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第48戦 VS人間の騎士その3



 いまだ夏の暑さの過ぎぬ、九月の初週。

 フィーラ村の外れで大きな轟音が鳴っていた。


「ぐぉぼぼぼぼぼぼぼぼぼっっ!??」

 意味不明な事を叫びながら、高速で逆立ち状態で大地を走るバイオン。


 背中に翼とジェットパックを背負ったバイオンが、地面をえぐりながら突き進んでいた。

 いくらか線路道を描いてから、止まる。


「……いや、だから無理だって」

「素直に、空飛ぶ魔法でも探しましょうや」

 その様子を見ていたドワーフの兄弟は呆れた顔で、自身の髭を撫でていた。




 昨日の夜、戦った戦闘機械からジェットと翼のマシンを奪ってきたバイオン。

「これを使えば俺も空を飛べる、飛行する敵を殺れる!」

 そう喜ぶ蛮族。

 しかしバイオン以外の仲間達は無理だろうと考えていた。



 そうして今日、ラフターが材料などを生み出し、ドワーフの兄弟達が作りあげたジェットパックを背負ってバイオンは空を飛んだのだ。

 結果は地面に叩きつけられる巨漢の姿だった。

 それもこれで五度目であり、五つの溝が平原に作られていた。

 いざというときはラフターが止めると、ずっと見張っていた。



「いや、考えは理解できるぜバイオン」

 ドワーフの兄ガラールが倒れたバイオンに近づき話しかけた。


 一応は全身を布で包んでいるが、それも擦り切れて怪我をしている。

 自らの肉体操作で傷口を塞ぐバイオン。ラフターは眠たげな目で家の側の段差に座り込んでいた。


 ガラールは自身の考えを話し続ける。

「俺らも何十年か前に、ロケットランチャーとかジェットエンジンの飛行機とかを知識の新聞で読んだ事あるから、飛び回れる事は知っているぜ? まあ当時は必要な理由も素材も無かったから作る気は無かったけれど」

 弟フィアラルも近寄り語る。

「それに丁度あの時は指名手配された頃だから、そんな余裕もなかったしな」

「でも、やっぱりそれで飛ぶのは無茶だ。バランスが悪いし、もし飛べたとしてもその後の方向転換が難しい、結局地面に落ちちまう」


 バイオンは座り込んで少し考える。

 そして背負っていたジェットパックを脱ぎ捨てた。

「ちっ!」

 バイオンは立ち上がり、大声でラフターに言う。

「おい、ラフター! 空を飛べるようになる魔法を、その魔法石を生み出せる妖精は見つからないのか!?」

「そのうち見つける」

「けっ!」

 バイオンは舌打ちした後に、別の武器の修行に森へと出かけた。


 のっしのっしと筋肉の大男が立ち去る。

 それを見届けたラフターは、悩んでいた。

(風の妖精という事は、風を自由に操り、空を好きに飛び回る相手)

 半目の漆黒の魔女は頭をひねる。

(そんな相手に今のバイオンが勝てる可能性が無い。前のニンフも飛べるけれど樹の側を離れられなかったからバイオンは倒せた)

 ドワーフ達はジェットパックを手に鍛冶場へと戻る。プレゼンも自身の魔法の研究に家に戻った。

 三人は去る前にラフターに挨拶していく。ラフターもそれに一言返事をした。


 一人日向ぼっこを続ける魔女。彼女は思考を続ける。

(……私がバイオンに魔法をかけてやればいいのだが、強化に慣れると努力を止める可能性もあるし、なんらかの手段で魔法を解除されるとバイオンが空から落ちかねない)

 眠い目で、冥府の魔女はバイオンの戦いを考えていた。

(私も一緒に行けばいいか? だがその場所の守護神と一戦やりあう可能性が出てくる。……相手次第だが)


