月夜の想い
君の寝顔を見つめて、もう何時間経つのかな。
ずいぶん長くこうしているように感じるけど、頭は妙に冴えていて、一向に眠気は訪れない。
薄いカーテン越しに降り注ぐ月光が、君の頬や首筋を白く照らしている。
君の、造り物のように美しすぎるその顔は、いつだって俺を不安にさせる。
君が俺以外の人と話をしている時、いつも気が気じゃないんだ、本当に。
そんな風に、笑わないでほしい。
困った顔も、むくれた顔も、泣きそうな顔も、他の人の前ではしないでほしい。
君が、その造り物めいた顔の通り、人形のようだったらいいのに。
一歩外に出たら、笑わない、泣かない、怒らない。
感情を一切、露呈しない人形。
でも、俺の前では──────俺の前でだけは、可愛らしく笑って、泣いて、怒る、都合の良い人形。
もしそうだったなら、俺は少しの不安も抱かなくてすむだろう。
──────それこそ所詮、都合の良い妄想に過ぎないけれど。
──────…………。
君が少し、身動ぎをする。
流れ落ちる髪の金色が、月明かりに反射して目に眩しい。
輪郭の柔らかな頬は、血の気を感じさせないほど白い。
奥に流れる血の色がそのまま見えているような唇からは、小さな寝息が漏れている。
すべてが、なんて美しいのだろう。
なんて病的なのだろう。
俺は乾いた喉で一度だけ、君の名前を呼んだ。
眠っている君がその呼び掛けに応じることはない。
空気の抜けるような寝息だけが漂う。
俺はなるべく音を立てないように、そっと君に覆い被さった。
俺の影になって、君の首筋が黒ずむ。
また朝になれば、君は外へ行って、俺以外の大勢の人と言葉を交わす。笑顔を交わす。
そして、すべてを理解していそうな聡明な瞳で俺に、どうしたの、と首を傾げてくるんだろう。
それに俺は、なんでもないよ、と答えるんだろう。
いつも通り。
窒息しそうになりながら。
それが、もう、嫌だ。
耐えられ、ない。
俺は左の肘をついて、君の綺麗な唇に、ただ淡くキスをした。
雪のように、感触。
甘い味──────。
離れた時も、君はやっぱり眠っていた。
音もなく伸ばした右手が、君の首に触れる。
きゅ、と。
優しく君の首を握った。
こんなに美しくて綺麗な君が、他の人間の目に晒されるなんて、他の人間と関わって交わって生きていくなんて──────。
どうしようもなく、不安で、怖くて──────許せない。
だから、ねぇ。
手に力を入れても、いい?
──────君を殺しても、いい?