第13戦 VS化け狸
バイオンがプレゼンと共にビッグ・スラッグを倒した次の日の夜。
魔法薬の作成中だと家にこもるプレゼン。
それを気にせず、今夜もまたバイオンは、強くなる修行の為に魔法陣へと行く。
バイオンはこの夜もラフターに世界のどこかに飛ばされた。
夜の山を、鉄仮面を被り、鉄で全身を武装をした巨漢のバーバリアンが歩く。
左手に松明をつけて、背中には鉄斧と鉄槍と鉄盾を背負っていた。
夜の木々の山道を、バイオンはただひたすら上に登っていた。
ふと山道の先を松明で見ると、一匹の兎がいた。
気にせず山道を登るバイオンだが、一定距離を兎がついてくる。
バイオンが立ち止まると、兎も止まる。
「……」
見張られている気がしたバイオンは、背中の鉄斧を右手に持ち替え、鎖付きのそれをぶん投げた。
木々をすり抜け、兎の下に落ちる鉄斧。
兎は咄嗟に避けて、そのまま慌てた様子で逃げて行った。
バイオンが進んでいくと、鉄仮面の顔面に布袋がぶつかってきた。
見れば木の上から紐で袋がぶら下がっている。
その袋の中には何が入っているのか? とはバイオンは気にせず、袋を掴んで夜の森の中へと投げ込んだ。
バイオンが山道を歩いていると、竹を切る音が響く。松明を掲げても、どこから聞こえるかはわからず。その音はどんなに進んでも消えない。
無視してバイオンが山を登っていると、さらに絹を切るような音がする。
それも無視して進んでいくと、今度は笛や太鼓の祭りの音まで鳴り響いた。
意味の分からない音に苛立ち始めるバイオン。
「……ラフター、音の出どころは何処だ?」
『左後方』
耳元で聞こえた答えと共に、バイオンは鉄斧をぶん投げた。
何かにぶつかる音と共に、悲鳴が聞こえた。
「キチベエさんの山車がぶっ壊れたぁ!?」
「キチベエさん、しっかりしてくれえ!?」
慌てる誰か声がするが、無視してバイオンは山を登る。
山道に人のよさそうな老婆が座っていた。バイオンを見て、笑顔を向ける。
「おや、こんな夜更けにご苦労様です。この重箱を食べませんか?」
バイオンは、その重箱に鉄斧を叩き落した。
重箱の中身は石。老婆は狸へと変貌し、悲鳴を上げて逃げて行った。
傘を差した狸がバイオンに話しかけてきた。
「傘はいらんかね?」
バイオンは傘ごと、夜の森へとその狸をぶん投げた。
山道を登るバイオンの背中に、大きな薪が乗ってきた。
バイオンはその薪を夜の森の中にぶん投げた。
和服姿のはしゃぐ子供が走ってきて、バイオンの背中に乗ってきた。
バイオンはその子供を夜の森の中にぶん投げた。
徳利が山道を転がる、バイオンはそれを森の中へと蹴り飛ばす。
綿が山道を転がる、バイオンはそれを森の中へと蹴り飛ばす。
茶釜が山道を転がる、バイオンはそれを森の中へと蹴り飛ばす。
木の上からロープが下りてきて、バイオンの首に巻き付いた。
バイオンは逆にロープを引きずり下ろす。狸が悲鳴を上げて地面に落ちて、すぐに逃げ出していく。
夜の山道に突然に壁が生まれた。
バイオンがそれを殴り飛ばすと、狸の正体を現して逃げて行った。
夜の山道に突然に巨大な顔が生まれた。
バイオンがそれを殴り飛ばすと、狸の正体を現して逃げて行った。
「ここは通さないぞ!」
和服姿の子供が手を広げて、道を塞ぐ。
バイオンはその子供を夜の森の中に投げ飛ばした。
「ここは通さないぞ!」
「通さないぞ!」
今度は二人の子供が手を広げて、道を塞ぐ。その顔は全く同じだった。
バイオンは一人ずつ、夜の森の中に投げ飛ばした。
「ここは通さないぞ!」
「通さないぞ!」
「さないぞ!」
「いぞ!」
今度は四人の全く同じ顔の子供が現れ道を塞ぐ。
バイオンは鉄斧を、また背中から手に持った。
夜の森の中、豆狸と呼ばれる色んな姿に化ける狸達が集まって話し合っていた。
「あの鉄の塊の大男、全然止まらないぞ!?」
「このままだと主達の下に着いちまう……!」
「おい、小僧狸256匹が鎖付きの斧でぶっ飛ばされていくぞ!? これ以上は増えられない!」
「仕方ない、あの手で行くぞ!」
さっきまでいた子供達も消え、バイオンは山道を登る。
すると前から和服姿の男が現れた。
「こんなところまで、夜に来るとは蛮勇な奴だなあ」
その男はバイオンよりもでかかった。
三メートルはある巨体の男だった。
