第33戦 VS山海経の山(後編)
夜のフィーラ村の外れ。
バーバリアンのバイオン、夜の魔女のラフター、赤い魔法使いの少女プレゼン、ドワーフの兄弟、そして妖精のケット・シーとクー・シーの面々。
猫の妖精による刺突用の剣講座が行われていた。
「まずレイピアは細身で尖った刺突用の剣にゃ。僕のは少し厚めにして斬撃も可能にしてあるにゃ」
月夜の焚火の前で一同に晒される細くて長い剣。今は折れ曲がっていて、ケット・シーはため息を吐く。
「これの利点はなんといっても軽さ、刺突に特化した威力。細いがゆえにチェインメイルの隙間や関節を突き刺す事が出来る!」
折れ曲がった剣で、小さな猫は素早く突きを繰り出した。折れ曲がってなお空気を切る音がする。
「……そして弱点は、なんといっても折れやすい。あと防御も柄のナックルガードでなんとかするか避ける、左手にナイフでも装備してそれで防ぐ。斬撃でなく点を狙う武器だから威力はあるけど命中率に問題がある等」
「ちなみに折れる事は戦争では利点でもあって、相手に奪われて再利用されない為って理由もあったニャ」
靴を履いた黒猫の説明に、聴衆の一人であるバイオンが尋ねる。
「それで、なんで俺には無理なんだ」
「あんた避けないだろ?」
蛮族の問いに、即座にケット・シーは答える。
「片手剣のレイピアには前身であるエストックという両手用の突き剣があって、種類としては槍の様にも使われていた凄く長い刺突剣のコンツェシュ、それよりは短く肉厚にして斬る事も出来るパラシュ、さらに太くして頑丈さを重視したロングソードがあるニャ。他にレイピアを幅広くさせて斬撃重視のブロードソード、軽さと長さを併せ持ち刺突と斬撃を行えるサーベル、携帯重視の短い剣のスモールソード、あと途中まで肉厚で先方は細いコリシュマルドとか。ちなみにフルーレとエペは刃の無い練習用の剣の事にゃ」
そして猫の妖精は首を振る。
「バイオン。これらの剣は相手の攻撃を防ぐ事は考えていないニャ。その場から動かない、そして武器の重さが気にならない体重と、相手の武器や頑丈さを腕力でなんとかする点。ファルシオンの様な肉厚ナイフの方がずっと向いている」
バイオンは横にいるドワーフの兄弟を見た。
兄弟は猫の意見に同意するように頷いた。
もう一度、バイオンはケット・シーへと向き直し鋭い歯を開いて、声をかけた。
「俺は蜂のような奴を切れねえのか?」
「うーん?」
ケット・シーは悩んだ。バイオン以外の他の者達も悩んだ。
飛び回る鳥や蜂、水を泳ぎまわる魚を巨漢の男が仕留める手段を考えた。
「……バイオンさん、基本的に力技ですからね」
プレゼンの呟きが夜の闇に響く。
パチパチとなる焚火の音。しばらくして無言の一同は解散となった。
次の日の夜。フィーラ村から魔法陣で前日も行った山へと、バイオン、プレゼン、ケット・シー、クー・シーの四名は訪れた。
彼らの目的は、毒および病に対する耐性を得る為の獣を捕まえる事である。
この山は、フィーラ村とは星の反対側に位置し、フィーラ村が夜ならこの山は昼となる。
相変わらず霧深い山の木々を四人は進む。
しかし今回は昨日までの探索の二日間とは違う部分がある。
バイオンが大剣を手にしていた。
「……」
斧やクロスボウガンは、背中の籠にベルトで括り付けられている。
それは分類的にはロングソードと呼ばれる剣である。
ロングソードは、とにかく壊れない事を重視した太く長い剣。
レイピアのような刺す能力は無く、相手の鎧を殴る事を前提とした頑丈な剣。
切れ味も鈍いが、とにかく壊れにくい事は利点であり、金のない海賊などには大事なポイントであり使用されていた。
「……」
バイオンはその長い鋼鉄の両刃の剣を、森の霧の中で振り回す。
