Thanks Despair
東方関係無く読める感じに“なってしまった”のですが、元はそのつもりで書いたので、東方二次創作です
【その昔:どこかの森】
『アアアアアアアアアアアア!!』
消えていく
右腕が大きな、増悪の限りを込めたかの様な半人半竜の黒い異形が消えていく
名前は知らない 聞く暇もなく襲われ、撃退したのだから
「……」
自らが放った魔力の奔流の消え失せた跡には、大蛇が這った様に真っ直ぐ焼け抉れた地面
と
三日月と呼ぶにはボロボロの“弧”を先端に付けた、ボロボロの杖が残った
「……」
魔力を放ち、異形を焼き付くした、しかし杖だけは焼き残した女はそれに触れ、掴み、持ち上げ、月明かりにかざして吟味する
夜空の三日月は綺麗だった
「……もらっていくか」
彼女は手持ち無沙汰だった
Thanks Despair
「……」
さ迷う 移ろう 漂う
女に目的地は無かった
目的も無かった
記憶も、名前も無かった
何も無かった
ただただ目の向いた方向へ進み、先々での出会いに応対し、時間と思考を消費した
食べ物があれば食べ、動物がいたら頭を撫で、川があれば手を濯ぎ、襲われたら殺し返した
覚えているのは、かつての自分は魔法使いで、今の自分は亡霊だった 筈だと言う事
魔法使いだった頃に学んだ(らしき)知識は身体で覚えているが、魔法使いとしてどう生きたかまでは覚えていない
自分がどう死んで、何故か未だに現世に留まっている理由も知らない
ただ分かるのは、魔法使いとして長い長い時間を生き続け、亡霊として永い永い時間を逝き続けていると言う事
だからこそ
(…退屈ね)
その一言に尽きる
退屈退屈退屈
もう何百年何千年と退屈だ
退屈じゃなかった時を思い出せない位に退屈だ
何かワンダフルな出来事でも起きないかしら
(……いや)
目的は、ある事にはある
あるが、それは果たして目的と言えるかどうか
例えるなら朝昼晩の食事をお腹一杯取る事と似ているが、食事が目的と言うのはだいそれてはいまいか
そんな事を考えながら俯いて漂いつつ、さっき拾った杖を手で擦っていた
両手には魔力が纏われており、先端の“弧”を絞る様に擦る度に綻びや砕けたギザギザが研がれ、綺麗な三日月形になった
柄の部分のも磨きあげ、それなりに立派なものとなった
「よし…」
善し悪しは重要ではないが、ひとまずの小さな達成感が口から漏れる
そうして杖を肩に担ぎ、もう片手を腰に当て、視線を上げ
切り株に腰掛け膝に本を置き、目を丸くした女の子と対面した
「……」
亡霊は少し高い位置からつまらなそうに見下ろし
「……」
女の子は低い位置から呆然と見上げた
「……」
いつの間にここまで近寄り、そして気付かなかったのか
「……けほっ」
女の子は咳き込んだ
長い赤髪が揺れ、口元を両手で覆った顔を更に覆う
膝から分厚い本が落ちる
女の子はますます咳き込み、小さな背中を丸める
「けほっ!けほんッ! ッッかはっ…!!」
しばしその様子を傍観していた亡霊だったが、ゆっくりと手を差し出して身体を屈め
地面に落ちた本を拾った
(魔法の本 …薬学込み、か)
「けほっ、けはぁっ、…んんっ…」
(お~中々解りやすく…はいはいはい…)
「ぐぇ…がっがはっ!!げぼぁ!!」
「うるさい」
亡霊は何とは無しに杖を振るう(おお、魔法使いっぽい)
適当な治療魔法を浴びせ、水湧き魔法を“女の子の喉に直接”放った
「!?ご、ごぼぼぼば!!?」
(…あれ、この術って…あー、はいはい道理で…)
「ごばばば、ごばばばば…」
(…あれ、この呪文私が知ってるのと序列が違う)
「……」
(……おおおおお、お)
てし てし!
(……うへぇ そうだったの…)
てしてしてし!
