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指原マナミ(カズヨ)

「ハァ~、今年で27歳、そろそろ変え時かなぁ? 老け顔とか言われるし……。周りも卒業匂わせてくるし……。」


 一人楽屋で愚痴をこぼす指原マナミは、アイドル然とした美少女という程ではない。だが、その愛嬌と対応の巧さで二年ほど前までは絶大な人気を誇るトップアイドルであった。

 

 しかし、25歳を超えたあたりから、明らかに『環境が変わった』とマナミは実感していた。愛想のいいスタッフ、なんでも言う事を聞いてくれたマネージャー、羨望の眼差しを向ける後輩たち、その全てが変わってしまった。

 人気の低下。それを如実に表すように、総選挙でのランキングも下降していく一方であった。

「前の体はもっと持ったのにな~」


『年齢詐称』『おばさん』『老け顔』等と言われるマナミだが、年齢は胡麻化していない。正真正銘の27歳である。だが中身は60歳を超えている。そこは胡麻化している。


 ちなみに中の人の本名は『野町和代』という。すぐに昭和生まれだとバレそうな名前である。この絶妙にイモ臭くダサい名前が、マナミは本当にコンプレックスだった。両親を呪うほどに。

 なによりどうしようもない不細工に産み落とした事も、心底恨んでいた。そんな経緯もあり元の体を捨てるのに、何ら躊躇いを感じなかった。


『マナミおばさんくさ~い』と、からかわれるとドキッとするが、そこは巧く胡麻化している。ふいに出てしまうおばさん臭さも意識して隠すようにしていた。ジェネレーションギャップを補うための勉強(どりょく)もかかしていない。

『体は少女(27だが)だけど頭脳は大人』なぜそんな事になっているのか、それはある場所で他人と体を交換する方法を、マナミが偶然見つけたからであった。


 あれは本当にマナミ(カズヨ時)の予期せぬ出来事だった。鏡に映る醜い自分に体当たりすると、なんと鏡の中に入り込んでしまったのである。そして出られなくなったのだ。そこで行きかう人々やカップルを、羨むように強く念じた時、奇跡は起こったのである


 最初は混乱したし、いろいろ大変だった。だが、数回繰り返した今では鏡の仕組みも理解し、交換後の体の処理も手際よく行えるようになった。


「小遣い目当てに営業先のキモ親父とハメ撮りしちゃったし、まぁいっか」

 マナミは次の休みを利用し、体を交換しに行くことに決めた。数十年前に完成した、あの遊園地、裏野ドリームランドへ。


 休み(オフ)までの間にマナミは諸々の準備を済ませていた。貯めたお金の移動や引っ越し先の準備などである。ニンベン師の確保(身分証などの偽造をするプロ)、入れ替わった先の体を売り込む準備(あて)も抜かりない。付き合っていた男達からかなり強引にお金を取り立ててしまった手前、もう後戻りは出来ない。




 ミラーハウス、入り口から48枚目の鏡の裏でマナミはかれこれ2時間ほど待っていた。多少は長期戦を覚悟していたマナミだが、さすがに焦れてくる。

「な~んか、パッとしないブスばっかだなぁ。今日はもう帰ろうかな」

 鏡の裏で持ち込んだお菓子を食べながら呟いた。あたりにはマナミが食べ散らかした空き箱や、空のペットボトルが散乱している。それと、入れ替わった後の処理をする道具(ノコギリや手袋、袋など)も置かれていた。


 日ごろからアイドル仲間といる時間が長いマナミは、多少見る目が厳しくなっていた。

整形(てなおし)で微調整するから、多少妥協してもいいんだけど、人気が出て長く使える若い体がいいしなぁ。ま、失敗しても最悪また入れ替わればいいしねぇ~。でも、後の処理(・・)がめんどくさいからなぁ」

 残り少なくなってきたお菓子を見つめ、そんな事を考えていたまさにその時、

「お、あの子ならまぁイケるかな、丁度一人だし」

 不安げにキョロキョロしながら歩いてくる、長い黒髪の少女を発見した。


『大輔さ~ん、どこにいるの?』

 一緒にミラーハウスに入った人を探しているのだろうが、人目を気にするように小声で名前を呼んでいる。


「あの子に決~めた」

 ニヤリとマナミは唇の端を上げると、


「鏡よ鏡よ鏡さん――」

 鏡の前で不安そうに立ちすくむ少女に向け、呪文(おまじない)を唱えた。


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