第6話 風の子、約束する
ウィルが攫われて落ち着かないオルト。今から探そうにも黒服の正体が掴めない事には動けない。右往左往し、あれもこれもダメだと考えては後悔を繰り返していた。
そこに勢いよく家のドアが開け放たれる。
「ただいま!!」
無事に帰ってきた。父さんはホッとしてるみたい。お兄ちゃんも部屋から出てきた。
そろったみんなに対して今まで起きたことを話す。襲われたこと、そこに竜巻が来て吹き飛ばされたこと、見つかってしまい再び追いかけられる中で風魔法が使えるようになったこと。
「風の魔法なんて聞いたことないぞ?」
お兄ちゃんが疑うように見つめてくる。せっかくだから風の魔法を見せることにしよう。
手を広げてハンカチを浮かせようと念じてみる。肌に風を感じ、ハンカチはふわりと浮いた。
「まぁ確かに浮いたけどなぁ・・」
お兄ちゃんのリアクションが良くない。仕方がないからもっと思いきりやってみよう。
両腕を使って持ち上げるようにイメージする。身体の下から突き上げるように風が湧く。
空中に浮きながらお兄ちゃんに言う。
「これならどう?」
「お、おぉ・・これは凄いな。。」
お兄ちゃんが驚いてくれた。エリートであるお兄ちゃんを驚かすのは簡単なことじゃない。
やったね。
そして冷静になったお父さんとこれからのことを話した。
風魔法を扱える人はこの世界にほとんど居ない。だから力を付けるまでは風魔法を使わない事になった。
当然これからは魔法の授業をしない事になってしまった。そしてひたすら剣術や歴史などの基礎を学ぶことに専念することになった。
「いつかその力が役に立つ時が来る。それまではお預けだ。」
それから5年。明日で俺は10歳になる。2年前には兄さんは騎士団に入り家を出て行ってしまった。
そして僕も明日に家を出ると決めていた。この歳になると貴族でも学園に通うようになるのが普通だ。
しかし、僕は違った選択を取ろうと思う。冒険者になるんだ。僕は冒険者になって沢山のものをこの目で見て回りたい。先生に教えてもらったモンスターを触ってみたい。魔法だって知られていない風魔法があったように別の魔法があるかもしれない。そう考えるとワクワクして堪らない。
夜ご飯の時、父さんが緊張した様子で話し始める。
「明日で10歳、以前から冒険者のなるという話は聞いていたが変わりないか?」
「うん」
「わかった。ならすべてを話そう。」
そうして父さんは俺が本当の子どもではないことを語った。父の名前はガイル、母の名前はウィズ。昔に冒険をしたことも語ってくれた。衝撃だった。
しかし、父さんは続けて言った。
「それでも、産みの親はあいつかもしれないが、それでも俺はお前の父でありたいと思っている。
いつでも帰って来なさい。」
そう言ってくれたことが何より嬉しかった。
次の日
僕はコートのポケットに回復薬を詰め、肩掛けカバンに弁当を入れる。玄関で靴ひもをしっかりと締めてこれから旅に出る。
「お父さん、いってきます!!」