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捕食種  作者: 高槻幸
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放課後の過ごし方

放課後の過ごし方


貴乃は孤児である、故に帰る場所はなく、自動的に寄宿舎に身を寄せているのである。

部活動には正式な登録はしていない、しかし、貴乃には行くところがあった。

放課後に開放される、MURASAMEの仮想訓練装置、そこで自分の腕を磨くのだ。


操縦士を志す貴乃にとって、これはどんな授業より重要なことであった。


訓練室へ向かった貴乃はその中へ入っていった。

教習用の仮想訓練装置がずらりと並んだ体育館ほどの広さのある場所だ。

もうすでに数十人の生徒が集まって、モニターで対戦を観戦したり、自分のタブレットにデーターを打ち込んでいる人の姿がある。


「よう、貴乃、今日も練習か?」


声を掛けてきたのは、いつもここで一緒になる同期の釘城武くぎしろたけしであった。釘城は代々自衛隊の家系で、釘城家といえば、ちょっとした名家である。前回の海自捕食種殲滅作戦に隊長として出撃したのは釘城の一番上の兄である。武はその一番下に当たり、そして言わずとしれたドールだ。


「やぁ武か、テストも近いしな」


「どうだ、今日は俺と一戦」


「そうだな、それじゃ一戦ご教授願おうか」


「よし」


そういうと、二人は仮想訓練装置に乗り込んだ。



「釘城が対戦するぞ」 誰かがそう叫んだ。そして、釘城対水ノ森の対戦実況モニターの前には十数人が集まってきた。



水ノ森が操縦桿を握る。面倒な作業はコンピューターが自動で行ってくれるので、戦いに集中できるのだ。

そして対戦は始まった。


ステージは荒廃したビル群そこにランダムに配置されるMURASAME、このステージでは操縦技能を試すことが出来る。


乗り込んでスイッチを入れると、全面に景色が映しだされた。これは本物の操縦席を模しているものであり、実際の操縦と違和感がない。ただし、放課後は衝撃や傾き等の実際の物理現象はカットされているため、その当たりが少し違和感があるといえばある。しかし、専用の保護スーツを着用しなくて良いため、気軽に体験できるのは嬉しいところだ。


ゲームがスタートした。両機ともステルスモードに入っている、レーダーでは相手の位置が確認できない。貴乃は、まずレーザー探査を行った。瓦礫が多く、レーダーよりは正確ではないが、動きがあれば反応が出るはずだ。


前方、後方共にレーザー探査に反応はない、貴乃はジェットイオンエンジンで空中に飛び上がり、手頃な位置にあるビルの屋上へ登った。


そしてそこから見える範囲を見渡す。もちろんレーザー銃を構えている。

呼吸が少しづつ速くなる、そのとき、警告音と共に、中央のモニターに右後方に移動する物体が表示された、すかさず貴乃は左にイオンジェットを吹かした。空中に舞い上がる両機、貴乃は体制を立て直しながら、レーザー銃をその物体に向けた。


コンピューターがジェットで機体を安定させる、その隙をついて、25ミリセラモニウム弾をバラバラと連射する武、貴乃も負けてはいない、最大にジェットをふかし更に上昇を繰り返す。

セラモニウム弾の射程外に到達したところで、貴乃はレーザー銃の照準を武に向けた。


素早く動きまわる武に照準が定まらない。レーザー銃は破壊力は凄いが、一発必中の代物だ。次段充填まで少し時間がかかる、1〜2秒程度だが、それでも連射できるセラモニウム弾よりは遅い。連射が出来ないのが欠点でもある。


「動き予測を追加、照準を現在の敵へ」


モニターに予測される移動点が表示された。貴乃は、そこをめがけ、引き金を引いた。

レーザー銃の良さは、発射されてから着弾までタイムラグが無いことだ、レーザーだけあって光と同じ速度で進むため、動き予測が完璧なら絶対に外すことはない。


しかし、世の中に絶対という言葉は無いようだ、動き予測はあくまでも予測であり、物理的に敵の存在する場所ではないのだ。どうやら、今回は動き予測は外れたようで、崩れ落ちるビルの煙の中に武の機影が消えていった。


