウィンクする水の妖精。気にせずバイオンは問いかける。

「ケット・シーはどうした? こういう配達はアイツの仕事だろ?」

 今度こそ試合でぶっ倒すと決めていたバイオンだったが、来なくて肩透かしを食らう。

 水のニンフは色仕掛けに反応しないバイオンにため息をつきながら、答えた。

「あの猫ちゃんなら、今は妖精国を離れているわよ。今はバイ=マーセって精霊に着いて行ってる」

「誰だ?」

「私もよく知らないわ」

 それ以上の事は本当に知らないらしく、美女は黙った。バイオンもそれ以上は興味がわかなかった為に聞かなかった。


「それで今回の魔法は、水属性の三つ。水流を放つ魔法と、水のバリアを張る魔法、そして癒しの魔法よ」

 なぜか得意気なナーイアス。バイオンは最後の魔法が気になり、質問する。

「癒しの魔法?」

「ええ、もともとナーイアスの泉は病気を治したり力を与えたりするのよ。私カスタリアの泉は詩才を与えたりもするけれど。それをニクシーの力と混ぜて癒しの魔法に変換したのよ」

「いらね」

 説明を聞いた上で、不要と判断したバイオン。

 毒や病気にならず、傷も肉体操作で治療できるバイオンにとって、それはあまり必要に感じなかったのである。

「まあ、もっときなさいよ。きっと必要になるわ」

 水のニンフ、ナーイアスことカスタリアは微笑を浮かべてバイオンに言う。


「話したい事は他にもあってね」

「ああ?」

 もう終わりだと思い、床に寝転がろうとしたバイオン。だがナーイアスのカスタリアはその動きを止めさせる。

 今までの話は前置きであり、これこそが最も重要だとその表情が告げていた。

「まだ、なんかあんのか?」

「ええ、今までの情報でもっとも大切な話」

 深刻そうな顔で、カスタリアは語り始める。

 重苦しい雰囲気、バイオンがその空気に黙らせられる。


 そしてカスタリアはゆっくりと語り始めたのだった。

「それがねそれがねえ、いま妖精の国は絶賛、修羅場中なのよ! あのセルキーがね、ニクシーの妹さんの方に告白してOKしてもらったの、それで兄夫婦が全力で反対していて……」

「帰れ」












 センターナ王国下水道の探索、二日目の夜。

 バイオンとプレゼンとハッピラは、昨日通ったスライム地帯の先に進む。


 それぞれが松明と魔法の炎で、暗い地下道を照らす。

 時々スライムが一匹で這いずってくるが、プレゼンがあっさりと焼いて殺した。


 明かりによって部分部分を映し出された地下水道。

 途中の壁に大きな円の模様が描かれていた。

『それが魔法結界の一つだ』

「学校でも習った事の無い、文様ですね」

 プレゼンはこんな結界もあるのかと感心する。

 それに対し、虚空からラフターが解説した。

『それが私の転移魔法や探知魔法などの遠距離からの情報の読み取りを、阻害している。破壊しろ』

 ラフターの言葉を聞いたバイオンが、その鎖の巻かれた大きな右手、そのガントレットで壁を殴った。

 壁は一撃で粉砕されて、大きな罅によって模様は消された。

『あと四つほどあるな』

「頑張りましょう、バイオンさん!」

「チー、チー。(頑張れよ、デカブツ)」

 赤い帽子と赤いローブの魔法使いの少女と、その帽子の上の鼠がバイオンに声をかける。

「けっ」

 バイオンは体にかかった砂を払いのけて、面倒臭げに返事をするだけだった。


 虫やトカゲが這い回る暗い道。大男と少女は、ゆっくりと歩みを進める。

 薄汚れてはいるが、しっかりと作られたダンジョン。水の流れる音と足音だけが反響して二人の耳に届く。

 まるで二人を押しつぶそうとする暗闇と雰囲気だったが、しかし特に何も起こらないまま一時間を過ぎていた。


 ラフターはそんな状況で緊張感が失われていく二人に、思った事を話し始めた。

『結界は大した事ないが、改装などが出来るような相手だ。なんらかの犯罪集団がかかわっているとみるべきだな』

「町の下に秘密の結社ですか?」

『場合によっては私がそっちに行く』

「いえ! この程度の些事、お師匠様が出る必要性もありません! 私達で解決してみます!」

 赤い瞳の少女は、その目の奥に炎を燃え上がらせる。

 ハッピラはチーズをカリカリと食べて、バイオンは鉄仮面奥で欠伸をしていた。

『……そうか』

 ラフターは鏡の向こう側でただ淡々と返答していた。いつもと変わらぬ表情だが、一緒に大鏡の前にいたドワーフ兄弟は、いつもよりテンションが低く感じたのだった。



 鏡の近くで、ラフターはずっと考えていた。

(これに、意味はあるのだろうか?)

