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警視庁特殊犯罪対策室  作者: 伊野 暁悠
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三條総合学科へ

自己紹介が終わったのを見計らってオッサンが話し始めた。

「じゃあじゃあ、自己紹介も終わったことだし、囚人番号で呼べなくなったね。

死刑囚から一般人への昇格だしね。昇格・・・とはまた意味合いが違ってくるのだけど。まぁ、そこらへんはおいといて。まぁ、一般人でもないんだけど。

君の事はスグリと呼ばせてもらうよ。

何でも買ってきていいよ。これから二人で暮らすしね。

日用品とか生活雑貨とか色々買ってきてもらわないとね。

え?一緒に暮らすのは嫌?それは無理だ。

もう、借りる部屋とかも全て敦が決めちゃったしね。

敦は決めるのが早かったよ。だから、言っただろ?君に拒否権はないと。

敦も言ってたじゃないか。判ってるんだろう。

なら、快く承認してもらわないとね。

で、本当に今後の事なんだけど、まず君は、総合学科に通ってもらわないと。

しかも、敦はその総合学科の教師だ。校長には話しておく。

その学校に編入する手続きと君は自己紹介を考えておいてね。

みんなの前で、しかも知らない人の前で恥をかくのは嫌いだろ?

え?嫌いじゃない?メンタル強いね君は。

まぁ、そんな事はどうでもよくて、君たちが住む家の間取りがこんな感じだよ。その紙は返してもらわなくてもいいよ。あげるしね。で、これが家の鍵。

これは、敦に渡しておくとして、家具も買っておいで。

生活できなかったら嫌だろう。冷蔵庫も買わなくちゃいけないしね。ということで、判ったかい?」


早口で話してたからほぼ聞いてなかった。

「何て言ったの?」

敦に聞いた。

「引っ越し、学校に通う手続き、その学校での自己紹介、引っ越しした後の家具を買いに行く、家の鍵を貰って、間取り図を貰った。これでわかった?」

「わかった。早口じゃないからよくわかった。」

「このオッサンの言ってることは判らなかったのかい?」

オッサンがしょんぼりする。

そんなにしょんぼりすることか?

オッサンの事はほっておこう。

「じゃあじゃあ、スグリはここから出ようか。で、着替える服がこれ。」

と言って手渡された服。なんじゃこりゃ。何かひらひらがついている。

「今の女子学生に人気の店に売っている服。可愛い・ファンシーって評判何だよ。気に入ったかな?」

んなこと言われても気に入るわけねーだろが!

「他の服ないの?おとなしい服。それかもう、男子用の服でもいいからさ。こんなひらっひらの服じゃなくて、何もついてないシンプルな服。」

オッサンは顔を覆った。泣いてるのか?

「君はすごいねぇ。他の囚人なら気持ち悪いって言って突っ返すのに。顔を顰めることなく、声は不機嫌だったけど。対応してくれたじゃないか。やっぱり君は天才の部類に入ってるんじゃないかな。オッサンはそう思うよ。」

泣いていないのか。泣くフリしてただけか。

まぁいいか。ほっとこ。


「じゃあ、出ますね。」

着替え終わった私は、敦に手を引かれ刑務所を後にした。

「学校には話しておくしね。これからの日常を楽しんで。」

オッサンが笑顔で送り出してくれた?のかな。

「あのさ、刑務所にいた時はどんな感じだったの?」

敦が聞いてきた。

「刑務所にいるときはそつなくこなしてたと思う。他の人ができない仕事も自分の仕事も。」

敦は聞く。

「じゃあ、これから一緒に暮らすから優のこと、もっと教えて。」

「あんまり聞かない方がいいかもしれないよ。というか知る必要がない。」

「何で?」

「学校行かないし。」

「え?」

「邪魔だもん。学校行くより家でのんびりしていた方が楽。頭がイカれたやつらとなれ合う気はないしね。」

「ふーん、そう。あ、家に着いたよ。」

敦に言われて今まで下に向けてた顔を上に上げると、綺麗なマンションが建っていた。今日からここに住むのかと思うとあんまりドキドキはしなかった。

「ここが今日から住む場所。」

敦が鍵を開けた。何か広い。というか広すぎる。

「ここって、単なるマンションじゃないよね?」

オッサンと呼んでいた人から何も聞いてないのか?と敦に言われ、聞いてないと答えると説明不足だよね、あの人も。と言って笑った。その笑った顔が、私には笑う仮面を顔に張り付けているだけにしか見えなかった。


「ここがキッチン。料理は基本僕がするけど、優がやりたかったらやってもいいよ。優の言う通り単なるマンションじゃないよここは。分譲マンションだ。二人で住むにはその方がいいだろってオッサン・・・じゃなかった、警視正が言ってたんだよ。普通のアパートより分譲マンションの方が、何かと都合がいいからだってさ。そんなわけで、家具を買いに行けって言われたけど、もう家具は買ってあるから、運んでもらってるし。なので、自分の部屋をどこにするか決めて。」

何から何まで全て自分でやったのかこの男・・・。すごいな。

「部屋はリビングに近いほうがいい。」

と私は言った。

「じゃあ、廊下を歩いた先にある部屋が優の部屋。その部屋にはウォークインクローゼットもついてるから快適だと思うよ。」

うぉーくいんくろーぜっと?なんじゃそれ。聞いたことない部屋だな。

監禁する場所か?

「荷物そんなにない。」

刑務所から出てきた人間に腐るほど服があるなんて誰も思わないだろ。

「これから服とか買いに行くからタンスも必要だね。」

服とか買いに行くのかよ・・・。いま来てる服とあと二、三着あれば十分じゃないのか?