「ほい」
喉の間欠泉に溺れながらも切り株を叩いて訴える少女に再び杖を振るう
間欠泉は消え、少女の喉から潤いに満ちた咳が溢れる
分厚い本を閉じる
「少しは楽になったかい?」
ここでようやく少女に目を向ける
「………げほぁっ」
水が一塊吐き出される
「じゃ、私はこれで」
再び杖を担ぎ本を抱え、亡霊はその場からふわりと浮き上がった
「まっ…て!!」
少女が飛び付き、スカートにしがみつく
「!?ちょ、破けちゃ…!?」
「わたしのほんッ…かえして!!」
「?あぁこれ?」
当然の様に抱えていた本を手の上に置くと、パラパラと勝手に捲れ出す
「何よあんた、魔法使いにでもなりたいの?」
「なるの!!」
「無理だよ やめときな」
「なんッ…!?」
「ふん、こんなもん…」
捲れ続けていたページが、突然燃え上がった
「!!いやぁああああああぁぁ!!?」
燃えながらも捲れ続けるページは、火の粉になりながら宙に舞っていく
「やめてよおお!! ばかああああぁ!!」
涙目で叫び、グイグイとスカートを引っ張る
「こんな薄っぺらい本読んだって、ロクに身に付かないよ」
手にした杖の尖端で、もはや火が燃え移った革表紙しか残ってない、篝火と化した本を叩く
散り散りに舞っていた火の粉達が突然止まり、逆に渦を巻きながら革表紙に戻って行く
映像が巻き戻されるかの様に
「…!!」
「最低でも…こんなもんかね」
そして火は吸い込まれる様に収束し
後には厚さが五倍にはなった本が在った
革や装飾もつき、鍵まで備わっている
「ほれ」
ぽいっ と軽く放り投げ
「ぎゃんッ!?」
只でさえ少女には重かった本が重さも五倍近くなって頭上から落ちてきたのだ
手でも受けきれず、のし掛かられる
「けどまぁ 最低限の本を読んでるだけじゃあただの知識人止まりだけどね」
お腹の上に本を乗せ仰向けに倒れた少女と向かい合う様に、亡霊はうつ伏せに浮かんだ
「教えてやろうかい?」
亡霊は、差し当っての“出会い”を見つけた
【数年後:いつかの森】
「……」
赤髪を十数の三つ編みにした少女が切り株に座っていた
膝に置かれた分厚い本を読みつつ、目の前の小さな焚き火に据えられた小さな壺形の鍋を時折り掻き回す
鍋からは、吐き気がする程の甘い香りが漂う
「……」
深緑の長髪を伸ばし放題にした亡霊が、木の枝に寝そべっていた
人魂の尻尾を振り子の様に振りながら、バッタの足をもいでいる
「……」
黙読
「……」
黙殺
「……・・・!」
突然少女が何か単語を発し、鍋を掻き回していた火掻き棒の様な小さな杖が炸裂し、壺鍋に稲妻が走る
しばし帯電していた壺から煙が上がり、やがて電気も失せた段階で杖を引き抜く
「……」
亡霊が半殺しにしたバッタを千切った足と共に口に放り込み、少女の元に降り立つ
「出来ました」
少女が亡霊に杖を差し出す
尖端には壺の中でも掻き回していたドロドロの液体が付着している
「『出来ました』?」
「…………………今度こそは」
「ふぅん」
女の子だった頃の少女が亡霊に出会ってから、既に常人が経験する数倍は打ち砕かれた“今度こそ”を、杖と共に受け取る
「んー…」
亡霊はそれの尖端を口に含み、ドロドロの真っ赤な液体を舐め取る
最後に口から引き抜く数瞬、杖に巻き付いていた長い舌が音を立てて外れた
「ん~~~…うん、んん…」
口の中でもっちゃもっちゃと舐め回す舐め回す舐め回す
「……」
少女は泡立つ壺の中をぼんやり見つめている
手が震えている
「………ぺィッ!!」
いきなり
亡霊が口の中の物を吐き捨てた
地面に落ちたのは、五体満足傷一つ無いバッタ
正確には、亡霊の口の中で漬け込まれたドロドロの効能で傷を治したバッタ
もう沢山だとばかりに持ち前の脚力でピョンピョン飛び跳ねて行った
「合格」
亡霊は欠伸を噛み締める時よりも何気無く言った
「ッあああ~~~……!」
女性は膝に置かれた本に顔を埋める
厚さと言い大きさと言い固さと言い、突っ伏すには丁度いいのだ
これまで何度、悔しさや安堵や眠気からそうしてしがみついて来た事か
今回は中者である
「78回目か…随分掛かったわね」
杖の先端で爪楊枝の様に歯を掻く亡霊
「…出来た今だからようやく聞けるんですけど」
突っ伏したまま、前髪の隙間から目線だけ亡霊に向ける
「なにさ」
「全行程で時計や量りを使わせずに作らせた意図は?」
「ん? 無いよ」
これまた瞬きの様に言い捨てる
「…でしょうね」
少女にとっては予測通りである
この亡霊は、そう言う奴なのだ
