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第42戦 VSリザードレディの戦士



 バーバリアンの大男バイオンが、海賊を蹴散らしてきた次の日の昼。

 箒に乗ってセンター王国城下町の魔法屋へと回復薬を売りに行っていたプレゼンが、フィーラ村の外れの家に戻ってきた。


 家の側に着地した赤い魔法使いの少女プレゼン。

 丁度そこに日課の鍛錬から戻ってきたバイオンと、武具の話をしているドワーフ兄弟のガラールとフィアラルの姿が見えた。

 少女は近寄り挨拶する。


「こんにちは! ガラールさん、フィアラルさん、バイオンさん」

「おう、嬢ちゃん、こんにちわ」

「いよう、プレゼン、今日も元気そうだな!」

「……けっ!」

 赤い三角の帽子を揺らして頭を下げるプレゼンに、白髭のドワーフ二人は笑顔で腕を上げる。バイオンは一瞥するだけだったが、プレゼンもその様子にはすでに慣れていた。



 バイオンとドワーフ兄弟は、昨日の海賊達から入手した銃について話し合っていた。

 威力は落ちるものの携帯が容易な拳銃、施条と呼ばれる螺旋の溝を銃口内に刻まれ命中性に射程や威力のあるライフル銃、たくさんの弾を放つ散弾銃の三つである。

 以前、盗賊達から奪った銃よりも進歩しており、その脅威性は跳ね上がっている。

 現物を入手しその構造を知ったドワーフ兄弟は、手間がかかるが作成が可能となった。特殊な火薬などの材料は、ラフターが創造できるので問題ない。


 だがこれらをバイオンが使用するには問題があった。

 まず小さい。

 バイオンの巨体にあった大きな手では、これらの銃のトリガーを引くのが困難だった。

 そしてバイオンの性格上、利用しがたい。

 これらの銃は先端から弾を込めるタイプである。バイオンの性格からしてそんな面倒はしない為、戦闘においては一発限りである。

 またバイオンは、これらの遠距離武器で狙い撃つという行為を苦手としていた。

 かつてクロスボウで鳥を撃ち落とした事があるが、それはたまたま運が良かっただけである。基本的には適当に構えて放つので、なかなか命中しない。

 魔法石を使用するようになってからは、クロスボウの練習もあまりしなくなっていた。

 結局、銃を色々と手に入れたが、バイオンはあまり必要性を感じていなかったのである。


「せっかく色々と手に入れたのにもったいない」

 髭を揺らしてため息を吐くドワーフの兄弟に、バイオンは気にした様子も無い。

「使い道が無いならいらねえ。クロスボウは獣を狩る時も当たらねえし、投石の方が鹿を狩れる」

「う~ん」

 銃を必要としないバイオン。

 しかし何か使い道はないかと、ドワーフ兄弟は頭をひねる。



 そんなときプレゼンはバイオンを見上げて、ふと思った事を聞いた。

「そういえばバイオンさん。肉体操作でしたっけ? 塩を体から排出するってあれ?」

 魔法使いの少女プレゼンは少し不満があった。

 プレゼンはかつて大きなナメクジから、小さな傷ぐらいなら一瞬で治す回復薬を作り出した。そして彼女はこの三人には無料で渡していた。

 ドワーフ兄弟は鍛冶で体に擦り傷などが出来た時に使い、プレゼンの回復薬は重宝していた。

 しかしバイオンは全く使わなかった。


 戦いに戻って怪我をしていても、ラフターがすぐに治してしまう。

 訓練中に体に擦り傷などが出来ても、バイオンは気にせず放置する。

 そのうえ二日前。バイオンは半魚人のオアンネスから、肉体操作という自力で多少の傷は治せる手段を覚えてしまった。


 これによりプレゼンの回復薬は、バイオンには不要となった。

 それを知ったプレゼンは、別の魔法道具を使ってバイオンの役に立ちたくなったのである。

 その為にバイオンの肉体操作に関しての知識を、もう少し詳しく知っておきたかったのだ。



 わりと善意でバイオンに尋ねたプレゼン。

 しかしバイオンは不快そうな顔で言い捨てた。

「塩は出せねえよ」

「あれ? でも訓練では?」

「ありゃ、魚野郎が俺の体をいじくって排出させただけだ。おかげで俺も自分の肉体の細胞を認識できたが、……ああ、ムカツク!」