そんな事を考えていた私だったが、疑問がいくつかあったので、質問してみることにした。

「学校から近いの?このマンション。行かないけど。」

男・・・じゃなかった、敦は、

「近いよ。徒歩五分もかからない。」

と言った。

「なら良かった。」

私は胸をなでおろした。

「何で?」

敦が聞いてくる。

「何でって・・・。行かないって言ってるだろ。あぁ、テストの時とかにギリギリでいけたらいいかなぁって思ってたりもするけど。」

「テストの時以外は学校に行かないって?」

「そりゃそうだろ。教科書見ればわかることをどうして人を介して勉強しなきゃならんのだ。その先生の考えとかどうでもいいだろ。ただ淡々と説明しとけばいいんだからさ。それで事足りるのに。」

敦はそれ以上何も言わなくなった。

私の事は資料見ればわかるだろうに。

協調性が皆無、人の輪の中に入らない、一匹狼。

その三つを上げれば私の性格や気性はわかる。

「とにかく、学校は行かないからな。その他の事なら私は喜んで外に出るけど。」

私が学校に行かない理由を敦に言い終えたその時インターホンが鳴った。


「誰?」

私は怪訝な表情で敦に聞いた。

敦は「優が通う学校の校長と教頭だ。」と言った。


校長、教頭と言われた人たちは、家の中に入ってきた。

私はソファーに座ったまま動かなかった。

敦にちゃんと座りなさいと言われても無視した。

校長と教頭は片方が抜けてる感じがして、もう片方は頭がキレる感じがこの二人の第一印象だった。

「君が明日から本校に通ってくれる生徒かな?」

校長が私に話しかけてきた。

いやいや、明日から通う気ゼロなんですけど!とは言えず。

「私の名前は、濱聖だ。濱先生と呼んでくれ。」

総合学科の校長か。でっぷりしてるから狸と見間違えた。

「私の名前は、山下です。山下先生と呼んでね。」

この人が総合学科の教頭か。人当たりのいい顔してるけど、中に秘めたるものが少し冷たく感じる・・・。

というか、この流れ・・・、自己紹介せにゃならん流れになってるじゃないか。嫌なんだけどなぁ。まぁ、ここは空気になって乗るか。まぁ、乗るとかそんな事は言わなくていいのだけれどって、何を言ってるんだ私は・・・。

「佐々木優です。『ゆう』と書いて『スグリ』と読みます。」

私は渋々自己自己紹介をした。

すると、校長が話し始めた。

「いやはや、警視庁の人から頼まれているとはいえ、この子が人を1000人も殺していたと言われてもねぇ。にわかには信じられない話だよ。」


この校長・・・、資料読んでないのか。

狸じゃないか。本物の。まぁ、失礼だとは思うが。

「明日の学校集会は出たくなかったら出なくていいからね。転校生が来た、名前だけでも私から伝えておくしね。無理しなくていいよ。じゃ、私達はこれで。」

校長は敦が出したお茶をおいしいと言って帰っていった。


しかし教頭は、帰らなかった。

「校長も自分勝手な人だなぁ。私達じゃなくて私は。でしょうが。私はまだ帰らないって言ってあったのに。」

物腰柔らかそうな話し方だなぁ。

でも、少し硬い雰囲気をまとっているのというのを感じた。

「教頭は、総合学科に勤めていて、私のような生徒を見たことがありますか?」

私は質問した。

教頭は少し考えてから答えてくれた。

「君みたいな生徒は初めて見るね。私は総合学科に勤めて十年以上だけれども、初めてだね。よろしくね。佐々木優さん。」

「はぁ。気になりますね。どんなクラスかが。というか、自分以外にも自分と似た境遇の事かいるんですか?ほら、加害者側じゃなくて、被害者側で。」

教頭が困った顔をしたのが見えたので即座に謝ったら、何で謝るんだ?と逆に聞かれてしまった。教頭曰く、

「自分以外にも自分のような境遇を抱えた生徒がいるのか?そういうことは気になって当たり前だよ。逆に気にならない方が私は驚きだがね。」


ということだそうだ。

気にならなくて当然だ。むしろ気にするふりをしたのに。驚きって・・・。そんなに対人関係が大事なのか?学校とやらは。

そもそも社会に必要なのか?

言うこと聞かなかったら処刑、という世界が普通だった私には理解しがたい。

「教頭、私は学校へ行きたくありません。というか、テストの日だけを教えてください。」

私は学校へ行きたくないと教頭にきっぱりと言った。

教頭は「何で?」と聞いてきた。

「何故とは?そんなの考えたらわかるでしょう。協調性が皆無なのは知っているんでしょうが、私は元々人と集団行動するのが何よりも嫌いです。自分ができていても、仲間ができていなかったら連帯責任なんてそんなの知ったこっちゃあない。」

私は自分に協調性が無いのは知っていた。

だから敢えてそれを教頭に言った。私は学校にいても迷惑をかけるだけですよ、と。

しかし、教頭の反応は私の予想から斜め上の発言をした。

普通なら「じゃあ、来るな」と言われることだが、教頭は、

「それなら仕方ないね。テストの日程は小久保先生に渡すから、その時だけおいで。そのほかの事は自分の好きにしたらいいよ。僕ら大人が口を出すことじゃないからね。」と言って教頭は帰っていった。

帰り際に「明日、自己紹介だけでも来たら?」と言われたが、明日の事だ。明日にならないとわからないと答えたら、「待ってるよ」とだけ言って帰った。

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