「あぁ、あと時間と分量も間違ってたわよ 全部、ちょっとずつ」
「……」
向けていた目線すらも突っ伏す
「ま、おかげでお前の憮然とした顔が見れた訳だし よかったよかった」
再び口から出した杖の先には、粘性の高い先程の薬が玉になって固まっていた
「…お師匠様」
ようやっと顔を上げる
「あん?」
パチンと指を鳴らせば、尖端の塊に火がつく
「……私、好きな人がいるんです」
「あっそ」
いっそ清々しい返答
これを悪びれも無く、咄嗟に意図せず自然にやってのけるのだから大したものだ
「媚薬の類は教えないぞ あんなのタダの精力剤だし」
「違います」
「恋の魔法(大失笑)なんてのも教えたくないわよ あれ半分洗脳術だし」
「違います」
「あーでも妻子持ちなら奪っとけ その方が私は面白い」
「違います!」
「例の商人のトコのクソガキでしょ? やめときな」
「…ッ」
削りカスの塊が程よく燃えたのを見計らって杖を振るい、杖の反対側を煙管の様にくわえる
「商人は人間のままの人間で、あんたは魔法使いになる人間だ」
「……」
「まだまだ覚えなきゃならない事は沢山ある 男にかまける時間や頭の余裕は無いし…」
歯だけで杖を噛んだまま、隙間から煙を吐き出す
「男の方は、間違いなくあんたより先に死ぬ」
「……」
「そんな輩の事なんか忘れて、せめて魔法使いや妖怪の野郎に目ぇ向けなね」
「そんっ…!?」
「あぁそうだ」
いきなり明るい声を出し、亡霊は口から取り上げた杖の先端の火種を握り潰す
「基礎的な部分は術も薬も知識も実技も殆ど身に付いたからね 準備と儀式さえ済ませれば、あんた今からでも魔法使いになれるよ」
「!!!」
背けていた顔を上げる
「職業の名称じゃない、“種族として”魔法使いの心と身体になる素質は充分あるわよ」
本に置かれた手が震える
喜びと、戸惑いだ
「ただし」
宙に浮かんだ亡霊の見下す視線は、物理的な位置関係以上の隔たりを示していた
「人間と魔法使いは別物だ…犬とオルゴール程の違いがある 成って初めて分かる」
どっちが犬でどっちがオルゴールなのかは、永遠に分からない
「犬がオルゴールと恋愛を出来ると思うなよ…?」
「…ッ!」
亡霊は小さな杖を地面に落とし、自分の大きな杖の三日月を降り下ろした
「さぁ選びな 人か、魔法使いか」
三日月の両端が、杖を挟む様に地面に突き刺さる
弧の部分は、杖にギリギリ触れていない
まるで断頭台だ
「『すぐには選べない』なんて言わない事だよ? この先避けられない問題で、寿命の短い人間に迷う暇は無い」
淡々と
あまりにも淡々と迫った
夕食を和食にするか洋食にするか程度の気軽さで、亡霊は少女の人生の分岐点を、前触れなく突きつけたのだ
と少女は本を抱き締め立ち上がった
立ち、向かわざるを得なかった
「そして今のお前は、まだ人間だ」
【数年後:民家】
「、先生…」
ゆったり纏めた赤髪を左肩に掛けた女性が顔を上げ、微笑む
ベッドに座った視線の先には、壁から首だけを突き出した亡霊が
「よっ ッこらせっと」
手を突っ張り、ずるりと全身を引き抜く
霊体なのだからそんなアクションは要らない筈だろうに
現に三日前は暖炉から駆け込んで来たし
「…あんたが倒れたって言うから見に来たのに…元気そうじゃん」
「残念そうに言わないで下さい」
女性になった少女の返答は明るかった
「旦那は?」
椅子が二つ向かい合ったテーブルに座る
向かい合った女性 の座るベッド の脇にある窓 の外には沢山の大きな壺が並び、積み重なっている
中身は薬やそれに準ずるもの
全て亡霊と女性が調達し、作り、研究してるものだ
「介抱して下さった方の所に、お礼に参ってます」
「ふんふん…で?なんで倒れたの? 脳梗塞?」
「違います」
「心筋梗塞?」
「違います」
「ギックリ腰か」
「えらくしょうも無くなりましたね」
「月もの?」
「先生」
女性の遮りは柔らかく、余裕に溢れていた
「どうせ気付いてるんでしょ?」
やれやれと言われ、やれやれと手を上げる
「……四ヶ月と二十一日、かな」
視線は顔より大分下
「はい、四ヶ月と言われました」
ここまで幸せそうな笑顔があろうか
「逆算すると…」
「しないで下さい」
「そっかそっか…いや、おめでとう」
亡霊の方もそうそう見せない、腹黒さの無い笑顔で祝福した
「ありがとうございます」
「下ろしな」
「……は?」
「おろしなよ」
頬杖をついた亡霊は、笑顔のままだった
無表情に笑顔だった
「……続けて下さい」
女性は動じなかった
