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いきなりやらかしました

とりあえずここまで。

気が向いたら続きを書こうかなと思います。

困惑するアイラを連れて、エースは街の入り口へ走る。

周囲の騒ぎは広まっており、悲鳴や怒号で沸き立つ街の人々を掻き分け、ひたすらにエースは走り続ける。


「ねえ、ちょっと!何が起きてるの!」


「多分騒いでいる通りのことが起きてる。ちょっと勝ち目がなさそうだし、逃げるしかないよ」


エースはそう言うが、これが正しいかどうかはエースにも分からない。

ここから先がオープニングに繋がるのだとしたら、シチュエーションは辻褄が合うが、微妙に異なる点がある。


(タイムスケジュールが不明なんだよな。オープニングの後、(エース)がアイナ姫を連れて逃げているって感じだったけど、まだ街に火の手は上がってない。だとすれば、今のうちに逃げ出せば戦わずに済むか……?)


エースの冷静な部分、すなわち文也の意識は、「あのチュートリアル戦闘」を避けたかった。

夢の中とはいえ、戦いたくはないし、死にたくはない。

自分(エース)はそれなりに戦えることは分かっているものの、文也の人生経験で剣を持って戦うなんて経験はしたことがない。


「モンスターが街を襲ってるなら、私は行かなきゃ……!」


「ダメ。相手の狙いは、アイナちゃんとアイナちゃんのお父さんだから」


思わずエースの口から出た言葉に、アイラはエースの手を無理矢理解く。

その行動に驚いたエースは思わず足を止める。


「……なんで知ってるの?」


「えっ?」


「だから、私がアイナってこと、なんで知ってるの?お父さんのことも、なんで知ってるの?相手の狙いなんて、なんで知ってるの?」


「それは――」


後ずさりながら震え声で問うアイラ――アイナ=ブリリアントを見て、エースは己の失言を後悔した。


「私は――あなたの名前も、知らないのに!」


そう言い放ち、アイナは入り口とは逆方向に走り出した。

それを呆然と見るエースは、周囲の火の手が回るまで、ただその場に立ち尽くした。



◆◆



「くそっ、くそっ、マジか!何なんだよこれ!」


確かにエースは自分の名前を彼女に告げていなかった。

文也が繰り返したチュートリアル。この中でアイナが「エース」と呼ぶセリフが多かったこともあり、最初に教えているものだと思い込んでいた。

心は文也でも、体はエース。逡巡はしたが、アイナを放っておくことは出来ない。必死の思いでアイナを追いかける。


(いきなり本名で呼ばれて、相手の狙いを知ってて、連れて行こうとする……うん、怪しすぎるな。アホか俺は)


今の文也はエースである。

だが、どうにも思ったように行動が出来ないことがある。エースの行動に文也の思考が引っ張られるような感覚がするのだ。

ぶっちゃけた話、文也としてはアイナをどうしても助けたいという思いはあまりない。

可愛い少女を助けるのは男の本懐かもしれないが、命を張ってまで助ける義理がある相手でもない。

だから文也はやらかした後にさっさと逃げることを選んだのだが、エースは逆の行動を取り始めた。


(ゲームキャラだから、シナリオ通りに進まなきゃいけないのかなあ……俺死にたくないんだけど)


そもそもこの状況からエースがアイナを連れて逃げることが可能なのか。

アイナはエースを不信感を持って、父親の元へと向かってしまった。

ここからチュートリアルまでの流れに向かうとなると、かなり強引な方法で連れ出す必要があるように思う。


(考えても仕方ない。もう(エース)は行動に移しているんだ。あとは流れに任せるか)


この時点で文也は余計なことを考えるのをやめた。

冷静な部分を捨てるわけではないが、エースが思うように行動し、必要な時が来たら文也の思考を表に出せればいいな、という程度に留めることにした。



遂に街中に火の手が上がりだした。

ここに至っては猶予はない。エースはアイナを一心不乱に探し、ついに背中を捉えることが出来た。

だがしかし、その状況は一刻の猶予もない。


「アイナッ!」


そう、彼女は既にモンスターに囲まれているのだ。

不幸中の幸いか、エースから見れば大したモンスターではないように見える。

蟻を大きくした程度のモンスターで、いっぱしの冒険者であれば、1対1なら余裕。囲まれているといっても、たかが4体。一撃で1体倒す自信もある。


声に気付いたアイナは振り返ると、そこにいたエースに驚く。


「何をしにきたのですかあなたは!さては私を――!」


「違う!俺はアイナを助けに来た!その証拠を見せてやる!」


エースは剣を抜き、即座にアイナの前に立ちふさがり、剣を抜き、素早く2体を倒す。

この時点で文也の意識は働いていない。一瞬のことであり、何をしたかすらよく分かっていない。


片やエースは、自分のしたことに違和感を感じる。

確かに俺は武芸全般に心得があるが、単純な一撃で蟻を倒すことが出来ただろうか?