 二人をこの場所に派遣した魔女は、自分の行為を自問していた。


 ラフターは今回、二人を派遣する意味がそれほどなかった。

 バイオンを遠国に派遣するのは、自身を晒さずに他国の状況や守護神の情報を集められるからである。

 しかし、ここは自分の守護する国。バイオンを送らなくとも自力で安全に解決できるとわかっていた。

 遠距離からの探知が面倒だったら、直接出向いて自身でさっさと解決してしまえばいい。ラフターはそう考えていた。

 そのうえでバイオンを送り付けたのは、地下での戦い方を知っておいてほしかったからである。


 地下は地上とは違う。

 壁の向こう側は全て土。空には出られず、逃げる事は難しい。

 炎は煙が充満して、水は場所によっては水没する。

 それ以上に、大きな振動があれば生き埋めの可能性もある。

 基本的に明かりが無ければ暗く、心理的な圧迫感も考えられる。


 その為にラフターは、いずれバイオンに地下での戦いがある可能性を考慮して、事前に体験してほしかったのである。

『……考え過ぎではないか?』

 ラフターは自身のやっている事に、少し疑問を持っていた。






 ラフターの過去の悪乗りによって迷宮と化していた、大きな地下水路。

 さらに何者かの手によって改装を施され、制作者だった魔女にもよくわからない大迷宮となっていた。

 ハッピラのテレパシーで棲んでいるネズミ達を利用して、全体を把握していく。


 バーサーカーのバイオン、赤い魔法使いの少女プレゼン。

 明かりを持った二人は、奥を目指して下へと降りていた。

 下水だと思っていた水は、いつの間にか川の水に代わっている。

「町の地下深くに川の支流まで流れているとか、よくこの町が陥没しませんね」

「チー。(なんでもありだな)」

 プレゼンは炎の魔法を手に灯し、バイオンは松明の火を掲げる。

 途中で見つけた魔法除けの結界の模様の壁を破壊しつつ、最下層へとたどり着いた。


「とりあえず一番地下まで来ました、ボスってのは最奥にいるのが定番ですから」

「チー?(うーん?)」

 プレゼンは地下五階層まで降りて、そのまま一番奥を目指していた。

 そこに敵がいると考えていたからである。


 鼠達を操っていたハッピラだが、返答が出来ない。

「チー、チー? (動物除けの結界? 鼠が近寄れない場所が三か所ある?)」

「地下三階、四階、五階にあるのですね?」

「チー? (何でそんな結界張ってあるんだ?)」


 鼠も近寄れない場所を目指して、バイオン達は進む。

 そして地下五階の奥には大きな湖があった。


 大きな湖が暗闇の中、二人の炎によってその姿を見せた。

「わあ、デカイ、広い、透明!」

「ふん!」

 火を掲げて感動するプレゼン。

 湖を気にせず、入り口近くの壁の模様を殴って破壊するバイオン。

 これにより、動物除けと魔法除けの結界が壊れて解除される。

 だが実はこの模様にはもう一つの魔法が掛かっており、それも一緒にバイオンは砕いていた。



 広いフロアだったが、湖以外に見えるものが何もない。

 プレゼンは火を大きくして、湖の奥を照らした。

「ここで行き止まりですか? 特に何も……」

 これ以上先はないと見たプレゼン。

 だが湖の奥にある小島に何かを見つけた。


 それは四人の人間だった。

 服装からして兵士などではなく、金で雇われた探索チームだとプレゼンは理解する。

 彼らは全身が濡れていた。


 青年の男戦士、老人の男剣士、中年の女魔法使い、軽装の若い女冒険者がその島の上にいた。

 女魔法使いが結界を張っているようで、円の上に四人が固まっていた。


 プレゼンの炎に気が付いた青年の戦士が、立ちあがり声を張り上げた。

「すまない、君達! 助けてくれぇ!!」




 彼らは前日、この場所を訪れた報奨金目当ての探索パーティーである。

 城からの賞金目当てに、彼らは傭兵ギルドでチームを組み、夜のうちにこの地下水道へと訪れたのだった。


 予定だったスライムとの戦闘は無く、肩透かしで終わる。

