第5話 風の子、誕生する
「旦那様、申し訳ございません。」
ウィルが黒服に見つかったころ、フリード家の書斎に大きな声が響いた。
「やはり課外授業は危険が大きかったか。」
ウィルの父オルトは後悔した。
貴族として過ごす以上、攫われる危険は常に存在する。だからこそ、兄ゼクトが生まれた時に[10歳になるまでは外に出さない]というルールを作ったのだ。しかし、それでも父オルトはウィルに魔法を使えるようになってほしかった。
今はうまく扱えないとしても、ウィルに魔法の才能があることをオルトは知っていたから。
実はウィルはオルトの子ではない。親友ガイルとその妻ウィズの子だった。
ガイルは世界一の剣士と言われる実力を持ち、地中深くに眠る巨大ゴーレムや山の頂に住むドラゴンと戦ったこともあるほどだった。オルトとガイルは同じパーティで冒険を共にした。
あるとき、この世界を天変地異が襲った。地割れに落雷が発生。世界を支える魔力のバランスが大きく崩れたのだ。異変を解決するために行動したパーティはその道中、風の大精霊であるウィズと出会う。そして協力するうちにガイルとウィズはいつのまにか恋仲になっていった。
やがて諸悪の根源となっていたエントロピーフィールドにたどり着き、封印に成功した。
しかしそのための犠牲は大きかった。ガイルはウィズを守るために命を落とし、封印に全力を注いだウィズは弱まり、存在を消失させてしまった。その間際にオルトはウィズから生命の種を預かった。
それから生まれた子こそウィル。オルトは二人の子を託されたのだ。
だからこそウィルが魔法を使えないなんてことはあり得ない。
ウィズの子である証である魔法をウィルにも使えるようになってほしい。
そう強く願ったオルトは特例的に課外授業を認めたのだった。