そのうえでバイオンが見ていると、どんどん大きくなっていく。
「ここまで来たんだ、この見越し入道のご飯になりな」
巨人はバイオンの何倍もでかくなった。
それを見上げてバイオンは呟く。
「……うぜえ」
「あん?」
「さっきからうぜぇええんだよぉおおっっ!!!」
斧を天高くぶん投げるバイオン。
それは見越し入道の頭上から落ちて、そのまままっすぐに地面へと落ちる。
巨人は左右二つに別たれた。
巨人は煙を吹き出すと、たくさんの狸へと分裂した。
「てめえら、ぶっ殺ぉおおす!!」
『うわぁあああ!!?』
分散して四本足で逃げていく狸達。
目を真っ赤にして、怒って斧を振り回しながらバイオンは追いかける。
狸の群れを潰さんと、バーバリアンは夜の道を走り続けた。
狸達が逃げる夜の道。
森の無くなった場所を、憤怒の目をした大男は気にせず走った。
唐突に、バイオンの足元の道が消失。
バイオンはそのまま崖下の川へと落ちて行ったのだった。
倒れて動かなくなったバイオン。それを鏡越しに見ていた魔女ラフターが話しかける。
『足と腕の骨が折れている、これはもう帰るしかないな』
「……」
『夜の道を確認しないからだ。短気は損気、覚えておきなさい』
「……くそが」
川の側で、自身の敗北に歯ぎしりするバーバリアン。
崖下で骨の折れたバイオンは、そのままフィーラ村の魔法陣へと帰還した。
夜の山の頂上。
そこには明かりをつけられた大きな和風の屋敷があり、周囲には狸達が集まっている。
「ダンザブロウ様」
「なんだ?」
「件の大男、川底に落としました。しかし、それ以降は見失ってしまいました」
「追い払ったのなら、それでいいわ。一晩探していないなら、引き払え」
「は!」
報告した僧侶の格好をした狸は、屋敷にいた和服を着た大狸から離れて行った。
「侵入者も追い払えた。そろそろ会議を結論付けようじゃないか」
ダンザブロウと呼ばれた大狸は、屋敷の中に戻る。
そこには思い思いの人の様な服装をした、毛だらけの狸達が床に座っていた。
「手を組めだぁ? 俺はこのキンチョウが大嫌いなんだよ。なんで俺を殺した奴と仲良くしなくちゃならねえ!?」
「俺だってお前みたいな残虐な奴は嫌いだよ、ロクエモン」
二匹の向かい合った狸がにらみ合う。
「……たかが六百の狸を部下にしたぐらいで偉そうにしてんじゃないぞ、お前ら」
「八百も大して変わらねえだろ、イヌガミギョウブ!」
「八百八だ、そこは間違えんな!」
ギョウブと呼ばれた狸は鼻を鳴らす。
「俺もこいつと、シバエモンと手を組むのは嫌だなあ」
一匹の貫禄のある狸が隣を見てため息をついた。
「俺の存在も記憶も、地球の本物の模倣だってのはわかっているが、俺を殺したかもしれん奴と一緒ってのはどうもな。しかも芝居を忍び込んでみて、犬に襲われて死んだとか恥ずかしいわ」
「大名行列に勝手に入って斬り殺されたのはお前だろ、タサブロウ」
嫌味を言うタサブロウという狸に、シバエモンは嫌味を言い返す。
集まった狸達の中で、唯一女性物の着物を着た狸が欠伸をする。
「オソデ様」
「ああ」
お供の狸から、キセルを貰い吸った。
「まあお前たちの気持ちも分かる」
行灯の前で、まとめ役として皆を集めたダンザブロウが頷く。
「自分達は所詮偽物。だったらそれはそれで割り切って、狸として好きに生きればいいだけだ。しかし今は戦国の時代」
配下の狸が、集まった大狸達の前に杯を並べる。
「人同士の戦争ならまだしも、この世界にはモンスターがいる。あれらは俺達にも牙を向ける。……自衛の為には手を組まねばならん」
ダンザブロウは自ら歩き、徳利から酒を注いで回る。
「この地の守護神とやらは、狸神の魔法様だ。俺らと実力は変わらないし、そこまで頼りにならない」
狸の顔の男は続ける。
「俺達は例え作り物でも生きている。なら生きる為の努力をすべきだ!」
ダンザブロウは床に座り、酒の入った杯を手にした。
「作り物の過去は過去と割り切り、上下も無い同盟として手を組もうじゃないか、なあ?」
しばらく酒を眺めていた大狸達。
しかし、諦めてそれぞれが杯を手にする。
「ありがとよ、それじゃあ、生きる為に」
「侵略戦争と行こうか」
ダンザブロウは酒を飲みほした。
バイオンは短気を多少は改める気になった!