それだけではなく、自分の体がやけに軽い。無造作な攻撃で倒せるほどの腕力もなかった。

だがいいことばかりでもない。どことなく技の冴えが悪い気がする。


「はあっ!」


だが単純な一撃で蟻を駆逐出来るのであればそれにこしたことはない。

瞬く間に囲んでいたモンスターを殲滅すると、アイナに声をかける。


「言ったでしょ?俺はアイナを助けに来た、って」


先ほどの男とは思えないほどの実力。そして嘘偽りを感じさせない男を見て、アイナは少しばかり男を見直した。

アイナ単独でも勝てない相手ではなかったが、父を助けるためには魔力を温存しなければならないのだ。


「全面的に信用する、ってわけにはいかないけど……あなた、信じていいのね?」


「そこはアイラちゃんに任せる。って、さっきはゴメンな。誤解させちまったみたいで」


「アイナでいいわよ。さっきもアイナって呼んでたし。私の名前――いえ、私の名字まで知ってるんでしょ?だったらお父様からの警備役だったんじゃないの?」


返答に困るエースだったが、アイナは答えまでは求めていなかったらしい。


「そう考えれば、私を逃がそうとしたのは、お父様の指示だった……違うかしら?」


これまた返答に困る問いであったが、これについてはエースの返事は決まっていた。


「いや、少なくともアイナの親父さんからそんなことは聞いてない。あくまで俺がそうしたかったからだ」


「何か、またあなたが信じられなくなりそうなんだけど」


胡乱気に見つめる視線が痛い。

だが時間は待ってくれない。ここに至ってはアイナの父親の元へ向かうしかないだろう。


「後でいくらでも詮索すればいいさ。俺にやましいことは……あんまりない」


「ちょっとはあるのね?」


「否定はしない。けど、とにかく親父さんの下へ向かおう。この街はもうあまり長くは持たない」


アイナの返事を待たずに手を取り、「どこへ向かえばいい?」と問う。

この行動に彼女は僅かに顔を赤くしたが、1つだけ確認しておくことにする。


「……あなたの名前は?」


「エース=グロリアス。冒険者としては駆け出しだけど、そこそこ戦えると思うよ」



アイナがエースに父の居場所を伝えると、彼女の手を引き一目散に駆け出す。

ここに至って文也は、ここがオープニングのスタート地点なのだと理解する。

納得出来ない点もいくつかあるのだが、シナリオの辻褄合わせということにしておくが、こうなると次の展開も簡単に予想が付く。


「逃がしませんよ、アイナ姫」


父親の居るはずの場所の一歩手前で、聞きたくはなかった覚えのあるセリフが飛び込んできた。

発したのは、何時の間にやら目の前に居た、「魔族」というフレーズが似合いそうな若い男だった。

紳士というものを勘違いしているシルクハットと黒の燕尾服を着たその男は、冷ややかに嗤っていた。


「そんな……高位の魔族まで来ているの!?」


「城に篭られては厄介ですが、この街では護衛も多くはないでしょう。贄はあなたでも十分事足りますからね。父親はついで、といったところです」


この会話の中身を完全に理解しきるのはエースも文也も不可能だった。ただ、文也は「詰み」とまでは考えていなかった。

エースは「高位の魔族」……即ち、モンスターを使役する存在ということは理解出来た。ついでにその力量も。今の自分の力量ではこの窮地から逃れる術はない。

文也はまず魔族というものが分からない。だが、この場でこの男を倒す必要はない……はずだ。


「では私の手飼いに相手をさせましょうか。モコッコよ!この者達を生け捕るのだ!」


男がそう告げると、土の中から異様なサイズのモグラが3体現れた。

成人男性のそれより体格もよく、頑丈そうなイメージがする。そして何より――。


「魔族使役のモンスターか、やべぇな」


モコッコ自体は、その辺りにいるモンスターでも下位の存在。普通のモグラと違って、少しばかり戦闘能力がある程度。

しかし、それが高位魔族の手飼いとなると話が違う。

同じモンスターでも、魔族に使役されているのとされていないのでは、強さが桁外れに異なるのだ。

アイナもそこまで考えが回ったらしく、ここに至っては、と結論を出す。


「エース!私のことは――」


「それ以上言うな、アイナ。何としても2人で辿り着くんだ!」


エースにとっては愛剣――文也にとっては初めての武器を手に取り、モンスターと対峙する。

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