出会い、それから
思い付きで書いた。
殺した
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
「や、やめろ。こ、殺さないでくれ…」
懇願されても殺した
「何でもするからぁ。殺さないで。死にたくない。」
奴隷に成り下がりたいと提案されても殺した
「お、お前、俺を殺したらどうなるかわかってんだろうな。」
脅されても殺した
「私を手合わせしたいと?では」
言葉が続かないうちに殺したりもした
恐怖は無かった
仕事だからどうでもよかった
返り討ちにしようとやってきたやつらも全員殺した
お金さえもらえれば何でも良かった
正義なんか関係なかった
悪も関係なかった
自分の気持ちも関係なかった
こんな自分の事を殺される寸前の人間は『死神』と呼んだ
そんな異名を付けられても殺し続けた
殺し続けて殺して殺して殺し飽きた時、他の人からしたら何でそんなミスをするんだ?と思うような初歩的なミスをした。
通常ならば絶対に消すはずの痕跡を消すのを忘れた。ただそれだけ。
けど、今の警察の鑑定技術は上がっているのは知っていた。
見つかるのも時間の問題だと思っていた。
案の定見つかった
見つかったのはコンビニに強盗が入った時居合わせた私がその強盗を再起不能になるまでボコボコにした後、警察が状況確認に来たときに顔バレした。
任意同行を促された。
私はこの場から逃げようかと考えた。
でも、もう殺すのは面倒くさい。
だったら、捕まって死を待つ準備をしようじゃないか。
そう考えた。
だから従った。
暴れることもなく、殺すこともなく、あの場所を血の海にすることもなく。
警官の指示に従った。
そしたら一人の警官が「こいつがあの死神か?結構おとなしいじゃないか。死神って言われても信じられないね。こんなガキ。」と言ったのに対してもう一人の警官が「あんまり刺激しないでくれよ。俺まで巻き込まれて殺されるのはゴメンだからな。」と言った。
私はその判断は賢明だと思った。今ここで私の事をぼろくそに言った警官をフォローしてなかったら、その口をきいた警官は肉塊化していただろう。
もちろん骨も粉砕していただろう。
でも、もうそういうことはやらなくて済む。
警察署に連れてこられた私を見てその警察署の署長は鯉のように口をパクパクさせていた。こんな幼い子が・・・?みたいな顔をして。
手を後ろに回されて手錠をかけられた。
足を縛られて、どこかの市場に売られていくロバのように棒に吊り下げられ警護車両?に乗せられた。
供述とか、自白書にサインとか、裁判とかは全て省かれた。
そして、縛られたまま刑務所に連れて行かれ、手錠・足の縄を解かれて部屋に入れられた。いや、放り込まれたと言った方がいいかもしれない。
やっと解放された
そう思った
死刑になるのは当然だろう
そう思った
後は、死を待つだけ、そう思っていた
なのに
刑務所に収監されてから一年たつか経たないか判らなかったが、その頃に私は警視庁に呼ばれた。
私は何で呼ばれたか判っていなかった。
死刑が早くなる、そう思っていた。
早くいなくなれる、そう思っていた。
でも、予想と現実は違った、当然だけど。
目隠しをされ、もちろん手錠はかけられたままの状態で頭からさらに黒い布を被せられた。
(何なんだよぉ)
思いながらエレベーターに連れて行かれ、乗せられた。
どんどん下に降りていった。そんな感じがした。
「降りろ」
押し出された。
痛いわ。
「歩け」
背中を力強く押された。
そんな事されなくても歩くよ。
黒い布を被せられた状態で歩いていくと壁らしきところにぶつかった。
その状態を見た?男たちは私の両腕を左右持って宙ぶらりんの状態である部屋に連れて行った。
椅子に座らされた。
ベルトで身体・両足・両腕を椅子に固定された。
頭から布が外された。
目隠しも外された。
部屋の明るさが目に染みた。
目をしぼめた後、目の前に何かがあるのが判った。
私の目の前には死体が転がってた。
「なぁにぃ?これぇ。」
コレが何かは判ってたけど、聞いてみた。
でも、ここに連れてくる意味が解らなかった。
