夢
人間の彼はいった。
「夢をみたよ。
夢のなかでぼくは、一体の巨大な龍であって、黒と銀の光沢をもった奇麗な鱗に包まれ、立派な角と鉤爪を持ち、自由自在に天空を駆け巡るんだ。
その爽快なことといったらなかったよ。
そして、目覚めてからこう思ったんだ。
『やけに現実味のある夢だったなあ。
夢の中の自分と、今、目覚めている時の自分、いったいどちらのほうが本当の自分なんだろうか?』
ってね」
龍の彼はいった。
「夢をみたよ。
夢のなかでおれは、一匹のちっぽけな人間であって、地味な灰色の窮屈な着物を着、首輪のような布を首に締めて、毎日行きたくもない灰色の箱のなかに通うんだ。
その味気ないことといったらなかったよ。
そして、目覚めてからこう思ったんだ。
『やけに現実味のある夢だったなあ。
夢の中の自分と、今、目覚めている時の自分、いったいどちらのほうが本当の自分なんだろうか?』
とな」
人間の彼女はいった。
「わたしという存在がいて、毎日やるべき仕事もあって、とりあえずは将来に対する不安もない。
それでも、そんな問いを真面目に追求する必要があるかしら?」
龍の彼女はいった。
「わたしという存在がいて、毎日やるべき仕事もあって、とりあえずは将来に対する不安もない。
それでも、そんな問いを真面目に追求する必要があるかしら?」