 ギザギザの歯の口で、空に吠える様に怒鳴り声をあげるバイオン。

「あの魚野郎、絶対に殺してやる!」

 プレゼンへの応対を止めて、そのまま大股でバイオンは家に戻った。そのままドワーフ兄弟も鍛冶場に戻った。


 一人残されたプレゼンは、実は肉体操作について知りたい理由がもう一つあった。

「……細胞の変化かあ」

 それはプレゼンが良く知る人間が、色々と話していた内容でもあったのである。

「そういえばお父さんもお母さんも、肉体の変化に関する魔法を研究してたっけなあ」

 しばらくもの思いにふけたプレゼン。

 数分後に気持ちを切り替えて、魔法の研究を頑張ろうと家に戻った。













 月夜の下、岩山に作られた城がいくつもの篝火で照らされている。

 そこは二足歩行の緑色のトカゲ達。リザードマンの王国であった。


 その夜に一人のリザードマンが城を歩み出る。

 右手には槍、左手には松明、鉄の兜に鎧を身に着けて背中には鉄の盾を背負っている。リザードマンの国の戦士であった。

「では見回りに行って来る」

 人型のトカゲは長い尻尾を振りながら、城の外へと出て行こうとした。


「お待ちください!」

 そこに二人のリザードマンの兵士が追いかけてくる。

「一人は危険です! 二ヵ月前にも兵隊長が暴漢に襲われた事、忘れましたか!?」

「我らもお供します、隊長!」

 二人の兵士が頭を下げる。

 だが隊長と呼ばれた者は、トカゲの頭を横に振った。

「いらない」

「し、しかし」


 食い下がる二人に、目を細めて隊長は言う。

「私を女だからと、舐めているのか?」


 隊長と呼ばれた者は、リザードマンの女性。いうなればリザードレディである。

 そして彼女は同時に、この国において単純な武力では最強の一人であった。


「い、いえ」

「あなたの強さは知っております。ですが!」

 その隊長の強さを知り尊敬する二人のリザードマンは、最悪の事態を想定し食い下がる。彼らもまた兵士として、国の為、そして彼女の役に立ちたいと願っていた。


 リザードレディの左手の槍が瞬いた。

 高速の二連続突き。しかし二人のリザードマンの兵士には早すぎて一撃しか見えず、その一撃も見えただけの彼らには反応しての回避も出来ない。


 二人の腰に巻かれたベルトが破壊され、その腰に下げられた剣が地面に鞘と共に落ちる。

「足手まといだ、去れ」

 それ以上は何も言えない二人の兵士を無視し、リザードレディは松明を掲げて城の外へと向かった。




 城壁の外の地面。木や植物は刈り取られ、視界の邪魔になるものはない。

 リザードレディは松明を左手に、舌を出し入れしてトカゲの足で歩く。城壁を左に城の周囲を歩き進む。

 彼女は見回りを真面目にやっていた。しかし目的は別にあった。

(……そろそろ来る頃だろう)

「あいつを倒した鉄仮面の大男とやら」


 彼女には予感があった。

 またこの地の守護神である、ある大きなトカゲの神からも今日あたりに訪れると確認を得ていた。

(やる気の無い神様ではあるが、決して我らの不利益をもたらす神でもない)

「信じておりますよ、マンガル・クンジェル・クンジャ様」



 リザードマン達の守護神の名前はマンガル・クンジェル・クンジャ。地球ではオーストラリアに伝わる原初の神であり、人間を作り出した見た目はトカゲの神様。この世界ピース・コアーにおいてはその神様のコピーである。

 自らがただのコピーである事を嘆き、あまり働こうとしない。リザードマン達にも深くかかわりを持とうとはしなかった。

 しかし全くやる気が無いという訳でも無く、リザードレディが何度も訪れる際には、たまに色々と語ったり色々と授けられていたりする。


 そしてその神が今日、彼女が戦いたいと願っていた相手が来ると教えてくれたのである。



 ゆえに彼女はその戦いを邪魔されない為に、今日は単独での見回りの仕事を志願したのであった。

 隊長であり武力に関しては現在随一の実力者、真面目な彼女が求めればこの国の者は認めざるをえない。

(あいつが勝てない相手、どれだけの者か……!?)

