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第3戦 VSドワーフの兵士団



「だから無理だって言ってるだろうが!」

 昼のフィーラ村の万事屋。その店の主人である、鉄の道具の鍛冶も兼業している中年の男は見上げて言う。

 相手は二メートルを超える巨体の男、バーバリアンのバイオン。

 最初はその筋肉だらけの大柄な肉体といかつい顔が怖くてたまらない相手だったが、二週間もすれば万事屋の男もその姿に慣れた。


「お前の体に合わせて、作り直すとか無理! 鋼の作成もここじゃあ無理! その鉄仮面だって、鉄鍋を歪ませて作ったんだだけの物だぞ!?」

「俺は剣を使わねえから、この鋼鉄の剣を斧に取り付けてくれねえか?」

「人の話を聞いてくれ!? 鋼鉄ってのは確か聞いた話じゃあ、炭素が混じった鉄の事らしいが、聞いた事があるだけでどんな物かは俺もよく知らねえんだよ!? 知らないものを何とかするなんて俺にはできない!」

「どうすりゃいいんだ?」

「知識のある人間、作成できる技術者、その為の道具が揃った施設」

「無えのか?」

「俺は農具専門の鍛冶屋だ、斬れ味とか知らん。そういうのは町にでも行ってくれ」


 バイオンは使わないからと、鋼鉄の剣と刃の鞭を置いて行った。

 屈んで出ていく巨漢を見送り、毎日来る迷惑な客に万事屋の男は嘆くばかりだった。




 バイオンが着ている防具は、革でつなぎ合わせた鉄の鎧。

 よく見れば広げたり壊したりして、無理やりつなぎ合わせただけの歪な装備品である。

 兜も近くで見れば大鍋に穴を開けただけの物で、裏側を革で補強している。

 見れば見る程に、ごつごつした格好の悪い装備である。

 深く考えずに繋ぎ合わせた物なので、下手な衝撃を受けるとあっけなく壊れる。



 雲が多い夜。

 フィーラ村の離れた場所、そこにバイオンと元女神のラフターの家が二軒、建っていた。

 その家はラフターが魔法で建てた物であった。

 