「見てわからんのか。死体だ。」
いやいや。見てわかるから。それは。
何でこんなところに連れてきたかを聞いてんの。こっちは。
「あぁ。聞き方が悪かったらしぃねぇ。私が聞きたいのは何でここに連れてきたんだぁ。っていうコトぉ。」
わざと煽る感じで言った。けれど、取り合ってくれなかった。さみしー。
男は片目で私を見た。
「囚人番号9696。佐々木優。」
突然名前呼ばれた。っていうか、この人名前の読み方分かってるのかねぇ。
『ゆう』、じゃなくて、『スグリ』、なんだけどなぁ。従っておこうかな。後が面倒。
「へぇい」
結構気の抜けた返事になった。怒ってないよねぇ。
「お前、表舞台に戻る気はないか?」
一瞬何を聞かれたのかわかってなかった。
何言ってんだこのオッサン。
「はぁ?」
男は声を殺して笑っていた。
「くっくっくく。」
何がおかしいんだよ。
「何?表舞台に戻るだぁ?何言ってんのオッサン。頭おかしいんじゃねぇのか。」
「おかしくはないさ。」
「じゃあ、冷やかしかいぃ?」
「冷やかしでも何でもない。」
「は?じゃあじゃあ、本気で言ってんの。」
「本気だ。時に9696よ。問おう。生まれてからここに収監されるまで十五しか生きてないお前が1000人以上も殺せた?」
「仕事って言われたし。親が借金してたし。何にも特技がなかったし。あの生活にも飽きてきてたし。もうここで死を選んでもいいかな?って思ってた時に来た仕事?だったから。受けた。」
「ただそれだけか?」
「そうだよ。それだけ。」
「殺せたから殺しただけなのか?本当か?」
「私は死体の前では嘘をつかないよ。殺せたから殺しただけ。そう。それだけ。」
男は頭を抱えたフリをした。
「じゃあ、リスクを抱えてまで殺した理由は?」
リスクを抱えた?何言ってんの?本当に何の質疑応答だよこれは。
「そこに私に対してのメリットがあったから殺した。」
「メリット・・・か。果たして何の、どんなメリットかな?」
「お金」
「金?そんなもの働けば働くほど溜まっていくもんじゃないのかね?」
何言ってんだこのオッサン(三回目)
「知らんし。メリットだか何だかの話だったっけ。で?要件は?」
「お前もせっかちな人間だな。」
「アンタに言われたくはないね。」
「食えない男だ。」
いやいや、女だからね?男と間違えるのはいいけど後で訂正しろよ。
「で、本題に入らせてもらおうか。」
入るんかい。しかも入るのおせぇんだよ。
今までは茶番だったのか。
「たった今貴様はメリットがあれば殺しを続けるといった。そうだろう。」
「殺し続けるとは言ってない。それが何か?」
「では、コイツを殺せと命じられれば殺すか?」
男が指を指したその先には、男がもう一人立っていた。
「こいつは今、新たな部署を立ち上げるための駒にすぎんのだがな。駒なのだが、その部署にお前も入ったらどうだ?と提案をしているわけだが。どうかね?殺せるかね?無理かね?二者択一だ。」
そんな提案は聞いてない。今初めて聞いた。このオッサン、私の事をメンタリストか何かだと思っているのだろうか。それは絶対違う。あと、その男を殺せと命じられても殺さない。だって。
「殺すメリットがないから殺さない。」
「ほぉほぉ。そこはメリハリがつくのか。」
メリハリがつかない狂人みたいに言わないでくれ。私はジェイソンではない。
戦争狂人(ウォーモンガ―)でもない。
「彼、駒なの?」
「そうだ駒だ。」
「なら私に預けなくてもいいじゃん。駒であればいつなんどきでも使えば彼も文句はないだろ。」
「それがね、彼は、この警視庁総監のご子息でねぇ。」
「その、駆け引きに私を噛ますのか?汚ねぇ手口使ってるな。」
「駆け引きじゃないさ。総監から息子さんの事を聞いてるんだがねぇ。
どうやらデキる人らしいんだが。総監がねぇ。うるさくて・・・。」
「だから、その話をもうすぐ死刑が執行される私に持ってきたのか。そりゃまた何でだ。他の囚人でもいいだろうがよぉ。」
正直、自分でもわからなかった。
何で死刑確定の私がこんな場所に連れてこられてこのオッサンと話してるんだろう?