「来たか」

 リザードレディは舌から感じた匂いから、その相手が突然現れた事を知る。


 闇夜に浮かぶ、松明の炎。

 照らされるは、鉄仮面の全身鎧の大男。

 右手にハルバードと左手に小盾を手にしたバーバリアン、バイオンが待ち受ける。



 リザードレディは松明を地面に投げ捨てて、左手で背中の鉄盾を持ち、右手の鉄槍を向ける。

 バイオンもその姿を見て、鉄仮面の奥の口を歪ませて笑った。

「……覚悟」

 リザードレディは気持ちを抑え、冷徹を自らに課す。そして特攻した。



 二人の槍が激突した。

 斧とピックを取り付けられた柄まで鉄のハルバード。

 同じく穂先は鉄の槍だが、柄が木で出来ているリザードレディの槍は力負けして弾かれた。

(腕力は見た目通りか!?)

 人間よりも地力で勝るリザードマンの部族。

 しかしバイオンには単純に負けていた。

 武器で負け、力で負けた以上、競り合いには勝てない。

(ならば速度で勝負する!)


 リザードレディは広い足で踏ん張り、太い尻尾を振って仰け反るのを耐える。

 そして自らの槍を短く持った。



 彼女の槍は、薙刀と呼ばれる武器である。

 普通の槍とは違い、穂先に反り返った片身の刃、刀の様な武器が取り付けられていた。

 その為、槍に比べて突きよりも斬撃に優れた武器である。

 また刀と比較するとリーチに優れ、長さからの回転遠心力による薙ぎ払いの斬撃は高威力となる。欠点としては槍の弱点の取り回しの悪さと接近戦での弱さ、狭い場所での使いにくさがあった。



 リザードレディはバイオンのハルバードの追撃の横薙ぎを、身を反って避けた。

 そして薙刀を高く掲げ、叩きつける。


 バイオンは左手の小盾を突き上げてガードした。

 しかし盾にはぶつからなかった。

「なに!?」

 リザードレディの薙刀の動きを途中で変化させて、盾を避けて斜めに落とし、横薙ぎに変化させる。


 高速の槍の移動に対応しきれないバイオン。

 右からの槍の斬撃に、右腕の鎖をぶつけて防ぐ。

 結果、衝撃で右手のハルバードを取り落とした。


「ヤロウ!?」

 バイオンは左手の小盾をリザードレディに投げつけた。レディはそれを少しの動きで避ける。

 続いて無手の左手のガントレットを相手に向けて、バイオンは魔法石に対して念じた。

 炎と氷と電撃、さらに水と土の塊がリザードレディへと飛ぶ。


 しかしそれらの魔法は、リザードレディの目前の空中で消滅した。

「なんだと!?」

 それを見てまたも驚くバイオン。

 リザードレディは咄嗟に自分の腰を見る。


 木で出来た護符が崩れ去っていた。

 それは魔法を防ぐための護符であり、しかしいくらかの魔法を受けたために力を失ったのである。

(守護神様から頂いた、魔法を防ぐ護符が壊れた!? これ以上の魔法攻撃は防げない!)


 リザードレディは瞬時に薙刀をバイオンに突き付ける。

 バイオンは右腕に巻かれた鎖でそれを防ぐ。


 高速の連続突きに、バイオンは右手を弾かれて、左腕の関節を薙刀で斬られる。

 関節に巻かれた布が斬り裂かれて、血が飛ぶ。


 勢いに負けて仰け反るバイオン。

 そこにリザードレディの全力の斜め斬りが入る。 


 鋼鉄の鎧が裂かれ、バイオンは胸に傷を負う。血が吹きあがった。

(っ!? 鎧が壊された!?)

(これ以上は魔法を使わせない、距離はとらさせない!)

 リザードレディはそのまま体当たり行い、バイオンを仰向けに地面へと倒した。


(止めだ!)