「鍛冶師が欲しい」

 鉄仮面を被り、右手に鎖を巻き、鉄の斧と鉄の鎧と鉄の盾を身に着けた大男が、魔法使いの姿をした女に頼む。

「では攫って来い」

 魔法陣の上に立った大男に、ラフターは眠たそうな顔で適当に答えた。

「私が暇潰しに行った事のある場所だ、あそこなら腕のいい鍛冶師もいるだろう」

 魔法陣が光り輝く。光が消えた後に、その上に立っていたバイオンが消えた。









 ドワーフ王国。

 地下に広がる巨大な空間。

 陽の差し込まない場所だが、火が至る所で輝き、太陽の代わりに一日中明るい。


 そこに住まうはドワーフ族。

 生まれついて男女そろって、人間で言えば中年か老人の顔であり、ほとんどの男が長いひげを生やしている。

 背も低く、小人の様。

 だがその四肢は筋肉の塊であり、自分より倍重い物を当然のように持ち上げる。

 また地下帝国にあり、酸素が薄くとも気にならない特殊な肺を持つ。

 そんなドワーフ達が住む広大な地下都市こそが、ドワーフ王国だった。




 そんな地底の王国にある町を、二人のドワーフが走って逃げていた。

 そしてその二人を、斧と兜と盾で武装したドワーフ達が追いかけていた。


「ひぃひぃ、ガラールの兄貴、もう駄目だ!」

「諦めるなフィアラル! 捕まれば拷問死だぞ!」

 髭を生やした筋肉質の二人の小人、ガラールとフィアラルの兄弟ドワーフがひたすら逃げていた。



 地下王国から逃げ出さんと、二人は地上への出口まで、息を切らせながら走った。

 しかし二人は、逃げる足を止める事となった。

「あああ、やっぱりだよ、兄貴!」

「く、くそ、ちくしょう!」


 地上へ出る為の洞窟の大扉は閉ざされ、武装したドワーフの門番が立ち並んでいた。


 引き返そうとする逃亡者の兄弟。

 だが背後にはもうほとんど距離の無い位置にドワーフの兵士達がおり、前にも盾を構えた屈強なドワーフ兵士達が待ち受ける。

 左右は高い石壁があり、前後以外に道は無い。

 武器を持たず、服装も布ものな格好の二人には、諦観しかなかった。




 唐突に大扉が爆発した。

 巻き込まれた門番達も一緒に吹っ飛んだ。

「……持ってきた火薬、全部使っちまったぞ。ラフター、最初から町の中に召喚しろよ!」

 壊れた大扉の間から、無骨な鉄装備をした大男が現れた。

 バーバリアンのバイオンである。


 爆発音に驚き、追いかけて来たドワーフ兵士達は立ち止まる。

 そして、その集団の隊長格と思われるドワーフがすぐに思い立つ。

 大扉が破壊された事、犯罪者の兄弟が逃げた先にいた状況。

「こいつ、ガラールとフィアラルとグルだ! 捕獲、いや、殺せぇ!!」

 大きな髭のドワーフ隊長が叫び、鉄斧を構えた戦士達が集団となって走り出す。

 そのドワーフの兵士の数、十四名。


 ドワーフの脱走兄弟はバイオンの側に走り寄り、その巨体に縋り付いた。

「あ、あんた助けてくれ、頼む!」

「俺ら冤罪なんだ! たぶん、おそらく、きっと!」

「いやいや兄貴、俺達は冤罪だろ!? 記憶にあってもやった覚えがないし!?」

「そうそう、その酒、作った記憶があるけど、なんていうかやった覚えが」

「ごちゃごちゃうるせえ!!」

 両足に縋り付くドワーフ兄弟を蹴り飛ばすバイオン。悲鳴を上げて転ぶ二人のドワーフ兄弟。

 しかしその屈強な肉体に、ふとバイオンは考えて言葉にする。

「……おい、お前ら、鍛冶は出来るか?」

「え? ああ、できるぞ!」

「俺達、兄弟はそれに関しては一流だぜ?」

「よしわかった」

 鉄仮面の奥、バイオンは刃のような歯で笑う。


「お前達、連れ出してやる。代わりに俺の鍛冶師となれ」

『はい?』

「じゃあ、ぶっ倒してくるかぁ!!」



 話を終えたバイオン達に、突撃してくるドワーフ戦士の集団。

 バイオンはとりあえず、爆発で倒れたドワーフ兵士三人を拾い、次々と投げ込んだ。


 目の前に飛んできた仲間に、さすがに武器は構えられず、足を止め盾を降ろしてなんとかキャッチする前方の兵士達。

 そこに鉄の斧が飛んできた。

「うおおお!?」

 なんとかドワーフ達は持っていた鉄斧で防ぐ。しかし投擲された斧の勢いを完全には殺せず、ドワーフ兵達は後ろへと倒れた。


 その投げられた斧の柄には、鎖が巻かれていた。

 その鎖の先にはバイオンの右腕があった。

「あ、っはあ!!」

 バイオンの掛け声とともに鎖が引っ張られて、持ち主の方へと斧が戻って行く。

 兵団に向かって走り出したバイオンは、飛んでくる鉄斧の柄を危なげなく左手でキャッチした。



 走ってきた巨体に、慌ててドワーフ兵団は迎撃せんと固まって盾を構えた。

 小さな体を生かした塊は、一切の隙間が無い。

 バイオンは背負っていた鉄盾を構えて、その集団に突っ込んだ。


 片方が生身ならばともかく、互いが頑丈な盾を構えた状態。

 硬さはほぼ同等。

 片方は人数で勝り、もう片方は勢いと体格で勝った。

 