その時である、高出力エネルギーを感知したセンサーが、警告音を響かせた、武がレーザー銃に換装したのだ、エネルギーはすでに充填されている、センサーが反応したのが何よりの証拠だ。


貴乃は、しまったと思った。換装する直前にエネルギーを充填しておけば、0秒射撃が可能になる。

咄嗟に機転を効かせた貴乃は、ジェットを吹かすと、現在の位置から落下を始めた。


砂煙の中ではレーザー監視装置は使えない、もちろんレーダー監視装置が使えない状態では、おそらく位置は最後に確認された座標になると思ったからだ、案の定、レーザーが貴乃の機体をかすめて空へ消えていった。


九死に一生を得るとはこのことだ、レーザー監視装置が使えない時間内に他へ移動しなければならない、貴乃は、ジェットを吹かすと、降下速度を上げ、そして、付近のビルの影へ身を潜めた。


実際のMURASAMEはレーザーの一度や二度程度では機体が破損することはまず無い、装甲板が、レーザーエネルギーを光エネルギーに変換して放射するからだ、しかし、仮想訓練装置ではその機能がはずされている。そのため、一度レーザー銃の攻撃を受けると、ゲームオーバーになってしまうのだ。


貴乃は探査機を6機放った。探査機は、レーダーの使えない時に、レーザーで敵の位置を知らせてくれる装置のことだ。


周囲を探索して、敵がいないこと知ると、ジェットを吹かして高速でホバー移動を開始した。


探査機は薄平たい感じのボディに格納された4つの羽のある、小型のヘリコプターのようなもので、コンピューターが無線操作してくれる、8方についたレーザーセンサーで上下左右、前方、後方を半径2Km以内で探査する、MURASAMEを中心にして空中移動探索をするのだ。探査機ももちろんステルス製だ。


当然、武もこの探査機を使用しているだろう。貴乃は接近戦に備えて、レーザー銃から、セラモニウム銃へと換装した。


ちょうど4つ目のビルを過ぎた当たりで、武の探査機と遭遇した。ということは、ここから1Km〜2Kmメートル以内に武がいるはずだ、すかさず、セラモニウム銃で、探査機を撃ち落とす。


ちょうどその時、貴乃の探査機が、武の反応を捉えた、探査機は撃ち落とされたが、座標はわかった。接近戦だ、探査機を先行させ、その座標に向かわせる、貴乃は探査機が描き出したマップ上を移動した。

おそらくもうその場所にはいないと思うが、調査機を駆使して探せば見つかるのは時間の問題だ。


調査機の描き出したルートを元に、どのルートが最短かコンピューターに指示をさせる。そして、相手も最短で向かってくる可能性があるため、敵の行動予測を立てることも可能である。


最も最適なルートを導き出したコンピューターに更に、敵行動予測を重ねる。

そして、ルート上で最も出会う確率が高い場所へポイントを合わせ、そこに移動するのだ。


貴乃はジェットを吹かしてホバー移動で指定されたポイントへ向かった。接近戦だ、相手もセラモニウム銃を手にしてるだろう、それよりも裏を描いて待ち伏せをしているかもしれない、そう思った貴乃はビルの屋上づたいに行くことを決めた。ジェットを吹かして、ビルの屋上から屋上へ飛び移り接近していく、近くまで来た時、あるビルの上に留まり、探査機を先行させた。


ポイントには居ない。ビルの中に入っていればレーザーで探すのは難しい、何とかして誘いださなくてはならない、探査機の送ってきた3Dマップに従い、待ちぶせポイントを探る。