剣を手にしても技など知らないバイオン。それはもはや長いナイフにしか過ぎない。
(槍より短い、斧の様な破壊力も無い)
しかしバイオンは、これを随分前から作って家に隠し持っていたドワーフ達の言葉を思い出す。
『そもそもあんたは剛腕だ。斧の破壊力なんて過ぎている。必要なのは腕よりも長いリーチと、素早く振り回せる斬撃を行える棒だよ』
ドワーフの手によって作り出された大剣は、斬れ味も刺す力もなかなかの物だった。
また両刃なのは、技を知らずにただ振り回すだけのバイオンの為に、切り返ししやすいようにとの理由である。
貰ってから少しの間、多少は剣の練習をしたバイオンだったが、しっくりこない。
ケット・シーに聞くが、剣技は教わる事が出来なかった。
「僕の剣技は猫の動きをもとに作った独学の技にゃ。君には全く向いていない」
(とにかく実戦でやってみるか)
まるで木の棒を振る子供の様に、剣を振り回すバイオン。後からついてくるクー・シーとその上に乗る少女と猫は、その後姿をじっと見ていた。
昼の霧の森の中を歩く一行。
途中で一匹の猿が、木の上にいた。
『白い耳の猿、猩々(しょうじょう)だな。食べると足が速くなるぞ』
ラフターが四人の脳内に、前日と同じく説明を行う。
「そりゃ、いいな」
「お猿さんを食べるんですか?」
クロスボウガンを手にしようとするバイオン。乗り気ではないプレゼンが返事をする。
そうして、背中の籠の側面にあったクロスボウガンを左手に持ったバイオン。
狙いをつけて、猿へとすでにつがえた矢の先を狙いつける。
泥ダンゴが、バイオンの鉄仮面に叩きつけられた。
「キーッ、キーッ!」
猩々は泥ダンゴを当てた事を喜び、尻を向けて叩き、馬鹿にしたように笑った後に、森の中へと去って行った。
「……殺す」
バイオンは具足を鳴らしながら、憤怒の顔で追いかける。
プレゼン達も後を追う事となった。
猩々との追いかけっこ。
白い耳の猿は決して離れず、バイオン達から目の届くギリギリの位置で逃げる。
「あれ、完全に誘ってますよね? 大丈夫ですか、バイオンさん?」
緑の大きな犬に乗った赤い少女が語り掛けるが、バーバリアンは無視して答えない。
「あー、完全に怒っているにゃ。しばらく好きにさせよう」
「ワン」
ケット・シーとクー・シーは呆れたように鳴き、後ろを離れた距離で着いて行く。
タテガミのある小さな獅子の様な動物が現れた。
『類だ。食べると嫉妬心が無くなる』
「いらん」
唸る類を蹴り飛ばし、バイオンは猿の逃げた道を進む。
「魔法の薬になったのに、勿体ない」とプレゼンは残念そうな顔をした。
クロスボウガンを左手に、大剣を右手にした鉄の装備で固めた大男が木々の間をずんずんと進む。
その道の先には白い猿が、何度も立ち止まり振り返りながら逃げていた。
道の途中に鳩が木にとまっていた。
「うお、っしゃおらあー! ビビってるのかぁ!? ここまで来てみろぉ!」
「うわ、鳩なのにドスの利いた声!?」
「人語を喋っている事に驚くべきニャ」
プレゼンが鳩の声に驚く。
その鳩の鳴き声は、泣き声が人間の声だった。
『灌灌だ。人間の声でしゃべる鳩。その身の一部を身に纏えば、惑わされにくくなる』
ラフターからの言葉に、プレゼンは悩んだ。
「ううん、良いアイテムが出来そうですけど、オウムみたいに喋る生き物は殺しにくいですね」
無視して進もうとする四人。そんなバイオン達に鳩は鳴き声をかけた。
「バカ、アホ、マヌケ、クズ、カス、ゴミ、低能、あ」
喋っている最中に、クロスボウガンの矢が刺さり、地に落ちた。
『……まあいいだろう。知能はオウム並みだろうし、例の約束は破かなかった事にする』
(約束?)