 勝負の結果はバイオンの勝ち。盾の壁はあえなく崩れた。


 二人のドワーフ兵が盾の上から巨体に踏みつけられ、意識を飛ばす。

 その状態のまま、バイオンは盾を捨て、鎖付きの斧を振り回した。



 二人、三人と盾の上からふっ飛ばされ、壁に激突。ドワーフ達は次々と血反吐を吐いて気を失う。

 頭上から兜ごと叩き落されて、地面に触れ伏す者達。

 屈強なドワーフ達が、一人の暴力の前に圧倒されていた。


 そんな怪物に敢然と立ち向かう者がいた。

 後ろで命令を出していた、ドワーフ兵達の隊長だった。

 隊長は両手で抱えた鉄斧を振りかざしバイオンへと殴りかかった。

 バイオンもまた、右手の鉄斧でそれを受け止めた。


 鉄仮面の奥の口をゆがませ、バイオンは笑った。

 ドワーフの隊長は問う。

「貴様、何者だ!? 名は何だ!?」

 バイオンは笑いながら答えた。

「雑魚に名乗る名は無い」


 鍛えられた体は同じ、だが体格差は圧倒的であり、隊長もまた弾き飛ばされる。

 後方に飛んだ隊長は、まだ立っていた七人のドワーフに命令する。

「周囲を囲め、一斉に攻撃しろ!」

 その命令を聞いたバイオンは動いた。


 気絶したドワーフの一人のその腕を左手で拾い上げて、武器の様に持ち上げた。

「!? 貴様、卑怯な!?」

「数で囲むのが良くて、人を武器にするのは悪いのかよ?」

 背中を狙う兵士に対し、バイオンはドワーフを振り回した。周囲の兵達は振り回される味方に怖気づく。


 互いに一瞬だけ出来た膠着状態。

 バイオンは右手の鎖付きの鉄斧を隊長に投げつける。

 ドワーフの隊長は横に避け、そして部下達に対して叫んだのである。

「! 全員、鎖に捕まれぇ!」


 隊長の命令で武器と盾を捨て、伸びた鎖に飛びつくドワーフ達。

 単体ならば力で勝るバイオンも、さすがにドワーフ七人には力負けする。

「な、このやろう!?」

「引っ張れえ!!」

 斧を捨てたドワーフ七人が鎖を引っ張る。力負けしたバイオンは、右腕を前に引きずられる。

 前のめりになった時に、左手のドワーフも取り落とした。


 引っ張られたバイオンは、足元に倒れていたドワーフに躓き地面に倒れた。

「死ねえ!!」

 そんなバイオンにドワーフの隊長が走って、鉄斧を叩きつけんととびかかる。



『やらせん!』

 だが、それを見ていたガラールとフィアラルのドワーフ兄弟が、落ちていた斧を持って特攻した。

「!?」

 完全に予想外の突撃に、隊長はなんとか斧を振り回し兄弟の攻撃を防いだ。


 その間に立ちあがったバイオン。

 立ったバイオンは右腕の鎖を引っ張る。すると状況に戸惑い力の抜けていたドワーフの何人かが引っ張られて前に倒れ体制を崩す。


 その鎖を持っていた一団にバイオンは走り込み攻撃した。

 兜ごと殴られ歯を折られ、あるいは腹を蹴り飛ばされて胸骨を折り、次々と四人のドワーフが倒れた。


 壁際に押されていた隊長が、残った三人のドワーフに命令する。

「お前ら逃げろ! 応援を呼べえ!!」

 その言葉にまだ立っていたドワーフ兵達は、一目散に自分達の城へと走って行ったのだった。



 残った隊長のドワーフ。

 白髭の彼は決死の覚悟で、バイオンとドワーフ兄弟を睨んでいた。

 その視線に恐怖し、後ろに下がった兄弟。

 逆にバイオンは、鉄仮面の下で獰猛に笑う。


 バイオンとドワーフの隊長が同時に動いた。

 振りかざされる二つの鉄斧、そして決着は一瞬。

 ドワーフ隊長が地面に叩きつけられた。




 地面に倒れ伏した十一人のドワーフ兵団。

 生き残り勝利したバイオンだったが、しかし鉄仮面の首をひねり大男は悩んでいた。

「三人に逃げられ、そのうえ助けられたおかげで勝利か、……これは勝利なのか?」

「おいあんた」

 そんなバイオンに対し、ドワーフの兄弟が話しかける。

「早く逃げねえと応援が来るぞ! 急ごう!」

「……そうだな」

 見上げて声をかけるドワーフ兄弟に、バイオンは悩む事を止めて行動したのだった。

「お前ら、そのドワーフの奴らの装備を出来る限り手に持って俺の側に来い」

『え??』




 重傷を負ったドワーフの兵士達。

 こつぜんと消えた二人の脱走者。

 そして突然に現れた、一人の鉄仮面の巨人。

