Prelude 神の国
※2話目です。
気が付くと、白い空間に僕はいた。どれくらいの時間がたったのかわからないが、体には異状なしだと思う。よかった、これでまだピアノもギターも弾けるし、演奏でお金を稼ぐこともできる。これができなかったら僕は水だけで数日を過ごさないといけなかった。服も汚れてない。
「とりあえず、ここどこだよ?」
「お、気が付いたかな?山野奏くん、だよね?」
とかけられた声を聞いて、僕は振り向くことができなかった。
別に殺気を感じたとか、そういうわけじゃない。これほどきれいな声をきいたことがなかったからだ。今まで聞いた中で1番、いや、たぶんこの世で一番きれいなんじゃないかと思ってしまう、澄きとおった声だった。
「…あれ?気が付いてる?大丈夫?」
改めてかけられたその声に、僕は慌てて振り返った。
見た目は15歳ぐらいの金髪イケメン少年だった。蒼い瞳と自然な笑顔はまるで絵画のようで、この少年からあの声が出てると、美しい通り越して神々しさすら感じてくる。
「そりゃあそうだよ、僕神だもん。」
「…声出してましたかね?」
「声出さなくても、この世界の中だったら考えてることだってすべてわかるよ。君が僕の声を聴いて感動してくれてることもね。」
目の前の神様なる少年はそんなことを告げた。普段の僕なら話半分に聞くんだろうが、この真っ白な世界と、目の前の金髪イケメン少年と、その奇跡の声に、信じざるを得なかった。というより、混乱したままでいるのがいやだったってだけだな。これ。
「…すみません、いろいろ聞きたいことあるんですけど、いいですかね?神様?」
「いいよ!いきなりこんなところで神様ですとか言われても信じられないもんね!」
「どうも、で、ここどこですか?」
「ここは神の国だよ、君の住んでる地球とかとは別の世界と思っていいよ!」
目の前の神様はさらっと笑顔で言ってのける。しかしいい声だな。本当に神様だと信じそうなぐらいいい声だけど、それとこれとは別だわ。神の国?そんなのあるわけないじゃん。
「いや、あるんだって。君たち地球の生物には信じられないと思うけどさ。」
「考えてることのぞかないでもらえません?」
「考えてる時間があるなら声にしちゃったほうがいいよ。で、君なんだけど。」
そういって目の前の自称神様は今までの笑顔を消し、俺を指さして言葉をつづけた。
「いろいろあって地球では死んじゃったんだよ。で、この神の国に呼んだわけ。」
「…はい?」
頭が空っぽになる。えーっと、僕が死んだ?
「…ウソでしょ?」
「ごめん、本当なの。信じられないとは思うんだけどさ。」
「なんで?僕、ギター演奏しようとして…」
「そうなんだよ、君が演奏しようとした場所。そこに飛び降りがあったんだよ、あの時間。」
そんな神様の言葉と顔は、冗談を言っている様子がまるでなかった。
あの黒い瞳…そうか、見間違いとかじゃなかったんだ。あれは、本当に人間の目だったんだ。
「いや、だって…そんな…そんなはず」
足が震えて、立っていることができず膝をついた。頭では理解しようとしていても、到底すぐに納得できるものじゃなかった。いつの間にか、このあり得ない現実を認め始めていた。
まだ、これから人生を送るはずだったのに。
これからまだまだ音楽をつづけながら、成功して、たくさんの人から拍手をもらって…
いや、そんなことあるわけない。誰が聞くわけでもない音楽を続けて。
いつまでも認められない音楽をあきらめきれずに続けていく…
いろいろな考えが頭の中をかきまぜた。
「大丈夫?いきなりのことでビックリしちゃった?」
そんな中、話しかけてくる自称神様。
いらだちと混乱で、思わずにらみつけてしまった。
「おぉ、こわい。ただね、最初に謝ったんだけど、あれはこっちでも予想外のことだったんだよ?だから君をここに呼んだんだ。」
「…どういうことですか。」
神様は、その美しい声を真剣な調子に変えて言葉をつづけた。初めに見せていた笑顔とはまるで違う凛々しい様子に驚きながらも、僕は理解が追い付かない頭で、目の前の少年を睨みつけながら言葉を続けていた。
「本当は君はまだまだ生きる予定だったの。それを別の神が場所を変えちゃったみたいでさ…。だから」
言葉を一度切った神様は、僕のほうを改めて向き直ると最初の微笑みを浮かべて続けた。
「お詫びになるかわからないけど、僕が管理している世界でもう一度生きるチャンスを上げたいと思ったんだ。」
※不定期更新です。
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