会話のできる知的生命体は殺さないと、会った最初に約束していたバイオンとラフター。
それを知らないプレゼンは、その言葉に首を傾げる。バイオンは黙々と、喋る鳩を背中の籠に入れた。
クロスボウガンの矢は、バイオンがつがえ直すのを面倒臭がった為に一発だけのため、ゆえに蛮族は遠距離武器を失った。
そんな状態でも白い猿を追って、バイオン達の四人は木々の間を進んだ。
しばらくすると霧の中、広がった平野へと出る。
そこには一匹の虎が待ち受けていた。バイオン達を見た虎は、殺意を向けて吠える。
「ワオオーン!!」
『犬の様な鳴き声で、牛の尻尾を持った虎はテイ。食べても特に効果はないが、人食いだから襲ってくるぞ』
「丁度いい、剣の練習に使うか」
クロスボウガンはすでに籠に戻し、右手の剣だけでバイオンは立ち向かった。
虎も獲物が走ってくるので、容赦なく四本足で走り迎え撃つ。
交差する瞬間、バイオンの大剣の振り下ろしがテイへと叩きこまれる。
虎の身のこなしでそれを避けるテイ。しかし避けそこない胴体を少し斬られ、血を吹き出す。
(斧に比べて軽い!?)
振り下ろす勢いが強くて、前のめりになるバイオン。なんとか右足を前に出して留まる。
テイは巨漢の男の武器を持っていない左側に回り、またも飛び掛かった。
バイオンは左手のガントレットで、虎の顎を下から押し上げた。
今度はバイオンの横斬り、しかしそれもテイは避ける。しかし避けきれずに右前足から血を吹き出した。
距離を取ったテイ。鉄の塊の巨漢に対し、攻めあぐねて睨む。
バイオンは面倒になり、腰の袋から魔法石を取り出して念じた。
解き放たれた光が当たりを照らす。
眩しさに一瞬だけ目を閉じたテイ。その虎の頭に投げつけられた剣が刺さった。
「斧に比べると、投げにくいな」
倒れて動かなくなったテイから剣を引き抜き、それを掲げてみる。
「確かに斬撃は早いが、物足りない? 決定打にかける?」
バイオンは、大剣に着いた血を振り払いながら悩んでいた。
その鉄仮面に泥ダンゴがぶつけられる。
「キキーッ!」
遠くの木で笑い喜ぶ猩々。バイオンは泥を拭いながら、真顔で呟いた。
「殺す」
殺意の膨れ上がったバーバリアンは、虎の死体を背中の籠に乱暴に放り込んだ。
そして白い耳の猿へと歩く速度をあげて、蛮族は怒りのまま進む。
プレゼン達は慌てて、後ろに着いて行った。
霧の森の中、速足で進むバイオン達に、大きな音が聞こえた。
四本の角の生えた羊が、興奮した状態で姿を見せた。
『土螻。人食いの羊だ。どうやら白い耳の猿は君らを呼び寄せているようだな』
白い毛に覆われた羊はバイオン目掛けて走り出し、その四本の角を向けた。
バイオンは全力で右手の剣を振り下ろす。
頭を角ごと斬られた羊は、そのまま血を流し倒れ伏した。
死んだ土螻を何も言わずに、背中の籠に放り込んだバイオンは、そのまま突き進む。
白い首で鋭い爪を持った鶏が、木の陰からバイオンに向かって飛び掛かった。
バイオンは大剣で叩き落し、地面に落ちた鶏の首をすぐに刺し殺した。
「一撃で斬り殺すつもりだったんだがな」
「早さはあれど、切込みが甘いにゃ」
『キジャク。白い首に虎の爪を持った鶏で人食い。もう死んだか』
バイオンは籠に獲物を放り込んで進む。
「あの猿、絶対殺す!」
その後も追いかけて、ただひたすらに歩くバイオン一行。
この山にいる予定時間を過ぎ、夜ご飯も食べていなかった為に、プレゼンやケット・シーが疲労を訴え始めた。
それを無視して、バイオンは視界の中の遠くにいる白い耳の猿をただ追い続ける。
この剣でその首を斬ると、バイオンは鋭い目で睨んだ。
しかし途中で、猿の姿が消えた。
『……今まで見せていた姿を隠した、つまりここにお前達を殺す手段があるという事だな』
辺りを見回すバイオン達。疲労を訴えていたプレゼンも、息を殺して辺りを見回す。
ケット・シーとクー・シーは、自慢の感覚を使って周囲を探った。