聞き直しこそしたが、言葉の意味が頭に入らなかった“だけ”である
こうなる事は、なんとなく予感があった
「…あんたの杖が折れてから、あっと言う間だったわね」
ふよふよと漂い、台所にあったベーコンを摘まむ
「魔法使いになるのを諦めたあんただったけど…まぁ私のやりたい事でもあったんだけどね、薬学やらは引き続き教え続けた…勉強時間はともかく、知識だけなら人間のままでも学べるからね」
ガムの様に噛み、脂ぎった指先を見つめる
「人間に出来る範疇の知識はあんたが結婚する頃には概ね教えきり、それからは共同研究の仲になった…」
「あ、そこの布巾使って下さい」
「んー」
干された布巾を水に漬け、絞り、手を拭く
「…まぁ薬学、特に身近な素材や手法を使ったものなら主婦行の片手間にも出来るからね ライフワークにもいいし」
あんたは頭もよかったし、と
「…子供が出来たらそうもいかないよ」
花瓶に生けられた萎れた花を眺める
「薬品が未熟な子供に与える影響もあるけど、子育てに入ったらいよいよそんな暇は無い 子供に掛かりきりだ」
その花の茎を摘まみ、クルクルと弄る
すると花は花瓶の水を吸い付くし、急激にみずみずしさを取り戻した
「それは困る 私が」
が、若返りを終えた途端巻き戻す様に、むしろそれ以上の早さで萎れだし、遂には粉となって崩れた
「折角の大切な学友を“そんな事”で失いたくないし、中途半端にされたくもない」
「…そうですか」
女性は立ち上がり、歩み寄り、花瓶を取り上げる
「お断りします」
残った枯れ花をゴミ箱に捨てる
「子育てか趣味か、となったらそれが当然でしょう?」
流しで花瓶を洗うと、底に溜まった汚れや草のカスが流れ落ちていく
「やりかけの研究も沢山残ってるぞ?」
「先生なら一人で出来るでしょう?」
「あんたは発想力もある」
「いつかは廃れます」
「……恩知らず」
花瓶が流しに置かれる
「…申し訳ないと、思います」
ようやっと、目を合わせる
「振り返って見ると、尻窄みに投げ出してる様にしか見えませんよね 魔法使いになるなんて息巻いて、色恋で諦めて、研究すら放り捨てて」
「あんたはそんな不誠実な女じゃないさ…」
だから投げ出すな、と
暗に脅迫めいた慰めを口にしながら女性の頭に触れる
「そのつもりです」
謙遜も傲慢も無く肯定し、その手を握り
「その誠実さを、家族に向けたいんです」
取った手を自分のお腹に触れさせる
「…!!」
バッっと、いつになく慌てて手を引き離す
引き離した手は、春の日差しの様な淡い光を放ちながら拡散しかけていた
「……亡霊の私にゃ、生気が強過ぎる」
その手を一振りすると手は元通りになり、淡い光は失われた
「ふふ…教わってませんでした」
ぐるんと動いたお腹を眺め、両手で撫でる
「………なら、最後の講義ね」
…女性自身、不思議と慌てずに顔を上げた
上げた顔を両手で包まれる
亡霊は身体すら無いのだから当然だが、体温や柔らかさは無い
生き物らしさすら無い
無いのに、この懐かしさは何だ
「………後悔は、無いのね?」
「……はい」
「本気で言ってるのね」
「はい」
「……狂ってるよ…」
亡霊の手が消えていく
霧の様に消えていく
霊魂の尻尾も、身体も
「………馬鹿な子………」
閉じた瞼の下で口元が消え、声が薄れる
「今は…親です」
瞼が開き
どんな目か確かめる間も無く、全てが消え失せた
【数年後:民家】
「?ッッけほっ…」
赤髪を肩口で切り揃えた母親は突然の事に思わずベッドで上体を起こしたが、急な姿勢の変化から沸き起こった咳に手で口を覆って目を瞑った
一日の歩数より多くなった咳が、今夜も続く
枕元で膝をついて自分の手を握り眠そうな顔をしていた娘が突っ伏して眠ったのは分かる
隣のベッドにわざわざ書類を持ち込んで作業をしてくれていた夫までも壁にもたれて眠り込んだのだ 突然、前触れもなく
寝室の二つのベッドの枕元の間のデスクの燭台の三本の蝋燭の炎が揺らぐ
ようやく咳も落ち着き初め、肋骨に響く痛みも引き、滲んだ涙を拭うと
「……お迎えが来たのかと思ったわ」
「いやぁ、死神はこんなに可愛くないわよ」
あの亡霊がいた
枕元の娘の隣に
「四年位ぶりかしら?」
「そうね、この娘がお腹にいたのが原因だったし」
スヤスヤと擬音が漂いそうな寝顔の娘の頭を撫でる
自分と同じ赤髪が薄明かりに照らされ、揺れる
「…可愛いわね」
上から眺めるだけで触れはせず、亡霊も口角を上げる
「ほんとに?」
「えぇ…可愛い」
