表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/140

第16戦 VSオアンネス



 砂浜に背中から投げ落とされたバーバリアンの男、バイオン。

 それを為した半魚人の男、オアンネス。

 オアンネスはバイオンを見下し笑った。

 そして半魚人は大男に対し、己を敬い仰げと命じた。


 バイオンはその言葉にキレた。

「だ、れが!」

 バーバリアンはそのまま背中を軸にコマのように回転し、蹴りを相手に叩きこもうとする。

「バカ」

 そのバイオンの膝の部分を、オアンネスは足裏で軽々と止めた。


 しかしバイオンは追撃を止めず、左手で砂を掴んでオアンネスの頭に投げる。

「うわっぷ」

 大袈裟に砂を魚の頭から払うオアンネス。

 バイオンは飛び上がるように立ち、その勢いのまま魚の顎に頭突きを入れようとした。


 しかしバイオンはそのまま回転し、またも砂の上に背中から叩きつけられた。

「っ!?」

「いい加減にしろ、お前」

 ヒレの突いた手で、上体を起こしたバイオンの頭を、後ろから半魚人はぺちぺちと叩く。


 額に青筋を作りながら、座ったままのバイオンは両手で、後ろにいるオアンネスの首を掴みにかかった。

 その手をそれぞれの手で受け止めるオアンネス。

 倍はあるだろう手のサイズ。筋力もバイオンの方が圧倒的に強い。

 なのにバイオンの手は金縛りにあったかのように動かない。

「??」

「話を聞けってば」

 半魚人は呆れたように言う。


 バイオンは無理矢理に振り払い、前方の砂地へとジャンプして立つ。

 そしてすぐにオアンネスへと振り向く。

「殺す!」

「完全に頭に血が上ってやがるな」

 殴りかかるバイオン。

 砂の上を走りながら、右腕、左腕、さらに足、続いて鎖をぶん回して攻撃する。

 しかしひらりひらりと半魚人は、下がりながらその攻撃を避けた。

「このっ!? くそぉ!?」

 怒りに任せ、全身で飛び掛かるように攻撃を繰り返すバイオン。

 だがオアンネスには、指一本触れる事は出来なかった。

 右腕の鎖を鞭のように叩きつけるが、勢いのついたはずの鎖の叩きつけが、軽々と片手で受け止められた。

 さすがにこれには、怒れる蛮人も驚いて動きを止めた。


 その瞬間にオアンネスは、バイオンの体に自身を密着させる。

「……ちょっと頭冷やせ」

 そしてバイオンを海へと投げ飛ばしたのだった。



 大きな波しぶきを上げた海。オアンネスは無視してそこから離れる。

「おーい、そこのお嬢さん!」

 オアンネスは、浜辺に突っ立っていた黒いローブと黒い傘を差した女に近づき話しかける。

 絵になる女性ではあったが、夏の日差しの海岸には全く似合わない。

 眠たげな薄目の女は、半魚人に返事をした。

「ラフター、魔女だ」

「初めましてラフター、俺はオアンネスだ、よろしく!」

 水かきのついた右手を差し出すオアンネス。黒き魔女も手を出して握手をする。

 楽しげな表情の半魚人。相対する黒き魔女は無表情である。


 手を離したオアンネスは、ラフターから話を聞く。

「それで君は只者じゃなさそうだけど、今日は何しに来たんだい?」

「あの男の修行だ」

 ラフターは視線で海を差す、大男が溺れもがきながら浜辺へと近づいていた。

 その答えにオアンネスは首を傾げる。

「ふーん?」

「私からも逆に質問がある」

 ラフターは視線を魚の頭に戻して、口を開いた。

「オアンネスといえば文明を伝える者であろう。体術など聞いた事も無いが?」

「なんで知ってるの? いや結構、鋭い質問だね」

 半魚人はおどけたように答えた。

「俺は七日間で人々に文明を与えた者だ。しかし俺が生まれた百年前には、すでにこの世界には文明があった。だがそれ以上に気にくわなかった。俺は所詮オアンネスのコピー、それを繰り返すだけの存在になるのが気にくわなかった」