結構な疑問だぞ。コレ。
「他の囚人であれば息子さんを見たら興奮して失神して死ぬだろ。」
興奮して失神して死ぬだぁ?
そんなに顔がいいのか?
私にはそこら辺のモブと変わりないように見えるのだが・・・。
「そこまでイケメンだといいたいのか?私は何でもいい。そんな事はどうでもいい。」
「って言ってるが、貴方はこれでいいのですか?これから部署を立ち上げるにあたって貴方はこれと一緒に動くんですよ。もう、替えは聞きませんが・・・。」
と、男は彼に聞いた。
彼は鼻で笑った。
オイコラ。鼻で笑うな。
「ハッ。僕が言わなくても着々と進めてるんでしょう?もう彼女に断る拒否権はない。元から拒否権を奪ったうえで彼女をここに連れてきた。そうではありませんか?警視正。」
男は、またも声を殺して笑っていた。
「面白いですねぇ。お二方。えぇ、そうですよ。9696に拒否権なんてものは最初から存在しない。それは、9696だって解ってる筈だと思うんですが。そこのところはどうだ?9696よ。」
どう思う?っていわれてもなぁ。感じたままの意見を言えばいいかな。
「最初から存在しないのはいつものことだろ。解る以前の問題だ。」
警視総監の息子は吃驚した顔をした。
言われる前からわかってたことなのに、そんなに吃驚するほどのことなのか?と私は思った。
むしろ、拒否権がある方がびっくりだわ。
警視総監の息子と私の顔芸を見た警視正と呼ばれたオッサンは薄気味悪い笑顔を浮かべていた。
「やっぱり、そうですか。貴女は最初からこうなることを予測していたんですか?」
「予測はしていない。話の流れからこうなることは判っていた。というか、こうなる流れに持っていかれる、誘導していただろう。」
「判っていましたか。やはり、1000人以上を殺しただけの観察眼だ。」
観察眼なんてものはここでは通用しないだろ。
洞察力もなんら意味を持たない。
空気になることだけが意味を持つ。
「彼女に僕のことを紹介しなくてもいいのですか?」
彼はオッサンに問うた。
オッサンは冷ややかな目を彼に向けた。
まるで、「お前はすっこんでろ」とでも言いたげな冷酷な目。
しかし彼はおかまいなしに続けた。
「小久保 敦です。26です。身長は187センチ。宜しくお願いします。」
彼の顔からふざけた笑顔が消えていた。
真っ直ぐに見られている。
値踏みされているような感覚。
気持ち悪いと思わなかった。
むしろ同類だと思った。
その眼差しは、私が殺す人間を斡旋している時に使っていた目と同じだったからだ。
こちらも同じように値踏みする。
(・・・この男、使える‼)
その考えに至るまでに一秒もかからなかった。
「佐々木優です。身長は175センチ。こちらこそよろしくお願いします。名前の読み方は、『ゆう』じゃなくて、『スグリ』と読みます。」
彼、敦は、提示された私の名前の漢字に対して吃驚した顔をした。
「ゆうじゃなくて、スグリ、か。うん。よろしく。ゆう。」
ゆう…だと?誰もその名を呼ぼうとしなかったのに、お前は、敦はその忌まわしいとされている名を呼ぶのか。
まぁ、自分で読み方を提示したから仕方ないか。
読んでくれてありがとう。