「そっくりなのよね アルバムに載ってた子供の頃の夫に」
「 」
への字口から苦い顔
「ふふふ…」
「…ふん」
「……私の人生の転機には、いつも貴女が傍にいてくれるわよね?」
まさに二人が出会った夜
初恋と魔法使いの選択を迫られた昼
子供と友情の選択を迫られた夕方
そして今夜
「私の人生の転機なんて、もう命日くらいしか無いのよ?」
バッタの足をむしり取る様に、気の抜けた表情で言った
「いや、それは無いのよ むしろその前じゃなきゃ困る」
ふわりと飛び上がり、ベッドを挟んで娘とは反対側の窓を開け放ち、腰掛けた
熱に火照った頬を夜風が拭う
「生きてるあんたの、生きた気持ちを貰いに来た」
何か悪いものでも食べたのか
のんびりとそう考えてしまう様な顔をしていた
「……」
娘の頭を撫でながら
母親は黙って亡霊を見つめた
今夜は満月
月明かりで亡霊の顔は陰っていた
「あの夜見つけた女の子は、悲しみに暮れていた…」
この亡霊、何やら語り出した
「シングルマザーの母が持病で死に、遺品も見知らぬ親族に持ち去られ、残ったのは魔法の本だけだった…」
「……」
「女の子は母が絵本代わりに読み聞かせていた魔法の本を読み漁った…もう二度と母が読んでくれない本を…」
「……」
「『いつか魔法使いなってお母さんの病気を治してあげよう』 そう目を輝かせて読んでいた本を」
「……」
口が苦い 薬が強過ぎたか
効きもしないのに、副作用だけは一丁前だ
「その本を、いきなり現れた亡霊が焼き捨てた」
亡霊の口元で、三日月が寝転んだ
「本を持ち去られるかと思うだけで涙が出たのに火までつけられた…女の子は泣き叫んだ」
「……」
「しかし亡霊は本を何倍も厚くして直し、自分を魔法使いにしてやろうと言った…」
「…けほっ」
「女の子は少女になった」
月明かりに指先の爪を照らし、擦り合わせる
「同年代の殆どの子供達から奇異の目に曝され、省かれ、避けられながらも魔法や薬の扱いを順当に身に付け…」
前髪や逆光越しにも亡霊の目が輝いているのが分かる
「少女は恋をした」
「……」
頬が熱い
最後に平熱になったのはいつだったか
「少女は亡霊に打ち明けた…それが自分を魔法使いにする道から外れる事と最初から分かっていた…」
「……」
「少女は杖を折った…師の足元から杖を拾い、自ら折った」
「……」
「魔法使いへの道は断たれ、素敵な恋の道が拓けた」
「……」
「少女は…女性になった」
くしゃみか欠伸かゲップか咳か
一瞬亡霊の台詞が突っ掛かる
「女性は少年だった青年と結ばれ、彼はその前後にも周囲の悪意から女性を守り、その庇護の中で女性は人間として亡霊と知識を集め続けた…」
すっかり渇いてしまった髪を撫で付ける
指に引っ掛かる
「女性は子を孕んだ」
娘が寝返りを打った
「亡霊は女性に子を殺す様に勧めた…子育てと研究の両立は“女性には”不可能であり、亡霊は女性と研究を続けたかった…」
亡霊の髪が風に巻き上げられ、月明かりに透ける様だった
「女性は研究の手段と成果を全て倉庫に封じ込めた…亡霊は自分の元を去り、魔の領域に触れる機会は全て無くなった…」
夫は癖っ毛だが、側頭部を壁に押し付けては酷い寝相になってしまうなぁ と、横目に眺める
「女性は母親になった…」
…寒いなぁ
「あぁ、ほら寝てなよ」
窓から降りた亡霊が震える肩を支え、母親を寝かせる
背中の筋肉が痛い
娘は母親の手を話さない
「………どこまで話したっけ?」
「『女性は母親に…」
「あぁそうそう、うん 女性は母親になった…で、現在に至る、と」
また窓口に戻る
「大体はこんな感じかしらね…」
…まだ背中が寒いな
汗でもかいたか
「…お前の後悔まみれの人生は」
寒い、な
「女の子は自分の生まれを後悔した… 母親は死に、形見は焼かれ別物に作り変えられ、残ったのは母親の腹の中で引き継いだ不治の持病だけだった…」
「、けほっ…」
また発作が始まりそうだ
横向きになり、亡霊に向けた背中を丸める
「少女は恋に後悔した… 初恋を選んだが為に魔法使いの長命な身体になる機会を放棄し、苦病を取り去るチャンスを捨ててしまった」
「げほっ…げッハ…」
肺がささくれる 喉が掻き切れる 口が苦い
「女性は愛に後悔した… 子供を守ったが為に死病の治療薬を作る機会を捨て、そうなると分かっていながら子供を生み、残り少ない命を擦り切り尽くしてしまった」
「かひぃッ…ぐっぅぅ、ぅ…!!」
苦しい 痛い 気持ち悪い寒い
「…母親は後悔した」
娘に咳がかかってしまう