 そのまま探索を進めるが、その時に青年の男戦士がチームに提案したのであった。

 「原因は大体、一番地下にある可能性が高くないか?」と。

 そして一応はまとめ役だった彼の意見を採用し、マップを作成しながら、この地下水道の一番奥深くまで彼らは訪れたのであった。


 大きな湖があり、そこで行き止まりだった地下最奥。

 念のためだと湖を調べる四人。


 ところが突然、魔法が発動し四人は湖へと強い風で飛ばされた。

 人が入ってから一定時間後に発動する、魔法のトラップがそこにはあったのだ。

 動物除けの結界が張られていたのは、そのトラップが何度も発動して効果が無くなるのを防ぐためである。


 湖に落ちた四人組。

 彼らは湖上まで泳いで顔を出した所で、そいつは現れた。




 立ちあがって大声を張り上げながら、身を乗り出す青年。

 老人と若い女が「バカ、座れ!」とその行動を止める。


 湖から大きな魚が、青年へと飛び掛かった。

「ヒィ!?」

 すぐに飛びのき、結界の中へと逃げる青年。

 大魚からは結界内の四人を認識できないのか、魚は小島の周りをうろうろとするだけだった。


 大きな炎を空中に掲げながら、プレゼンは大声をかける。

「待っててください、いま助けますから!」

 そして、炎で照らされ赤々となる湖をプレゼンは睨んだ。

「電撃の魔法……はダメですね、小島にいる彼らは濡れていますから感電してしまいます」

 波を漂わせながら泳ぐ、全長三メートルはある魚。

 水の中に沈み、徐々にプレゼンへと近寄って行く。

「じゃあ、出てきた所を丸焼きですね」

 戦う覚悟を決めたプレゼン。スライムのように魔法で一撃で倒すつもりであった。



 炎を揺らして、プレゼンは待ち受ける。

 そして大きな魚はプレゼンへと飛び掛かる。


 四体同時に。


「ええっ!!?」

 四匹もいる事は予想外であったプレゼン。

 慌てて炎を飛ばすが、的が絞れなかったためにその攻撃はそれてしまい、一匹の体の鱗を掠るだけだった。


 バイオンがその赤いローブの背中を引っ張り、後ろへとジャンプして回避する。

 石でできた地面へと四体の巨魚が激突。大きな振動を周囲に与える。


 後方へと投げ飛ばされて転がるプレゼン。

 松明を投げ捨てた鉄仮面と全身甲冑の巨漢は、その魚に対してロングソードを突き付けた。

 しかし剣は弾かれる。

「かたいっ!?」

 剣はその魚の皮膚を少し傷つけるだけだった。


『そいつはオロボン。体長三メートルと硬い鱗を持つ魚だ』

「そうかよ!」

 バックステップしながら、左腕のガントレットを向けるバイオン。


 火炎と電撃と土の塊がバイオンの手から飛ぶ。

 オロボンのうち、一体が燃え上がり、一体が痺れる。しかし一体は土の塊がぶつかっても平気な様子だった。


 さらにオロボンが湖から飛び上がり、バイオンへと飛び降りてきた。

「全部で五体か!?」

 ロングソードを投げ捨て、牙を広げてのしかかってきた一体を両手で受け止めるバイオン。

 大きな口でバイオンを噛み砕こうとするが、さすがに鉄の塊は無理だったらしくその右肩に圧力をかけるのが精一杯だった。


「しゃらくせえっ!」

 バイオンはその大きな魚の頭に左手を付けて、振動波を放つ。

 体内からの衝撃に、硬い魚の頭の内側が砕け散った。


 痺れたオロボンを見捨てて、他のオロボン三匹は体を揺らして反動で湖へと逃げていく。燃えていたオロボンも、水の中に飛び込んで火を消した。

 バイオンはのしかかっていたオロボンの死骸を捨てて、すぐに水中へと飛び込んだのだった。



 バイオンは湖の中で魔法を発動する。

 重装備でもアザラシの如く水中での行動が可能になる。

「どうせ、もう外に出てくるつもりはないだろ?」

 バイオンは水中でオロボン達を仕留めるつもりだった。


 自分達のテリトリーへと飛び込んできた人間に、オロボン達三匹は噛みついてくる。

 武器は意味が無いと判断したバイオンは、ガントレットの手で構えを取った。


 そしてバイオンは右手の拳を放つ。

(空圧波!)