 魚の目を細めて、本当に嫌そうにオアンネスは口を尖らせた。

「だから俺は文明以外を与える事にした! それが格闘技だ! この百年間、ひたすら海中で技を考え磨き続けた!」

 オアンネスはその場で片足を上げ、そのまま地面に落とす。遠く離れた砂浜の一部が、地面から伝えられた衝撃で爆発し砂が舞う。

「この世界の創造神が何を考えて俺を作り出したのかは知らないが、思い通りになどなってたまるか!」

 口をゆがませて怒るオアンネス。ラフターはそれを薄い目で見ていた。


「君はこの世界の思い通りになるのか?」

「いや?」

 オアンネスの質問に対し、ラフターは首を振る。

「つまり君は与えられた役割を捨てたか? それともその上の道を探っているのか?」

 オアンネスはラフターが守護神である事を見抜いていた。そのことを確認せずに聞いた。

「ああ、ちょっと最高神にでもなろうと思ってな」

 ラフターは簡単に答える。

 思わずオアンネスは聞き逃す所だった。


「……え、いや、え? 最高神?」

 冗談なのかともう一度訪ねる知識の魚人。

 しかしラフターは頷く。

「どうせ私の所のゼウスも、上司のハデスもいない。あなたの所の創造神たるエンキもいない。だったら私がこの世界のトップに立ってもいいだろう?」

 眠たげな目で堂々と言い放つラフター。

 オアンネスは、その魚の顔をパクパクと口を開け閉めして唖然とする。

 少しだけ沈黙の間が続き、そしてオアンネスは爆笑した。

「……あ、アハ! ハハッハ、クハハハッ! そうかそうか、俺もコピー元の自分を自分なりに越えようとしていたが、さすがに世界を獲りに行くつもりは無かった!」

 笑い続けるオアンネスに、釣られてラフターも微笑を浮かべた。


 いくらか笑いが治まった所で、ラフターはオアンネスに頼み事をする。

「格闘技を追求する者に、頼みたい事がある」

「……はは、ふう。で、なんだ? あの男の修行をつけろと?」

「頼む」

「う~ん?」

 オアンネスは海を見る。

 そこにはようやく浜辺に着いたバイオンがいた。

 波打ち際で四肢を地面につけて、大きく呼吸をする大男。

 長く苦しんでいたが、しかしその頭には憤怒の色は消えていなかった。

「あれを鍛えろと? 正直、英雄の素質はなさそうだが?」

「私も手駒が欲しいんだ。私自身が他国に行って、そこの守護神に殺されかけるのは避けたい」

 少しだけ考えるオアンネスだが、すぐに笑って頷く。


「いいぜ、ただし条件がある」

「なんだ?」

 漆黒の魔女が半魚人を見る。

 その魚の頭から一瞬だけ殺意が見えたが、すぐに隠した。

「条件は二つ、一つは今はいい。もう一つはあの男の修行にもなる」

 魚の口が大きく横に広がり、口角を上げた。

「俺の逃げた弟子共を、一緒に狩ってもらう」


 立ちあがったバイオンを見て、オアンネスは数歩進む。

 ラフターはその半魚人の鱗と背ビレの着いた背中に対し、傘を畳んで頭を下げた。

「よろしく頼む」

「別にいいぜ。対等な取引だ。ただし俺も真面目に基礎から鍛えるのは初めてだからよ、何年かかるかわからんぞ?」

「別に何十年かかってもかまわない。死なない程度に頼む」

「任せろ、そういう線を見切るのは得意だ。半殺しにするから、夜にでも回収しに来てくれ」


 半魚人は振り返り、別れ際の言葉の前にラフターに少し疑問に思った事を尋ねた。

「そういやあんた、右目が義眼なのはともかく、なんで目を見開いて脳みそフル回転にしないんだ?」

 突然の質問に少し驚くラフターだったが、すぐに無表情に答えた。

「片目は知識の代償だ。そして得過ぎた知識は私にとって毒だった。脳を半睡眠にしないと、知識が私の意志を奪いに来る」

「? よくわからんが、まあいいや、じゃあな!」


 その言葉を最後に、ラフターはワープして海岸から消えた。

 その直後に、爆発の様な大声が浜辺に響いた。


「オアンネェエエエェエエスッッッ!!?」

 烈火の如く怒り、厳つい顔をしたバーバリアンの大男が、砂を蹴って半魚人に向かって走り出す。

「では修行を始めようか、我が弟子よ」

 魚頭の男は、気楽な雰囲気で砂浜を歩いた。



 バイオンが右手の鎖を振るい投げる。

 だが、まるで瞬間移動の様にオアンネスが消え、バイオンの頭の上に立っていた。


「!?」

「とりあえずお前のその性根をへし折る。百回は海にぶち込むので、よろしく!」


 バイオンの腹に叩きこまれる衝撃。

 バイオンはそのまま吹き飛び、またも水しぶきを上げて、海へと叩きこまれた。

 オアンネスは水際へと飛び降り、軽く準備運動をした。




 バイオンとオアンネスのこの修行は十二日間、毎日のように続けられる事になる。

 毎日のようにバイオンは、何度も海に叩きこまれた。








 そして修行の一日目、夕日になろうとする青空。

 ラフターは盛り土を吹き飛ばし、フィーラ村の魔法陣へと姿を見せた。

「……あ、不味い、兵士がいたらどうしよう?」

 自分が兵士から姿を隠す為にフィーラ村を離れていた事を、ラフターは戻ってから思い出した。

(見られてないよな?)

 赤い夕陽に照らされた、周りの景色をラフターは見回す。



 するとすぐそばに、背中合わせにロープで縛り上げられた、気絶した二人の兵士がいた。

 さらにその横にはドワーフの兄弟と、赤い魔女のプレゼンがいた。

 なぜかドワーフ兄弟とプレゼンは、現れたラフターに対し土下座を行った。

「?」

 薄い目の魔女は、状況を理解できなかった。



バイオンは海中をそれなりに泳げるようになった!


一応、だいたい九十九話目で魔王を、百話目で勇者を倒す予定。

それまで毎日投稿できるといいが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