「……う~ん。僕の耳にも特に大きなものはないニャ。猿の奴も完全に遠くに行ったようだし、手の打ちようが無いから逃げたんじゃ?」
そんなふうに訴える猫の妖精は、ふと動物を視界に捕らえる。
「この先に進むと、どうやら鳥がいるみたい。でもそんな狂暴そうには感じないけど、何かする前に僕がやっとくか?」
返事を聞かずケット・シーはクー・シーから飛び降りて、離れた木の上に立つ鳥へと向かって駆け出した。
ケット・シーは焦れていた。お腹が少し減っていた事、長い山の探索に飽きていた事、そして相手が鳥で猫として害意を感じてしまった事が原因だった。
いつもならもう少し慎重だったケット・シーだったが、昨日の活躍ぶりのせいで自惚れてしまっていた。
また折れて半日でドワーフに修理してもらったレイピアの斬れ味を、実戦で試してみたかったのである。
猫の妖精は、その鳥こそが猩々が残した罠だったとは気付かなかった。
いつもならば注意して、その鳥がとまっている木が枯れ死んでいる事に気付いていたであろう。
『ケット・シー、そいつに近づくな!』
ラフターの声に、猫の妖精は鳥の木の下で走りを止める。
しかし少し遅く、黒い鳥が羽ばたいたために落ちた羽毛の毛先に、ケット・シーは触れてしまう。
ケット・シーは全身の痺れに痛みに震え、地面に倒れる。
猫の妖精はその小さな体を痙攣させ、目を点滅させて、血を吐き出した。
「ケット・シー!?」
「ワン!?」
駆け出そうとするプレゼンとクー・シー、しかしそれをバイオンが前に立って止める。
周囲の木々がよく見れば枯れ死んでいた。
木の上の鶴の様な細い体、赤いくちばしの黒い鳥が羽ばたき、バイオン達に飛んで向かう。
『猛毒の鳥、鴆だ! 凍らせろ!』
ラフターの声と共に、バイオンが魔法石を、プレゼンが氷の魔法を放つ。
放たれた氷の魔法は赤い嘴の黒い鳥を、その羽毛ごと凍らせて地面に落下させた。
焼いたり電撃に痺れていたら、そのまま暴れて羽毛をまき散らしていたかもしれないと、ラフターは判断させて凍らせたのであった。
すぐにラフターが現れて、地面に落ちた羽毛を凍らせつくした。
そしてケット・シーの側により、毒を魔法で消去していく。
「お師匠様、ケット・シーは……」
「毒は抜けた。後は寝かせておけば大丈夫だろう」
黒き魔女の言う通り、猫の妖精は静かな寝息を立てているだけであった。
その表情に安心し、プレゼンはほっと息を吐く。
「それよりも気をつけろ、いつでも私の側にいて逃げる準備をしておけ」
黒き髪の魔女は、冷静な口調で告げる。
「私の気配に気づいたな。この地の守護神のお出ましだ」
木々を吹き飛ばし、その獣は現れる。
体は虎、尻尾は九本、そして頭は人間。
それは陸吾と呼ばれる神獣であった。
虎は大地と霧を吹き飛ばしながら、轟音を立てて五名の前に着地した。
強大な力を持った怪物の登場に、バイオンは剣を構え、ラフターは平然と立ち、プレゼンとクー・シーは震えてラフターの側に行く。
「……貴様ら、何者だ? この地に何ようだ?」
四本足で大地に立ち、陸吾は唸る様に問いかける。
「この地は我が守護する神の地、いかな用件でこの場所へと来た?」
射殺さんばかりに神の獣は睨んだ。
ますます震え上がり、プレゼンはラフターに抱き着く。
しかし黒き魔女は、そんな震える少女にケット・シーを預けて、陸吾の前に歩み出た。
「質問にお答えする前にお聞きしたい」
「……なんだ?」
臆さず聞くラフターに、陸吾は気にせずに問い直した。
「神とは誰で、貴方は何を守っているのですか?」
ラフターのその質問に、人面の虎は息を飲んだ。
「……貴様、何を」
戸惑う虎に、ラフターは続けて問いかけた。
「その神とは、三皇五帝ですか? 文化の神たる伏羲? 医療と農耕の神たる神農? 開国と医学の神の黄帝? それとも道教の最高位の三清道祖? あるいは最高神である玉皇大帝? それとも……」
「黙れっ!」