 本来ならば空気を固める技を、バイオンは水に対して使用した。

 固められた水の塊が、泳いできたオロボンの一体へと放たれる。

 オロボンの内一体が空圧波による、水中弾の衝撃を受けて方向転換した。


 残り二体のオロボンは、そのままバイオンに対して水中タックルを行う。

 一体はバイオンは反転して避けるものの、もう一体は避けきれず左半身にぶつけられた。 

「くぅ!」

 硬さもある衝撃に、左腕を痛めるバイオン。

「いってぇが、あの時の痛みよりはマシか」


 バイオンが思い出すのは、オアンネスとの修行。

 修行という名の痛みの日々に鉄仮面の内部で顔をしかめるバイオン。

 そして同じ魚頭のオロボンに、理不尽な憎しみを向けたのだった。

「……殺す!」


 痛みなど無視してバイオンは左腕を動かす。

 再度、バイオンへと突撃を開始したオロボン。

 しかしバイオンの左腕から現れた水のバリアにオロボンは直撃し、その衝撃で大魚はぐらついた。

 そして、動きを弱くしてその大男の横を通り過ぎようとした。


 その瞬間にバイオンは手を伸ばして、オロボンの硬い鱗の体に触れて瞬時に振動波を放つ。

 硬い鱗で覆われた頭部。その内側からオロボンは破壊される。


 さらに別方向から噛みつきに来たオロボンに対し、バイオンは左腕を向けて水弾と草と花を放つ。

 衝撃や唐突に現れた草花に、オロボンは視界を遮られて進行を曲げる。

 そのままオロボンは味方の死体へと体当たりしてしまう。

 硬い鱗同士がぶつかり、動きを止めるオロボン。バイオンはそれに泳いで近寄り、そいつも振動波で頭部破壊したのだった。



 瞬く間に二匹をやられ、残り一匹になったオロボン。

 次々と死ぬ仲間に恐れをなして、大魚は方向転換する。

 逃げる先は、川へと通じる場所であった。


 だがその魚の泳ぐ速度よりも速く、バイオンが追い抜いた。

「水流の速度、なかなかじゃねえか!」


 驚き動きを止めるオロボン。すぐに逃げるように向きを変えて動くが、それよりも先にバイオンの右手が頭部に触れた。

 こうして地下水道に棲んでいたオロボン五体は、全滅と相成った。








 水の上を凍らせて道を作り、プレゼンは孤島の四人を助ける。

「助かったぁ、もう死んだかと」

 青年の戦士は岸まで来て、座り込んで安堵のため息をした。

 中年の女魔法使いはずっと魔法を使い続けた疲労と、小島に上がる前にオロボンの体当たりを受けて折れた足の骨の為に他三人に肩を借りてここまで来た。

「あ、私、回復魔法が使えますよ」

「そうかい、助かるよ」

 今日の朝、プレゼンは覚えたばかりの癒しの水の回復魔法。さらに自作の回復薬も使用していく。

 二種類の回復の液体を足にかけられた魔法使いは、すぐに骨がくっついて歩けるようになった。


 こうして戦いの終わった地下五階の湖。四人パーティーのリーダーである戦士は、改めて感謝を告げる。

「……あの、すみません」

 助けられた事に礼を言われたプレゼンは、ある取引をその四人パーティーに持ち掛けた。

 スライム退治とオロボン退治の成果を譲るので、バイオンとプレゼンの事を内緒にしていてほしいと言ったのである。

「それはどういう?」

「すみません、言えません!」

 赤い帽子を揺らして頭を下げる少女。

「まあ、成果も貰えるのはありがたいし、助けられた以上は構わないが……」

「ありがとうございます!」

 プレゼンは今までより大きく頭を下げる。ハッピラが衝撃で頭から落ちかけた。


 赤い少女と、鉄仮面の巨漢はそのまま立ち去る。

 ちなみにバイオンは、電気で痺れていたオロボン一匹を鎖で巻いて背中に背負って引きずっていた。


 凍っていた湖の魔法の氷は時間と共になくなり、岸に引っ張られていたオロボンの死骸が四体残っていた。

 青年の戦士は松明の炎を付けて、パーティーに告げた。

「じゃあ、一度帰るとするか」

 それに誰も異議を申し立てず、この探索は終了した。


「しかしあの子達、どこから来たんだい?」

 炎を生み出して焚火を作り、服を乾かしていた中年の女性が青年に聞く。

 青年の戦士も、知らないと答えた上で話をし始めた。