「自分の身体を知った上で愛してくれる夫と、自分の身体を知らずに愛される娘達を遺して滅びる、自分の命を」
「くぅ…ッは、あ……ぉぇぇっ」
何かが背中を擦っている
夫より慣れていない手付きだ
「初めて会った時一目で気付いたよ この娘の死相と境遇はとてつもない星のもとにあるのだと…この先、決して心から笑う事は出来ない人生になるだろうと」
亡霊の声がさっきより近く感じる
嬉しそうだ
「お前は強い女だ…何もかも蹴散らし乗り越え、やれるだけの事をやり尽くし、得られるだけのものを得て、得難いものまで手に入れた」
娘は…夫も、まだ寝ている
あまり幼児に強い魔法を使わないで欲しい
「嬉しかったでしょうね…その喜びは本物よ お前だけの、お前が自分で掴んだ幸せ…」
「……っは…」
軽い過呼吸になったが、持ち直す
慣れたものだ
「だからと言って、幸せが不幸の分の席を横取りする訳じゃあない」
「……けほっ、ん…」
「沢山の幸せを得ても、不幸せはいつもそれを上回った… むしろお前が強いからこそ、上回る絶望も濃さを増した」
背中から手が離れる
あ…、手だったんだ
「そんなお前の理不尽に腐った感情を、私は食べに来た…」
軋む身体をよじり、亡霊の方を向く
「悪霊の私には、最高の御馳走だよ」
「……初耳」
「あ?」
「悪霊って事…」
「………言ってなかったっけ?」
「亡霊としか」
「……」
「昔悪霊呼ばわりしたら逆さに吊るされたし…」
「……」
「……」
「…まじで?」
「…くっ」
起こした背中がまた丸まる
「っは、はっはっは…あははは…!!っうぅ、げほっ けッ、ほ…」
可笑しくって可笑しくって、久々に大笑いして、そんな急な動きに身体がついて来られず、また咳き込む
「ああああ~あ~あ~よしよしよし…」
亡霊もとい悪霊は母親の隣に座り、また背中をさする
「、……ほんと、に 貴女は面白い人ね 何一つ予想がつかないわ」
「……」
背けた顔は何色か
「…大体は、貴女の言う通り」
もう何度目か 娘の頭を撫でる
我ながら大した溺愛ぶりだとは思うが、寿命の長短に関わらず、振り返れば誰もが「もっと触れ合うべきだったか」と思うのだろう
親も、子も
「死にたくなる後悔も、生きててよかったと思う幸せも 全部が全部、私が自分で選んだ結果」
「……」
「それを踏まえても、私がした“あの後悔”は“あれ”でよかったと思うの」
「……」
「魔法使いになって、病気をなおして長命になって、沢山の未来と出会いを得られる その時はそれが幸せじゃないなんて思わないわ」
「……」
「でも…私が生きてるのは、“今”の“ここ”だから」
隣のベッドに座って眠る夫を見る
思えばもうずっと昔からの付き合いだ
死んだ母との付き合いより長くなってしまったか
「彼とこの娘に出会った今では、この道を選ばなかったら…二人に会わなかったら なんて、考えるのも恐いわ」
孤児で亡霊から魔法を教わっていて、親から病気を遺伝してるかも知れない(実際そうだったが)と大人達から避ける様噂される中、何の興味があったのか彼だけは私の元に通い詰めた
隣の亡霊が苦い顔をするくらいに
「…………まぁ、でも…」
その後、彼が御両親をどう説得したかは分からない
分からないが、最後には重病の身を明かした上でも結婚を許され、子の誕生を喜ばれ、「すまなかった」とだけ謝られた
実の娘の様に、扱ってくれた
「魔法使いになったらなったで、想像もつかない様な幸せがあったかも知れないし…今の人生だって、どこかで少し間違っていたらとても有り得ない幸せだし…」
結局、どちらを選んでも、どう転がるかは分からなかったのだ
「過去の事は変わらないからね…後悔はする事はあっても、大きくはならない…」
…眠いな
「ただ、未来の事…この娘の事だけが、ね…」
今まさに、私は自分が味わった苦しみを娘に与えようとしている
娘はもう、物心がついているのだ
「……貴女、私を苦しめに来たのよね?」
死に際の、心身が最も弱った人間の絶望
不の感情を食い物にする者がいるなら、これ以上の御馳走は
……って、さっき亡霊自身が言っていたか
「………えぇ」
「私が死んだ後…娘をどうするの?」
亡霊は表情を変えない
「私を苦しめる為に娘に何かするのか」、「私が死んだら次は娘なのか」
いずれにせよ、“分かった上での”質問だ
「……さしあたっては、母親が死んだ原因から“教えてあげる”わ」
三度、座る位置を変える
「『持病だけではない お前の母親は、お前を生んだせいで余計に寿命を大きく減らした』…ってね」