そして、可能性のある待ち伏せポイントに向かって、セラモニウム弾を打ちまくった。


セラモニウム弾のバラバラと弾けるような音と薬莢が転げ落ちる音が聞こえる。バラセイル皮膜のセラモニウム弾は、コンクリートの壁をものともせずに破壊し、粉砕する。

辺りに砂塵が立ち込める、もちろん、レーザー銃は充填済みだ。


立ち込める砂塵の中、その砂塵を切り裂くようにセラモニウム弾がこちらに向かって飛んできた。

ビンゴ、やっぱりこの辺りに隠れて待ち伏せをしていたようだ。


貴乃はホバー移動を繰り返し武のセラモニウム弾を避けながら、打ってきた方向に向かってセラモニウム弾を打ちまくった。と、そのときだった、前方より上空から突進してくる物体を発見、警告音が響く、それを避けようと移動したのだが、間に合わずその物体(MURASAME)が振り下ろしてくるサーベルが、セラモニウム銃にぶつかり、銃は二つに折れた。


貴乃は、銃を投げ捨て、サーベルに持ち変えると、襲い掛かってくる武にサーベルを振り下ろす。

サーベルとサーベルがぶつかる鈍い音が聞こえ、そして火花が散った。


本当の近接戦闘だ、気を抜けば何方がやられてもおかしくない状況だ。

しかもビルの屋上という狭いスペースで戦っているのだ、イザという時逃げ場がない、貴乃は思い切りジェットを吹かすと、高速ホバー移動でサーベルを武に向けて突進していった。


武はそれを交わそうと、右に全力でホバー移動をする、が・・・間に合わず貴乃のサーベルが武の左腕を突き刺した、そして、貴乃は停止することなくビルの屋上からジェットを全開にして飛び立った、警告音が後方から狙われていることを告げる、武は素早くレーザー銃に換装すると貴乃に狙いを定めたのだ。 


後方から閃光が走り抜けていくのを感じた。貴乃は、2つ隣のビルに飛び移ると、体を返してレーザー銃に換装、そして武ではなく、ビルをめがけてレーザーを打ち放った。砂塵を上げて崩壊していくビル、その中から黒い物体がこちらに向かって飛んでくる姿がモニターに映しだされた。鳴り響く警告音・・


黒い影をめがけてレーザーを打つ貴乃、見えないはずの貴乃に向かってセラモニウム弾を撃ち放つ武、無作為に飛んでくるセラモニウム弾に穴だらけにされながらも、次段充填を待ってレーザーを打ち返す貴乃、そして、貴乃は動けなくなってしまった。モニターに表示される故障箇所の数々、関節という関節のリニアモーターが穴だらけになり、その機能を停止したのだ。


とどめを刺そうと、武が、セラモニウム銃を投げ捨て、サーベルに持ち替えて、上段に振りかざした。

そして、メインモニターである頭をサーベルで潰したその瞬間を狙って、貴乃はレーザー銃の引き金を引いた。



ぶー! というブザーが聞こえモニターを見ていた観衆から歓声が上がった。

モニターに映しだされた 判定中 という表示に皆一喜一憂していた。

試合時間22分36秒 現在判定中 の文字が画面を流れる。

流れていた文字が計測中の文字に変わると、 判定 引き分け という表示が出た。

おー!という歓声の響く室内、二人の対戦を見てどれだけ皆が興奮していたかがよく分かる光景であった。


訓練装置から出た貴乃と武の二人は、お互いを讃え握手を交わした。

「実戦なら俺が負けていたな」と貴乃が言うと

「さぁ どうかな、お前ならおそらく実戦ではもっと別な戦法を取ったとおもうがな」と、武が言った。


つまるところ、実際の戦闘なら、レーザー砲一撃でMURASAMEが破壊されることはありえない。

つまり、仮想訓練装置ではその定義が外されているため、今回はドローに判定された、しかしこれが実践なら、こうは行かなかった筈なのだ。


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