幻聴
「こっち、こっち」
木や花が身を揺らし、手招きをして呼んでいる。
「後ろを見ないで。こっち、こっち」
優しい声で呼んでいる。
草を踏んで分ける音を聞きながら、呼ぶ声に耳を傾け、まゆを傾け。
波の音が聞こえても、岬すら見えてこない。
呼ぶ声は地鳴りに近づき、嵐が揺らす。
言われた通りに進んでも、怒られてしまうのは何故だろう。
もしも白い柵があったなら、それを飛び越し赤く染めたい。
「こっちにこい、こっちにこい」
狂った笑いに、騒めく森。
パレットの上で混ぜた絵の具のような視界の先には、天国からの光。
一歩を踏み出した時には、家族の泣き顔。
「こっちにこい、こっちにこい」
笑う太陽、見下しながら死を招く。