「あながち嘘じゃないのが笑っちゃうのよね」
実際の所、この娘を生まなければ私はどれだけ…
……いや、考えまい
「真相は夫も知ってるわよ? 全ては病気にあると」
「『それも嘘だ』と教え込む」
窓の外を眺める背中
「何も私が直接伝える必要もないさ どこぞの主婦にでも化けて、根も葉も無い噂として流せばあっと言う間に広まる」
そこで間を空け、呼吸をして
「お前を独りぼっちにした時みたいにね」
「……そう」
成る程
道理で夫の親戚や近所の人達等、人付き合いの長い人ほどすんなり親しくなってくれた訳だ
悪い噂程、嘘か真かを問わず広まりやすい
まして私の場合は根拠も多かったのだ
(そして…)
その、亡霊の話が嘘か真かは関係無い
死に際の私を絶望させるだけなら、持ってこいの話だ
「じゃあ、娘も独りになってしまうわね」
「そうね」
「あわよくば、娘の寂しさに突け込んで貴女が色々教え込む、と」
「えぇ」
「私の様に」
「えぇ」
「また一食分、お弁当が確保出来るわね」
「えぇ」
「…死んでも死にきれないわね 親として」
「えぇ」
亡霊は背中を向けたままである
「…泣きながらじゃ説得力無いわよ?」
「……」
「……」
「……」グシッ
「嘘よ」
「なんッ…」
目元を擦った亡霊がこちらに振り返る
一滴として、涙は流れてなかった
「ごめんなさい…私、貴女がそんな事するなんて思えなくて」
絶望してはやれない
「私、貴女が好きだもの 信用してる」
「ッ…!!、…」
口を開いて何かを言いかけ 言わない 言えない
「私を拾って、あれこれ教えてくれて、好きな人が出来たら不機嫌になって、離れたくないから家庭に入るなと無茶言って…」
「違っ…」
「えぇ、きっと違うの 貴女が違うと言うならきっとそうなの」
こんなに喋るのは久しぶりだ
頭が、痛い
「でも、“私はそう思うの”」
目の前の亡霊が、やけに小さく見えた
と言うより、会ったばかりこ頃が大きく見え過ぎたか
寝た振りをすれば大抵背負って運んでくれた、あの背中が
「私がそう思ってる以上…貴女を悪霊扱いして、恨んだり憎んだり出来ない」
そうか
魔法使いだから、成長しないのか
「自分の人生に後悔があっても…貴女との付き合いに後悔は無いわ」
「…お前の、人生は」
またもその背中をこちらに向けてしまう貴女
「ほとんどは、私が誘導したんだぞ」
「選んだのは私よ」
「お前、が…苦労しかしない人生をだぞ」
「おかげで色々勉強出来たわ」
「それが何の役に…」
「私を」
あ 声が掠れた
「私を絶望させたいなら、娘を殺すなり手足や目玉を引き抜くなり、やり方はあるでしょう?」
出来る筈だろうに
「そもそもからして、絶望を得たいのなら幸せな人を陥れればよかったじゃない」
その方が反作用が強く、得られるものも大きい筈
精神系の魔法の授業の一環で習った事だ
他でもない、目の前の亡霊に
「……」
憤った表情だろうに、息を深く吐くだけで何も言い返さない
「でも、確かに貴女のしてきた…違うか 貴女の存在自体は、私にとってよくなかったわね」
目眩がする
「どうして?」
ここで
今まで黙ったり相槌だけで済ませてきたくせに
ここに限って、続きを求めるか
「だっ、て」
また、胸の奥が苦しくなった
「…ママ、が 死んじゃって…あの本、読んでたら……ママそっくりの、ぁ貴女が、現れて……」
あぁ、煩わしい煩わしい煩わしい
「もしッかしたら って、考えちゃうじゃ…ない」
息苦しさも、頭痛も、吐き気も、熱も
「ま、魔法を勉強していけば、ママ……ママも生きッ 生き返せるんじゃ、ないかって…」
頭と胸でグチャグチャ掻き混ざる、何もかもが鬱陶しい
「この 幽霊はもしッ…ゲほぅっ…、もしかしたら、って……」
心が、休まらない
「……」
悪霊は、今度こそ寄り添わなかった
「ん~……」
左手に、小さな暖かい柔らかさ
「……ッぅぇっ…」
「んぅ~……」
握り返せば身体の中の熱い塊が水に沈み、煙を上げて冷え、沈み、消える
「……勉強すればする程分かっていったけどね」
夫が額に乗せてくれた濡れタオルで自分の顔を拭い、初めてこの娘が生まれた時の様に人差し指を握らせる
「死者の完全な蘇生は星の数を数えるより難しいって言うし、そもそもママの亡骸は病気が広がらない様にってすぐに焼かれちゃったし…」
幽霊の方を向く
考えてみたら、霊体にしちゃ色や気配が濃いなぁ
私に会った時から、生力を吸い続けた為だろうか
「…遺体がちゃんと保存されてたら?」