 ガラールとフィアラル、そしてバイオンはドワーフ王国に置いて指名手配される事となった。














 フィーラの村へと戻ったバイオン。

 その横にはそれぞれ七つの鉄斧と盾を持った、必死の顔のドワーフの兄弟がいた。

「ほ、本当にワープした?」

「もう、限界だ、置いていいよな?」

 崩れるようにドワーフ兄弟は荷物を置いた。



 夜の焚火の側で、バイオンとラフターは、ドワーフの兄弟の話を聞く。

「俺は弟のフィアラル」

「俺は兄のガラール」

 白髭を蓄えた、背の低い筋肉質の男二人が答えた。


「俺達は殺人の罪で捕まっていた」

「殺した相手は賢人クヴァシル。神々が生み出したどんな質問にも答えられると言われる天才だ」

「俺たちはクヴァシルを殺し、その血を蜂蜜酒に混ぜた」

「その蜜酒を飲めば、どんな人も学問と詩の天才になれるんだ」

「それはスットゥングの蜜酒と呼ばれて、神も欲しがる物だった……だが」

「俺達、殺した覚えが全くないんだよ!」

 ドワーフの二人は倒れた木に座り、落ち込むように頭を下げる。


「確かに殺した記憶はある」

「確かに酒を造った記憶はある」

「でもこの手を汚した感覚がないんだ」

「いつ、なんで、そんなことをした理由がさっぱりわからないんだ!」

「でも皆が俺達が殺したと言う、隠した蜜酒を出せと言う」

「蜜酒だって何処に行ったのかわからない、確かに家にあったが、二十年ほど前に気付けば無くなっていた」

『もう何が何だかさっぱりだ』

 物心がついた時から逃げ回る事になったフィアラルとガラールのドワーフ兄弟。

 何十年も逃げ続け、一年ほど前にドワーフの仲間に捕まった。

 一年間、牢獄に入れられ蜜酒の在処を聞かれた。

 しかしいつの間にか無くなっており、盗まれたと言い続けたが、聞いてもらえなかったと二人は言った。



「その蜜酒なら私が盗んだ」

『はあ!?』

 漆黒の魔女の言葉に、驚きの声を出すドワーフ兄弟。

「そ、それは今どこに?」

「三口で全部飲んだ」

 その答えに二人の兄弟は、後ろの地面に倒れ伏した。

「別にいいだろ。……それを飲むはずだったお前の所の神話の主神は、この世界にはいないのだから」

 呟くように言うラフターの言葉は、小さすぎてドワーフの兄弟の耳には届かなかった。


「ともかくお前ら、助けた約束通り俺の鍛冶師をしろ、わかったな!」

「……わかったよ」

「……どうでもいいよ、行く所もないし」

 気力を失った二人は、バイオンの声にただ頷くしかなかった。





「バイオン」

 バイオンの家に入り、飯を食べて眠ったドワーフ兄弟。

 新しく家を作る事になったラフターは、そのまえにとバイオンに聞いた。

「私の家に、まだスットゥングの蜜酒が残っているけど飲むか?」

「ああ?」

「あんな量、全部を飲めるわけがない」

 薄目の眠たげな魔女は、誘うように蛮族の男に聞く。

「知識を得るとは、今とは違う世界が見える事。貴様の力になると思うが?」


 バイオンは即答した。

「いらん」


「なぜ?」

「頭なんてのはその道に行くやつが得る物だ、俺の道にはいらん」

「知恵がつけばその分、力になると思うが?」

「頭が良くても面倒なだけだ、俺の人生にはいらん!」

 眠るために、自分の家へと入って行くバイオン。

 その後姿を見ながら、ラフターはうっすらと笑った。

「……確かに、この世界で知識を得てから私は不愉快になるばかり。不要な知恵はいらないのかもな」

 一人になったラフターは、新たな家を作るために魔法を発動したのであった。



バイオンは鎖を相手に掴まれる可能性を覚えた!


フィアラルとガラール:北欧神話に出る邪悪なドワーフの兄弟。神が生み出した最も賢い者クヴァシルを殺し、その血を蜜酒に混ぜ、飲んだ者に知識と詩の才能を与える蜜酒を作った。

後に巨人の夫婦を殺し、その夫婦の息子スットゥングに復讐で殺されかけた時に蜜酒を譲る事で延命(もしくは兄弟とも殺されて蜜酒を奪われた)。ちなみに蜜酒はスットゥングの娘グロンズが見張っていたが、オーディンがグロンズを口説き落とし三口だけ貰える密約をして、その三口で全部飲みほした。

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