「俺はあの大男を一週間前に見たが、唐突に現れて消えたんだよ。多分、転移魔法か何かだと思う」

「へえ、そんな高レベルな魔法を使えるのかい!?」

 青年の戦士と中年の女魔法使いは、帰る為の支度をしながら会話を行う。

「……」

「……」

 その間、老人の剣士と若い盗賊風の女は一言も発しない。


 二人はずっとバイオンを見ていた。

 いなくなった後も、思い出す様にその過ぎ去った場所を見ていた。

 特に女はその背中を、睨むように見ていた。








 フィーラ村の外れに戻ってきたバイオンとプレゼン。

「お師匠様、言われた通りバイオンさんがオロボンを持ってきましたけど、なんでしょうか?」

 ラフターの命令で生きているオロボンを一体、持って帰ったバイオン達。


 曇り空の夜の下。ラフターは淡々と答えた。

「そいつはどうやら肺で呼吸している魚の様だ。そいつから魚の呼吸をとれる」

「……?」

 その言葉の意味が分からず、少しだけプレゼンは動きを止めた。

 そして少女は思い出した。

「…………ああ!? そうでしたね! グレイプニルの素材に必要でしたね!?」

「忘れていたのか?」

「いえいえいえそんな!!」

「言っておくが、お前はまだ私の本当の弟子では無いからな?」

「はい、わかっております!! あとは岩の根っこと、猫の足音と、たくさんの鳥の唾液! 全部集めて真の弟子になってみせます!!」

「……」

「頑張るぞ! えいえいおー!!」

 眠たげな目で見つめるラフターに、プレゼンは慌てた様子の掛け声を行う。

 バイオンはさっさと帰って家で寝ていた。








 青年の戦士達、四人のパーティーは地上へと帰還する。

 マップの作成に、スライム部屋の掃討、オロボン四体の撃破と、それらの報酬を合わせて二十六枚の大金貨を得た。

 四人で六枚ずつそれを分けあうパーティー。さらに中年の女魔導士は最も苦労していたので、さらに二枚追加して渡される事となった。


 とりあえず疲労と装備の破損などで、これ以上の探索は不可能と判断し、一同は解散となる。

(俺も剣が折れちまったんだよな。まあいいか、まだスケルトンから貰った鉄の剣が五本残っているし)

 売らずに済んでよかったと、青年の戦士は自分の判断の正しさを喜びながら自宅であるあばら家へと帰って行った。



 同じく自宅へと帰った中年の女魔法使い。

 そして別れたパーティーの内、老人の剣士と若い盗賊風の女、二人は連れ添って歩く。

 そして人気のない場所、路地裏へと隠れるよう移動した。


 その間、無表情を貫く老人。

 そんな年寄りに対し、女は睨みつけながら声をかけた。

「……おい、ジジイ、話せ」

「……」

「話せ」

「話して、どうする?」

 拒絶の視線を送る老人。だが怒りのこもった女の目が、それを許していない。

 女は責めるような口調で老人へと言葉を続けた。

「……あんた言ったよな? 六か月前に商人の護衛をしていたら、二メートルを越える巨漢の山賊に襲われたって」

「……」

「あんたはすぐに商人と共に、荷物を捨てて逃げた」

「……」

「でも、私の親父は、その前に斬りかかって、石斧で殴り殺されたって!」

 女は、老人の胸ぐらをつかむ。

「あいつなんだろ、私の親父の仇は!?」

 老人は答えない。だがそれが答えだった。



バイオンは水流、水のバリア、癒しの水の魔法石を手に入れた!


 オロボン:十六世にヨーロッパの旅行者によって報告された体長三メートルの大きな魚。ワニの様な皮を持つ。

そのままだとただの魚なので、硬度を上げました。あとハイギョと同じ肺呼吸にした。

あとアリゲーターガーというワニみたいな頭の魚が現実にいる。育つと二メートル以上になり、三メートル以上の体長のも報告されている。長い口に鋭い牙、全身の鱗が固く包丁が通らない。見た目のわりに臆病な性格で人を襲ったという報告はない、だが釣った時や泳いでいる時にぶつかって怪我した人は多いらしい。


それと調べたら、メンテーは冥府にある川の水のニンフだった。すみませんが、この作品内では冥府のニンフという事で通します。

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