豆狸:化け狸。人に化けて物を要求したり、酒が好きで酒蔵に住んだり、雨の知らせとして山の上で火の幻影を見せたりする。
化け狸:兎に化けて一定距離を逃げ続ける「兎狸」。茶釜に化けた狸の話「文福茶釜」。人に向かって袋を下げて驚かす「袋下げ」。どこからともなく竹の音をさせて驚かす「竹伐り狸」。化けた老婆が重箱を渡してくるが持って帰ると大きな石になる「重箱婆」。突然現れる化けた巨大な顔「大かむろ」。坂で背中に乗ってくる化けた薪「負われ坂」。子供に化けて背中に乗ってくる「赤殿中」。子供の姿で人の前に現れ通せんぼし、倒すたびに増えていく「小僧狸」。首をつらせようとする「首吊り狸」。傘を受け取ると何処かに連れて行かれてしまう「傘差し狸」。道に化けた壁を作る「衝立狸」。姿を見せず絹の音を聞かせてくる「絹狸」。地面に落ちた綿を拾おうとすると飛んで行ってしまう「打ち綿狸」。落ちている徳利を拾おうとすると転がって逃げる「白徳利」。
見越し入道:巨人。見上げれば見上げる程に大きくなる。狸が化けているという話もある。
キチベエ:地車吉兵衛。化け狸が人の祭りを真似て、深夜に山車に乗って笛や太鼓等の祭り囃子の音を起こして回る。
宗固狸:僧侶に化けて寺に仕えた。後に人間にバレるが真面目だったので、そのまま寺に仕えた。
魔法様:キュウモウ狸。出身地は不明で海外から来た。人を助けたり化かしたりする。人助けかもしくは退治されたかした末に、神社に祭られる。
狸神:山火事で追い出された狸達が町に降りて悪さをした。住職に住処をくれれば悪さをしないと夢で言い、祠を立ててもらう。火伏の神となった。
ダンザブロウ:佐渡の団三郎。佐渡ヶ島の狸の親分。人を騙し人を助けた化け狸。神社がある。
キンチョウ:徳島の金長。人に襲われていた所を商人に助けられ、その後に恩返しをし、偉い狸になるために努力をした。神社がある。
ロクエモン:徳島の六右衛門。金長の師匠であったが残虐な性格。後にお互い600匹の集団で合戦し、相打ちとなった。
タサブロウ:屋島の太三郎。屋島の禿狸。平家の守護狸。合戦の幻影を見せたり、高僧の手助けをするなどの伝説がある。日本中から狸が集まり学ぶとされる。神社がある。
シバエモン:淡路島の芝右衛門。太三郎と化け合戦で、大名行列に化けた。葉っぱを金に変化させて芝居を見ていた所、犬に襲われて死ぬ。太三郎を殺した説もある。
イヌガミギョウブ:隠神刑部。八百八匹の狸の部下がいる。命を助けられた恩返しに松山城を代々守っていたが、神の力の杖(他にも説あり)に敗北し封印された。
オソデ:八股榎のお袖。人が好きで民衆が困っている時にお姫様に化けて助けた。祠の大木を移す際に、女学生に化けて電車に乗って移動したという話もある。神社あり。
狸はまとめた、他にもいるけどもう十分。いずれ狐もまとめたい。