 薙刀を振り上げて、全力の一撃を与えようとしたリザードレディ。

 だがそこに一瞬の隙が出来た。

 バイオンの左腕が魔法を放つ。


 地面に地響きが起き、小さな地割れが生まれた。

 その地割れに足を取られ、リザードレディは前方に転倒する。


「なっ!?」

 気を付けていたはずの魔法での攻撃。薙刀を振り上げていた事もあり、リザードレディは勢いよく倒れてしまう。


 すぐに立ちあがろうとするリザードレディ。

 だがその薙刀の穂先を、バイオンの右手が掴んでいた。


 単純な力ではバイオンの方が上。あっさりと引っ張られる薙刀。

 リザードレディは武器から手を離して、後ろへ飛んで下がり距離を取った。



 距離が出来たバイオンとリザードレディ。

 薙刀を後方に捨てたバイオンは、立ち上がり背中にあったロングソードを新たに右手に持つ。


 薙刀を失ったリザードレディ。しかし、その顔には焦りはない。

 リザードレディは背中から、木製のブーメランを取り出した。



 突撃を仕掛けようとしたバイオン。そこにリザードレディはブーメランを投げつける。

 バイオンはそのブーメランにロングソードを叩きつけた。


 ブーメランは、本来は投擲武器ではない。

 そのくの字の形で空気を切り裂いて、回転して手に戻ってくるタイプのブーメランに、もし強い威力があれば受け取る際に怪我をしかねないからである。

 ゆえに戻るタイプのブーメランは投擲武器ではなく、獣や鳥の追い込みや動きの邪魔に使われるのが一般である。

 投擲には投擲の武器を使用する。普通のブーメランには威力は本来はない。



 だがリザードレディの持っていたブーメランは普通ではなかった。


 木のブーメランに鋼鉄のロングソードが叩きつけられる。

 そしてロングソードがあっさりと破壊されて折れた。

「!?」

 驚いて咄嗟に避けるバイオン。

 ブーメランはバイオンの横を通り過ぎて、空中を回転しながら飛んでいき、そしてリザードレディの下へと戻って行った。鋼鉄を破壊するブーメランを、リザードレディはあっさりとキャッチした。


(……さすがは守護神様のブーメランだ)

 リザードレディは手にした、木製のブーメランを見る。


 マンガル・クンジェル・クンジャは人間を作り出したトカゲの神である。そして様々な道具や知識を人間に与えた。

 そしてこのブーメランもまた、神の力を宿した道具であった。



 リザードレディはブーメランを構えて、バイオンをトカゲの目で睨む。

(今度こそ、止めだ!)

 そして体を大きく曲げて、神のブーメランをバーバリアンへと投げつけた。


 バイオンはそのブーメランが普通の武器ではない事を理解した。

 理解したうえで、その場に立って構える。


 そして鎖が巻かれた右腕を前にした。



 水平に回転するブーメランが、バイオンの鎖に激突する。

 その瞬間、衝撃が周囲をほとばしった。


 ブーメランがぶつかったまま弾かれず、まるで鍔競り合いの様に鎖と押し合いせめぎあいとなる。その威力に吹き飛ばされそうになるバイオン。だが歯を食いしばり、具足を地面に突き立てて耐えた。

「グギギギィッ!!」

 バイオンは右腕の鎖を左手で掴み、耐え忍ぶ。振動が大男を揺らし、後方へとバイオンがゆっくりと下がる。

 ブーメランはいまだに、バイオンの右腕に張り付いたように直撃していた。

 震えるバイオンの全身。特に鎖の巻かれた右腕は、骨にひびが入り、皮膚がずたずたに裂かれる。

 バイオンは肉体を操作して右腕を治し続けたが、破壊の方が早い。


 神の力を宿したブーメランと、神の力でも壊れなかった鎖。

 勝利したのはバイオンの鎖だった。


 弾かれて、夜の空の遠くへと飛んでいくブーメラン。

「!?」

 驚き立ちすくむリザードレディを、バイオンは走り込んで蹴り飛ばした。



 ふっ飛ばされ地面に倒れたリザードレディに、バイオンはヒビの入った右腕をぶら下げながら近づく。

「リザードマンってのは、力や技ばかりの部族だと思ったが、あんな魔法の武器もあるんだな」

 バイオンの何気ない言葉。

(え?)