陸吾の一括にラフター以外の者達が吹き飛びかける。しかしラフターだけは微動だにしなかった。
眠たげな目を少し見開き、ラフターは虎に言葉をかける。
「陸吾よ。この世界に貴方が仕えるべき神はいない」
「なに?」
「この世界は模倣の世界。そしてこの世界を生み出した物は、世界を統治する神と怪物を打ち倒す英雄の神だけは生み出さなかった。世界を創り眠りについた己を攻撃されない為にだ……ゆえにあなたが仕える神は、いない」
陸吾とラフターがにらみ合う。
他の生物ならば意識を失いかねない陸吾のにらみを、ラフターは平然と受け流す。
しばしの見合いに、陸吾は呟くように答えた。
「この隣の国は常闇の国、そしてその守護の神を我は知っている。ただの模倣であり異界の地、だがそれでも同じ地域の出であり、そいつが暴れれば我は止めたいのだ……」
人面虎は一度躊躇うが、その名を口にした。
「その神の名は燭陰」
「……ほう」
その名を知っているラフターは頷き、そして答えた。
「天の門番たる神獣よ。もしよければそれが目を覚ました時、私も退治を手伝おうか?」
その答えに驚く陸吾。そして漆黒の魔女をまじまじと見つめて尋ねた。
「見返りは? 目的は何だ?」
「私達は食せば病気を防ぐ獣と、毒を防ぐ獣を探し求めている」
「……」
その答えにしばしの沈黙をする陸吾。人面はバイオンを一瞥して、またラフターに尋ねた。
「そちらの男を弄んだ猩々は?」
「あれはいずれ、こいつ自身が捕まえる。そちらの手を借りる必要のない話だ」
「……そうか」
陸吾が姿を消す。
そして数秒後に、二匹の獣が地面に落ちた。
「鼠の様な体で尾で空を飛ぶ獣の耳鼠、食べればあらゆる毒気を防ぐという。そしてこちらは白い目とクチバシと尾を持った青いカササギの青耕、食べればあらゆる疫病を防ぐと言われる。礼を言うぞ、陸吾」
人面虎から贈られた二匹の獣を手に、漆黒の魔女は振り返った。
剣を持ったまま固まったバイオン、抱き合うプレゼンとクー・シー。そのクー・シーのうえですやすやと眠るケット・シー。
彼らに眠たげな視線を送りながら、ラフターは告げる。
「では、帰ってこれらでスープでも作ろうか? 作るのはドワーフだがな」
目的を遂げた一同。
ちなみにラフターは、何かに使えるかもと鴆の氷漬けの死体も持って帰っていた。
ある国で囚われた姫がいた。
その姫の国の騎士が起こした誘拐事件。騎士は姫を手土産に、隣国の大国家カントラルへと亡命しようとしていた。
(お助けください、神よ)
か弱き彼女は、ただ震えて祈るだけだった。
そこに現れたのは、一人の若き剣士だった。
オリハルコンという輝く剣を振るい、自国で元は最強の騎士だった男を一顧だにしない強さを持った者。騎士とその部下を一瞬にして無力化させた。
「大丈夫ですか、姫様?」
捕縛から助けられた姫を見守る、優し気な少年剣士の眼差し。
姫は助けられた喜びよりも、ただその少年への思慕だけが心を占める。
「はい、私は大丈夫です。ありがとうございます、勇者トラト様」
こうして姫は助けられ、勇者トラトの名声はまた一つ大きくなった。
バイオンは毒と病に強くなり、眩暈や目のかすみができにくくなった!
鴆:中国の様々な書物に登場する毒鳥。飛べばその下の作物は死に絶え、その羽は酒に浸して飲めば、どんな人間も死に至らせるとされた。歴代の皇帝がその毒を恐れ、ある皇帝が駆除の為に巣の発見された山をまるごと燃やしつくしたとの伝説もある。説明が書物ごとにバラバラであり想像上の生物とされるが、毒を持った鳥自体は現実におり、本当にいた絶滅した鳥ではないかとも言われている。
陸吾:頭は人間、体は虎、尻尾は九本の神獣。天帝の都の崑崙を守る。天の九部(八方向と中央)と天帝の庭の持節を司るとされる。
燭陰:頭は人間、体は千里(約40キロメートル)を越える赤い蛇身の怪物にして神。目を開けば昼、目を閉じれば夜。吹けば冬、吸えば夏になる。