亡霊が問う
「お前程の努力家なら、星の数を数える程度苦にはならないだろう?」
それよりちょっと多い位なら問題ない、と
「母の命と引き換えなら、易いものだ」
「…それは私も考えたんだけどね」
溜め息を
深い深~い溜め息をつく
「それに初めて思い至ったのが、娘におっぱいあげてる時でね」
浮かぶ亡霊が揺らいだ
「この娘夜泣きが多くって…星どころか月の満ち欠けすら見てられなかったわ」
ましてや星の数など
それ以上の事など
「……母は強しだね」
亡霊も溜め息を
深い深い深ぁぁぁい溜め息をついた
呼吸などしてないくせに
「うぅ…ん」
身動ぎ一つ取ってなかった夫が揺れた
「そろそろ…時間だね」
窓の外の見上げ、亡霊がまた溜め息をついた
短い溜め息を
魔法の解ける時間
「用件は済んだの?」
済ませられた?と聞くべきだったか
「腹六分目、かな」
右手を閉じたり開いたり
「ごめんなさいね、御意向に添えなくて」
「抜かせぇ」
お互いにケタケタ笑う
「…また会えるかしら?」
「お前が家族にでも未練を残せばね」
「亡霊になれって?貴女こそ成仏しなさいよ」
「それが出来ない理由が分からないんだから、しようが無いさ」
二人してニヤニヤする
……私、もうすぐ死ぬんだよなぁ
実感無いや
「……あんたが今日までに自発的に絶望してた分はキッチリ喰わせて貰えたけど」
右手に杖が現れ、肩に担がれる
「今夜の私の働き掛けじゃ、一回しか絶望してくれなかったね」
悪霊がニヤリと笑う
「……」
顔をタオルで脱ぐって隠す
ついさっき、半泣きで何か口走っていた気がする
「……お幸せに」
悪霊の、私に対する別れの台詞がそれか
「そちらこそ」
だから、私も悪霊にそう返した
振り返る前髪で目元が隠れて口元しか見えなかったが、亡霊は笑っていた 筈
漂う亡霊が扉に向かう
歩数にして一、二、三…
「…娘は」
何故声に出したろうか
「?」
確かに亡霊に話してもおかしくない一件ではあるが
「……娘を、ね お医者様や私の独学で検察にかけてみたんだけど」
これではまるで、引き留めてるみたいじゃないか
「…この娘は、健康よ」
……あぁ、そうか
「私の病気は、引き継いでいないの」
これが、“もうすぐ死ぬ”と言う事か
「……そうかい」
立ち止まった亡霊は、ちゃんとこちらに向き直った
表情は見えない
「よかったね」
不意に目元が熱くも冷たくもない、固くも柔らかくもない不思議な感触に包まれ、視界にあった薄暗い部屋も急に真っ暗になった
「よかった…本当によかった」
カランと床に物が落ちる音が響き、撫でられる
「…心配だったのよね」
右手を、やはり熱くも冷たくもない感触が覆う
不思議な感触
「… 」
「旦那も親戚も、あんたも 気付いていて言い出せなかったろうに」
「…ッ…ッ」
「あんたに関しちゃ、物心ついた時からの心配だったろうさ」
「……っぅ…」
娘の手を放す
でなければ、強く握り絞めてしまったろうから
「もう大丈夫だ」
「…ッッげほっ」
「もう、おしまいだからね」
「…… 」
空いた左手で、亡霊の背中にしがみついた
「お前は…沢山遺したさ」
胸が苦しい
発作のせいだ そうに違いない
「ちょっとは哀しい事も残しちまったけど…酷い事は遺さなかったさ」
肉体ではない、けれど実体化した霊体にうずくまり、しがみついた
こんなに身体に力を込めたのは久しぶりだ
……ママが死んだ時以来だろうか
「娘が同じ心配をしなくていいんだ…よかったじゃないさ」
「…………………う、ん」
あ…
「泣き過ぎだよ、馬鹿たれ…そんな身体で」
頭がフワリと浮かび、身体は深く沈み込む錯覚
「そのままじゃ興奮して眠れないだろうからね…軽くかけといたよ」
全身の筋肉が優しくほどけ、汗や血液が霧状に吹き飛ぶ錯覚
意図せず背中に回した手が離れてしまう
「汗は…旦那に拭いてもらいな すぐに目ぇ覚ますだろうし」
顔からあの懐かしい感触が離れる
離れたのに、視界が暗い 瞼が持ち上がらない
「最後に、これだけは言っとかないとね…」
声が遠い 頭が回る
(待って…)
まだ、いかないで
私は まだ 話したい事が たくさん
「あんたと…あんたのママの病気なんだけどさ」
あなた は わたしの
「ホントは治し方がちゃんと書いてあったんだよ 遺品の魔術書に」
え?
「まぁ、私が書き増した時に消しちゃったんだけどね」
「おやすみ」
Good Night
Q.登場人物の○○ってもしかして△△?
A.明言はしません 御想像にお任せします