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惨文詩

イミ

作者: 舞端 有人

貴方は旅人、今日も当て所ない旅を続けています。


ある日、貴方は村を見つけてその中に入りました。


村はそれなりの人がいて、ごくごく普通の生活が営まれているようです。


貴方はそんな村にいたご老人に声をかけました。


「貴方は何故生きているのですか?」


老人は柔らかな笑顔を浮かべてこう答えてくれました。


「孫たちの顔を見るためさ。私の命はもうあまり長くない、私たちに未来は無いけれど、孫たちが明るく未来に向かう様を見ながら逝きたいんだ。だから、それまで生きているんだ」と。


またある日、貴方は酷く廃れた村を見つけそこに入って行きます。


そこで貴方は痩せ細った子供に声をかけました。


「君は何故生きているんだい?」


子供はギラついた目でこう答えて来ました。


「豊かになるためさ。食べて、生きて、いつかこんな状況から抜け出してやるんだ。今を生きぬかなくちゃ明日は来ない、そしたら豊かにもなれないだろ?」と。


またある日、貴方はとても発展して豊かな国を見つけそこに入りました。


そこで貴方はとても裕福な研究者の女性にいつも通りの質問を投げかけました。


「貴女は何故生きているのですか?」


女性は自身に満ちた顔でこう答えました。


「それは勿論、人類の為ですよ!先人たちの研究を更に研究して、後世の人間がまた私たちの研究を更に研究していく。そうして解決できない問題を解決する。ただ子孫を繁栄させるだけなら人間で無くても良いのです。これこそ、人類の生きる意味なのです!」と。



またある日、貴方は長い長い道を歩いている時に、向かいから貴方と同じ様に旅を続けている人が見えたので、貴方はまた同じ様に声をかけました。


「貴方は何故生きているのですか?」


旅人は真顔で貴方の目を見つめ、こう答えました。


「私にも分からないのです。何故生きているのか、何の為に生きているのか。

だから私も貴方と同じ様に質問をしながら旅を続けています。

ある老人は孫の為だと言いました、ある子供は豊かになる為だと言いました、ある研究者は人類の為だと言いました。彼らは皆、これから先待っている未来に対して希望を抱いています。

ですが、私には明るい未来が待っているとは思えないのです。

彼らの様に、未来に想いを馳せて生きるなど、私には出来ないのです。

だから、私も生きる意味が知りたくて、生きる意味が欲しいのです」


貴方は驚いた顔でこう返しました。


「実は私もそうなのです。私も、何故生きているのか分からないのです。

どうも私には、私自身が未来に残せるものなんてちっぽけな物しかない様に思えるのです。

老人の様に愛する人がいる訳でもなければ、子供の様に野望も無く、研究者の様に壮大な計画もありません。

私という人間が、何故この世に生を受けたのか疑問でしかありません」


2人は話し合い、悩みました。お互いに生きる意味が無かったからです。


そして貴方たちはお互いの事を振り返り旅人がこう言いました。


「私たちには生きる意味がありませんでした。ですが、貴方も私も今まで生きてきた訳です。

という事はつまり、私たちは生きる意味を見つける為に生きている訳です。

ですから、私たちが何故生きているかと問われれば、生きる意味を見つける為。と答えれば良いのでは無いでしょうか」


「ええ、そうしましょう。それがいい。

私たちは生きる意味を見つける為に生きているのです。もし死ぬとするならば、それは勿論、生きる意味を見つけた時でしょう」


2人は満面の笑みを浮かべて、お互い笑いあいました。


そして彼らはまた長い旅路に出ました。


生きる意味を求めて。

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