 ラフターは面倒臭そうに呟く。

「奴らに私が生きている事をバレると面倒だからな」

 そして青空を見上げて、その目を少し見開いた。

「ヘルめ」










 時は夜、重苦しい風が吹き込む。

 夜の星々と月の下に、いくつもの電灯が一定距離で並ぶ街があった。


 王国カントラル。

 軍国主義のこの地には、温かみの無い規律正しさだけが求められる。



 その国の端に牧場のような場所があり、いくつもの動物達の気配がする。

 人間の為の動物を育成する、畜舎であった。

 しかしここは食肉を育てる場所では無い。

 軍事用の動物を育てる場所であった。



 そこにある広場は、動物の戦闘訓練用の場所である。

 夜間訓練なども行われる事もあるが、現在は動く者はいない。

 その広場の中央に一人の男が座り込み、夜空を見ていた。

 彼の男はギアバップ。この動物訓練場の主であり、騎士団長の位を持つ。


 夜とは言え夏の暑さも残る時期。

 しかし男は、マスクとフードで口以外の顔を隠し、全身を布や革の袋などで包み込み、さらに手足にはゴム手袋を取り付け皮膚を晒していない。

 そんな服装で、彼は暑さも知らず空を見ていたのだった。




 しばらく経つと誰かの足音が聞こえる。

「……誰だ? 今は立ち入り禁止だぞ?」

 ギアバップは立ち上がり、音のする方向を見た。

 そこには全身甲冑と鉄仮面を被った、巨漢の男が現れた。

「……お前は、例の?」


 ギアバップはそいつの事を聞いていた。

 ミネスとその直属兵、そしてエクプレネス。

 この国の騎士団長達に重傷を負わせて逃げる、正体不明の敵の話を、その背格好を聞いていた。


 他国の雇われか、あるいは自国のテロリストか、もしくは他の騎士へ恨みを持った者や失脚を狙った政敵か。

 理由は分からないが、この国の騎士団長を二度も攻撃していた為、同じ騎士団長であるこの男もまた注意を促されていた。


「まさか本当に狙われるとはな」

 バイオンはロングソードを手にする。松明は今回、月明りと遠くに見える電灯で十分だと持ってきていない。

 鉄仮面の奥の鋭い目で相手を睨み、バイオンは獰猛に笑った。

「俺の修行に、付き合ってもらうぞ」

「修行? お断りだ」


 ギアバップは腰に持っていた笛を、露わにしていた口に当てて吹いた。

「?」

 バイオンの耳にその音は聞こえなかった。

 しかし確かに音は鳴っていた。動物達には聞こえる音である。



 すぐに七頭の中型の動物が走り込んでくる。

 それぞれが広場に現れて、バイオンを取り囲んだ。


「なんだ、こいつら?」

 当初、その四足歩行の生き物を、バイオンは犬だと認識していた。

 しかしよく見ればそれは明らかに違っていた。


 全身の皮膚には鉄のような物が取り付けられている、犬の様な生き物。

 牙の様な物や角の様な物を、体に埋め込まれている怪物達だった。


「カントラル製の、犬を改造して作った軍用改造生物だ」

 ギアバップは口に笛を持って行く。

「ただ硬いだけの犬じゃない。特と味わいな!」

 騎士団長であるが、剣を使わない獣使い。ギアバップが笛を口にした。



 ギアバップが笛を吹くと、音も無く改造生物達が飛び込んできた。

 バイオンは左手に持ったロングソードを振り回した。


 目の前の改造生物が放電する。

「!?」

 光り輝きながら特攻してくる犬の様な生物。

 ロングソードで弾き飛ばすが、流れてくる電流がバイオンの腕に痛みを与える。

「そいつらは電獣と呼ぶんだ、凄いだろう?」

 見れば他の獣達も、闇夜に光る電流が全身を覆っている。


 バリバリと音を立てる獣達。

 今度はほぼ同時に襲い掛かる。

「くそっ!?」

 走り込んでくる電気を帯びた獣達。

 バイオンは剣を右手に持ち替えて、左手で魔法を放った。


 火炎と氷と土の塊が、二体の電獣に直撃してそれぞれ燃え上がり凍り付かせて倒す。しかし土弾は外れた。

 一体が足元に飛びつき、電撃を流す。

「グガァ、ガァッ!!」

 すぐに蹴り飛ばすが、痺れが右足からバイオンの全身に回る。


 飛んできた一体をロングソードで突き刺した。

 しかし電気の衝撃が右手に伝わり、はたかれるようにロングソードを落とした。

「クソがぁ!!」

 バイオンはすぐに左手で背中に背負った籠から、とりついていたクロスボウを手にして、獣使いを直接撃った。

 あまり狙えなかったが、奇跡的にギアバップの頭へと飛ぶ。


 水の塊が生まれ、その矢を叩き落した。

「な!?」

「お前は見た目に反して魔法を使うのか? 俺も使えるぞ!」


 マスクで口以外を隠した男は、魔法を使って両の手から水の塊を生み出した。

 三つの人間の頭ほどの大きさの水の塊が飛ぶ。

 それらはバイオン自体を狙うのではなく、その周囲への地面へと着弾した。


 地面に水たまりができ、さらに跳ねた水がバイオンに降りかかった。

 そしてギアバップは笛を吹く。

 

 残り四体の電獣達が、次々と巨体に飛び掛かる。

「ぐあぁっ!!」

 地面に落ちた水から伝わる電流。

 足を取られつつ、バイオンは体を振り払って電獣達を殴り飛ばす。

 しかしその度に、放電された電撃で体を焼かれ火傷を負う。


 また多少の電流ならば皮膚の抵抗で防げるが、水で濡れればそれも難しくなる。

 濡れた体で直撃を食らえば、筋肉の収縮を受けて動けなくなり、そのまま感電死を免れない状況になった。


(俺は、手足にゴム装備だから、地面を伝う電流は平気だが)