 それを聞いたリザードレディの頭に疑問がよぎった。




 その場所にリザードマンの集団の声が響く。

「例の大男だぁ!」

「隊長を守れぇ!」

 いくつかの兵士達の声。

 バイオンは舌打ちし、ハルバードと盾、折れたロングソード、そしてリザードレディの薙刀を拾う。

 遠くに飛んでいったブーメランは諦めて、そのままバイオンは夜の闇へと逃げ出した。





 他のリザードマンの兵士達がバイオンを追いかけていた時。

「おお、大丈夫か!?」

 立ちあがるリザードレディに、一人のリザードマンが肩を貸す。

 彼は二ヵ月ほど前に、バイオンと戦って負けた隊長であった。

「傷はあるか? 回復は必要か? どうだ?」

「……なあ、お前」

 心配そうな男の隊長。

 だがリザードレディはその言葉には答えず、その隊長のリザードマンの肩を掴んだ。


「……お前、あの鉄仮面の大男と戦ったんだよな?」

「あ、ああ、そうだが?」

 リザードレディのトカゲの目が、じろりと男を睨む。

「あの大男が言ってたんだ。リザードマンは力や技ばかりの部族だと思っていたと」

「え?」

 睨まれたリザードマンの男の隊長は、一筋の冷や汗を掻いた

「お前、魔法使いだよな? なんで以前の戦いで魔法を使わなかったんだ? あと守護神様から頂いた槍と盾は?」

「……」



 二人は男女だったが子供の頃からの親友だった。

 その女の目が問う。嘘は許さないと。

 睨まれ続けたリザードマンの男の隊長は、ゆっくりと答えた。

「剣神って呼ばれた兄貴に、憧れて、ここのところ自分の魔法は封じてて、守護神様からの武具も部屋に隠してて」

「……それで?」

「あの大男にも、剣だけで、勝てそうかな~って?」

 リザードレディの拳が、男のリザードマンの隊長の腹に叩きこまれた。



 その場で倒れるリザードマン。

 怒って去っていくリザードレディ、彼女はブーメランが飛んでいった方向へと歩いて行った。


 倒れたリザードマンは、夜空に呟くように言う。

「兄貴、早く帰ってこないかなあ」

 十年前に修行の旅に出たまま帰ってこない兄に、男は思いをはせるのだった。















 どんよりとした空気が包む世界。

 空には漆黒の太陽が浮かぶ。


 険しき山々が果てなく立ち並び、灰色の川の水がその隙間を縫って流れるその場所。

 そこにそいつはいた。


 それは全身傷痕だらけの、リザードマンだった。

「……」

 右目は潰れ、傷痕で全身を彩っているリザードマンは、地面に座って空を見上げていた。

 その手には刃のこぼれた剣があり、それをリザードマンは両手で弄んでいた。


 そこに汚れた灰色のローブを纏い、全身を隠した何者かが近づく。

「……リザードマン……」

「おう、人間。どうした?」

「……もうすぐ、この魔界を脱出できる……護衛を、頼む……」

「おお、そりゃ良かった」

 灰色のローブの何者かは、準備があると言って去っていく。

 リザードマンはその後姿を見ていた。



 突然、空間が歪む。

 空間を裂いて現れたのは、リザードマンの何倍もある大きな口の怪物だった。

 それはリザードマンを食わんと、その巨大な口を開いてとびかかる。


 リザードマンは背を向けたまま、手の中の切れ味を失い鉄の棒となった剣を振った。

 百の斬撃が怪物を肉片に変えた。


「ようやく元の世界に帰れるのか、十年ぶりぐらいか?」

 怪物を倒したのに、表情一つ変えないリザードマン。

 もはや彼はこの日常に慣れていた。

「フロッグマンの野郎にも伝えないとな。弟もどうしてるかなぁ、俺の事を忘れてないだろうなあ?」

 呑気な表情でリザードマンは、大きな足ですたすたと歩き、ローブの男を追った。


 そしてそのローブの男の事を思い出しながら、リザードマンは呟く。

「しかし、あの魔法使いの人間の夫婦。あんな姿になっても娘に会いたいとは、娘が驚いて倒れるぞ? まあ、俺には関係ないけど」

 リザードマンは大した事ではないような表情をしていた。



バイオンは敵にも神の武器がある事を知った!


マンガル・クンジェル・クンジャ:オーストラリアの部族の信じるトカゲの姿をした最初の神。世界は最初は海で、水位が下がり陸が現れた時、レラ・マネリンジャという肉の塊のような生物をナイフで切り分けて整え、最初の人間の男女を作った。そして人間達に槍と盾と石のナイフとブーメラン、火と護符と儀式、そして結婚という物を教えた。



途中でパソコンが動かなくなって焦った。

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