 何度も電撃を受けて、息を荒くして座り込むバイオン。

(これ以上、電獣を失うのはもったいないな。ケガさせない様に距離を取りつつ戦わせるか)

 止めの命令の為に、ギアバップは笛を吹こうとする。



 バイオンが小さな筒を左右に投げた。

「!?」

 それが何かを理解したギアバップはすぐに笛を吹いて、電獣達へ退避を命令した。

 爆発が広場で起こる。

 電獣達は直撃を免れたが、それでも一歩遅かった。

「しまった!?」


 笛を吹いて、投げた筒から電獣達に距離を取らせたギアバップ。

 しかし二つの爆発と閃光を見て、優位を取っていた男が焦る。



 犬は地球においても戦闘用として、過去に戦争に用いられていた。

 だが世界大戦を境に使用がなくなり、それからはもっぱら探知用として利用される事となった。

 犬は爆発やその音などに大変弱いのである。



 近距離での爆音に、聴覚の神経をやられた電獣達。

 笛の音ももはや届かず、後ずさって委縮してしまっていた。


 そして立ちあがったバイオンが、ギアバップの下へと走った。

「ぐぉおおおっ!!」

「くそっ!?」

 痺れる痛みも忘れて、吠えながら走る巨漢。

 ギアバップは魔法を使って水弾を空中に生み出して、バイオンへと向かって放つ。

 だがバイオンも左腕のガントレットから水弾を放ち、相殺する。


 バイオンは笛の男を鉄の具足で蹴り飛ばす。

 笛を取り落としたギアバップは、地面に倒れてそのまま気絶したのだった。



「くっそいてぇ! とりあえず笛だけ持って帰るか」

 バイオンは倒れた男から笛を奪い、闇夜へと去って行った。












 病室で目を覚ましたギアバップ。

「……やられたか」

 自分の手足の動きを確認し、大した怪我がない事を認識した。

「ネミスやエクプレネスに比べて、ダメージが無い事は喜ぶべきだな」


「目を覚ましたか」

 その病室に一人の男が入ってくる。

「!?」

 その姿に、ギアバップは驚く。


 訪れた中年の男。頬は痩せこけているが、目は獣の如く鋭く、通常の人ならば見られただけで息苦しくなる程の威圧感を持つ。

「……センシティブ様」

 ベッドに横になったギアバップは、その男を見る。

 センシティブと呼ばれた男は、ギアバップのベッドの側に立った。


 来客はギアバップをその目で見つめながら、ゆっくりと話し出す。

「お前も例の男にやられたそうだな? 兵士達が闇夜に消える大男を見たそうだ」

「はい、そうです。後で詳細なレポートを提出させていただきます」

 その返事を聞いていないかのように、センシティブは告げる。


「魔活性薬を使え」

「……ですが!」

 その言葉を予期していたギアバップ。

 何とか言葉を紡ごうとするが、有無を言わさぬ瞳が射抜く。


「爆発音を聞いて駆け付けたお前の所の兵士に聞いたぞ? あの獣共め、爆発に委縮して動けなくなってしまっていたのだろう?」

「しかし……」

「そのような感覚、薬で失くしてしまえばいい。恐怖も痛みも感じない兵器の完成だ。さらに感覚を強化し、戦闘力の増大にもつながる」


「安心しろ。人間やモンスターで使用済みだ。もっとも数日で効果を失うような劣化品、他国に売りさばいて混乱を招く程度の効果しか見ていないがな」


 喋りたいだけ喋り、センシティブは出て行った。

 一人、病室に残ったギアバップは考える。

「所詮、戦争用。薬物によっての強化は当然だろう」

 ギアバップが考えるのは薬物の事ではない。

 センシティブという男の事だった。


(戦士総団長……)

 センシティブはカントラル王国の、騎士達のトップであり団長を纏める存在。

 彼はこの国で最強の男であり、人格も統率力もずば抜けていた。


 しかし四年ほど前に、薬物に溺れてしまう。

 いつしか人格は狂い、薬を常用した男となり、国家全体での薬物の使用を促進していた。

 センシティブは今では歩くたびにふらつき、幻聴や幻覚に悩まされて、時には狂って兵士を意味も無く斬りつけたりもする。

 そして薬の副作用によって苦しむたびに、それを抑える為に薬を使うという悪循環に陥っていた。


(薬によって身も心も壊される、今のあなたは……)

 ギアバップは何かと理由をつけて、この国で作られている魔活性薬の自分の部隊への使用を断っていた。

 だが今回の敗北を理由に、さらに押し付けられる事は間違いなかった。


「……もう、どうでもいいか。それこそこの国にふさわしいだろう」

 ギアバップはただ自嘲した。



バイオンは今回は特に無し!

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